剣姫の弟の二つ名は【リトル・アイズ】   作:ぶたやま

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十二回目の投稿になります。よろしくお願いします。


第十一話

当然の話ではあるがダンジョン攻略に於いて、単独(ソロ)複数(パーティー)では、探索効率に天と地ほどの差が生まれる。

 

頭数が増えた分、単純に対処できるモンスターの数が増えるというのもあるが、360度どこから敵が出現するとも知れない中、周囲を警戒する眼が増えると言うのが、最も大きな点だろう。

 

「はあ……!」

 

ありふれた迷宮の通路。

その右手に出現したモンスターが、白髪の新米冒険者の手によって斬り裂かれた。

同時に彼は、凄まじい反応速度で左側に現れていた怪物にも斬りかかる。

 

―――瞬間、サポーターの声が響いた。

 

「また右から来ます……二体! 後方からも……!」

 

「……くっ!」

 

的確な状況説明だ。

しかしそれ故に、冒険者は一瞬身を固まらせた。

右と後ろ……どちらのモンスターを先に処理したらいいのか迷っている。

それが伝わってくる。

 

ここで、パーティーメンバーの少年が動いた。

 

「おたつくな。後ろは俺がやる」

 

「う、うん!」

 

彼の簡潔な指示で、少年の紅色の瞳から迷いが消える。

 

「はあああああ!」

 

気合の入った雄叫びと共に、新米の白兎は二体のモンスターを屠り去った。

 

 

: :

 

幾つかの戦闘を終え、ルームに辿り着いた一行(3人)は、小休止を取る事にした。

 

念入りに壁に傷をつけてから、冷たい地面に腰を下ろす。

一息つく中、パーティーの中心人物たる白髪の少年……ベル・クラネルが口を開いた。

 

「さっきはありがとう、リリ、マシロ。二人のお陰でなんとかなったよ」

 

その言葉に、彼と臨時パーティーを組んでいる冒険者、マシロ・ヴァレンシュタインはこれまでの戦闘を思い起こした。

 

今回は昨日より一つ深い階層に潜っている。

故に、モンスターのレベルはともかくとして出現頻度は増している印象だ。

 

対面の一対一ならば、最早ベル・クラネルが遅れを取る事はないだろう。

しかし、側面や背後からの複数体の強襲には、どうしたって反応が遅れる。

恐らく、単独(ソロ)ではまだ捌き切れない筈だ。

 

だから、ベルの感想は正しい。『二人のお陰』というのは、謙遜でもなんでもなく正にその通りだ。

しかし―――。

 

「そんな事はありません! リリに出来る事は所詮、遠巻きにモンスターの有無を伝える事だけ……モンスターを倒しているのは、ベル様の実力あってこそです!」

 

リリルカ・アーデ。

昨日ベルが契約を結んだらしいサポーターの犬人(シアン・スロープ)は、手放しに契約主を褒めちぎる。

まあ、契約相手にべんちゃらを使うのはおかしな話ではないが……。

 

「そ、そうかな……?」

 

言われた相手が真に受けてしまうのは問題だ。

新米であるベルには、圧倒的に経験が足りない。

他者から下される評価が適切か、持ち上げなのかの判断が出来ないのだ。

 

故に、頬を緩めるのも仕方のない事なのだが……もし彼女と二人きりでパーティーを組んでいたと思うとゾッとする。

 

そして次の瞬間、サポーターは何食わぬ顔でトンデモナイ提案をしてきた。

 

「どうです? 正直この階層のモンスターでは歯ごたえがありませんし……もう一つ下の階層に降りてみては?」

 

「え? も、もう一つ?」

 

唐突な進言に、流石にベルも困惑の声を漏らす。

当然だ。

石橋を叩いて渡るが通説のダンジョン攻略に於いて、このサポーターは全く真逆の事を言ってきているのだから……。

 

何より、冒険者(自分)がいるというのに、そんな舐めた提案……。

いったいどんな思惑での発言なのかと、マシロは少し、彼女の言い分を聞いてみる事にした。

 

「大丈夫です! 何人もの冒険者様のお手伝いをしてきたリリの目に間違いはありません。ベル様の実力なら、この下の階層でも通用します!」

 

「でも、この階層に来たのだって今日初めてだし……」

 

「実力に見合わない所でいつまでも足踏みをしている理由はないでしょう? それに、今回は【リトル・アイズ】様も同行してくれていますしね」

 

「え……?」

 

「ベル様もご存じの通り、【リトル・アイズ】様はLv.3。第二級冒険者です。本来なら、こんな上層域にいる方ではありません」

 

「う、うん……」

 

「リリとベル様だけなら確かに自殺行為ですが、彼がいる今なら一つと言わず、二つでも三つでも―――」

 

「ちょ、ま、待ってよリリ……!?」

 

どんどんヒートアップしていくリリルカの熱弁を、ベルは青い顔で遮った。

 

サポーターは一瞬目を見開きながらも、次の瞬間には混じりけのない笑顔に戻っている。

 

「すみません、ベル様。サポーターの分際で差し出がましい提案をしてしまいましたね……。勿論、決定権はリリには有りません。最終的な決断はベル様が」

 

淀みない口調でその様に言われ、ベル・クラネルは眉をハの字にして、マシロの顔を伺い見た。

まるで、か弱い子兎が意見を、助言を乞うかのように……。

 

―――まあ、流されなかっただけ上出来か……。

 

そう溜息を吐いて、マシロは助け舟を出した。

 

「下りたきゃ下りろ。但し、その場合はあのアドバイザーに報告させてもらう」

 

「ヒ……ッ!? こ、この階層にします!」

 

エイナ・チュールの折檻を想像したのか、ベルは短い悲鳴を挙げながら宣言する。

その宣言を受けても……自分の提案を否定されても尚、リリルカの顔一ミリもは歪まなかった。

本当に思惑が読めない。

いっそ不気味なくらいだが、マシロは飲まれまいと彼女に忠告する。

 

「おい、サポーター。今の内に言っておくぞ」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

人形の様に精緻な表情がマシロに向けられた。

相手に一切嫌悪感を与えないであろう完璧な笑顔。

リリルカ・アーデは、それをずっと張り付けている。

一部の隙もなく……まるで、感情を読み取らせないと言わんばかりに。

 

しかし無駄だと、マシロは内心で嘲った。

ずいぶん大層な役者ぶりだが、最初から疑ってかかった俺の勝ちだと……。

 

マシロは昨日、ギルドを出てベルと別れる直前……もっと正確に言うなら、ベルにまた一緒にダンジョンに潜って欲しいと打診される直前、『誰かの視線』を感じ取っていたのだ。

 

無論、『誰かの』と表現している以上、視線の主は分かっていない。

けれど、その種類は判別できた。

 

端的に言ってしまえば、あれは『ハイエナの視線』だ。

 

右も左も分からぬ新米を狩ろうとする猛禽類の匂い。

そんな視線が、ベルに注がれているのを感じ取ったからこそ、パーティー継続を承諾したのである。

 

だから、ベルからサポーターと契約を結んだと聞かされた時は、正直驚きを隠せなかった。

このタイミングで彼と接触してくるような人物を、とても白とは思えなかったからだ。

十中八九、あの視線の主か、その関係者だろう。

 

つまり、勝手知る先達冒険者との関りを仄めかしたというのに、それでも構わずアタックを仕掛けて来たという事だ。

どう考えても愚策。嵌める相手としては不適切な筈なのに……。

 

ハッキリ言ってマシロには、このリリルカ・アーデの内心が読み切れなかった。

しかし、信用してはいけないという事だけは確かだろう。

 

「当面、攻略進度の判断は俺が下す。お前の意見は不要だ」

 

「……」

 

リリルカの返答は無言。

しかし、反感を顕わにしている訳では無い。

一ミリも動かぬ微笑みを、そのままマシロに向けてきている。

 

「俺もいつまでもコイツとパーティーを組む訳じゃない。暫くこの階層で、最低限の状況判断能力を磨かせる」

 

「なるほどなるほど、分かりました。つまり、『冒険者様の腰ぎんちゃくであるサポーターの判断は、信用には値しない』という事ですね?」

 

「そうだ」

 

リリルカの解釈に即答してやる。

すると、即座にベルから非難を帯びた声が上がった。

 

「ま、マシロ!?」

 

しかし、それを無視して【リトル・アイズ】はサポーターをなじり続ける。

 

「お前は今日ダンジョンに潜る時も、進出階層を伸ばす様に提案していたな。それに関しては俺も了承したが、これ以上は未だ無理だ。見当外れな戯言を聞き入れて、コイツの命を危険に晒す訳にはいかない」

 

「ちょっと、マシロ……そんな言い方……!」

 

「いいんです、ベル様。お気になさらないで下さい」

 

「リリ……、でも……」

 

ベルを「どうどう」と制しながら、リリルカは悲しみを孕んだ……どこか諦めた様な微笑を湛えた。

まるで、冒険者からの不当な扱いは慣れているとでも言いたげな、悲し気な表情。

十二分に、相手に哀愁を感じさせる演出だ。

 

「実際に戦闘を行う冒険者様の嗅覚の方が何倍も正確です。所詮、リリ達の様なサポーターは、端で冒険者様たちの戦いを見ているだけ……。こそこそ安全圏でサポートに回っているから、万年Lv.1ですしね」

 

「リリ……」

 

ベル・クラネルは呟く。

その声音には多分に同情の色が含まれている。

そして、リリルカは、あざとくバッと頭を下げた。

 

「差し出がましい提案をしてしまって、本当に申し訳ありませんでした……!」

 

驚くベルを尻目に、サポーターは細い声音を奏で始める。

 

「リリは、役立たずのサポーターです。何人もの冒険者様を見てきたとは言いましたが、ここ最近は落ちこぼれの悪評が広まって全然契約が取れないのが、現状でした」

 

滔々と語り始めたリリルカは、やるせない告白内容と連動するように、ギュッと拳を握りしめた。

 

「だから、ベル様が雇ってくれて、とても嬉しかった。こんなリリを必要としてくれる人がまだいるんだって……。だから、少しでもランクアップのお助けをしたくて……理に適わぬ提案を……」

 

「そんな、リリが責任を感じる様な事じゃ……」

 

ベルがフォローの言葉を口にした瞬間、再びリリルカは頭を下げた。

タイミングを図ったかのように、何度も、何度も。

 

「すみません! 申し訳ありません! あろう事か、冒険者様を危険に晒そうとするなんて……!」

 

ボロボロと涙を流すサポーターに対して、ベルはあたふたするのみだった。

マシロも、流石に度肝を抜かれている。

十中八九、この悔恨の言葉は嘘だ。演技だ。

 

しかし、だとしたら途轍もない演技力である。

人はこんなにも自在に涙を流せるものなのだろうか……?

 

そして、そんな二人の間隙をついて、リリルカは涙で腫らした顔を上げた。

 

「リリはサポーター失格です。ベル様……もしベル様が、リリなど不要とおっしゃるなら……」

 

「そ、そんなことないよ……!」

 

「ベル様……?」

 

「だって、リリは僕の為を思って提案してくれたんでしょ? 僕も、リリみたいな親切なサポーターと契約出来て嬉しいよ。だから、これからも一緒に頑張っていこう」

 

「ベル様……!」

 

ガッと両手を握り合うベルとサポーターの姿を見て、マシロは困惑しつつ白けていた。

 

なんだ……この茶番は。

ロキ(神々)の言う所の、お涙頂戴展開は……。

 

そんな感想ばかりが頭に浮かぶ自分を、今回ばかりは嫌にはならなかった。

コレに関しては、流石に自身の狭隘ではないと思いたい。

頭痛を覚えながらそんな事を思っていると、不意に、リリルカのブラウンの瞳がマシロを射抜いた。

しおらしい、不安に満ち満ちた瞳だ。

 

「その……【リトル・アイズ】様……」

 

次の句を聞かなくとも分かる。

要は、このまま同行してもいいか、その許可に相当する言葉を引き出そうとしているのだ。

そして、現状、マシロには選択肢などないに等しい。

 

ベルは最早、このサポーターとの契約を切らないだろう。

ここでリリルカを拒めば、ベルの不信はマシロに向けられる。

そうなれば、今後、マシロを除いて二人でダンジョンに、という流れになりかねない。

 

それでは本末転倒だ。

 

「……余計な口は挟むなよ」

 

だから、そう、遠回しに了承を伝えるしかない。

数瞬後、予想通りにリリルカの表情が華やぎ始めた。

 

今しがたベルにした様に、無邪気な喜びを表現しようと、マシロの両手を取ろうとしてくる。

そして、少女の小人族のような小さな手が、マシロの手に触れようとした、その瞬間―――。

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

リリルカ・アーデは大仰に肩を震わせた。

そして、数秒の沈黙の後、慌てた様に両腕を引っ込める。

 

「あ?」

 

その行動を、マシロは不審に思った。

人畜無害のか弱いサポーターを演じる為には、あのまま手を取っておくべきだ。

どう考えても、ここで引っ込めるのは道理に合わない。

 

それは、リリルカ本人も重々承知しているのだろう。慌しく、苦しい言い訳を始めた。

 

「す、すみません! あまりに綺麗な手だったので、リリなんかが触ったら汚れちゃいますね! 直前で気づけて良かったです!」

 

「……」

 

当然、マシロの手は特別綺麗でも神聖でも何でもない。

ベルの手を取れておいて、マシロの手を取れない理由などない筈だ。

これは、100%単なる言い訳。

では、本当の理由は一体……。

 

これについては、幾ら考えても答えなど出なかった。

大凡の見当すら付けられない。

 

「さあ、そろそろ行きましょうか、お二人共!」

 

「あ、う、うん……!」

 

だから、小休止を切り上げて歩き出すベル達に、マシロは追従することしか出来なかった。

 

 

 

: :

 

 

リリルカ・アーデは胸中で、コレでもかという程に首を左右に振り回していた。

 

いち早く危険を察知する為に冒険者二人を先導しながら、動揺を悟られぬよう細心の注意を払って。

 

―――なんなんです……? 

 

―――なんなんですなんなんですなんなんですか、今の悪寒は(・・・・・)……!?

 

しかし、そんな事に神経を使っているが故、中々心の動揺を鎮める事ができなかった。

いつまで経っても、あの衝撃(・・・・)を、恐怖を、忘却することができない。

 

―――あれは殺気です……それも超特上の……! なんで、【リトル・アイズ】に触れようとした瞬間あんな……っ!

 

もし、あのまま彼の手を取っていたら、命はなかった。

冗談でもなく、誇張も抜きにして、首と胴が独立していた。その確信が何故だか持てる。

 

―――【リトル・アイズ】からではありません……。彼からはリリに対する猜疑心しか感じられない……。そもそも、触れたら殺す精神の異常者が、パーティーなんて組む訳がない……!

 

だとしたら、あの殺気の主は、第三者しかないとリリルカは結論付ける。

無論、ベル・クラネルからではない。

 

彼は、リリルカの事を信じ切っている。腹立たしい事に、同情心すらあるだろう。

第一、【リトル・アイズ】に誰かが触れて激昂する理由がない。

それに、仮に彼だったとしても、隣にいるのだ。

流石に気づく。

 

―――だとしたら……誰かに後を付けられている……? リリが気付けない程の尾行の腕を持つとなると、第一級クラスの……。

 

そこまで考えて、今度は最小限の動きで本物の首を振った。

 

―――あ、あり得ません……! 第一級冒険者が、こんなしょうもないパーティーを尾行する訳がない。彼の所属は【ロキ・ファミリア】。第一級の宝庫ですが、わざわざLv.3程度の冒険者の動向をチェックなんてしない……!

 

リリルカは、密かに【リトル・アイズ】に視線を送る。

銀の瞳に銀の髪。

金眼金髪の姉の片割れだと全力で主張しているカラーリングだ。

 

顔も【剣姫】の弟というだけあって、決して見れないものでは無い。

これで、女の子であったならもっと世間にもチヤホヤされていただろう。

 

けれど、彼は男。

無情にも、妹ではなく弟だ。

 

女の子なら『可愛らしい』で済む幼い容姿も、小人族の如き低身長も、男では武器になり得ない。只の貧相な餓鬼。そう見られて終わりである。

 

―――こんなガキンチョに、熱狂的な信者(ファン)がいるとも思えませんし……。

 

 

―――それこそ、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインくらいにならないと……。

 

―――………。

 

―――………………。

 

 

 

―――…………………アイズ・ヴァレンシュタイン?

 

 

 

その可能性(・・・・・)に考え至った瞬間、リルルカ・アーデは狂乱の渦中に落とされた。

 

全身の産毛が逆立ち、汗が噴き出す。

血液すら逆流してる様だ。

そうでなければ可笑しい程の負荷が、心臓にかかったのが分かる。

 

 

―――あり得ません、ありえません、ありえませんありえません!!

 

―――だって、だってそんな……! あとを付けているのが……あの殺気の主が【剣姫】だなんて、そんなの……恐ろしすぎます……! そんな理不尽、絶対にあっちゃいけません!

 

 

―――だって、そうでしょう? ありえない! リリの情報網を舐めないで下さい……! 【剣姫】と【リトル・アイズ】が不仲な事くらい知っています! 【剣姫】が弟に興味がない事くらい、サポーター界隈では常識なんです! 

 

 

―――そりゃ、最近は弟の存在すら知らない情報屋気取り(ボンクラ)も多いですが、リリをそんな輩と一緒だと思っているんですか!?

 

 

―――同僚(クズ)達は先日、街でヴァレンシュタイン姉弟がデートしているのを見たと言っていました! リリもです! リリだって目撃してます! でもリリは、ちゃんと最後まで見ているんです! 最後の最後、会計を弟に押し付けて走り去る姉の姿を!

 

 

―――鮮やかなまでの『上げてから落とす』でした! あんな極悪非道な迷惑行為、好きな相手にする訳がありません……! アイズ・ヴァレンシュタインは、マシロ・ヴァレンシュタインが大嫌いなんです! そりゃ、もうドン引きするくらいに!!

 

 

―――だ、だから……、ありえないんです。【リトル・アイズ】に触れようとしたリリに嫉妬して、リリに【剣姫】が殺意を覚えるなんて……。

 

―――そんな事は……絶対……。

 

 

「……リ…。リリ……?」

 

「……!?」

 

自身に声をかける声に、リリルカは驚いた。

それはもう、心臓が飛び出そうになる程に。

 

「べ、ベル様……?」

 

顔を上げると、ベル・クラネルが心配そうな表情を作っていた。

 

「大丈夫、リリ? さっきから、なんだか様子が変だけど」

 

「だ、大丈夫です。すみません、気を遣わせてしまって……」

 

笑顔を湛えながら、リリルカは振り返る。

こんな時でも、自分に優しい声をかけてくれる純朴な少年に、初めて心の底から笑顔を向けて、そして、目を開けた。

 

当然、その眼前はベル・クラネルを捉える。

そして、白兎の背後の風景も……。

 

彼の背後……と言っても、かなり後方に位置するが、とにかく、少年の背後には曲がり角があった。

それは、直角で身を隠すには丁度いい地形だ。

 

加えて、距離的にも尾行者が潜んでいておかしくない場所。

 

リリルカは、嫌々ながらその地点を凝視してしまう。

やめておけと本能はがなり立てていたが、眼を離せなかった。

 

安心したかったからだ―――。

 

あの如何にも誰かが身を隠していそうな曲がり角。

そこに誰もいないと知って、今までのくだらない妄想が杞憂であったと、そう確信を得たい。

 

だから、目を凝らした。

 

そして―――。

 

「―――!」

 

 

リリルカは、視て(・・)しまった。

 

彼女が眼にしたのは、微かになびく一本の金糸。

女神すら裸足で逃げ出す艶を、たったの一本で見せつけて来る綺麗すぎる金髪。

 

 

 

それは、かのアイズ・ヴァレンシュタインが持つ色と、全く同じ色味の髪の毛だった。

 

 

 

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