剣姫の弟の二つ名は【リトル・アイズ】   作:ぶたやま

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最新話です。時間かかった挙句、全然話進んでいませんが、宜しければどうぞ。


第十三話

「それじゃあ、ベル様、【リトル・アイズ】様。本日もありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!」

 

「うん。また明日」

 

茜色に染まるバベル。

 

それを背に快活に別れの挨拶を告げたサポーター(リリルカ)に、ベル・クラネルは笑顔で手を振った。

大きなバックパックを背負った小さな身体が、ダンジョン帰りの冒険者達の人混みに消えて行く。

 

その姿を最後まで見届けた後、ベルはぐぐーっと背筋を伸ばした。

 

気分が良い。

適度な疲労や達成感……それらを得られている証拠だろう。

進出階層を更新したというのに気疲れはあまり無く、寧ろ晴れ晴れとした気持ちで満たされている。

それもこれも全て、優秀なパーティーメンバーのお陰だというのが、白兎の見解だった。

 

サポーターであるリリルカ・アーデは、細やかな補佐でこちらの負担を軽減してくれるし、先輩冒険者マシロ・ヴァレンシュタインは、Lv.3の見識で今のベルに見合った戦場を用意してくれる。

正直どちらも、新米冒険者(自分)などには勿体ない存在だ。

 

そんな相手とパーティーを組めている幸運に感謝しつつ、ベル・クラネルは先輩冒険者に視線を向ける。

すると、彼は何やら、ジッとある一点を見つめている様だった。

 

「マシロ……?」

 

「……」

 

マシロ・ヴァレンシュタインは答えない。

無視……ではないだろう。

恐らく、話しかけられたこと自体に気づいていない……これは、そんな感じだ。

ここ最近共にダンジョンに潜っている影響か、ベルはほんの少しだけ、この気難しい冒険者の機微を読み取れるようになってきていた。

 

「マシロ、どうかした?」

 

「……あ、いや」

 

肩を叩くと、ようやく反応が返って来た。

 

振り向いた彼の顔はどこかバツが悪そうで……きっと、無視をした形になってしまった事を気にしているのだろう。

その様に解釈しつつ、ベルはマシロが見ていた雑踏に視線を移す。

 

「ずっと見てたけど、こっちに何かあるの?」

 

と同時に、先刻の光景が脳内にフラッシュバックした。

 

―――あれ? 確かこっちって、リリが帰って行った方角じゃ……。

 

「ベル……」

 

「ん?」

 

下から聞こえて来たマシロの声。

それに相槌を打つと、彼は目を背けたまま訊いてきた。

らしくない……まるで言葉を選ぶかのような、たどたどしい口調で―――。

 

「その、リリルカ・アーデについてだが……」

 

「う、うん」

 

「…………」

 

黙って言葉の続きを待つが、そこで彼の肉声は途絶えた。

それほど言い辛い事なのだろうか……?

ダンジョンで、リリや自分にズバズバ意見する時とはえらい違いだ。とても同一人物とは思えない。

故に、一体何を告げられるんだと、ベルは身構えていたのだが……。

 

「…………いや、なんでもない」

 

「へ?」

 

あれだけ引っ張っておいて、彼の口からは飛び出たのは取り止めの台詞だった。

 

―――本当にらしくない。

こんな煮え切らない態度を他の者が取ったら、真っ先に文句を言うのは自分(マシロ)だろうに……。

 

そんな事を思っていると、先輩冒険者は『これ以上掘り返されたくない』とでもいう様に、そそくさと歩き出してしまった。

 

「あ、待ってよ、マシロ!」

 

ベルは慌てて追いかける。

横に並ぶと、マシロは明らかに歩調を落とした。

追及はされたくないが、一緒に帰る意思はあるらしい。

 

なんと言うか……今の彼からは、本当にチグハグな印象を受ける。いっそ、調子でも悪いのかと心配になる程だ。

 

―――どうしたんだろう、マシロ……。

 

そう気を揉んでいると―――。

 

 

「おーい、ベルく~ん!」

 

遠方から、元気いっぱいな声が聞こえて来た。

耳触りの良い、聞く者の心を温める声色……。

ベルにとって、それは安寧の象徴で―――胸のモヤモヤなど一瞬で霧散し、声の主を探してしまう。

そして、探し人は直ぐに見つかった。

きめ細やかな黒髪を持ったツインテールの少女が、たわわな双丘を揺らしながら此方に走って来ていたのだ。

周囲の視線など気にも留めずブンブン手を振り回しているこの少女は、ベルの主神だった。

 

「神様!」

 

「とうっ!」

 

可愛いらしい掛け声と共に跳躍する女神。

彼女の携えるマシュマロのように柔らかい二つの果実が、ベルの顔面にめり込んだ。

万人が喜ぶだろう猛烈なハグ……それを受け止めた眷属は、真っ赤な顔で主神・ヘスティアを引き剥がしつつ尋ねる。

 

「ど、どうしたんですか、神様? バイトは?」

 

「いま終わった所さ! たまたま君を見つけてね!」

 

嬉しくなって抱きついてしまったのさ!

そう、天真爛漫にはにかむ慈愛の女神は、飛び跳ねるような所作で我が子の顔を覗き込む。

 

「キミもダンジョン帰りだろう? 一緒に帰ろうじゃないか。というか、たまにはご飯食べに行かないかい? 実は今日、ボーナスが出てねぇ」

 

「え、ホントですか!?」

 

どやぁっと、パンパンに膨らんだ金子袋を見せつけてくる主神()に、ベルも顔を輝かせる。だが、それは一瞬で、直ぐに眉毛が垂れ下がった。

 

「で、でも、悪いですよ。神様……僕の為にナイフを用意して下さったばかりですし……」

 

「ボーナスは別腹! というか、たまにはガス抜きしないとボクの身体が持たないぜ! いや、ホントにそろそろ限界なんで付き合って下さいおねがいします……」

 

「えっと、はい、そういう事なら……」

 

キラキラ親指を突き出したかと思えば光の速さで萎れていったヘスティアに、ベルは冷や汗を流しながら了承する。

このボーナス分も自分が稼ぎ直して帳消しにしなければ……と、密かに気合を入れ直したタイミングで、彼は先輩冒険者の存在を思い出した。

 

不機嫌になっているだろうマシロの顔を想像し、ベルは慌てて振り返る。

すると意外な事に、視界に入った彼は決して嫌な顔はしていなかった。

しかし、少しの時間放置してしまったのも、紛れもない事実な訳で……。

これ以上、彼の時間を奪う訳にもいかないので、ベルは早々に断りを入れる事にした。

 

「ごめん、マシロ。そういう訳だから今日はここで……」

 

「あれ? キミはいつぞやの……」

 

すると、主神がツインテールを揺らしながら反応を示す。

意外に思ってベルは尋ねた。

 

「神様、マシロのこと知ってるんですか?」

 

「ちょっとね!」

 

大きく頷いたヘスティアは、膝を曲げてマシロと視線を合わせる。

そして、花のような笑顔を咲かせながら、彼の小さな肩をポンポン叩いた。

 

「やあやあ、久しぶりだね、マシロ君! 元気してたかい?」

 

「……相変わらず声のデカい神だ」

 

対して、マシロは鬱陶しそうに女神の美しい右手を振り払った。

ある意味でいつも通りの反応に、ベルはついつい安堵感を覚えてしまう。

 

「相変わらずデレがないねぇ、キミは」

 

邪険に扱われた主神自身も、不愉快な顔など一切見せなかった。

実際、気にしていないのだろう。自分の神様が大海の様に広い心を持っている事を、眷属であるベルは知っている。

 

「まあ、いいさ。ベル君の影で見えなかったけど、ずっとそこで話は聞いていたんだろう? どうだい、キミも一緒に―――」

 

「結構だ」

 

慈愛の化身の提案は、夕餉のお誘いだった。

しかし、大多数の者が嬉々として付いて行くだろうそれを、マシロはにべもなく一蹴してしまう。

が、それでもヘスティアは、寧ろ楽しそうに表情を綻ばせた。

 

「早いねぇ。もし夕食の誘いじゃなかったらどうするつもりだったんだい? キミ、そういう勘違いすごく恥ずかしがるタイプだろう?」

 

「……」

 

無言のマシロに、女神はクスリと笑う。

 

「なんなら、お姉さんを連れて来てもいいんだぜ? どうせ、キミが誘えば秒で飛んでくるだろう?」

 

「……!」

 

主神が放ったその何気ない一言。

瞬間……マシロの瞳が揺れたのを、ベルは見逃さなかった。

しかし、両目を瞑っていたヘスティアは、相手の些細な異変に気付かない。

 

「あの子とベル君と同席させるのはちょっと嫌だけど、キミがいればキミの方に……」

 

「……失礼する」

 

「行くだろうし……って、あれ? マシロくーん?」

 

当然……というべきなのだろう。

マシロは身を翻し、黙々と帰路についてしまった。

慌てた様子の女神の声は、完全に無視。いっそ清々しい程の速度で彼我の距離が離れていく……。

困惑するヘスティアに、ベルはそっと耳打ちをした。

 

「その……彼、お姉さんと喧嘩中みたいで……」

 

その表現が適切なのかは分からなかったが、まあこの場で端的に説明する分には問題ないだろう。

すると、女神は姉とも面識があったらしく、眼をひん剥いて口をあんぐりとさせた。

 

「なんだって⁉ ま、まさか、あのド天然……遂にベタベタし過ぎて嫌われやがったかぁ……⁉」

 

「か、神様……?」

 

「あ、ああ、なんでもないよ、ベル君! じゃあ、気を取り直してご飯を食べに行こうじゃないか!」

 

一瞬不穏な空気を纏った主神だったが、声をかけると直ぐに笑顔を取り戻す。

そして、ベルの手を取ってスキップ混じりで歩き出すのだった。

 

 

 

 

:  :

 

 

 

 

時は、ベルとマシロが、リリルカ・アーデと別れた地点まで遡る―――。

 

今日も今日とて、弟の尾行を続けていたアイズ・ヴァレンシュタイン()は、犬人(シアン・スロープ)の少女が帰っていく姿に、ホッと胸を撫でおろしていた。

 

「うん、今日も……大丈夫」

 

彼女は、噛み締めるように呟きを零す。

か細い肉声は容易く雑踏に掻き消されてしまったが、漸く訪れた安寧の時に【剣姫】が心を寄りかからせたのは事実だった。

 

しかし、直ぐに気を引き締め直す。

今日は乗り越えたが、まだ明日もあるのだ。

それどころか……明後日も、明々後日も。

ベル・クラネルがリリルカ・アーデとの契約を切らない限り、この心臓に悪い時間はずっと継続する。

 

いったい何が、そこまでアイズの心を揺さぶらせるのかと問われれば、それは一昨日のリリルカの行動が原因だと言う他ない。

マシロの手を取ろうとした少女の、あの満面の笑みを見た瞬間……姉は確信してしまったのである。

 

 

たぶん、あの子はマシロ()のことが好きなのだ、と……。

 

 

故に、アイズはリリルカを警戒するのだ。

男の子は、小さな女の子を好ましく思う傾向があると聞いたことがある。

マシロがどんな異性を好んでいるのかは分からないが、一般的な観点で考えるなら、あの小柄な少女はそうとうアウトゾーンだと言えるだろう。

 

もし恋人なんかができてしまったら、ますます自分とは話してくれなくなる……。

というか、眼中にも入らないだろう。

今だって入っていないのに……。

 

だから、絶対に認めない。

そもそも、あの子に恋愛なんてまだ早い。

まだまだ、お姉ちゃんに甘えていて良い年頃の筈なのだ。

 

だというのに、どうして私の手から奪い去ろうとする……?

そんなことは許されない。

渡さない。

ぜったい渡してなるものか……。

 

というのが、アイズが募らせている感情だった。

 

酷くドス黒い嫉妬心。

それが胸中で渦を巻き、彼女の意識を蝕んでいく。

 

それだから、気づけなかったのだ。

自身に一直線に猛進してくる、無遠慮極まりない足音に―――。

 

「アーイズ!」

 

「わっ」

 

強めの衝撃を、背中に感じた。

同時に、褐色の細腕が首元に回され良い香りが漂ってくる。

その声と匂いに覚えがあって、アイズは瞬時に、誰が抱きついてきたのかを理解した。

 

「ティオナ……?」

 

振り返りざまに言い当てる。

すると、ティオナ・ヒリュテ……健康的な褐色の肢体を持ったアマゾネスの少女は、頬擦りをしたのち飛びのいた。

そして、人好きのする笑を浮かべながら訊いてくる。

 

「ダンジョン帰り? 中で会わなかったねぇ、どの辺潜ってたのー?」

 

「えーっと……」

 

流石に、上層とは答えづらく言い淀んでしまった。

すると、今度は別の少女の声が耳朶を叩く。

 

「コラ、馬鹿ティオナ。いきなり飛び出したら危ないでしょ?」

 

「えー?」

 

自身に寄せられた文句に、天真爛漫な少女はプクーっと頬を膨らませた。

そんなティオナと共に振り返ると、呆れ顔で近づいてきている瑞々しい褐色肌の少女が目に入る。

 

ティオネ・ヒリュテ。

ティオナの双子の姉であり、妹とは違って豊満なボディーを持つアマゾネスだ。

彼女は、申し訳なさそうに耳打ちしてくる。

 

「ごめんなさいね。この馬鹿、アイズを見つけた途端に一目散に走り出しちゃって……」

 

「いいじゃん、別に。あ、そだ、アイズ? 私達これからご飯食べに行くんだけど、一緒に行かない?」

 

「え、うん……と」

 

アイズは一瞬動揺する。

いつもなら二つ返事で了承する提案だが、今は絶望的なまでに間が悪い。

よもや弟の尾行中に誘われるとは。

でも……。

 

「だめぇ?」

 

こんなふうに、悲しそうな上目遣いをされてしまっては、とてもじゃないが断れない。

ティオナとティオネは友人なのだ。

親友と言っても言い過ぎではないかも知れない。

 

それくらい彼女らには良くして貰っているし、アイズ自身も好ましく思っている。

何もこの誘いを断ったぐらいで、彼女達との絆にヒビが入るとは思わないが……。

 

……もう脅威(リリルカ)は去ったのだ。

 

もうしばらくベル・クラネルと歩いた後、弟はホームに帰る筈。

だから、これ以上尾行する必要はない。

そんな状況で、ティオナの誘いを断る理由などある訳がないのだ。

 

その様に折り合いをつけて、アイズは小さく頷いた。

 

「ううん。私も一緒に行きたい……な」

 

 

 

 

:  :

 

 

 

 

本拠地に帰還した【剣姫】の弟、マシロ・ヴァレンシュタインは、大浴の脱衣所で服を脱いでいた。

 

洗い流すべき汗や肉体疲労があった訳ではない。

削ぎ落してしまいたかったのは精神疲労だ。

 

マシロにそれを与えたのは、彼が今臨時パーティーを組んでいるメンバーの一人……。

無論、リリルカ・アーデという名のサポーターだ。

 

マシロは脱衣所がガラガラなのを良い事に、服を籠に放り込みながら思考の波にのまれる。

 

ベル・クラネル……もう一人のパーティーメンバーの持っていたあの黒いナイフ。

神聖文字(ヒエログリフ)】の刻まれたソレは、考えるまでもなく高価な代物だろう。

恐らく、リリルカはこれから、あのナイフを盗み出す為に全力を尽くす筈だ。

 

本来なら、Lv.1のサポーターの挙動を見逃すなど有り得ない。

故に、そこまで気を張る事態でもないのだが……奴は上級冒険者(自分)とのツテがあると知った上で、ベルに近づいてきている。

つまり、何か此方の想定し得ない理外の作戦があるのかも知れない。

 

ベルにこの事を打ち明けるのが一番だが、彼は既にリリルカ・アーデの事を信じ切っている。

奴がナイフを狙っている証拠のない現状では、話した所で無駄だろう。

下手を打てば、ベルの心証を悪くするのみで、奴の動きやすい状況を作ってしまう可能性だってある。

 

「……チッ」

 

マシロは舌打ちを漏らした。

完全に、あの犬人(シアンスロープ)に翻弄されてしまっている。

その事実を忌々しく思いつつ、洗い場への戸を引くと―――。

 

「やあ、奇遇だね。君もお風呂かい?」

 

悩みとは無縁そうな、朗々とした声音に背中を叩かれた。

その声を、マシロは知っていた。

いや、ホーム内なのだから当然ではあるのだが、【ロキ・ファミリア】程の大所帯にもなると、特段会話の機会のない団員達も往々にして存在する。

だが、彼の事は全団員が知っているだろう。

振り返ると、そこには予想した通りの人物がいた。

 

マシロより低い背丈に、姉とはまた違った系統の金髪。

子供然とした容姿には似合わぬ叡智を感じさせる瞳。

 

 

【ロキ・ファミリア】の頭目、フィン・ディムナがそこにはいた。

腰にタオルを巻きつけた上裸の姿で……。

 

 




お読み頂きましてありがとうございました。
前書きにも書きましたが、全然話が進んでおりません。単調なお話にお付き合いありがとうございました。

最初の予定では『豊穣の女主人』でのベル君とヘスティア様の会話をアイズさんに盗み聞きさせて、何なら理由つけてティオナあたりに乱入させようとか思ってたんですが、「絶対文字数とんでもない事になるな……」と思って一旦切り上げてしまいました。

次話では、魔法覚えたベル君にマシロが驚愕すると思いますのでよろしくお願い致します。
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