剣姫の弟の二つ名は【リトル・アイズ】   作:ぶたやま

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番外編になります。序章なので短いですが、よろしくお願いします。


番外編
番外編 第一話


 

 

 …………頭がおかしくなりそうだった。

 

「お兄ちゃ~ん」

 

 脳が溶けそうなほどの甘ったるい声で、馬鹿みたいにニコニコしながら、金髪の少女が腕に擦り付いてくる。彼女は記憶の中にある『姉』と、よく似ていた。

 

「えへへへ~」

 

 だから、この少女が『姉』と同一人物な筈がない。幾ら同じと言っても、それはあくまで『過去の姉』との話。『現在の姉』は、こんな子供でもなければ、だらしないニヤケ顔を晒す事はない。勿論、自分()に擦り寄って来たりもしないのだ。

 

 しかし、朱色髪の主神が言うには、彼女は『アイズ・ヴァレンシュタイン』で間違いないらしい。

 

 それどころか………。

 

 記憶よりどこか頼りない印象を受ける、やじ馬根性丸出しで集まって来た男の団員達。

 

 バスタオルを身体に巻きつけながら此方を睨んでいる幼いアマゾネスの姉妹。

 

 そして、それを凌駕する形相で殺気を滾らせている、やはり記憶より若干印象にズレのあるエルフ共。

 

 コレらに関しても、マシロの知っている彼ら彼女らと、同一人物との事だった。

 

 全く訳が分からない。

 だが、(ロキ)が言うのならそうなのだろう。きっと彼らは何かしらの珍事に巻き込まれ、5年ほど時が巻き戻ってしまった(・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 身体中を蝕む痛み(・・・・・・・)すら忘れ、マシロはそんなふうに現実逃避をした。

 

 そう、現実逃避である。

 

 アイズを含めた複数名の団員達が、何らかの原因で若返ってしまった……。

 

 もしそうだったならどれだけ気が楽だったかと、マシロ・ヴァレンシュタインは心に曇天の空模様を描く。

 

 それなら、マシロは『傍観者』でいられたのだ。今、この瞬間の様に、『昔の姉』にしばらく付きまとわれる事にはなるだろうが、その内にフィン達が原因を突き止めて事件を収束させてくれるだろう。それまでの間だけ、この小さな【剣姫】を煙に巻いていればいいのだ。

 

 しかし、現実は非常である。決してマシロに楽な道など歩ませない。『傍観者(第三者)』でいる事を許さなかった。

 

 彼の鼻孔を突くのは、何処か懐かしい本拠(ホーム)の香りだ。

 腰や背中を支えるソファーには、遥か昔に失われた『張り』を感じる。

 銀の瞳が捉えるのは、直近の物より何巡も古い内装の団長室だった。

 

 そして―――、先述した通り幾分若々しい顔つきの見知った団員達。それらが、物珍しそうにだったり、バツが悪そうにだったり、怪訝そうにだったり、親の仇を見る様にだったり……。とにかく、多種多様な顔つきで、マシロを見ている(・・・・・・・・)

 

 この状況が指し示しているのは、注目を集めている人物が、マシロであるという事実だった。決して、コアラに擬態しているアイズのあられない姿ではない。

 

 そう。

 マシロは『傍観者』ではなかったのだ。寧ろ、その逆。

 この珍事に於ける『当事者(被害者)』は、紛れもなく彼自身だったのである。

 

 

「ああ、えーっと、君が驚くのも分かるけど、僕らの見解を述べさせて貰うよ」

 

 半ばショートした脳髄に、同情を含んだ声が届けられた。

記憶の中と寸分違わぬ姿をした、黄金色の髪を靡かせる小人族(パルゥム)だ。   

 【ロキ・ファミリア】の団長を務める男で、混沌としたこの場に一声で秩序を齎した。

 

 部屋にいる者全員の視線を受け止めながら、粛々と話を纏め始める。

 

「俄かには信じられない話だけど、ロキが言うには、君は『マシロ・ヴァレンシュタイン』で間違いないらしい。実際、アイズも懐いているし、僕の目から見ても、恐ろしくマシロの面影を感じるのは確かだ」

 

 団長の発言に、改めて周囲がざわつき始めた。

 ヒソヒソと「マジで、マシロなんスか?」「メチャクチャ反抗期拗らせてるじゃないか」「ああ、クリッとした可愛いお目めのマシロたんが、あんなドギツイ三白眼に……。ウチの天使はいったい何処へ行ってもうたんや……」等と言いたい放題である。

 

 散々な言い草に苛立ちを覚えるマシロ。その心情を目敏く察したらしいフィンが、苦笑を漏らしながら続けた。

 

「そんな君は数刻前……突然、僕らの本拠(ホーム)の女子風呂に現れた。アイズの胸に収まる形でね」

 

 その瞬間、いっそ面白いくらいに、場に滞留していた殺気が膨れ上がった。もし、それに実体があったなら、容易く天井を突き破っていただろう。発生源は、無論エルフ共だ。身体にタオルを巻きつけた連中である。そして、その膨大な殺気を向けられているのは、当然マシロで……。

 

「あぁ?」

 

「なにさぁ?」

 

 癪なので正面からメンチを切ってやると、今度はアマゾネスの姉妹も参戦して来た。一気に一触即発という雰囲気が蔓延する。

 が、次の瞬間―――。

 

「やめんか、馬鹿者。全く、きかん坊になりおって」

 

「お前達もだ。今回の件が不可抗力であった事は疑うまでもないだろう」

 

 マシロはガレスに、ティオナ達はリヴェリアに、それぞれチョップを落とされてしまった。

 両陣営とも不満げな顔であったが、流石に首脳陣に釘を刺された上で喧嘩をする程の命知らずではない。身を引くハイエルフやドワーフと入れ替わる形で、小人族(パルゥム)の雄弁は続いた。

 

「丁度その時間、この時代のマシロ(・・・・・・・・)はアイズとお風呂に入っていた。君が本当に5年後のマシロ(・・・・・・・)だと言うなら、現れる際は、この時代のマシロと入れ替わる形になってしまうと推測できる。同じ時間軸に、同じ人間は存在できないだろうからね」

 

 ここで言葉を切って、フィンは諭す様な表情を姉妹やエルフ達に向けた。

 

「ならば、今回みたいな現れ方にもなるだろう。リヴェリアの言う通り、完全に不可抗力だよ。どうしたって、そこにいるマシロには防ぎようがない事故さ」

 

 団長にも断言されてしまえば、流石の彼女らも突っかかっては来れないようだった。最初からバツの悪そうにしていた一部のエルフ連中に合流する形で、バスタオル共が全員目を背ける。実に痛快な光景だった。

 自分で言い負かした訳でもないのに、何故かしてやったり顔をしているマシロ。そんな狭隘な彼の顔面に、不意に影が差す。

 見上げると、柔和な瞳を湛え、フィンが此方を見下ろしていた。

 

「ロキの証言に加え、これだけの状況証拠が揃ってるんだ。君は未来のマシロでまず間違いない。歓迎するよ。気が気じゃないと思うけど、問題が解決するまでここでゆっくりとしていると良い」

 

 そう言って、スッと、団長の手が差し出された。

 

 

 

 これは、なんの因果か、アイズ・ヴァレンシュタイン含め、複数名の団員達が若返ってしまった物語…………………ではない。

 

 

 

 

 

 

 何の因果か、マシロ・ヴァレンシュタインが過去に戻ってしまった物語だ―――。

 





お読み頂きましてありがとうございました!
次回は、マシロが過去に戻った瞬間の話から入ろうかなと思っています。本編とどちらが先になるかは分かりませんが、よろしくお願いします。
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