例にもれず進んでいませんが、よろしくお願いします。
また前回の投稿時、謎のビックバンが起きましてお気に入り数がメチャクチャ増えました。
すごく嬉しかったです!
遅れましたが、皆様どうもありがとうございました!
「……なんの用だ。フィン」
ちゃぷちゃぷと揺れる湯船の音を聴きながら、マシロ・ヴァレンシュタインは問いかけた。
対して、苦笑と微笑を織り交ぜながら悠然と答えるのは、齢40を超える妙齢の
「なんだい藪から棒に? 僕は単に、君とお風呂に入っているだけじゃないか」
手元のお湯を弄りながら、ぴゅーぴゅーと水鉄砲を飛ばし始める【
彼らしくない子供じみた行動だ。
完全にけむに巻く構えの団長に苛立ちつつ、【リトル・アイズ】は追及を続ける。
「はぐらかすな。用がないなら、なんでピッタリくっついてくる?」
「テンションが上がっているんだよ。なにせ可愛い末っ子との、久しぶりのお風呂だからね」
「………俺は、お前の息子でも弟でもねぇよ」
「そうだね。君はアイズの弟だ」
マシロはここで口を閉じた。
流石に舌戦では敵わない。
いや、それ以外でも勝てる要素など背丈以外ないのだが……とにかく、こうなってしまっては向こうから切り出してくるのを待つしかないだろう。
その思考が通じたのか、それとも読んだのか……フィンは都合よく小振りな口を動かし始めた。
「アイズとは、最近どうだい?」
「……」
「折角この前一緒に出掛けたというのに、それ以降音沙汰がないじゃないか」
沈黙を返したというのに、この団長はズケズケと踏み込んでくる。
ファミリアの頭脳たる彼が『話したくないオーラ』を察せないわけがない。つまりは、わざと敷居をまたいでいるのだ。
その様は、まるで無遠慮な父親のようで、マシロは苦々しく思いながら吐き捨てた。
「音沙汰ないならそれが全てだろう。そもそも、あれだけで俺達の不仲が解消される訳がねぇ」
「不仲か……どうしてそう思うんだい?」
「は?」
その問いかけに、マシロは思わずフィンの顔を凝視してしまった。まさか、『不仲』であること自体に疑問を投げかけられるとは思っていなかったからである。
オラリオ随一のモテ男。
その整った微笑と美しい碧眼からは、なんの心情も読み取れない。
「君達はお互いを嫌い合っている訳ではないだろう? ただ、会話がないだけだ。それで不仲というなら、この世の大半の人間が不仲になってしまうんじゃないかい?」
フィンは話術の天才だ。
柔和な声色は万人の心に入り込み、詐欺師顔負けの口八丁で容易くその気にさせてしまう。
けれど……今回ばかりは違った。それは詭弁だと、そう、マシロは思ってしまった。
「姉弟と赤の他人を同じ尺度で考えるなよ……。少なくとも、どちらかが嫌ってなけりゃ、こんな状態にはなってねぇだろ」
「確かにそうだね。なら、マシロ……君はアイズが嫌いかい?」
「…………………」
出し抜けに放たれたその質問……。
マシロは何も答えられなかった。
長い長い沈降に対し、団長は静かに口を開く。
「それとも、憎いかい?」
「……ちがう」
なんとかその言葉を捻り出した。
だが、【
「嫌いで嫌いで不幸になれば良いと思っている? もしかして、オラリオ一の剣士として名声を得ている姉に嫉妬していたり……? もしくは……」
「やめろ……」
「姉弟の縁さえ切りたいと―――」
「やめろッッ!!」
マシロは絶叫した。
風呂場だというのに。
情けない叫び声が脱衣所の外まで届くと分かっていながら……それでも、彼は続く言葉を聞きたくなかった。
「やめてくれ……たのむ……から」
浴室に響いた自身の声に我に返り、【リトル・アイズ】は弱々しく懇願する。
そして、その直後フィンの気配が一層近くなった。
同時に「ふう」という息遣いと、頭部に掌の暖かな感触が……。
「すまなかったね。ちょっと意地悪が過ぎた」
気遣わし気な手付きで、フィンが頭を撫でてくる。
落ち着かせる様に、何度も何度も。
「やめろ……うっとうしい」
それが嫌で、手を弾いた。
それでも、団長は笑っていたが……。
「ははは。でも、今の様子だと別にアイズが嫌いな訳じゃなさそうだね」
「………………どうだかな」
マシロはそっぽを向きながら吐き捨てた。
正直な所、自分でもよく分からないのだ。
当然、先日の
けれど、それ以外に負の感情を抱いていないのもまた事実だった。
そして、その憤慨さえ日を跨ぐごとに霧のように薄れていく。
代わりに胸を蹂躙するのは、どういう訳か『焦燥感』に近い感情で……。
「マシロ、アイズは君を嫌っていない。と言ったら信じるかい?」
頓狂な主張に顔を上げる。
荒唐無稽な言葉を吐き出したフィンの表情は、真剣そのものだった。彼にしては珍しく大きく読み違えているようだ。
「……信じねぇな。それだけは有り得ない。
「どうして? アイズは実際、君と遊びに行ったじゃないか」
「……」
【
『嫌いな相手とわざわざ遊びに出かける訳がないだろう』と。
確かに、そうだ。
それが道理だ。
フィンがそう考えるのも無理はない。
けれど、違うのだ。
その一般論こそが落とし穴……。
しかし、『豊穣の女主人』の一幕を知らない彼はその事に気付けない。
だから、涼しい顔で見当違いの推論を語っていられるのだ。
「確かに、アイズは君と口をきかなくなった。でも、それすら何か理由があるとしたら?」
「理由……」
そんなもの『嫌いになったから』に決まっている。
実に単純明快な答えだ。
それに足るだけの
だと言うのに、フィンは頷きながら朗々と語り続けた。
「それをこの場で僕が告げるのはやめておくけれど……近い内に、本人の口から知らされる筈さ」
「……なんだそれ」
「それを聞けば、君も―――」
話の途中だったが、マシロは勢いよく立ち上がった。
これ以上話を聞いても仕方ないと思ったからだ。
ザバァンという音に言葉を遮られたフィンは、溜息をつきながら言ってくる。
「マシロ……もう少し付き合って欲しいんだけど……」
「断る」
当然そのように返事をして、マシロは歩き出した。
ジャバジャバジャバと、抵抗凄まじい湯船を両足でかき分ける。
フィンは知らない。
あの日の夜……自分がアイズに何を言ったのかを……。
知らないから軽く考えているのだ。……ヴァレンシュタイン姉弟の軋轢を―――。
「いいや、今回だけは付き合って貰う」
「なっ」
しかし、隙を付いて、フィンは組みついて来た。
ガッツリと肩を掴まれたマシロは抵抗するも、Lv.6の力に抗える訳もなく、バランスを崩して湯船の中で尻餅をついてしまう。
そして、当然ながら自然な成り行きとして、フィンが身体の上に圧し掛かるような形となった。
「フィン……、テメェ……ッ」
「本当にすまない。けれどこれは、君達の重大な話だ」
「何を……」
言っていやがる……ッ!
そう、叫ぼうとした瞬間だった。
勢いよく、浴室の戸が開け放たれたのは―――。
「……!」
突如鳴り響いた開閉音に、マシロとフィンは弾かれた様に扉の方を見る。
入室して来たのは、灰色の毛並みを引っ提げた大柄の
「たく疲れたぜ。たまにゃあ早風呂も……て、何してやがるフィン、てめぇ!?」
そんな呟きを零すベート・ローガは、此方の状況を認めると、ギョッと目を見開いた。
当然の反応である。
何故なら、今……彼の目に飛び込んでいる光景は―――。
「ち、違うんだ、ベート! 誤解だ! これは―――」
そして、これまた面白い程にフィンが狼狽え始めた。
いつもは頭脳明晰な彼だが、今しがたの言い訳からは普段の知性など微塵も感じられない。
そして、慌てふためく団長の隙を付いて、マシロは湯船から脱出した。
「あっ、待つんだマシロ!」
フィンの声は当然無視。
脱衣所へ向かって、一直線に駆ける。
「そうだ、そのままこっち来い! てかお前、フィンにいったい何され……て?」
その様に叫びながら手招きしてくるベートの横を、マシロは無言で通り過ぎた。
そして、身体を拭くのもそこそこに、手早く着替えて出て行く。
「な、なんだぁ……?」
無人となった脱衣所を唖然と見つめるベートの横に、フィンは無音で近寄った。
そして、「こほん」と咳払いをした後、切り出す。
「べ、ベート……説明しても信じてくれなさそうな匂いがプンプンするから、せめて穏便に……」
「うるせぇ、ヘンタイ団長。言い訳ならババアにでもしてろ」
「ぐ……ッ⁉」
: :
『豊穣の女主人』に訪れたベルとヘスティアは、さっそくテーブル席に通されていた。
お冷を持ってきてくれたエルフの店員、リュー・リオンに注文を伝え終えると、ヘスティアは改めて店内を見渡し始める。
「なかなか良い雰囲気じゃないか。あのエルフ君もちょっぴり不愛想だけど、接客は丁寧だし」
「はは、そうですね」
ベルは乾いた笑みを返した。
不愛想という表現には積極的に同意したくないものの、丁寧な接客という点では疑問を差し込む余地がない。
故に、そんなどっちつかずの反応になったのだが、ここで主神の瞳が若干鋭くなった。
「でも、ちょっと店員の子達が可愛いすぎるんじゃないかい? 誰かお目当ての
「ま、まさか! とんでもないですって!」
ズイッと顔を寄せてくるヘスティアに、ベルは赤面しながら首を振った。
『確かに、ここの皆さんは美人ですけど、僕なんか相手にされませんよ!』という主張を、全力で両手首の動きに込める。
が、そんな不断の努力も虚しく、あっけなく横から刺される事となった。
「あ、来てたのかニャ、白髪頭。でも残念、シルは休みニャ~」
「アーニャさん⁉」
突如として爆弾を投下してきたアーニャ・フローメルは、どうやら他のテーブルに料理を運んでいる最中らしい。
『シル』という名と、『彼女が休みで残念』という情報だけを残して、無責任にもさっさと通り過ぎてしまった。
当然、女神から放たれる圧力は重く濃いモノに変化する。
「おーい、ベルくーん。
「えっと、シルさんはここの店員さんで……」
「そんな分かり切ってる事を訊いてるんじゃなぁい!」
うがぁっと、飛びかかろうとしてくるヘスティア。
を……遮るかのように、タイミングよく料理が運ばれてきた。
立ち昇る湯気が物理的に二人の間を蹂躙し、香ばしい匂いが強引に怒気を霧散させる。
「どうぞ」
「……」
コト……。
小気味良い音と共に、
ヘスティアは露骨に『何か言いたげな視線』を送ったが、どこまでも澄まし顔の妖精に結局は毒気を抜かれる結果となった。
その隙を見逃さず、ベルは大仰に柏手を鳴らす。
「わ、わあ、おいしそうですね! じゃ、じゃあ、いただきましょうか、神様⁉」
「…………」
「は、ははは……」
眷属の苦笑いに、主神は大きなため息を漏らした。
「まあいいか。うん、いただきます」
「は、はい!」
許しを得た。
ベルはここぞとばかりに箸を持って、ぶり返されない様に別の話題を提供する。
それは、自分とヘスティア……双方と面識のある人物についての話題だった。
「そ、そういえば神様……、マシロとはいつ知り合ったんですか?」
「ん? ああ、ちょっと前にね」
溶けたバターが滴る肉厚のステーキに齧り付きながら、ヘスティアは当時のことを懐かしむ様に話し始める。
「ジャガ丸くんの材料を運ぶのを手伝ってくれたんだよ。材料を乗せた荷車が重くて重くて『もうダメだ~』ってなった時に、『いつまでも目の前でヒーヒーやられたら目障りだ』とか言ってさ」
「ああ、目に浮かびますね。その言い方」
「だろう? もうちょっとデレてくれれば可愛げもあるんだけどねー」
「あははは」
すっかり弛緩した空気の中ひとしきり笑うと、今度はヘスティアの方が聞いてきた。
「というか、ボクだって驚いたぜ? あの子、ヴァレン何某君の弟ってことは【ロキ・ファミリア】の所属だろう? 言っちゃ悪いけど、ド新人のベル君がよく知り合えたねぇ」
「い、色々ありまして……」
詳しくあらましを説明するとなると『アイズ・ヴァレンシュタインとの特訓』の事も話さなければならなくなるので、ベルは言葉を濁す。
そして、追及される前に、彼は気になる事を主神に尋ねた。
「あの、神様……マシロの事でちょっと気になる事があるんですけど」
「……ん、なんだい?」
真剣さが伝わったのだろう。
ヘスティアは何も聞かずに佇まいを直して、聞く体勢を整えてくれた。
そんな主神を頼もしく思いつつ、ベルは今日の別れ際……マシロ・ヴァレンシュタインに対して感じた違和感を告げる。
「……という事なんですけど、何か分かりますか?」
一通り説明し、その様に締めくくると、ヘスティアは「うんうん」と数回頷いた後、断言した。
「なんだ、そんな事か。そんなの一つしかないじゃないか」
「え?」
主人が余りにもあっさり言うものだから、ベルは思わず目を丸くする。
「確認するけど、マシロ君は
「は、はい」
「で、キミが声をかけてもしばらく気付かずに、その後も歯切れの悪い様子だったと」
「そ、そうなんです」
コクコクと頷くと、彼女の笑みは殊更に深まった。孤を描いた艶々の唇は、本来なら扇情的な気持ちしてくる筈なのに、その微笑みが余りにも露骨なせいで、まるでマスコットキャラの笑顔を見ているかの様だった。
自身の眷属にそんな感想を抱かれている女神は、興奮しているのか特に大きな声で自身の考えを口にする。
「恋だよ恋! マシロ君は、その
自信満々に親指を立てる主神。
だが、ベルは理解が追い付かなかった。
半ばショートした思考は、店内に突如発生した『バンッッ‼‼』という爆音によって引き戻される事となる。
酒屋である以上、酔った客が何処かにぶつかったのだろうと考えつつ、ベルは、驚くヘスティアに自身の考えを伝えた。
「で、でも、マシロって、その……結構、リリ……サポーターの子に辛辣で……」
「ベル君? ベル君は分からないかも知れないけど、男の子っていうのは、好きな女の子にイジワルしちゃうものなんだよ」
その回答は、ベルには全く理解できないモノだった。
「え? 好きなのに意地悪するんですか? どうして……?」
「照れくさいのさ。気を引きたくてちょっかいを出しちゃう。誰も彼も、キミみたいに素直な子って訳じゃないからね」
そう言いつつ、ヘスティアは慈しむ様に目を細める。
「逆にキミは、マシロ君が好きな子相手に、素直に好意を示せると思うのかい?」
「そ、それは……確かに……」
気が付けば、ベルは言い負かされていた。
確かに、考えれば考える程、マシロが素直になる絵が浮かばない。
しかし、そうなると……。
「僕……どうしたら良いんでしょう? 応援はしてあげたいですけど、マシロは嫌がるでしょうし……」
「うーん、そうだねぇ……」
ヘスティアが唸る。
彼女からの啓示を黙って待っていた―――その時だ。
「ねぇねぇ、さっきから『マシロマシロ』って言ってるけど、もしかして弟くんの話し~?」
「わっ⁉ い、いきなりなんだい、キミ⁉」
突如として乱入してきた明るい声に、炉の女神は肩と胸を揺らしながら振り返った。
そして、彼女とベルの視界に、褐色の肌を持った黒髪の少女が飛び込んでくる。
整っているが、美しいと言うよりは可愛らしいという表現が適切であろうそのアマゾネスは、ヘスティアの驚愕に対し口を尖らせた。
「だって~、弟くんの事話してるっぽかったんだも~ん」
「お、弟くんって……」
脈絡と主語のかけた主張に困惑していると、乱入者の少女に注意の声が飛んでくる。
「コラ、ティオナ! 何勝手に他のテーブルに突撃してるのよ⁉」
そして、ティオナというらしいこの少女を諫める為だろう。彼女の連れと思しき女性が二人、近寄って来た。
そのどちらもが、乱入して来た少女に負けず劣らずの美貌を持った『アマゾネス』と『ヒューマン』で―――。
「あ」
ヒューマンの方は、ベルの知る人物だった。
金の瞳に金の長髪。
女神さえ裸足で逃げ出す人形然とした美しさを誇る第一級冒険者……そして、マシロ・ヴァレンシュタインの実姉。
【
お読みいただきましてありがとうございました。
次話もよろしくおねがいします。
ちょっとしたオマケ(各キャラのマシロに対する好感度)です↓
・フィン→8
(40歳越えのナイスガイ+団長って立場なので、基本団員にはこのくらいの好感度あります)
・ヘスティア→7
(神々は余程のことしてない限り、子供達への好感度は一律で『7』です。自分の眷属には『8』以上。言うまでもありませんが、ヘスティア様のベル君に対する好感度は『10』です)
・ティオナ→6.5
(昔は『7』ありましたが、最近は口が悪いので下降気味。ベートさんの影響でグレてしまったと思っているようです)
・ティオネ→6
(同じファミリアなんだからこのくらいは最低でもあるよねって感じの数値です。特別親しくはありませんが、アイズさんの弟なのでちょっとは気にかけてます。あと、アイズさんの気持ちも薄々察しているようです)
・ベート→6.5
(アイズさんの弟という事以外は基本的に路傍の石程度の認識でしたが、今回の件で若干同情票が入りました。元は『6』。因みにマシロからの好感度は『7』あります)