戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ   作:ブネーネ

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今回に至るまでに地理関係に齟齬があった為修正しました。
例えばに501JFWの基地がロマーニャにあると書きましたが本来であればベネツィアなので治しました。


3話

「随分と嫌われたな、ジャック」

「一々そんな事を気にして特殊戦がやっていけるか」

そう言うと分かっていて口にしたのもなんとなく、自分がまるで迷子になったような気分だったからだ。

俺は今何をしている、ここにいるべきでない様に思う、俺の居場所はただ一つだけ―――。

「雪風が恋しいか、零」

「…そうだ、俺にはあんた以外には雪風しかないんだ、俺の処遇はまだ決まらないのか」

「安心しろ、向こうも証拠が見つからなくて焦っているらしい。あと数日もすれば無事中尉に昇格だ、昇格祝いもしないとな」

「階級なんてどうでもいい、どうせ扱いは変わらない」

「だが給料は増えるぞ、貰えるだけ貰っておけ、俺なんて別れた女の慰謝料を払うだけで酔っぱらう事も出来なかった」

ジャックの日本通はその女の影響だろうかと思いながらも、ふと脳裏に映るのはかつて愛して女の姿だった、とは言えども今では後ろ姿以外に思い出せる事も無かったのだが。

FAFではパイロットでなくても整備兵や清掃員、果ては男娼や女娼、電子機器の修理の為にフェアリィ星に来たサラリーマンであっても例外なく初めから少尉で任官される。

つまり例え将校クラスであろうと扱いは下士官と変わらず、むしろその階級に見合わない任務に就く事こともしばしばだった。

そもそもFAFロマーニャ基地の特殊戦五番隊を纏める戦隊指揮官のジャックが少佐の時点でおかしいのだ、だからなのかFAFの中では地上にいる内は階級に関係なく気楽にやろうという雰囲気があった。

しばらくの時間が過ぎると眼下にFAFロマーニャ基地が見えて来た、土地面積約200平方キロメートルの軍事施設とそれに付随する一般向けに開放された区画が作る最早小さい街と言っても過言でない基地だ。

504JFWのウィッチが入院している病院とは別の一般病棟や各種娯楽施設、地球から輸入している商品を扱う酒保代わりのマーケット、ここまではフェアリィ星の一般人にも開放している。

ただし風俗のような施設は常設されていない為、月に二回来る輸送戦団の輸送機に搭乗するようにこちらから申請を出さないといけない。

プライバシーは守られることになっているが一度、何処かの基地で一般隊員が自分の受け持つ戦闘機のコンピュータから申請を出した際に戦闘機の私的利用を問われて軍法会議にかけられたという話も聞いた。

ジャックと別れると軍病院に立ち寄り右腕の傷口が化膿していない事を確認すると医者は再度消毒しガーゼを当て清潔な包帯に巻きなおした、三角巾は一時的になら外しても良いと許可を得た。

どうせしばらくはデスクワークだ、音声入力だけで作業するのは只管面倒だったからそういった問題が解決した事に少し安堵した。

雪風と空を飛ぶ事が全ての俺にとってデスクワークは退屈だった、しかしもう一度雪風に乗れると思えばこそ憂鬱な日々を坦々とこなす事が出来た。

窓の向こうで空へと飛び去って行く特殊戦のスーパーシルフの姿にほんの少しだけ嫉妬を感じていた。

俺が負傷してFAFロマーニャ基地に戻ってから一週間後、クーリィ准将ことしわしわ婆さんから待ちに待った呼び出しを受けた。

「判決が下されるという時に浮かれるお前を羨ましく思うよ。准将いわく大丈夫だろうとの事だ、気楽に行ってこい」

「つまりあれはシルフじゃなかった、と」

「乙女じゃなければあばずれだ、ジャムだったんだろうさ」

それはそれで問題だろうと思った、かつてのジャムは地球の戦力だけで対応可能だったがジャムは日々進化し強くなっていく。

FAFにおいてスペシャルモデルである特殊戦のスーパーシルフでさえ対ジャム戦において絶対はない。

煮え切らない気持ちのままかつて俺が予審会を受けていた小会議室に赴くと―――俺は不起訴を言い渡された。

「違法である事を示す物的証拠が見つからなかった為である」

「何だと?元々俺は無実だ、撃墜地点をもう一度調べろ、あれがジャムが作ったシルフという証拠が残っている筈だ」

「これは決定事項である、不服なら控訴するか?受けて立ってもいいんだぞ」

「不服はありません」クーリィ准将が俺達の間に割って入る「少尉は現在不安定な部分があります」

「であれば、この書類に署名するかどうか自身の信念の下に決定せよ」

当然不服ではあったが、これ以上煩わしくなるのも面倒だったからサインした。

「結構、それではこれにて閉廷とする」

軍予審判事が退室した後、クーリィ准将は小会議室に備え付けられているコーヒーメーカーからコーヒーを紙コップに注ぎ適当な椅子に腰かけた。

「あれ程大人しくする様にと言った筈だがな、まったく」

「何故上層部は機体の捜索と検証を行わなかったのでしょうか、ジャムの様に砕け散ったわけでもないのに、一欠片でも残っていればそれを解析して」

「もう終わった事だ、おめでとう深井中尉、あなたは本日付けで中尉になる。退出して良し、これをもって通常の任務に戻る事を許可する、質問は」

「ありません」形だけの敬礼。

 

 

 

 

「上層部が何を考えているか俺にも分からんが、多分お前が言ったことが図星だったんだろうさ」

そう言ってジャックは俺に資料を見せた、俺の起こした例の件に関してFAFが人類連合軍に対しての公式回答が載せられていた。

「…私的に戦闘機を使用し脱柵した機体を俺が撃墜しただと?ふざけるな、だったらその失った機体やパイロットの情報が残ってるはずだろう。何処の機だ、誰だ」

「分からん、そこまで詳細な回答は俺でも見れなかった。しかしどうせ無駄だ、お前が中尉に昇格したのだって口封じみたいなものだろう。特殊戦には無用の長物と分かっていてもな」

俺は雪風に乗って飛んでいたいだけなのに、何故面倒事に巻き込まれねばならないのかと再燃しそうな怒りを既に過ぎた事だと自分を納得させ、溜息と共に鎮める。

「夜になったら俺の部屋に来い、約束通り昇格祝いをしよう」

敬礼してから退出、明日からの任務に向けて基地の戦術コンピュータに雪風の点検に入る旨を報告してからハンガーに向かった。

機体外見のチェックやオイル漏れの無いかの確認から始まり、雪風の機体に基地の発電施設と戦術コンピュータにつなげられている太いコードが確実に接続されている事確かめてからコックピットへ。

電子機器やセンサ、通信機類にキャノピーの開閉チェックなど100を超える検査項目を全て実行ししている間にも雪風は何かしらのタスクをこなし続けていた。

雪風はただの戦闘用補助OSではない、極めて高度な機械知性体を搭載し完全自律制御による高度な戦術判断や戦闘機動を可能とする。

恐らく今もこれまでに得られた対ジャム戦闘の情報を解析している最中だ、そしてその情報は基地の戦術コンピューターを介してFAF全体で共有される。

全ての点検を終えてコックピットの中で寛ぐ事が何よりも穏やかな時間を過ごす事が出来た。

フェアリィ星の主なジャムの巣の付近に必ず存在する各FAF基地に配属される特殊戦、任務は対ジャム戦において戦闘情報の収集に努め、友軍に対して一切の援護は行わない。そうして得られた情報を例え友軍が犠牲になり、全滅しようとも確実に持ち帰る事だ。俺の所属する特殊戦五番隊は五番目に結成したという意味でFAFロマーニャ基地に一から四番隊は存在しない。

その特性上情報を必ず持ち帰る為に自在にスーパーシルフを操る腕前と、友軍を見捨てる事が出来る「それがどうした」「俺には関係ない」と言える人間だけで構成される。

そこに配属された事については特に思う事はない、重要なのは俺は生き物から嫌われる事と俺にとって気兼ねなく過ごせる仲と言えるのはジャックを除けばコンピュータ、スーパーシルフ三番機に搭載された雪風だけという事だった。

後ろ髪を引かれる思いでPDAと接続しているコンソールからケーブルを引き抜くと移動式のステップを使って地面に降りた、俺のスケジュールや電子機器の操作等は電子的に記録され管理されているのだからただ寛ぐだけというのは許されなかった。

とは言え明日から復帰する自分に割り与えられた任務やノルマは特になかった為に夜までの時間を持て余してしまう、仕方なく俺は一度消耗品の補填をすべくマーケットに向かった。

地下のシェルターにあるとは言え替えの効かない戦術コンピューターを守る為に比較的ジャムの巣から離れた場所に設けられたFAFロマーニャ基地の周りにはまだ多くの現地住人が残っている。

FAFに関与する人間は全員軍属という扱いになる為FAFから給料をもらう事になるが、少なくとも基地内では現金のやり取りは行われない、まとめて給与から天引きという形になる。

書類に記入する為のボールペンや制服、コピー用紙はともかくコピー代までも自分持ちになるから余り金を使わない自分はともかく通常の隊員にとってはジャックの言う事も笑えないだろう。

FAF基地の一般区画はJFWやフェアリィ星人が勤める軍の周辺基地の買い出し先に含まれる程に外からの利用頻度が多い。

風俗と賭博場は無いが運動場やプール等のトレーニング施設も完備され、大浴場やマッサージ屋の様なリラクゼーション施設、バーや地球の各国の料理を味わえる各種レストランもある。

酒やたばこといった娯楽の品も現地よりも大分高価だが安定して手に入る上に治安も悪くない。

そもそも嫌われているのは特殊戦ぐらいなもので現地の軍人が似た境遇にあるFAF軍人と仲良くしている場面もしばしば見る。

そうしてマーケットを巡っていると一人の少女を見つけた、赤いズボン――ズボンか?――に赤地のシャツと黒い軍服、ロマーニャ軍人の中でも公室直属精鋭部隊に所属するエース集団、赤ズボン隊だろう。

「こんにちはFAF軍人さん、ちょっといいかしら」

「…何だ」

「隊員の見舞いに来たんだけど特別病棟の場所が分からなくて…何処に行けばいいかしら」

「あそこに総合受付がある、そこで一度見舞いに来た事を伝えろ、場所もそこで聞け」

「ありがとう、あなたお名前は?」

応える義理はなかったが目の前のウィッチは精鋭部隊の一人であり、少なくとも平隊員ではないだろうから面倒事を避ける為に名乗ってから立ち去るつもりでいた。

「深井零、中尉だ」

「フカイレイ、貴方もしかして特殊戦のパイロット?」

「…そうだ」

「そっか…私は504JFW隊長のドッリオ少佐よ、この前はありがとう」

俺は何故か目の前の女から感謝されていた、目の前の女がジャックと同じ少佐…それも504JFWの隊長という事も驚いたがこの世界ではよくある事だ、しかし何よりも俺の心を占めるのは困惑だった。

「俺には感謝される謂れはない」

「在るわよ、貴方特殊戦なのにウチの隊員守ってくれたでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

ヴェネツィアに存在するネウロイの巣に対してコンタクトを行うトラヤヌス作戦当日、504JFW戦闘隊長の竹井醇子大尉をエージェントとして行われた作戦は前代未聞のイレギュラーの発生により戦場は大混乱に陥っていた。

新たに表れたネウロイの巣がネウロイの巣を破壊するという異常事態、しかもその新たなネウロイの巣が以前の巣よりも巨大でありそこから放たれたネウロイのサイズと数、そしてその凶暴性は想像を絶する規模であった。

戦場は一瞬で拡大しベネツィア市だけではなくベネツィア公国全域に及ぶかと思われ、さらには明確に504JFW基地を狙うネウロイ集団もあったと特殊戦からの報告が上がった。

これを受けてベネツィア全市民の避難を速やかに決行、504JFW及びロマーニャ軍は殿として追撃の阻止に当たった。

FAFロマーニャ基地は人類連合軍の救援要請を受けて特例として戦術戦闘航空隊が全機スクランブル発進しロマーニャ方面へ向かうネウロイの駆除に当たった。

ここで問題だったのはトラヤヌス作戦に参加していたのは504JFWのみであり、前線に残っていたウィッチは竹井大尉を含めて五人だけだった。

他の隊員は退避するヴェネツィア市民を守る為、殿を務める為に残留している為救援は見込めない、燃料と弾薬が残り僅かとなった竹井大尉達は殿として残ると志願したアンジェラ・サラス・ララサーバル中尉を不服ながら前線に残したまま一度補給を受ける為に後方へ下がる。

しかしネウロイの破片が左肩に直撃して負傷していたアンジェラ中尉に簡易的な応急処置を施した状態での長時間の戦闘は見込めなかった。

ウィッチはその体に宿る魔力を用いて飛行し、実弾やネウロイのビームから身を守るシールドと呼ばれる魔法を使う事が出来る。

しかしそれは無敵ではないし魔力は有限だ、使い過ぎれば飛行出来なくなり海に墜落するかその前にネウロイのビームの餌食になる。

そして遂に魔力まで枯渇しかけた際にそれは起きた、数機の大型ネウロイが動きの鈍ったアンジェラ中尉に照準を合わせ薄紅色の太いビームの集中砲火を浴びせようとしていた。

基地から補給を受けて全速力で戻って来た竹井大尉もその光景を目にしていたが、距離が未だ離れており救出は間に合わなかった。

しかしビームが放たれることは無かった、今まさに放たんとばかりにビームの光が最大まで輝いた瞬間にそれまで囲んでいた大型ネウロイが突如として全て爆発し砕け散ったからだ。

離れた場所で見ていた竹井大尉は何が起こったか分かったが理解は出来なかった、それはFAFの戦闘機が使用する対空ミサイルという兵器。

 

―――特殊戦機が、アンジェラ中尉を守る為に武装を使用しネウロイを撃墜したのだった。

 

 

 

 

 

「後でお礼を言おうと思ってFAFに尋ねたらその後負傷したと聞いて驚いたわ、軍法会議にかけられたとも聞いて私達のせいかと思って連絡を取ろうと思ったけどFAF本部から門前払いされちゃって」

「あれはあんたには関係ない、それにもう一応解決した」

「それでもありがとう、おかげでアンジー…アンジェラ中尉の治療も順調なの、本人も感謝してたわ」

「そうか、次は気を付けるんだな」

そう確かに俺はネウロイを撃墜した、ただしそれは雪風がその時は名前を知らないアンジェラ中尉とやらの生存が対ジャム戦において有益であると指示があったから撃っただけに過ぎない。

「ねえ、もし良かったら一緒にお見舞いに来てくれないかしら、アンジェラ中尉も直接お礼が言いたいと思うし」

「すまないがこの後やる事がある」

勿論嘘だった、感謝される事はどうでもいいしこの馴れ馴れしい女から一秒でも早くおさらばしたい気持ちの方が強かった。

そもそも助けたくて助けたわけでもない、本来ならありえない事で次も同じようにする訳でもないのに関わるなんて無駄な事はしたくなかった。

「そっかぁ、残念。でも本当に感謝してる、大切な仲間が帰って来て本当に嬉しかったの」

「だったら早く顔でも見に行けばいい、俺はもう行かせて貰う」

「ごめんなさいね、引き留めて!機会があればまた会いましょう!」

そう言って去っていく少佐殿の姿を少しうんざりした気分で見送った後、そもそも買い物すら終えていない事に倦怠感を感じながら再び足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 




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