戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
地球の南極海ではジャムの侵略に備える為、定期的に交代で各国の海軍による超空間通路の監視が続けられていた。
今のシフトでは日本海軍がその任に当たっており、アドミラル56の艦長である南雲少将はこの退屈な任務を一刻も早く終わらせて本国の地を踏む事を首を長くして待ち望んでいた。
既に御伽噺と成り果てたジャムの脅威など今更怯える程でもなく、異様なシルエットの超空間通路はこうも見慣れてしまえば飽きるというもの。
何の得にもならない任務だった、緊急時の出撃に参加する事も出来ず、碌な補給も届かず碌な実績も付かない碌でもない任務に従事させられるというのは彼にとって甚だ遺憾であった。
彼の唯一の望みといえば面倒事を起こさずにただこの任務を完遂する事だけだった、しかしイレギュラーは起きるというもの。
―――将来に備え、FAFの主力機であるシルフィードのエンジンを地球大気圏内においても最高の性能を発揮できるスーパーフィーニクスエンジンⅪに換装する。後日テスト機を地球の南極へ送るのでよしなにされたし、テスト機は特殊戦第五飛行戦隊機、雪風。パイロットは深井零大尉、ジェイムズ・ブッカー大佐―――
この通告は当然自分達の管轄では処理できず、国連を通した正規の発表だったという事で世界を大いに騒がせた。
FAFの存在を成大なジョークとして捉える者、FAFの反乱だと面白おかしく書き出す者、FAFとジャムの情報の少なさに驚きダークウェブに乗り出す者、FAFの名を騙り国連の新兵器のテストの隠れ蓑にしていると陰謀論を囁く者、そして――――。
「本日は急な申し入れで申し訳ございませんが、お時間を作っていただき誠に感謝いたします、南雲少将」
「こちらこそ、この度世界で最もFAFに詳しい貴女をお招き出来て非常に光栄だ。アドバイザーとしては申し分ないな、何もない所だがゆっくりしていくといい」
国際ジャーナリスト、リン・ジャクスン女史。ことFAFとジャムの分野において生き字引と言える程の知識を持つ世界きっての変わり者だ。
記者会見の後もここに留まる事を選び、そしてFAFの姿を捉えあわよくばコンタクトを取りたいそうだ。
それは一体何の為に、悪質なパパラッチやジャーナリストなら飯の為だと言うのかもしれない。
しかし彼女なら自身が出版したジ・インベーダーの収入でそこそこ暮らして行けるだろう、暇つぶしに読んだことがあるがSFとしてなら大作だった。
日本には毎年夏から秋にかけて何度も台風が来て被害を齎す、数年に一度は大地震が起きてこれもまた重大な被害を齎す。
これらの脅威に対策をしていないわけでは無いが、食い止めた事は一度も無い。
例え明日世界が終わるとしても一人の人間には何も出来る事などないに等しい、これは諦観ではなく人としてごく当たり前の感覚だ。
何故ここにきてわざわざ話を掘り返すのだ、対ジャムに対する専門家、フェアリィ空軍が設立されているのだからそれでいいではないか。一人の人間としてジャムやフェアリィ星人というのはリアルではないのだ。
「艦長、FAFの機体が当艦に給油の要請を出しています」
「給油だと?こっちで勝手に遊んで喉が渇いたらドリンクのオーダーか。日本海軍はホテルのルームサービスじゃないんだぞ」
「それでも、許可を出すべきです少将。国際条約は元より、FAFの要求は度を過ぎた要求でない限り受け入れる義務がある」
面倒な女を残してしまったと南雲少将は思った、彼女は変わり者はではあるがフェアプレイを尊重する精神性がある。
その本心が念願のフェアリィ星人との対面を果たす事だとしても彼女の前では迂闊な事は出来ない。
「分かっていますともジャクスンさん。FAF機に受け入れの準備がある事を伝えろ、給油の件についてもだ」
「は、了解致しました」
監視も兼ねた誘導機がアドミラル56から二機発進、即座にFAF機とコンタクトを取り着陸コースに誘導を開始する。
「宇宙人のお出ましだ」艦上のスタッフの誰かがそっと呟く。
現状の戦闘機とは違うフォルムのそれは甲板上の滑走路に近づいても着陸の為の減速が見られなかった。
しかし次の瞬間FAF機の主翼が動くのを見た、それが空気抵抗を受けて機体が軽く上昇した後に減速して数メートルの高さから真下に落ちるのも見た。
そしてFAF機はスポッティングドリーも必要とせずに自走して空いた駐機エリアに機体を納めるとコックピットのキャノピーが開く。
白一色のフライングスーツとヘルメットで彼等の表情は伺えない、辺りに配置されていたスタッフも自分達の手を止めて彼等に視線を向けている。
彼等がヘルメットを外す、しっかりと人間の頭だった事に一抹の安堵を覚えると後部座席に座っていた金髪の男が鈍った英語で此方に語りかけて来た。
「FAF特殊戦五番隊所属、ジェイムズ・ブッカー少佐です。艦隊司令にお取次ぎを願いたい」
地球の海とフェアリィ星の海の違いは良く分からなかった、強いて言えば南極の海には人の生活の匂いが無い位で。
着陸の後に給油の許可を得る為に面会を希望するもかれこれ数十分は放置され続けていた、その間俺達は談笑にふける訳にもおかずに佇むばかりで退屈の一言に尽きた。
「いつまで待たせる気だ、俺達を焦らしたって何もでないぜ」
「確かに、まあ俺達は外様の人間だ。こういう歓迎も珍しくはあるまい、ようこそ地球へ…って訳にはいかないさ」
「何ともまあ、みみっちい事だ」
「言葉遣いに気を付けろよ」
ジャックは俺の言葉を否定はしなかった。トマホーク、確かに日本は閉鎖的だ、それとも世界が閉鎖的なのかな。
メインエンジンを落として二次パワーだけで稼働している雪風もFAFロマーニャ基地の様に無制限にバックアップを受ける事は出来ず、精々飛行中に得られたデータと己の持っているデータを組み合わせて地球の環境に合わせたセッティングの構築に専念していた。
雪風は地球でも戦うつもりでいるのだ、そう作られたから、己の存在意義に全力を注いで。
メイヴの機首に達筆に書かれた雪風の文字を撫でてみる、エンジンが止まっているからヒンヤリとした温度をグローブ越しに返してくる、それは本当の意味で雪風に触れるという事ではない。
歩み寄るって難しい事なんだな、きっとそれは誰にとっても。
「こんにちは」
メイブのフレームの隙間から届く女声、聞き覚えの無い気安い声が突然現れた。
「素晴らしい機体ね、蓮や百合を思わせる様な優美な曲線。特殊戦だけのスペシャルモデル、FRX-00はいまや正式配備されてFFR-41MRになったんでしたっけ」
「……そうだったか?ジャック」
「そういう事になっている、随分とお詳しい事だ」
FRX-00はFRX-00であり、F(フェアリィ星における任務に従事)R(偵察)X(研究機)の100番目のモデルである。
確かに正規の任務に従事しているが、未だに機体識別コードが研究機のままなのはシステム軍団が最新鋭機である雪風の試験を終了していない事に由来する。
確かに正式配備されればFFR-41MRと呼ばれる事もあるだろうが、これは欺瞞でありジャックは訂正しなかった。
「あら、ごめんなさい。つい浮かれてしまって、私はリン・ジャクスン、フリーのジャーナリストをしているの」
「リン・ジャクスン…。―――あ、ジ・インベーダー!!」
「光栄だわ、FAFの、それも特殊戦の人と直接お会いできるなんて」
「意義あるお仕事ですよ、私はジェイムズ・ブッカー。あいつは深井零、この雪風のパイロットです」
「スノウ・ウィンド? スノウ・ストーム(吹雪)のことかしら」
「違う。雪風は、雪風だ」
例え些細な違いだとしても俺はそれが許せなかった、何よりもそれが雪風の事だったからつい声を出してしまった。
かと言って話す事も無いのだからすぐにその場を離れようとした。
「そう、ユキカゼ。なんだか不思議な響きね」そう言って彼女は微笑む。
「そうだ、雪風なんだ。他の何者でもない」
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