戦闘妖精雪風はストライクウィッチーズ世界の空を飛ぶ 作:ブネーネ
ジャックの執務室は他の隊員と比べて広く作られている、戦隊指揮官の待遇として当然だが壁に飾られたブーメランと様々なジャンルの本が詰まった本棚以外にあまり私物は見当たらなかった。
「これは…よく用意したな、炊事兵に作らせたのか?」
「最近料理にハマっていてな、食材も新鮮なものを選んで俺が買い付けた、味見もしたぞ」
「新鮮なものだと?まさか外から直接買い付けて来たのか」
片づけられたテーブルの上には未だ湯気の上がるイタリア料理が、それも恐らく二人でも食い切れない程の数が並んでいた。
生鮮食品、特に肉や魚介類は鮮度を保ったままフェアリィ星に運ぶコストの問題から、生鮮食品は最低限食堂で出される分のみ冷凍状態で輸入しており、FAF基地のマーケットでは販売されていない。
であれば入手する為に基地の外に出て買う以外に手段はない、いつの間にか外出していたジャックは人に任せるのではなく自分で直接出向いたと言うが余程今日の祝いに手を掛けているようだ。
「偶には俺も気晴らしがしたくなる、こうして良い酒も手に入った事だしな」
そう言ってシャンパンのコルクを捻り開けようとした瞬間、中の膨張した圧力に押されコルクが飛び出し天井のライトカバーに穴を開けた。
「始末書ものだな、ジャック」
「始末書が怖くてこんな仕事が出来るか、まあいい、深井零中尉昇格を祝って―――乾杯」
「乾杯」
今更二人で騒ぐ様な仲でも無かったから一先ずジャックの手料理に舌鼓を打つことにした、テーブルの上の料理が残り半分を過ぎた所でなんとなくさっきの事を口に出した。
「そういえばジャック、夕方位に504JFWの隊長と会ったよ」
「……何?そりゃあまた何でお前が」
「マーケットを歩いていたら偶然会った、確か隊員の見舞いと言っていた」
「お前何か失礼を……いやお前には無理か、後々問題になる事を起こさなかっただろうな」
「むしろ例の生かしたウィッチの件で感謝されたよ、面倒だからすぐに分かれたが」
「報告ご苦労深井中尉、ドッリオ少佐殿には俺からも連絡を入れておく、返事の手紙を待っていたまえ」
これはジャックの故郷の方言で『お前はよくもまあそんな平気そうな顔をしやがって、後でどうなってもしらねえぞ悪ガキが』を意味するらしい。
とはいえこれでも特殊戦上がりの男だ、それで俺が反省する事はないのも分かっているだろう。
俺と関わる生き物は大体何故か不機嫌になるのだ、黙っていれば怒られ、何かを話そうとすれば考えている内に俺はいつの間にか置いてきぼりにされている。
結局俺という人間と我慢強くコミュニケーションを取れるのはコンピューターだけだったのだ。
その後は雪風のコックピット以外で久しぶりの穏やかな時間が流れた、美味い酒と美味い料理をつまみ代わりに交互に運びながらジャックがブーメランを整えているのを見つめていた。
互いに言葉を発する事もなくナイフがブーメランを削る音だけが部屋に響いていた、ただそれだけでこれまでの怒りや焦燥感が失せていくような感じがしていた。
―――明日、俺は再びフェアリィ星の空を飛ぶ。
久しぶりのフライトスーツを身に着けると新たにフライトオフィサになった男と共にブリーフィングルームへ向かう。
偵察用のフライトプランの最終確認を行い、ミッションナンバーや通信チャンネル、天候や搭載武装の確認を終えるとハンガーにてB-3(特殊戦三番機)雪風の機体点検を行う。
Gスーツに着替えて雪風に乗り込みそこでもインテリア等のチェック、それが終わるとキャノピーを閉じエンジンを始動させ点火、雪風に搭載されたミサイルのセイフティピンが引き抜かれ安全装置が解除される。
【グッドラック】
ジャックがそれを伝えてコックピットへの通信用ジャックからケーブルを抜いたのを最後に機体から離れる、雪風のブレーキを離し滑走路へ向かう、発進位置に付くと発進許可の合図。
再びブレーキを離しスロットルをMAXアフターバーナーの位置へ、次の瞬間雪風は放たれたように加速し離陸する。
特殊戦はネウロイの巣の観察と対ジャム戦の記録の為にフェアリィ星の軍隊のスクランブルと同時に発進するのではなく、ネウロイが居なくても先に発進しベネツィア周辺を巡航速度で飛びながら偵察を行う。
FAFの早期警戒管制機も飛んでいるが地球防衛国際条約がある為通常の部隊はネウロイの巣に近づく行為を禁止している、よって特殊戦だけが直接ネウロイの観察と偵察を許される。
ただし特殊戦は敵機を発見しても自らの所属基地以外に報告する義務はない、FAFがフェアリィ星人ひいては人類連合軍の仕事を奪う事は侵略行為に当たるとされるからだ。
「敵機発見、ジャムだ。一時方向、低空を高速で飛行中」
フライトオフィサの報告を受けレーダーのモードを変更、雪風は自動的に目標を捕捉しデータをディスプレイに弾き出す、雪風がパルスドップラーレーダーで捕まえたボギーは四機、赤く表示されたアイコンからラインが伸び高度、速度、サイズ、加速度と言った情報が付け加えて表示される。
「TARPSを起動しろ、501のウィッチ隊は」
「ベネツィア基地からの警報は無し、501JFWの哨戒飛行隊は現在七時の方向、後方70キロメートルを飛行中、間もなくヘッドオン」
レシプロ戦闘機で構成された哨戒飛行隊は数分後、アウトレンジからネウロイのビームによって狙撃され一瞬で全滅した。
「ベネツィアの観測隊は何故気付かない、間もなくヴェネツィア基地の目視圏内に侵入するぞ」
「中尉、このジャムだがレーダーの反応がこれまでと違う、端的に言えば何かしらのステルス策が施されている」
「ジャムがステルスだと?前例はあったのか」
「俺は聞いた事がない、雪風のデータベースにも照合したが登録されていない」
「であれば新種か、高度を維持したまま情報収集行動を継続する、ロマーニャ基地にも報告を」
「ラジャー」
そのまま観察を続けているとマルチタスクで情報を処理していた雪風からディスプレイにメッセージが表示される。
<SEARCH END / There is related information on the new type of JAM>
データベースに新種のジャムを対象とした関連情報の発見、ディスプレイにオーバーレイ表示。
「DH.98モスキート、確かにあのジャムはWWⅡに存在したこの爆撃機の外見に酷似している」
「機体の殆どが木製の為レーダーに捕捉されにくい性質を持つ…バーガディッシュ少尉、ジャム機の構成物質を調べられるか」
「鹵獲しないと何とも言えないがどう見てもステルス性のある形状ではない、こちらのECCMが有効に作用していない事から通常用いられる金属製ではない事が推察される」
「ベネツィア基地に再度連絡、ウィッチに出来る限りコアを直接攻撃せず可能なら本体を鹵獲するように伝えろ」
「要請した、後は到着を待つだけだ」
数分後に501JFWのウィッチが五人のウィッチが出撃―――十分後にエンゲージ。
両足に装着したユニット以外を生身で晒したフェアリィ星人のウィッチ達、フェアリィ歴の20世紀、フェアリィ星人がジャムに立ち向かう為に手に入れた唯一の力、現代ウィッチの新たな魔法の箒がストライカーユニットだ。
双発のレシプロ戦闘機に似た特性に加えて脚部の向けた方向と出力の調整で柔軟に軌道を変える事が出来る特性を持ち、それを活かす為にウィッチの戦闘ドクトリンはドッグファイトに持ち込みながら包囲しジャムの急所であるコアの位置を特定して破壊するというものだ。
つまりコアをどれだけ早く見つけ破壊する事が出来るかが戦場においての全体の生死を分ける。
雪風を含む一部のスーパーシルフには極低温下でのみ作動する空間受動レーダー、凍った眼――フローズン・アイ――が搭載されているがこれはジャムのコアを捜索する事は出来ない。
よって魔眼と呼ばれる数キロ先を見通しジャムのコアすらレントゲンの様に探し出す稀少な能力を持つウィッチは特に重宝される。
その貴重な魔眼を持っているのが今回出撃している501JFW戦闘隊長の坂本美緒少佐である、先ほどの要請を汲んでくれたようで安堵した、正直ヴィルケ中佐に無視される可能性もあったからだ。
ジャム四機とウィッチ五人が戦闘を繰り広げる姿を高度2500メートルから観測し続ける、新型のジャム四機はミサイル装備型、外装の素材は違えどビーム兵器も搭載の模様。
ウィッチの戦闘はFAFの戦闘機とは違う、ウィッチ達にはジャムのビームすら防ぐ魔導シールドを扱う事が出来るからだ、それがウィッチの標準ドクトリンである一撃離脱戦法と合わせて生存率を大きく高めている。
見事な連携によりジャムがミサイルの照準を合わせる前にウィッチ達は散らばりながら攪乱と強襲を繰り返しジャムが一機、また一機と落ちていく。
残った最後の一機を慎重に包囲して攻撃、コアを破壊すればジャムの機体は爆散してしまう為、坂本少佐が日本刀を抜いて
ジャムを解体しようとしたその時それは起こった。
「強電磁シャワーを確認―――核爆発だ!!」
牽制の為にウィッチの放った銃弾が運悪く爆撃機型ジャムの搭載していたミサイルに直撃したらしく、最悪な事にそのジャムは核武装をしていた、極小規模とは言え無視できない高熱と衝撃、放射能がウィッチ達を襲う。
ウィッチは高高度かつ高速での戦闘の中で生身を晒して飛行できる事から分かる通り、彼女達は全身に魔力の膜を纏い過酷な環境をクリアしている、さらに全員が包囲の為に距離を開けていた事と反射的にシールドを張っていた事により速やかな死は免れた、例外は坂本少佐だけだった。
「至急ウィッチに破片の回収を指示した後に速やかに帰投するように指示、ベネツィア基地にFAFの消防隊を派遣して対汚染洗浄の準備をさせろ」
「…了解した、まさか核を搭載しているとはな、何処から持ってきた」
「原因究明は俺達の仕事じゃない、全周囲の警戒を怠るなよ」
無線から一方的に指示を投げたFOの声とウィッチの何か喚きたてる様な声とが聞こえて来るが俺は無視した、これが俺達の任務だからだ、ウィッチの生存は任務の概要に収められていない。
それよりもこの核爆発で被害状況は不明であるが軽微であってもベネツィアの海は汚染された、俺の昇格祝いで食べた料理が気兼ねなく食べられる最後の現地の食材となった。
今回の任務に参加したウィッチも恐らく汚染物質の洗浄を受けたのちに三週間は隔離室に閉じ込められるだろう。
ウィッチが基地に帰投を始めた事を確認すると、しばらく戦闘領域に変化がない事を確かめた後に針路を基地に向ける。
「B-3雪風、情報収集行動を終了、これより基地へ帰投する―――RTB」
「―――美緒!美緒!!」
「近づかないで!危険です!!」
501JFWベネツィア基地の滑走路上で五人は消防車の伸びたホースから乱暴に洗浄され、そのまま五人とも隔離用のコンテナに詰め込まれた。
私には彼女達がどういう状態に置かれているか分からないが、少ないともFAFの人間からすれば油断できない状態らしい。
しかもその内の一人、美緒は特に重症であると聞いて目の前が暗くなった。
魔力は歳若い女にのみ与えられる力だ、そしてそれは徐々に衰えていき二十歳を超える頃には戦闘に参加できないレベルまで低下する。
そして美緒は二十歳だ、彼女は既に濡れた紙の様なシールドしか使えないほどに魔力が弱り切っていた。
直前で反転し回避行動をとったようだがそれでも至近距離で爆発に巻き込まれたのだ、制服は焼き焦げ隙間から見える肌は酷く火傷の様な傷を負っていた。
私の大切な、家族同然の仲間が突然半分も負傷した姿を目の当たりした私は頭を抱えて膝を付く事しか出来なかった。
――――何故、何故、何故!!何故彼女達がこんな目に合わなければならない!
確かに戦争で犠牲は付き物だ、しかし何度経験しても慣れるモノではない。
それに『彼』を失った時に誓ったのだ、全てでなくとも、身の回りの人間だけでも守るのだと。
私が美緒を前線に送らなければ、そんな後悔ばかりが心を占めていた。
その時だ、私の中に闇が広がっていったのは。
――――何故私は美緒を前線に送ってしまったのか。
そう今回のプランを独断で決めたわけではない、理由があってそれを認めた上で私が許可を出したのだ。
その理由とは―――特殊戦機からの要請があったからだ。
死神がまた私から大切なモノを奪おうとする。特殊戦、凶事を引き起こす死神、高みの見物だけしかしない人格破綻者共。
心が冷えていくのが感じられた、ほんの少しだけ残った理性が、これが私の八つ当たりだと分かっていても――――。
ヴィルケ中佐、坂本少佐の外傷は治癒出来ました。
しかし、依然として放射能汚染と全身火傷の後遺症が残っており体を蝕み続けています。
状況を確認する限り全身を被曝しており、手術や投薬だけでは対応しきれない可能性があります。
幸いと言えるかどうか分かりませんが魔力の影響か病状の進行は微々たる速度で収まっています。
――――誠に申し訳ございませんが、前線への復帰は困難である事をご理解ください。
第一章 完
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