戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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39話 終

「それにしてもジャクスンさんがここに居ると言う事は」

「ええ、勿論。取材に来たの、良かったら少しお時間貰えないかしら」

「もうしばし待たされそうですし、構いませんよ」

彼女は毛皮のコートからノートとペンを取り出した、その中身に一縷の興味をそそられたが中を見せて貰える事は無いだろう、それだけ彼女の手帳一冊に内包された価値は計り知れない。

「大佐達は今回エンジンテストという事で来訪されたとFAF広報からの発表で聞いています、貴方から見て性能はいかがでしたか?」

「エンジンテストはまだ終了していないが、現時点においては成功と言えるだろう」

「FAFのエンジンテストを地球で行うに至った経緯はご存知ですか?」

「さあ、それは分かりかねます。しかし、もしかしたらと思う事もある」

「それは?」

「地球がまだ、本当に存在しているのか。それを確かめたくなったのかもしれません」

「それは、誰が何の目的で」

「一部を除いてFAF軍人の誰しもが思うかも知れません。郷愁ではなく、ごく当然の疑問として」

ジャクスン女史はノートに記録を残していく、その筆の動きを見るからにかなり詳細に。

ボイスレコーダーも使用しているだろうがこちらの発言を一語一句逃すまいとする彼女の姿勢には好感を覚える。

「ブッカー大佐は特殊戦五番隊の所属でしたね」

「ええ、そうですが」

「貴方の基地はロマーニャ基地にあると聞いています、ストライクウィッチーズは、ミーナ中佐はお元気でしたか?」

「ええ、今じゃ昇進して大佐ですよ。あの年で大佐だ、FAFでも見る事は出来ないでしょう」

「将官クラスには、確か所謂エリートしか進めないのでしたっけ」

「ええ、自ら志願すれば中尉、それ以外は少尉から始まるのと一緒で」

裁判での実刑としてフェアリィ星に送られて来た俺や零とて少尉任官からスタートだった、それが今では俺は大佐、零は大尉だ。

これも異例なスピードでの出世だがこれ以上は見込めないだろう、階級に拘るわけでは無いが俺も彼女もイレギュラーな事は確かだ。

「ミーナ大佐には中々コンタクトが取れないの、彼女から貰った手紙は貴重な資料になったわ。翻訳が少し必要だったけど誠実であろうとする彼女の思いは伝わって来たわ」

「翻訳?」

「フェアリィ語はそれなりに修めているつもりだけど、ネイティブな部分は未だ怪しくて。もう少し目にする事が多ければ私も慣れるのだけど」

フェアリィ語はフェアリィ星で広く使われている公用語だ、不思議な事に英語と似通った言語体系でありFAF軍人はFAFに配置される際の初期講習でフェアリィ語を機械を用いて脳に直接叩き込まれる。

しかしそれでネイティブに話す事が出来るわけでは無く、向こうから聞くと片言や方言の様に聞こえるようだが。

FAF軍人は作戦時において英語を基調としながらフェアリィ語も操る、その上基地に戻ればFAF軍人は人種も文化も違い、なおかつ大抵の者が前科持ちだ。

いずれ話すのが面倒になり、形容詞を省いた端的な会話が主流となった、そちらはFAF語と呼ばれている。

「それにしても、ブッカー大佐はミーナ大佐とお知り合いだったのですね」

「ええ、しかし何故?」

「あの人はお元気ですか?と聞かれて見知らぬ人なら、知らない素振りを見せるものですよ」

彼女もジャーナリストだ、話術の一つや二つくらいは当然だろう。

手袋ごしに笑う彼女は嫌味なく悪戯を成功させたように笑う、敵意を感じないという関わり合いは()()()()()ものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ブッカー大佐、司令がお会いになるそうです。至急司令室までご同行を」

「―――了解しました。じゃあ行ってくるぜ零、お行儀よくしてろよ」

「あんたこそ、年甲斐もなくはしゃぎすぎるなよ」

そんな言葉にジャックは手を振るだけで答えた、そして銃器を持った日本海軍の軍人を堂々と引き連れ司令室へと向かっていったのだ。

「今の地球人はみんなあんな感じよ。争うべきはジャムなのに、今では人間同士でジャムを口実に争いをしているの」

「まるであんたは、地球人じゃないような言い方だな」

その言葉に目の前の女は目を丸くした、無自覚だったのだろうか。

「だがフェアリィ星人でもないな、アンタは素直すぎる」

「素直、とは自分の事を思った事は無いけれど。フェアリィ星人は素直じゃないのかしら」

「フェアリィ星に行くやつが素直な奴とは思えないな、あんただってそれだけジャムに入れ込むならFAFに来ればいいだろう」

「それは……」

「冗談だ、やはりあんたは来るべきじゃない。あっちじゃ正気の奴から死んでいく」

「そう…。フェアリィ星では少女が空を飛ぶそうね。妖精をこの目で一度見て見たいと思った事があるの、それはもしかして幻覚の類なのかしら?」

そう言って俺をその瞳に捉えた、俺を通して向こうの何かを見るかのように。

「現実というのものが、俺は偶に分からなくなる。だがジャムが存在する事が事実であるようにウィッチもまた存在している、誤魔化しきれない現実のものとして」

「その言葉が聞けただけでも私の存在の価値を信じる事が出来る。皆も最初は恐れていたの、人類の脅威として。それがいつしか忘れてしまったのね、架空の存在だっただなんて」

そう言って彼女は手帳を仕舞った、彼女の視線は遠く、超空間通路を眺めている。

「私はジャムが何よりも恐ろしい、自分でも分からないのよ。初めはただ、何故これ程ジャムを恐れるのか、何がこれほどまでに恐れを抱かせるのを知りたかっただけなの。その内家族や旦那にも見放されて、それでもこうして筆を執っているの」

「ジャムが怖い、か」

「貴方は怖くないのかしら?」

「俺が恐れたのは雪風だけだ、それ以外はいつだって誰とだって戦い続けて来た。雪風がいればこそ、俺は戦える」

「成程、優秀な機械知性体なんでしたっけ。昔、父がフェアリィ星の万年筆をプレゼントしてくれたの。今でこそフェアリィ星産の物品は禁制品に等しい扱いだけど、昔はそうではなかった」

「懐古主義者には大人気らしいな。向こうでも車や絵をコレクションしている奴がいるよ、その為にFAFに来る変わり者もいる」

「そうみたいね、とてもいい筆よ、インク詰まりも引っかかりもない芸術品とも言って程の品質。今でもこの万年筆を愛用している、私の信念が込められているといっても過言じゃないわ」

「ペンは剣よりも強しか?確かに俺や雪風よりもレポートを上手く書きそうだ。成程、それがアンタの戦う武器なんだな」

「貴方は特殊戦の人間だと聞いていたけど、話してみるものね。それにいい声をしてる、落ち着くわ」

目の前のリン・ジャクスンは再び俺から目を反らして超空間通路を見つめた。彼女は超空間通路の向こうに何を思い浮かべるのだろうか、少なくとも俺やジャックと同じとは言うまい、しかし彼女の目でしか見れないものもあるのだろう。

「ジャムは現実として存在している、私はFAFこそ地球人の集団だと考えているの」

「地球は誰のものでもない、俺も地球の為に戦ってるだなんて考えていない」

「そうね、その通りだわ。地球を代表するという自負は傲慢でしかない。それでも、立ち向かっていくしかない。私はここで戦い続けると決めたの」

「それならあんたこそ、地球人に相応しい。あんたは、そのままがいい」

「ありがとうフェアリィ星人、願わくば貴方も貴方のままで」

 

 

 

 

 

 

「待たせたな、いやに時間を取られた」

「給油が始まっても帰ってこないから捕獲されたかと思ったよ。その姿を見るに標本には成っていないな、解剖はどうやら免れたようだ」

「上官侮辱罪は親告罪じゃないぞ、覚えておくんだな。まったく地球の言語は小言が多くてかなわん、馬鹿野郎と一つ言うのにどれだけ時間をかけるんだ」

「こっちの歓迎はお上品だな、あんたもテーブルマナーは達者だろ?」

「せめてサンドイッチ位の気軽さにしてほしいものだ、ナイフとフォークを渡されたら少しはつついて見たくもなる」

「やったんだな、いい加減にしろと言う癖に自分はこれだものな」

アウェイな土地でもこの余裕と軽口は流石の特殊戦とでも言うべきだった、なんとも頼もしい姿だ。

対ジャム戦のスペシャリスト達、彼等になら人類存続の為の希望を託してみたくなる。

「ジャクスンさん、子守をありがとうございました。こいつが失礼な事をしませんでしたか」

「深井大尉はとても誠実でした、おかげで有意義な時間を過ごせました」

「はあ…」

隠そうともせず疑わしい視線を深井大尉に向けるブッカー大佐、そんな姿も微笑ましく思える。

空母に突如として鳴り響くアラート音、『超空間通路より未確認不明機が接近中、繰り返す、超空間通路より未確認不明機が超空間通路より接近中!!』

「俺達が地球に滞在している内はFAF側からの渡航は禁止されている。ジャムだな、いけるか?零」

「当然だ、雪風もやる気だろう」

駆けだすようにブッカー大佐が雪風に乗り込む、深井大尉もそれに続くが雪風の機体の上で立ち止まる。

機体の上に立つ深井大尉の後ろ、開いたままの透明のキャノピーが深井大尉の背中と重なり、それが陽光を反射して妖精の翼のように見えた。

「さようなら、地球人」

「ええ、さようなら。フェアリィ星人」

おそらくブリッジと通信しているブッカー大佐が怒鳴り散らし、深井大尉が素早くコクピットに乗り込みキャノピーが閉まると声は一切聞こえなくなる。

雪風は滑走路まで自走し、凄まじい速度で加速し離陸。それが空の点になるまで見送ると空で幾つかの爆発が確認できた。

彼等はFAFのオーストラリア基地に滞在する予定だった筈だが、対ジャム戦が行われた以上はフェアリィ星の基地に帰投するのだろう。

空母の甲板の上に居ても分かる程のざわめきで、恐らく程なくして船を降ろされるだろう。

その前にこの感覚を忘れぬ内に書きとどめておくべきだと邪魔にならない場所で手帳を開いて思いの丈を書き連ねていく。

今でこそこんな時代だけれどもそれでも私は希望を持っている、人間にがっかりする事もあるけれどいつかはきっと――――。

 

 




次回こそストライクウィッチーズ出ます!本当です!!!

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