今話は日常回? となっております。
休息
海底基地 智明の部屋
「ふぅ…」
読み終えた小説を置き、智明は溜息を吐く。
今、この基地には智明以外には妖精達しか居ない。他のメンバーは南西諸島防衛線解放の際、殆どなくなってしまった資材の確保と新たに解放された海域である南西諸島海域への偵察へ向かった。当然、智明も向かおうとしたのだが…
『智明は休みよ』
『1日位ゆっくり休んで欲しいのです』
上記は夕張と電に言われた言葉だ。この基地で目覚めてから毎日の様に出撃を繰り返していた智明に夕張達はしっかり休む様に言ってきたのだ。体は改造されているから問題無いと言ったが押し切られてしまった。
「本を読むのも飽きたし、釣りでもするか…」
本を本棚に戻し、智明は港へ向かった。
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釣り道具を持って港の桟橋で腰を下ろした智明は、準備をして早速釣り針を海へ垂らす。
島上では畑係や仕事休みの妖精達が作業をしたり散歩をしている。そんな彼女達を眺めながらボ~っとしていると釣り糸がくいくいと引かれるのを感じた。
「掛かったか」
手に持った釣竿が引っ張られ、智明はリールを回す。
釣りは引きのバランスが肝心である。魚が引く時には無理に引っ張らず、引く力が弱くなった時に一気に引っ張る。
「よしっ、釣れた」
釣り針には見事な鯛が掛かっていた。
「今日の夕飯に良いな」
クーラーボックスに鯛を入れ、釣り針に餌を刺して海へ投げ込む。
~♪ 【夕張艦隊が基地へ帰還しました】
「む、帰って来たか…」
それなりに釣った所で放送が入る。釣竿を置き、彼方を眺めると水平線から夕張達が帰港してくる姿が見える。智明の姿が見えているのか手を振る夕張達に智明も手を振って返事した。
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「お疲れ、皆」
「ただいま、智明」
「智明さん、今帰りました」
「ともさん、ただいまっぽい」
「ただいま、とも君」
夕張、電、夕立、千歳達艦娘を迎える。港では妖精達がクレーン車を操りコンテナを荷揚げしていた。
「ヨ、ヨ!」
「リリリ♪」
「タ~タ」
「カカー」
「ルー!!」
「チ、チチ」
「ヲッヲ」
担ぎ上げたコンテナを港に揚げたブティク達も智明の元に駆け寄って来て抱き着いてくる。血の気が無く、青白い肌であるが抜群のスタイルを持つ深海棲艦であるブティク達に揉みくちゃにされる智明の姿は男にとって羨ましい光景であろう。
「こらこら、智明が苦しそうよ。放れなさい」
夕張がブティク達を窘める。ブティク達はブーブー文句を垂れるが「改造するわよ?」の脅しにパッと放れた。
「助かったよ、成果はどうだい?」
「大成功よ。ダメージも小破以下だし、全員無事」
「そっか、皆無事で良かった」
「心配無いわ、智明はまた釣りをしてたの?」
「室内でじっとするよりは外へ出たいからね」
「成果はどうっぽい?」
「ま、夕飯に使える位には色々と釣れてるよ。」
「あら、今夜の晩酌が楽しみね♪」
釣果を皆に見せると千歳が微笑む。新メンバーである彼女もここ数日間の出撃で急成長を遂げており、甲型へと改装していた。
「ホホ~」
「あ、智明さん、釣竿が引いているのです!」
「何!?」
ウィザードと電の言葉に智明は慌てて釣竿を取るのであった。
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夕食時となり、皆が食堂へと集まる。
「んく、んく……ぷは~」
ぐい飲みで酒を飲み乾した千歳が豪快な声を上げる。
海底基地の食堂は酒保も兼任しており、食糧庫には様々なお酒が保管されていた。
「とも君も飲もうよ。さ、さ!」
「日本酒か…飲んだ事が無いんだよな……」
大学生であった智明はお酒を飲む経験はあっても日本酒の様なお酒は飲んだ事が無かった。精々ビール、チューハイ程度であり、自分から進んで飲もうとしないので手を出していなかった。電は体が幼い故に飲もうとはせず、夕張や夕立も智明と同じく進んで飲む性質では無く専らジュース派であった。
一方で千歳は酒好きで仕事を終えた後の夕飯時にいつも晩酌をしている。今夜も智明が釣った魚をつまみに酒が進む様であった。
「ほらほら」
「わっとと…」
ぐい飲みを渡され酒を注がれる。真水の様に透き通った日本酒からアルコールの良い香りが鼻孔で膨らむ。
「頂きます」
一口飲み、口内でも香りを楽しみながら飲み乾す。ビールやチューハイ等には無いアルコールの強さが智明の喉を焼くが心地良い。
「僕には強いな…」
「これが普通よ、ほら御代り♪」
「ちょっと…近いよ千歳ちゃん…」
「近づかないと注げないわ」
海底基地所属の艦娘4人の中で、千歳は最もスタイルが良い。着ている和服風の服型艤装からでも分かる豊満な胸がそれを物語っている。酔っている為か、必要以上に智明に密着してお酌しているので、流石に智明は顔を赤くする。
「ヨ! ヨヨッ!!」
「タター!」
千歳の行為を過度なスキンシップであると受け取ったのか、ブティク達が騒ぎ出す。
「なぁに? 私はとも君にお酌しているだけよ?」
そんな事を言いながら、千歳は智明に胸を押し付けている。智明自身はブティク達にこれまで揉みくちゃにされて(酷い時には全裸で)いる為、感覚が麻痺しているが顔は赤い。
「ルルルー!!」
「ヲヲッ!」
「ホ!!」
ブラスとハク、ウィザードが席を立ち、智明の元へ駆け寄って抱き着いてくる。因みに軽巡洋艦である筈のウィザードが何故食堂にいるのかというと、彼女以外の深海棲艦メンバーが陸上へ上陸出来るようになったので、彼女だけ食堂を利用できないのは可哀想だと言う事で専用の陸上移動用台車を用意した為であった。
「ちょっと、食事中なんだけど………おぶ!?」
「リリー!!」
「わわ、折角のお酒が零れちゃうから押さないで!」
ヴァーチまで加わり騒がしくなる。事態を収拾させようと夕張がお決まりの殺し文句を言おうとしたが…
「……好い加減にするのです」
静か、されど凄まじいまでのプレッシャーが込められた一言で周りがシィンと静まり返る。言葉の主は電で、彼女はニッコリと笑っているがその背後に何か途轍もないオーラが噴き出ていた。
「今は食事中ですし、智明さんが困っているのです。皆席に戻るのです」
電の言葉にブラス達はコクコクと頷くと、そそくさと席へ戻って行く。
「千歳さんもお酌にしては智明さんに密着し過ぎなのです」
「は……はい…」
話の対象が千歳へと変わり、千歳も反論する事無く智明から離れた。
その後は誰も話す事無く、静かに食事は進んだ…
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「全く…ブティクさん達は懲りないのです」
夕食も終わり、宿舎エリア廊下を歩きながら電は溜息を吐いた。千歳が加入し、2艦隊を運用出来る様になった智明の艦隊であるが、この艦隊、基地のメンバーを含めて男性は智明だけなのだ。本来の鎮守府なら艤装や施設の整備、憲兵として男性が少なくとも何名か常駐している。しかしこの基地では憲兵はおらず、施設の整備等も妖精達が行っている。艦娘も改造されている身とはいえ、元は人間であり、女性である。当然、恋愛事も生じる訳で………、提督達と付き合い出す者もいる。結果的に此の事が起こる事から『ケッコンカッコカリ』と言う儀式が開発されたのだが…
前述した通り、この基地の男性人数は智明1人だけ。彼曰く改造される前は唯の一般人であったらしいが、仲間が傷付く事を恐れながらも深海棲艦達との戦いに臆する事無く、懸命に立ち向かっていく姿に電自身含む艦娘達は好意を抱いていた。そして何より彼のみが持つ深海棲艦を仲間にする能力によって仲間にしたブティク達。妬みや憎悪等、負の感情しか見せる事が無い筈の深海棲艦が智明の仲間になる事によって、他の感情が芽生えた(蘇った?)事で当然ながら智明に好意を抱いていた。特に最古参であるブティクは地上を歩けるようになって以降、智明にベッタリな上に添い寝するべく彼の部屋に毎晩やって来る様になっていた。彼女曰く身も心もポカポカと温かくなるらしい。
廊下を歩く電の手にはココアが入ったマグカップがある。智明の悩みを聞いて以降、電は時折智明の元へココアを持って尋ねる様になっていた。
智明の部屋の扉を開けようとすると部屋の中が騒がしい。部屋に入ると既に先客がいた。カラフルなリキュール系の酒瓶とジュース瓶が数本、テーブルに置かれており、千歳とブティク、ヨハム達が綺麗なお酒を飲んでいた。
「何で千歳さん達がいるのですか?」
「まーまー、硬い事言わないでよ」
笑いながら千歳は答える。
「電こそ何しに来たの?」
「電は智明さんとお話をしに来たのです。ところで智明さん、それは?」
「久しぶりにお酒を飲んだからね、趣味の一つさ」
そう言って智明はシェイカーに様々なリキュールやジュースを注いでいき、蓋をすると素早くシェイクし、グラスに注いだ。
「召し上がれ」
「頂くわ♪」
受け取った千歳はグラスを傾け一口飲む。
「ん~、美味し~♪」
「それは何より、電ちゃんも飲む?」
「あ、あの…電はお酒は駄目なのです」
「大丈夫、電ちゃんのはノンアルコールにするから」
そう言って智明はシェイカーに数種類のジュースと氷を入れてシェイクする。シェイクされたミックスジュースをトニックと共に予めシロップを入れていたグラスへ注いだ。
「どうぞ」
「頂くのです」
ココアの入ったマグカップをテーブルに置き、電はグラスを受け取る。縦長のコリンズ・グラスに入ったカクテルは、琥珀色で美しく、小さな気泡がシュワシュワと音を立てていた。
電はグラスに口を付け、コクコクと飲んでいく。すっきりとした甘さに弾ける炭酸が爽やかだった。
「美味しいのです」
「ん、良かった」
電のコメントに智明は微笑み、彼女が持って来てくれたココアを啜った。
「智明さんは飲まないのですか?」
「僕は夕食時に飲んだからね、このココアだけで充分だよ。何時も有難うね電ちゃん」
そう言って智明は微笑むと、電は頬を赤くした。
「電って、とも君の部屋に頻繁に来ているの?」
「頻繁という訳では無いのです、時々伺ってお話をしているだけで…」
「怪し~い、でも…」
そう言いながら千歳は飲み終えたグラスを机に置くと、智明の腕に抱き着いた。それを見たブティク達は再び騒ぎ出す。
「電がとも君の部屋に来ているんだから私が居ても問題無いわよね?」
「あの…千歳ちゃん?」
「なーに、とも君?」
「そう抱き着かれると困るんだけど…」
「何が困るの~?」
千歳は意地悪そうな表情をしながら胸を腕に押し付ける。腕に感じるその柔らかさに智明の顔が赤くなっていく。
「初心だね~とも君は、恋愛とか経験ないの?」
「学業とか、趣味に時間を割いていたから…」
「真面目君だね、とも君は~。ふふっ♪」
そう言いながら千歳は智明の頬を撫で、顔を近づけてくる。
「顔が近いんだけど…」
「キスの経験も無いのかな~?」
千歳に完全に弄られて、智明も一杯一杯になっていた。
「千歳さん、智明さんが困っているのですから止めるのです」
千歳の行動を見かねた電が声を大きくするが…
「良いじゃない、私はとも君が好きなんだから」
「「「「「!?」」」」」
「な…!?」
突然の言葉に部屋にいた全員が固まる。
「い、いきなり何を言っているのですか!?」
「何って、とも君が好きって言ってるんだけど?」
そう言いながら智明の肩に頭を乗せる。
「とも君はいつも一生懸命で私たちの事を真っ直ぐに見てくれているんだもの、惚れない訳が無いわ」
そう言いながら千歳は智明の腕に更に強く抱き着く。
「だからもう一度言うわね。好きよ、とも君♪」
千歳の告白に智明は口をパクパクすることしか出来ずにいた。
そして彼女の告白を聞いた電やブティク達は……
「だ、駄目なのですっ!!」
「タタッタ!!」
「ヲヲヲヲーッ!!」
智明に好意を持っている為に抗議の声を上げだした。
「モテモテだね、とも君は……あら?」
状況に対応仕切れなくなった智明は気絶していた。
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南西諸島海域 カムラン半島
南西諸島海域近海
「~♪」
雲一つない青空を4機の飛行機が入り乱れている。それを眺める青年とツインテールの少女の2人。青年の方は鼻歌を歌いながら余裕そうな顔をしているが、艦首も模したサンバイザーを被ったツインテールの少女は追い詰められたような顔をしていた。
「くっ、このぉ…!」
「ほらそこだ」
鼻歌を歌っていた青年はヒテン級反応動力推進航空母艦 1番艦『飛天』の力を与えられた函南 芳彦、複数いる少女が操る艦載機を物ともせず1機1機を確実に撃墜判定に処していく。艦首を模したサンバイザーを被ったツインテールの少女は軽空母龍驤型 1番艦『龍驤』、芳彦の艦隊に新たに加わった艦娘である。
芳彦率いる艦隊の新たな空母として迎えられた龍驤であったが、同じ空母であるが男であり初めて見る存在である芳彦に対して、彼女はその実力に懐疑的であった。そこで芳彦は彼女と模擬戦を行う事にしたのだ。
内容は互いの艦載機でドッグファイトを行い、最後まで生き残った方が勝利とするものだ。使用武装はペイント弾のみで、被弾場所や被弾面積で撃墜判定を決める。尚、芳彦はこの模擬戦において1対5ので勝負すると言い、一悶着あった。芳彦が操る艦載機が1機だけにも関わらず銃撃を与えることが出来ずに逆にその数を減らしていく。
因みに2人が操っている艦載機は龍驤が『九六式艦戦』、芳彦が『
「よっしゃ、後ろを取ったで!!」
龍驤機が残り1機となり、1対1の勝負となったところで龍驤機が遂に散香の背後を取った。
「甘いな」
今にも撃たれそうであった散香は突如、その機体を垂直にして失速し、龍驤の戦闘機が通り過ぎるや否や再び水平に機体を戻して背後を一瞬にして奪い返した。『ストール・ターン』、別名『コブラ』とも呼ばれるアクロバット飛行テクニックの一つである。1度で仕留めなければ逆に自分が危機に陥るテクニックではあるが成功すればメリットは大きく、芳彦は見事に成功させた。
「んなアホな!? そんなん有りぃ!!?」
「これで終わりだな」
芳彦の
「ふふ~ふ。1対5の勝負、俺の勝利だぜ? ”りゅうりゅう”?」
「くぅ~、1機だけなのに負けてまうなんて……ありえへーん!」
ニヤニヤ顔の芳彦に龍驤はウガーと吠える。芳彦が笑いながら龍驤を撫でていると遠くで観戦していた艦隊の艦娘達が芳彦の元へやって来た。
「お疲れ様、司令官。タオルよ」
「お見事でした」
「プロデューサーさん、お疲れ様」
「見事な空中戦だったぞ、流石だな」
「お疲れ様です、司令官さん」
芳彦艦隊のメンバーである雷達が芳彦へ労を労う言葉を掛ける。
「おう、皆有難うな♪」
芳彦が答えると、彼の元に散香が戻って来る。
「ホンマに妖精が乗っておらんわ…、君が操っとるん話は嘘やなかったんやね」
「んなことで嘘を吐くかよ」
艦娘が装備している艦載機には装備妖精が搭乗している。搭載艦である艦娘の指示にしたがった行動は可能であるが、細かな操作は登場している妖精の技量に委ねられている。
今回の芳彦と龍驤の模擬戦において芳彦が使った散香には妖精が搭乗しておらず、無人機であった。これは芳彦に与えられたマルチタスクによる操縦能力によるものであり、彼は艦載機の細かな制御を行う事が出来る。現在はまだ3機しか操る事が出来ないが、始めこそ1機しか操作出来なかったので、訓練次第で更に増やす事が出来そうだ。
「そんじゃ、基地に帰るか」
「「「「「「了解!」」」」」」
再び散香を空高く飛ばしながら、芳彦は艦娘達と帰還を開始した。
「~♪」
帰路の中、芳彦が歌いだす。
「プロデューサーさん、その歌は?」
「初めて聞くな」
那珂と木曾が尋ねる。
歌は芳彦の趣味であり、何かの作業中、また何も無い時に口ずさんでいる。那珂が仲間に加わってからは彼女に教えたり一緒に歌ったりしている。
「小さい頃、よく歌っていてな。たまに歌いたくなる」
前居た世界で生徒だった頃を思い出しながら、芳彦は続きを歌いだす。
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この世界で目覚める前、芳彦は自衛隊員であった。
飛行機に乗って空を駆け巡りたい夢から航空自衛隊へ入る事を望んでいた彼であったが、視力の低下によって夢を断念。それでも少しでも携わりたいと整備士になった。
そんなある日、離れた基地への移動の為にヘリで移動中に事は起きた。
海上を飛行中、突如エンジントラブルが発生し、海へ落下。落下のショックで気絶した芳彦は沈んでいくヘリと共に沈んでいったのだった。
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そして目覚めた時、芳彦は南西諸島の『名も無き基地』に居た。彼も智明と同じ様に艤装を装着した事でこの世界について知識や自身の力を知り、現状に戸惑いながらも生きていくために戦う事を決意したのだ。
(しっかし、こんな漫画みたいな世界に来るとはな…)
芳彦は後を続く艦娘達に目をやる。彼が歌う曲のリズムを覚えたのか、那珂がリズムを口遊みだし、他の艦娘達も続く。
(まぁ死なずに済んだって事で良いのかな?)
男ながら艦娘と同じ存在に改造され、深海棲艦と言う化け物達と戦う事を強制されている。本来ならば危機感や逃避感を感じる筈なのだが、芳彦はそこまで感じる事無く今を生きている。
「
芳彦の艦載機は「スカイクロラ」から出典です。
また、彼のステータスについては次回に公開します。