―仲見世通り―
さて、授業も終わりいつも通りにスーパーの特売へと向かおうとした俺・・・・だったのだが一通のメールによって少々予定を変更し仲見世通りにある喫茶店に足を向けている・・・・直江とお嬢を伴って。
「悪ぃな、わざわざ来てもらって」
「構わないけどさ、なんで俺とクリスなんだ?」
「ああ、もしかしたらお前の人脈を借りなけりゃならないのと場の空気を和ませるためだ」
「成程」
「?」
何が成程なんだろうか?と考えているクリスを放置し目的地である喫茶店へと着くと俺を呼び出した人物、九鬼妹が名物であるくず餅パフェを前にはしゃいでいるのが見えた。
「ああいうの見ると年相応なんだけどな」
「まぁな、井上とか呼んできたら卒倒しそうだな」
なんてどこぞのロリコンの事を思い返しながらナチュラルに着席する。
「よぅ、待たせたか?」
「フハハハハッ!むしろ待ち時間でくず餅パフェを堪能しておった!」
「あ、美味しそうだな・・・・すまないが自分にもくず餅パフェをくれ!!」
お嬢が遠慮なしに速攻で注文を入れて待ちきれなさそうにしているのを慈愛の眼で見ながら、視線を九鬼妹へと戻す。
「で?相談ってなんなんだ?」
「うむ・・・・実はな・・・・」
九鬼妹からの相談と言うのは源氏トリオの事だ、弁慶はともかく義経は生真面目故に、与一は中二病のためか周囲に馴染みきっていない。そこで明後日の六月十二日が三人の誕生日であるので誕生パーティーと歓迎会を併せて行い周りとの距離を縮めたい・・・・と言う話だった。
「しかし転入したばかりの我では一年にしか影響力が無い、それに日数的な制限もあるので実現そのものが難しいとも思う」
兄の九鬼英雄に頼れば?と言う直江の言葉に九鬼妹は首を横に振る、学生らしい範囲内にとどめたいと言うのと手のかかる妹だと思われたくないと言う理由だった。
「手を貸しては・・・・くれないだろうか」
真面目に悩んだんだろう、それでもどうしても良い案が浮かばなくてこうやって俺を頼ってくれたんだろう。ならば俺の答えは一つしか無いわけで。
「後輩がここまで言ってんだ、手ぇ貸すのが道理ってもんだ・・・・なぁ?直江、お嬢」
「だな、特にこういう案件は俺の得意分野だし」
「悩める後輩に手を貸す、うん!これこそまさに義だ!!」
直ぐに手配を始める直江とお嬢。
「すまぬ」
ポツリと言った九鬼妹、どこか叱られた子犬みたいな雰囲気だったのでその頭をわしゃわしゃと撫でる。
「わわっ!?何をする!!」
「んな固くなるなよ、後輩が先輩頼って何悪いってんだ?悪い事なんか何一つねぇよ」
撫でる手を止めずに俺は言葉を続ける。
「むしろ頼ってくれて嬉しいぜ?九鬼の一族ってなんでもできちゃうイメージあるからさ、そういう奴らが頼ってくれるってだけで『俺も役に立てる事があるんだなー』って思えるわけだ。だから気にすんな、それにそういう時は『お願いします先輩』って一言言えば良いの」
俺の言葉に、少し俯いた九鬼妹が。少し迷ってから顔を上げる。
「えっと・・・・お願いします、先輩」
『任せろ!』
俺と直江とお嬢が口を揃えてそう応えると、ようやく九鬼妹が笑顔を見せる。さて・・・・忙しいのはここからだ!
――――――
当日の俺は調理班の指揮に回っていた、というのも直江からの指示でこうしているわけだが・・・・
「そっちのオーブンのはもうすぐ焼きあがるから持って行ってくれ!鍋の方はあと三分弱、吹きこぼれないように見ておけ!!」
テキパキと指示を出しながら俺も調理を進めていく。
「いやぁ、和泉君が手伝ってくれると・・・・楽だね」
「こっちこそ、熊飼がいたから色々と良い材料揃えられたんだ。それにこのあとライブクッキングするんだろ?期待してるぜ」
恰幅の良いこの男子は名を熊飼満、クマちゃんの愛称で親しまれる食のエキスパート。食べる方は勿論作る技量もそこらへんの調理人顔負けの技量を誇り食に関しては誰にも負けないと言う人物だ。
「あ、あのあのあの!!」
「ん?」
「デザートの杏仁豆腐の味見を!!」
「おう」
彼女は黛由紀江、風間ファミリーのメンバーの一人で唯一の後輩らしい。北陸の剣聖黛十一段の娘で少々コミュ障気味らしく、直江からは頼むと言われた・・・・がそこまでとは思わないんだがな。むしろ周りが警戒しすぎなんじゃ?とも思うんだが・・・・
「ん、程よい甘さで良いんじゃねぇか?」
「ありがとうございます!」
「おう、んじゃあそろそろ料理を運び込むぞ!!細心の注意を払え!!」
『はいっ!!』
――――――
そんなこんなで始まった誕生祝い兼歓迎会は、当初主賓の一人である那須与一が不在と言うハプニングにみまわれるも直江による極秘の説得が功を奏し与一も無事参加。現在は和気あいあいとした雰囲気の中で歓迎会が進められていた。
「ま・・・・良かった良かった、って事で」
皆の輪から一人離れて様子を見ていた俺は、その場に座り込んでこっそり持ち込んだ川神水をコップに注いで口をつける。
「おい赤子」
となりから聞こえてくる声、間違えようの無いヒュームさんの声だ。
「なんか用で?」
「ふん、お前の事を改めて評価して直していたところだ」
「さいですか」
くっ、と川神水を流し込んでから再び視線を周囲へと向ける。犬子、お嬢、風間らに囲まれ楽しげにする義経、直江、宇佐美とともにのんべんだらりと飲む弁慶、弓道部メンバーに囲まれている与一。これを見れただけでもやったかいがあったというものだ。
「そう言えば釈迦堂がお前と会いたがっていたぞ」
「・・・・そっすか」
「暇があれば放課後に会いに行ってやれ、やつは今梅屋で働いている」
なんで梅屋に、とも思ったのだが・・・・気にしない事にした。
「おぉ和泉、ここにいたのか!」
九鬼妹が喜色満面、こちらに歩み寄ってきた。いつの間にか金髪執事がいない。
「ああ、こういう空気は好きなんだがあの中に入って騒ぐバイタリティが無いんでな」
「そうかそうか」
そう言いながら九鬼妹がとなりにチョコン、と座り込む。
「実はな、さっき直江大和に学園の人材紹介をお願いしてきたのだ」
「あー、アイツ人脈は広いからな」
それゆえにこちらも頼る事があればあちらも頼ってくる、ギブアンドテイクというやつだ。
「ありがとうな、和泉」
「俺はなにもしてねーよ、全部直江の手柄だ」
「それも、お前が我の言葉に応じてくれなければ無かったはずだ。だから、ありがとう」
「ま・・・・感謝は素直に受け取るさ」
感謝そのものに悪い気はしないのだ。
「矢張りお前が欲しいぞ、和泉」
「保留で」
「分かっている、我は気長に待つぞ」
「そこまで待たせねぇよ、いいとこ一年ぐらいだ」
コップの川神水を一気に飲み干すと、笑いながら答えた。
「俺も自分の心とか過去とか、色々と整理つけたいのよ」
「分かった」
満足げに頷いた九鬼妹は立ち上がって再び人ごみの中へと踏み入っていく、と今度は義経が現れる。
「こんなところにいたのか和泉君!」
数日前に義経からカバンをひったくった奴がいた、そいつからカバンを取り返したのが俺と与一だった。与一が遠距離からの狙撃でバイクを破壊、それでも無事だった犯人を追撃しカバンのダッシュと犯人の撃破をしたのが恭也だった。それ以来義経はやたら懐いてくるし与一は「お前・・・・まさか俺と同じ特異点!?」とか言いながら他の同級生相手に比べて多めに絡んでくるのだ。
「義経か」
「今回の歓迎会、和泉君も最初の方から手伝ってくれたと聞いてお礼を言いに来たんだ!」
「俺は特になにもやっちゃいねーがな・・・・まぁそのお礼は素直に受け取るぜ」
「ああ!じゃあ皆が呼んでるからまた後で!」
元気にかけていく義経、しかしまぁここ数ヶ月で色々と俺の周囲も変わってきた、川神学園に入った当初は一人だった。この学園生活も、そのままで終わるものだと思っていた・・・・変化が訪れたのは一年も終わりのころだ。
最初に俺に接触してきたのは風間だった、どこから情報を入手したかは知らないが俺がそこそこ食通であるという事を知って川神の伝説のかき氷屋探しの手伝いを依頼してきたのだ。俺も当時は遭遇した事が無く、ノリ気で共同戦線を張ったのが始まりだった。
結局かき氷屋を見つける事は出来なかったが風間とはこれ以降友人としての付き合いが始まる事になる。それから直江やゲン、熊飼、犬子、九鬼、葵、井上、榊原、心、甘粕らと知り合い、二年になってから転入してきたお嬢やマル公、そして今では義経、与一、九鬼妹と更に東西交流戦では円成寺・・・・本当に川神学園に入った頃には想像しなかった状況だ。
「・・・・ま、悪くはねぇな」
そしてこんな変化を楽しんでいる俺がいるのだ。
――――――
歓迎会も終わり翌日の放課後、俺は梅屋にきていた・・・・そうあの人に会うためにだ。
「へいらっしゃい!ってお前か・・・・」
「マジで仕事してるよ・・・・牛飯特盛りで」
「あいよ、作ってくるからちょっと待ってな」
しかしエプロン姿が似合わない似合わない、が心なしか牛飯を作っているときは妙に達成感に満ちた表情をしている・・・・奥のカウンター席で寝ている人もいるぐらいだし暇なんだろうな今は。
「あれ?和泉じゃない!」
「何だワン子、知り合いか?」
犬子&武神来店。
「おぉ!和泉君じゃないか!」
「本当だ」
「こんなところでお前に会うとは、特異点同士は惹かれ合う運命にあるようだ」
源氏トリオ来店。
「何じゃ・・・釈迦堂お主制服似合わんのう」
「おー、なんとかやってるみたいだネェ」
学長&ルー先生来店。
ルー・イーは川神院の師範代であり川神学園の教師でもある人物だ。真面目を絵に描いたような人物で誠実さ故に人気がある、ただしネーミングセンスの微妙さがややマイナス感を醸し出している。
「フハハハハッ!九鬼揚羽、降臨である!!」
「ふん、赤子どもも来ているな」
九鬼姉&ヒュームさん来店。
九鬼揚羽、九鬼家長女で武道四天王にも数えられた実力者。確か今は軍需部門の統括として世界各地を飛び回っていると聞いていたが。
「フハハハハッ!我、顕現である!!」
「これはこれは皆様」
「見知った顔しかいない」
九鬼妹&老執事&直江来店。
クラウディオ・ネエロ、九鬼家従者部隊の序列三番で万能執事とあだ名されるまさしく万能な人。九鬼妹曰くギャグセンスの無さが問題らしいが。
「あれ?皆さんもいたんですね」
「なんだこのメンバー、パネェ」
黛来店。
黛由紀江、剣聖黛十一段の娘であり風間ファミリーの一人。友達百人が目標らしいが謎の腹話術ストラップ松風の存在と刀持参と言う明らかに怪しい雰囲気が邪魔をして中々進まない様子。
事ここに至って妙なことに気づく、店内の実力者の異常な比率だ。直江、九鬼妹を除けば全員が川神市内在住の実力者たちだ。
「すまねえ、遅れたな」
「おー、なんだかすごいね」
「やっ、お久しぶりですねぇ和泉君」
鍋島&松永&円成寺来店。
どこぞのマフィアみたいな格好なのは確か天神館の館長である鍋島正、彼も壁を超えた実力者であり『仁王』のアダ名を持つ元四天王だ。
ショートカットの娘の方は誰だかわからないが一緒に円成寺、間違いない。これは仕組まれた状況だ。
「すでにこの店は貸しきっておる、これ以上の来客は無いから安心せい」
立ち上がったのは学長だ。一体何をするつもりで・・・・
「皆に集まってもらったのは他でも無い、次代の『四天王』についてじゃ」
四天王、まぁつまりは若手武術家たちのトップ4の総称。確か今は『武神』川神百代、『鬼龍』九鬼揚羽、『護衛成功率100%』鉄乙女、『スピードクイーン』橘天衣の四人だったか。
「知っての通り九鬼揚羽は本業に専念するため、鉄乙女は教職に就くためにそれぞれが四天王を辞し橘天衣に関してはモモとそこにおる黛に敗北した事で降板させられたことにより四天王の枠が三つ、空席になっておる」
橘天衣の噂は聞いたことがあるがまさか黛がそれを倒していたとは・・・・まぁそれまで無名だった相手に敗北するようじゃ確かに四天王降板もやむ無しだろう。
「それ故に今日は候補者、壁を超えた者、他現役の者をそれぞれ呼び出し意見を聞こうと思ったのじゃ。まぁ和泉に関しては騙すような形で呼び出した事に関しては謝罪しておく」
「いえ、確かにそれなりに重要な案件ですし」
うむ、と頷く学長。
「それでよ師匠、今のところの候補者ってのは誰なんだ?松永燕と円成寺を連れてこさせたからには入ってるんだろうが・・・・」
「今のところ橘天衣を倒した黛由紀江、そこで寝ておる釈迦堂の弟子である板垣辰子、西で無敗の松永燕、鍋島推薦の円城寺要、そしてヒューム推薦の和泉恭也の五人じゃの」
へぇ・・・・俺?ヒュームさんの推薦で?
「俺ぁ松永と円城寺の実力は知ってるし黛が天衣を倒したってんなら文句はねぇが・・・・そこの嬢ちゃんと坊主が候補に入ってるのには異論があるんだがな?」
と鍋島さんが異議申し立てをする、まぁ主な理由は実力を知らないからってところだろうが・・・・
「まぁ辰子は無理だろ?パワーは一級品だがムラがありすぎる」
と板垣辰子に関して辞退を申し出たのはその師匠の釈迦堂さんだ。
「が、和泉は入れた方が良いとおもうぜ?俺を倒した男だからよ」
と、続けた釈迦堂さんの言葉に九鬼妹とヒュームさんを除いた全員がざわめき始めた。
「なんト、それは本当なのカ?釈迦堂」
「おうよ、負けたのなんざジジイとお前以外なら始めてだよルー」
「・・・・刀を持てば、な・・・・俺は刀を握るつもりはほとんど無い。俺の四天王入りの話は刀を持てばだろう?ならこれで話は・・・・」
「舐めるなよ赤子」
おもむろに立ち上がってまくし立てつつこの場を逃げようとした俺の前に、ヒュームさんが立ちはだかる。
「俺が何故お前を推薦したか分かるか?お前が『刀を持たずとも他の壁越えよりも強い』から推薦したのだ」
「冗談は止せよ」
「俺は冗談は苦手だ、断言してやる。今のお前は刀を持たずともこの場にいる・・・・そうだな、俺と鉄心以外の誰よりも強い」
「・・・・」
いくらなんでも盛り過ぎだろう、俺は確かに先日釈迦堂さんには勝った。しかしそれも刀を持っていてのほとんど不意打ちのようなものだ。
「東西交流戦は見せてもらった、気で足場を形成しての跳躍移動にそれを利用しての蹴り技、あの距離からの狙撃を回避する勘の良さ、そしてそれ以上にあの刀を持った時の鬼気・・・・何より実戦経験もトップクラスだろう?お前は」
この人はどこまで俺の事を知っているんだろう。
「まぁいい、最終決定までは期間がある。お前も色々と考える事だな・・・・他の候補者もだ」
俺は・・・・どうしたいんだろう?――――――
未だ決まらぬヒロインですが・・・・候補をまゆっち、紋様、燕の誰かにしようと思います。できれば10話目ぐらいには決めたいなーとか思います。