羽無き天使のオペレーター交流記録   作:葉桜さん

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戦場の黒羽

「戦場はここか」

 

「恐らくは。戦闘音が近いですわ」

 

 

 

戦場を見渡せる高台に、2人の人影。

片や青いフード付きのパーカーに身を包んだピンクの髪に特徴的な青い目をした女性。

片や黒いコートを着込んだ、暗い青髪に銀の瞳をした黒い片羽の天使。

ふたつの影は、その下を見下ろしていた。

 

 

駆けつける前に、まずは状況の把握が必要だと彼女を連れてここまで来た。

周りを把握するということは、ある程度の敵の行動の予測が着くかもしれない。

そうなれば、俺達だけでも有利に立ち回れる。

 

 

 

情報というのは目に見えないが、確かに戦況を有利に変えてくれる大切な一要素だ。

ドクターが大事な部分を見逃しているということは無いだろうが、俺達でも戦況を把握しておく事に損は無い。

 

 

 

だが、来る途中で厄介な事が起きた。

 

 

 

ドクターからの通信によれば、相手がこちらを察知し攻撃を開始してきたらしい。

その場にいる人員で何とか応戦してはいるが、狙撃班と医療班が負傷、術師はこの場にはいない。

今は残った先鋒、重装、前衛班で何とか凌いでいるらしい。

 

 

 

対応するのがどうやら遅かったらしい。

我ながら情けない限りだ。

しかしそうなった以上、下手に焦って交戦すれば余計に自分の首を絞めるだけだ。

 

 

 

 

「頭数が多いな」

 

「先鋒オペレーターや重装オペレーターでも処理が間に合っていませんわ……術師オペレーターと狙撃オペレーターが負傷でもしたのかしら……」

 

 

 

現在見える景色からは、大量の武装をした白ずくめの人間。

 

 

 

俺達の敵……レユニオン・ムーブメントの構成員。

 

構成員の種族は問わず、構成員に共通することはただ一つ。

鉱石病の感染者という事だけだ。

奴らは感染者の権利や自由を訴えて暴動を起こして各地の都市を荒し回る、言ってしまえばただのテロリストだ。

 

 

 

ロドスと同じくして、感染者の救済を目的としながら、奴らは非感染者に異様とも呼べるほどの加虐性を持つ。

 

ウルサスなどが行ってきたことを鑑みれば当然の報いと言えなくもないが、彼らにとってはどこの国の人間だろうが関係はない。

 

 

 

非感染者は全て悪。

 

 

 

それが奴らの考え方だ。

 

ロドスは非感染者と感染者の共存を目指し、最終的に鉱石病の治療方法を確立させることによって、感染者を救わんとする組織だ。同じ目的でありながら、方法は全く違う。

 

 

 

そのやり方の違い程度で、命の奪い合いが起きる。

なんとも下らない話だ。

人間とは、何時の時代も結局は力によってのみ全てを解決する。弱き者は何も出来ない。

それが世の真理だ。

 

 

 

「……負傷したってんなら、早く片付けた方がいいな。さっさと治療に取りかかれるのもそうだが、あの数じゃ時期に防衛網をすり抜ける奴が出てくる」

 

「ええ。早急に加勢が必要でしょう」

 

 

 

今戦線を維持している先鋒や重装、前衛達の数は決して多くない。1人が空いてできる人数も限られている。

それに比べて向こうは質より数だ。

数で押されてしまえば、対応しきれず防衛網が崩壊しかねない。それだけならまだしも、最悪1人のオペレーターに寄って集り死んでしまうなんて事態だって有り得る。

 

 

 

それだけは起こさせたくない。

絶対に。

味方の死体を見るのは気分が悪い。

 

 

 

まだ問題点はある。

 

狙撃オペレーターが負傷した事。

これに基づくと、敵にも狙撃手が居るという事だろう。

そうすると、安易なことをすれば俺達も死にかねない。

同じ轍を踏むのは勘弁だ。

 

まずは、自分達が有利に動けるような場所を探す。

とは言っても、ドクターもどう動くかの算段が付いていないわけではないだろう。

指示を仰ぎつつ……どう動くか、どう戦うか。

地形や状況と向き合いつつ、それを組み立てていかなければ。

 

 

 

『アズライル、到着はしたか?』

 

「現地にはもう着いてる。状況を確認中だ」

 

 

 

無線に入る通信。

呼び出し主は察しの通り、現場を指揮するドクターだ。

 

落ち着き払った声だが、状況が宜しくないのは一目で分かる。現に急かすような通信を入れていることからも、あまり時間をかけたくないということが伝わってくるだろう。

 

 

 

『見ればわかると思うけど、この人数じゃ戦線を維持するのは難しい。相手にも狙撃手が居る……そいつに負傷させられた人が大半だ』

 

「だろうな。もしも戦力を追加投入するにしたって、裏の奴を始末しない限りはどうしようもならねえって事か……面倒臭い」

 

 

 

まずは敵の狙撃手を討たなければ。

放置していても戦線の負担が増えるだけだ。

こちらの戦力は直ぐに削られてしまうし、何より動きづらい。

敵の狙撃手の邪魔臭さは嫌という程分かってしまう。

 

奴らは状況のコントローラーの一部だ。

甘く見れば事態を悪化させる。

それこそ、今のように。

 

 

なら、どう対処すべきか。

視界に入れば正確な狙いで撃たれる。

奴らの射程は相当広い。

俺達の射程は、すなわち奴の射程。

考え無しに向かえば、先手を取られた方が負ける。

 

 

 

『……アズライルがいるなら察しは着いていると思うが、君達のいる場所から数メートル南東に丁度いい草むらがある』

 

「茂みに隠れ、気付かれず仕留めるのが最適解……ということでして?」

 

『そう言う事だ。敵は今油断してる。狙撃オペレーターを完全に潰したと思い込んでいるだろう。奇襲は難しくないと思っているよ』

 

 

 

怪我の功名とでも言うべきだろうか。

確かに見る限り、周りの警戒が薄れている。

 

前衛に剣を持った構成員が5人、盾を持った構成員が2人。後ろにはクロスボウを装備した構成員が3人と、杖を持った術師が2人。

後ろを警戒している素振りは無く、後衛もその照準は対応しているオペレーター達に向いている。

完全に今は前線を突破することに注力しているようだ。

今のうちに潜伏しつつ行動を起こせば、被害を少なく相手に打撃を与えられる可能性が強いだろう。

 

 

 

狙撃手の負傷は褒められたものじゃないが、回り回って良い方向へと風向きが変わっていることも事実だ。

この好機を逃す訳には行かない。

 

行動を起こすなら、確実に今だ。

これ以上の時間の猶予もない。

 

 

 

『急ぎ指定のポイントに付いてくれ。そこから後衛の排除、後に戦線の支援を頼む。やり方は君たちに任せよう』

 

「了解。作戦行動に移る……行くぞ」

 

 

そう言って、即座に行動に移る。

ひとまず、作戦の立案を完全に行うにも、もっと戦場の近くに行く必要がある。遠くからでは見えないものもあるからだ。

指定されたポイントまで向かえば、立案後の行動も早く起こせる。

 

 

 

 

 

「相手はそこまで訓練を積んだ兵隊じゃない。ただの烏合の衆だ。だが、数では明らかに俺達の不利だな」

 

 

 

そこで浮かべた作戦は……

 

 

 

「正面切って撃ち合うなんてやってられねえ。裏を取って首を掻く」

 

 

 

闇討だ。

いくら頭数があろうと、強さがあろうと、警戒心が無い物は影の手に葬られる。

喉元に突き付けられた刃に気づかなければ、そのままその刃が喉を突き刺し、切り裂くことも可能だ。

視覚や聴覚に繋がる警戒心は、それほど重要なのだ。

 

 

 

それを欠いているなら、踏み込んで殺すことも容易なはず。

気づけるはずの殺気に気づかない者は遅かれ早かれ死ぬだけだ。

 

 

 

しかし、さらに問題がある。

 

 

 

「俺の銃は静かに殺す事には向かない。発砲音で確実にバレる」

 

 

 

アーツを利用して銃弾を打ち出す、そういう仕組みを組み込んでいるのがサンクタの扱う守護銃だ。

しかし、そうすればアーツを発動させた際の音が響くのは想像するに難くないだろう。

大きな銃声を鳴らせば、確実にこちらの存在に気づかれる。

1回で完全に殲滅はできない。

自分の持つ獲物は少し特殊だが、それを加味しても闇討には向かない。

 

今回は自分一人じゃなく、連れがいる。

それをどう使うかを考えるべきだ。

 

 

 

しばらく考え、出した答えは……

 

 

 

「俺が陽動を行う。目的は前衛への負担の低減だ。こちらに注意を向ければ、対応する数は減る……だが、それだけじゃ解決にならねぇ」

 

 

 

狙撃手が陽動を行えないことは無い。

陽動とは、つまりを言えば相手の気を引ければいい。

どの役割であろうが、本命を担っている者でなければ誰だって行える簡単な事だ。

 

 

 

「そこでお前に動いてもらう。お前はここに待機して、俺が撃ち始めてから少し時間が経った頃に攻撃を行え。俺が陽動している間に、お前の扱う毒で確実に仕留めろ。銃よりも静かに、そして致死性の高い毒を仕込んでいるダーツなら気付かれずに始末できるだろうと踏んでの事だ」

 

 

 

毒は大きな外傷を伴わず、体内から確実に身体を蝕み、そして最後に死に至らしめる恐ろしい物だ。

外傷は小さく、そしてスマートに役割を果たす毒矢は、ステルスや闇討にはうってつけだ。

場所や状況によっては、刺さった痛みはあれどどこから毒矢を撃たれたかなど分かりづらいだろう。

そのボルトがコンパクトであればあるほど。

 

 

その特性を活かせば、アズリウスに危害が加わらないようにしつつ、確実に敵の頭数を潰していける。

正直に言えば、本人の長所を生かした1番理想的なやり方だろう。

そうすればこちらもこちらで集中しやすいというものだ。

 

 

 

「互いの位置は確実に把握しておけよ。位置をロストしたら援護も何もねえ」

 

「了解しましたわ」

 

「……行動に移る。時間が無いからな。一応無線でも合図は送る」

 

 

 

それだけ伝えて、向かい側の草むらへと向かう。

つい先程までいた場所よりも確かな距離があり、尚且つ遠すぎない。身を隠すのに十分な背の高さの葉に身を潜めながら、1番良いポジションへと身を動かす。

 

面白い事に、つい先程の観察で理想的な立地を見つけた。

高台にあり、なおかつ身を隠せる場所だ。

ここならばもし見つかっても撒くことが出来るだろう。

さらに言えば、高台という事で銃の有利な位置だ。

 

 

 

戦術的には完全優位を取れるが、如何せんこちらは1人と伏兵のもう1人。

数では完全に負けている。

油断すれば直ぐにあの世逝きだ。

気を抜くことは許されない。

もちろん、失敗も許されない。

 

 

 

 

 

 

数分後、所定の位置に着いた。

 

 

 

『誰か!そろそろこっちも耐え切れそうにない!』

 

 

 

助けを求める声がする。

もう少し、もう少しだけ耐えろ。

 

 

……そろそろアズリウスも準備は整っただろう。

迅速に、確実に。

それが求められる結果だ。

失敗は許されない。

 

 

 

「……攻撃を開始する。早過ぎず、ある程度の感覚が空いたら攻撃を始めろ」

 

 

 

それだけ告げて、弾を込める。

引き金に指を掛けて……

ただ引くだけ。

 

 

 

アーツの炸裂音と共に、黒い光が伸びた。

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!」

 

「どうした!」

 

「う、撃たれた!狙撃手や術師は片付けたんじゃ……!」

 

 

 

俺の守護銃は特殊だ。

これは源石弾にアーツエネルギーを纏わせ、殺傷力の増幅となるように改造が施されている。

 

銃器の解明は未だにされていないが、コピーをする技術はある。ならば、そのコピー品を無理無理に分解・改造を繰り返し試行錯誤することは出来る。アーツを纏わせる機構にすれば、上手くいって弾道の変更、下手をしてもアーツと同等の威力を出すことが出来る。

 

 

 

他のサンクタより扱いが卓越した訳では無いが、それでも十分な力を発揮できる改造だ。

長い時間を掛けて、無理にでも改造した意味はあるだろう。

 

 

 

「……!上だ!新しい狙撃手が出てきやがった!上のどこに居やがる!」

「ロドスのクソ野郎め、さっさと往生しろ!」

 

「……チッ……ガチャガチャ煩えな、とっとと黙れ馬鹿共」

 

 

 

草むらで自らの位置を煙に巻きつつ、銃弾で確かに一人一人に多少なりとも手傷を負わせる。

高く鳴り響く炸裂音が戦場を包む。

もちろん、その音の出処が分からない様に立ち回っている。

ヒット&アウェイ……的確に攻撃し、即座に隠れる。

これだけの動作を繰り返すだけでも、補助や陽動になる。

 

 

別の場所に移りはまた撃ち、そしてまた移る。

そうすることで、相手は一定の場所を狙い続けられずにこちら側に目を奪われる様になる。

ただでさえ邪魔臭い羽虫が刺してきたら、誰だって退治しようと躍起になる。

そうすれば、確実にこちらを向く。

より上手く隙を作り出してやれるだろう。

 

 

 

「今だ、そろそろ注意が完全にこっちに向く。毒矢を放ってやれ」

 

「分かりました。引き続き陽動をお願いしますわ」

 

 

 

淡々とした声で、潜む隠し刃に合図を送る。

本命は俺じゃない。

こちらに気を取られていたら……

見えざる手に命を刈り取られるだけ。

あまりに愚かにこちらを撃ってくる奴に、鼻で笑った。

お前は視野が狭いようだな、と。

 

 

 

「我が蜜液が、汝に死を齎さん……」

 

 

 

無線越しに聞こえた、囁くような決めゼリフ。

その甘ったるい声とともに、敵に変化が現れる。

 

そう、苦しみ始めた。

毒はそれこそ外傷はないが……

それを取り込んでしまったものの苦しみは大きい。

段々と自分の体が侵されていく感覚。

息の出来なくなる感覚。

余りの恐怖に脅え、そして余計に自分の首を絞める。

 

 

 

毒は、綺麗にして醜い。

楽に死ぬための毒もあれば、苦しめるための毒もある。

綺麗に見せておきながら、その裏側では計り知れないほどの苦痛を味わせる、恐ろしい物。

だからこそ、”毒物”は忌み嫌われるのだ。

 

 

 

「が……あ……」

 

「ぉぇ……!ど、毒……がぁ……!?」

 

「なん、で……!こいつら……!」

 

 

 

次々と苦悶の声を上げて息を引き取る者たち。

もがく様に首に手を当て、苦しみながら倒れていく。

普通の人間なら、吐き気を催してしまう光景だろう。

想像し難くない死の感覚が、彼らを襲う。

 

 

 

凶行に及ばなければ、そう苦しむこともなかっただろうに。

哀れみと呆れの混じった溜息を吐きながら、絶え間なく銃弾の雨をふらせ続ける。

雨にしてはとても横殴りで、あまりの痛みを伴うものだが。

 

 

 

「銃弾が飛び交って身動きが取れん!」

 

「がっ……!に、逃げろ……!」

 

 

 

喚き、瓦解していく集団。

いとも簡単に崩壊するとは。

所詮は烏合の衆だとよく分かる。

 

 

 

「……奴らは崩壊寸前だが、油断はするなよ!」

 

 

 

銃声にかき消されないように、確かな声でそう伝える。

最期の一息を止めるまで、気を抜くことは許されない。

戦いは、虫一匹残っているだけでも終わらないのだ。

 

 

 

弱り、抵抗できそうにもない相手に対して引き金を引く。

一瞬でも隙を見せてはいけない。

それが弱ったふりだったら?

それが降参するふりだったら?

そこから、凶弾が飛んでくることだって有り得る。

 

 

 

息の根は必ず止めなければ。

危険な芽は摘み取っておかなければ。

そう言い聞かせ、死にかけている者にも容赦なく引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「そっちは片付いたか?」

「ええ、こちらは殲滅致しましたわ」

 

「済まない、助かったよ」

 

いつの間にやらドクターが俺の背後に現れた。

咄嗟に銃口を向けて撃ちそうになってしまった。

心臓に悪いことはやめて欲しいものだ。

何より、敵と間違えかねない。

 

 

助かったという言葉に首を振った。

俺がこういうのは柄では無いと思われるが、今回の作戦は俺よりもアズリウスの方が良い仕事をしていた。

 

今回の戦いで確かに重要な役割を果たしたのは紛れもない事実だろう。非常に楽になって助かった。

……ただ、表に出して調子に乗られても困る。

ただ、何も言わないまま黙るだけ。

 

 

 

「まだ完全に終わったわけじゃない。気を抜くな」

 

「ええ……ですが、もう敵の姿はほとんど見えませんわ」

 

「虫の息の敵が殆どだ、後は処理だけだが……」

 

 

 

そんなもう終わったような口ぶりをする2人。

もし残された罠があったらどうするのだろうか?

もしも脅えて出てこれなかった伏兵がいたならば?

最悪の事態は、常に考えておくべきだ。

 

 

 

そう……下手をすれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!アズリウス、危ない!」

 

「っ……!?」

 

 

 

響き渡るドクターの声。

それは、目の前の人物に向けた警告。

 

 

指揮する者の目に映るのは、1人に向けてその照準を合わせている雑兵の姿だ。

壊滅しかけていた中、1人だけ逃げた残兵だろう。

1発だけのボルトを番え、引き金を引く寸前。

 

 

 

「死んでしまえ、ロドスのクズめ……!」

 

 

 

既に指は掛けられている。

誰か動けないのか。

このままでは手遅れになる。

誰もがそう思った。

 

 

 

その矢は、確かに放たれた。

 

 

 

彼女の視界は急転した。

何かに引っ張られるような感覚と共に。

彼女はもたれ掛かるように倒れた。

 

 

 

もう一度顔を上げてみれば、空より舞い落ちる黒い羽根のような光。明るみでありながら確かに暗いそれが、辺りに舞っていた。神々しくも、穢れたような。

黒い天使の羽根が。

 

 

黒く淡い光。

それを生み出したものなど、考えなくても分かるだろう。

この場にそれを持つ者など、一人しかいない。

あまりに不自然な片羽、砕けた輪。

そこまで見れば、正体などすぐに分かるはずだ。

 

 

あまりに気の抜けた声がすぐそこから聞こえる。

何が起きたのか分かっていないのだろう。

 

 

 

……だから嫌だったんだ。

だから乗り気じゃなかったんだ。

 

 

気の緩みは、命が散る原因になりかねない。

それが一瞬だったとしても、その気の綻びから死はやってくる。

そう、今のように。

死ななかったとしても、苦しい傷を追う。

しかし……

 

 

 

不運か幸運か、皮肉にも”死神”が死から遠ざけてしまったが。

 

腕に鋭く先端がが掠めた。

それだけでも傷となり得るが、その痛みなどどうでもよかった。

 

なぜこの体が動いたかは分からない。

……いや、分かろうとも思わない。

それで良い。

 

彼女に被害がなくて助かった。

誰かが死ぬのは勘弁だ。

死体の処理は面倒だし、何より……

 

 

 

とても夢見が悪い。

 

 

 

「くたばれ」

 

 

 

目の前の白マスクに守護銃の口を向け、引き金を引いた。

 

 

 

誰にも顔を見られないように。

誰にも、この心を悟られないように。

最大限に表情を殺して頭に一発。

黒い光が、真っ直ぐにそれを貫いた。

 

仮面を貫き、風穴が空いた。

仮面の中の様相など、見たくもない。

殺さなければ、殺される。

それが戦場だ。

戦いに慈悲など無い。

殺して生き残ったものが勝ちなのだから。

 

 

 

躊躇などせず、必ず撃ち殺す。

強いて言うならば、それが数少ない慈悲だと信じて。

 

 

 

「……アズライルさん」

 

「気を抜くなと言った筈だろうが。……1歩間違えればあの世行きだったぞ」

 

 

 

 

向けた視線はとても鋭い。

抜き身の刃の如く、脅すような視線を向けた。

 

当たり前だ。

戦場で気を抜くなんて一番やっては行けない。

油断や気の緩みが死を呼ぶ。

それが自分の身だけに降りかかるのならまだいい。

下手をしたら、その周りさえも巻き込む。

そんなことになったら、大惨事というレベルではない。

 

 

 

そもそも、叱っている相手に怪我をしない様に言ったはずだ。

死ぬなよと釘を指したはずだ。

そこまで言えば、普通は気を張るのでは無いのだろうか?

仕方ない所もあるのかもしれない。

だが、死んでからじゃ遅い。

だから、とても強く当たった。

 

 

 

「いつでも俺が助けられる訳じゃねえんだよ。……死んだらそこで終わりだ。自分の命の価値を理解しろ」

 

 

 

そう吐き捨ててしまう。

忠告をしっかり聞かなかったという怒りもある。

けれど、こんな言い方はないときっと言われてしまう。

 

 

……こんな調子では、恐らく俺が他のオペレーターとの関係を改善するのはほぼ無理に等しいだろう。

そもそも、俺自身がそんなに反りが合うやつが居ない。 

合わせようとも思わない。

 

こんな物言いも変える気は無い。

こういうやり方でしか、俺は人の意識を変える方法を知らない。

だから、あえて強く当たる。

そうしなければ……いつか犠牲が出ることになる。

 

 

 

それは避けたい。

できる限りは。

死なないに越したことはないのだから。

 

 

 

「……残りは?」

 

「今の所は……見えませんわ」

 

 

 

寄りかかるような体制になっているアズリウスに、周りを確認させる。もちろん、気づかない俺ではない。

敵はほぼ殲滅。しかし、まだ何処かにいるかもしれない。

警戒を解くな、そういった意味で問いかけた。

 

 

 

「ついさっきので本当に最後だったらしい。お疲れ様……助かったよ、2人とも」

 

「お前もお前で気を抜くな。本当に最後かどうかは分からないだろうが。遊園地のアトラクションに来てるんじゃねぇんだ……それに、今は俺やアズリウスだったから良かったが……お前が負傷したらそれこそ洒落にならねえ」

 

 

 

この能天気は、と少し思ってしまった。

本当に最後の言葉が信じられず、未だに警戒を続ける。

二度あることは三度ある。

そうしたら、今度こそ怪我では済まない。

アズリウスもそれは分かっているはずだ。

そして、奴も分かるはずだ。

 

 

 

「彼の言う通りですわ……帰還するまでは気を抜かない方が良ろしいかと」

 

「……確かにその通りだ。2度あるとも限らない……済まない、アズライル。最後まで警戒を解かずに行こう」

 

「分かればいい。同じことを言う面倒さが省ける」

 

 

 

また大きくため息をついて、銃を構え直す。

少しでもおかしな部分があれば、すぐに引き金を引ける体制に。下らない損害は少しでも減らす。

それが一番楽な道だ。

 

そう、警戒を解かないままで居ようと……

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……?」

 

 

 

体が少し強ばった。

 

 

 

いや、少しだけではない。

段々と、体の感覚が無くなっている。

変な感覚で、膝を付いてしまう。

立っていられなくなってくるくらいに力が入らない。

いや、違う。力が入っているかどうかさえ分からない。

 

 

 

「っ……傷か……?」

 

 

 

倒れる前に何処かに楽になれる体制はないか。

このまま倒れてしまうのは良くない。

恐ろしく動かない体を無理無理に動かして、何とか寄りかかれる場所で座り込む。

 

 

 

とても酷く目の前が歪む。

 

 

 

鉱石病が悪化したか?

この短期間でそれは無いだろう。

 

失血性ショックか?

傷を負ったとはいえ、そこまでの深手ではない。

 

 

 

ならば、何なのだろうか。

 

 

 

 

「アズライルさん……!?これは……」

 

 

 

……もしや。

嫌な予感が脳を巡る。

まさか、彼女がいる時に限ってこんな物を貰ってしまうとは。

 

 

 

「この症状、麻痺毒ですわ。無茶をしているのはどちらですか……早急に戻り解毒にかかります、その間に応急処置を……少々お待ちくださいまし……!」

 

 

 

毒。

身体を内から蝕む異物。

 

 

 

まさか、感染者の人権を訴えるだけだった団体がこんなものまで使うようになるとは。

あまりに滑稽だ。

何が権利だの人権だの。

お前たちがやっているのは殺しだろうに。

こんなものまで用意しているなら、言い逃れなどできない。

奴らはもう殺人集団だ。

 

 

だが、それを裁けるものもいない。

だからそれを止めるのが俺たちの役目だと言うのに。

そんな1人がこのザマでは、戯言もいいところだ。

 

 

 

微かに聞こえる、助けた者の焦りの声。

ああ、馬鹿だなと思ってしまう。

死ぬなと言っておいて、一喝までしておいてこの有様とは。

とても無様で笑えてしまう。

 

馬鹿らしい。

慌てふためく蛙の姿が見える。

……そんな急がなくてもいいのに。

慌てず確実に手を尽くして死んだのなら、別に誰も責めなどしない。そこまで焦らなくても別にいいと言うのに。

 

 

 

本当に、馬鹿らしい……

 

 

 

 

 




極遅投稿なのにこのクオリティ……
リアルが忙しかったんです……(言い訳)

結構駆け足だったかもしれない……
戦闘回は書くのが難しいですね。

次回は戦闘の後日談。
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