嗚呼、「黄泉の艦隊」が往く   作:影鴉

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今回は人類勢力である鎮守府サイドがメインです。
その為、智明達の出番は少なく、前回仲間にした艦娘は登場しません。


日本国海軍、動ク
 動向


日本国

 

呉鎮守府 本舍屋上

 

 

 深海棲艦と日夜戦い続けている人類軍。その中で日本国所属の艦娘が根拠地としている場所は、鎮守府、警備府、泊地、基地と呼ばれている。そんな拠点の一つである呉鎮守府の本舍屋上にて、男が1人煙草を吹かしていた。

 190cm近い身長に、海軍制服越しでも分かる鍛えられた肉体。目付きは鷹の様に鋭く、左目は潰れている為か眼帯を付けている。まだ30代であるのに多く生えている若白髪のせいで髪は灰色に見え、そんな外見も相まって歴戦の猛者という印象を与える。

 

 男の名前は十 蒼介(つなし そうすけ)大佐。ここ呉鎮守府に勤める提督の1人であり、元特殊部隊『サイレントコア』所属。嘗て人類と深海棲艦が2度に亘って大規模な戦闘を行い大きな損害を受けた『第1、2次海洋大戦』に参加しながら、無事生き残った猛者である。

 

 

【〜♪ 双龍艦隊が帰艦しました】

「帰って来たか…」

 

 

 鎮守府内に帰艦アナウンスが流れ、蒼介は煙草を灰皿に捨てると、桟橋へと足を向けた。

 

 

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呉鎮守府 桟橋

 

 

「おう提督、戻って来たぜ?」

「無事、護衛任務は完遂したわぁ」

 

 

 蒼介が桟橋に着くと、天龍達が海上から揚がっている途中であった。

 

 

「只今、提督」

「無事、任務を達成したよ!」

「怪我もしていないよ」

「ボク達、頑張ったよ?」

 

 

 駆逐艦睦月型の皐月、文月、長月、菊月の4人が蒼介の元に駆け寄って来る。彼女達にとって、今回が初めてであった遠征が成功した為、彼に褒めて欲しいのだ。

 

 

「ん、初の遠征なのに良く頑張った。間宮に頼んでアイスを用意させている、装備を武装課に預けたら食堂に行って食べて来い」

「「「「やった!」」」」

 

 

 4人の頭を撫でながら、蒼介は労を労い、皐月達は喜びながら艤装を管理している武装課がある副舍へ駆けて行った。その姿を見た龍田はクスクスと笑う。

 

 

「ふふ、遠征から帰って来たばかりなのに元気ね♪」

「全くだ。俺は早く汗を流して寝たいぜ」

「あらぁ、天龍ちゃんはアイスが要らないのかしらぁ?」

「ばっ!? そんな事言って無ぇだろ! 俺は風呂上がりに食べたいんだよ!」

 

 

 そんな2人のやり取りを眺め、普段は仏頂面と言っても良い表情の蒼介も、その表情が優しいものになる。

 

 

「お前達も御苦労だった。新人4人を引き連れたのは大変だったろう?」

「これ位平気だぜ? 提督の頼みなんだ、どんな頼みだって引き受けてやる」

「あらあらぁ、天龍ちゃんったら提督にラブラブアピール?」

「!? ち、違うっての! 俺ならもっと骨のある任務だって楽勝だって言いたいだけで…」

「天龍ちゃんは可愛いわねぇ~♪」

「だ~か~ら、違うって!」

「ふっ、なら次の任務も頼りにしておく。兎に角、2人共無事で良かった。2人揃っての『双龍艦隊』だからな」

 

 

 蒼介率いる十艦隊は軽巡洋艦である天龍と龍田を旗艦とする機動艦隊だ。メンバーのムードメーカーにして、斬り込み隊長である天龍に冷静な参謀役である龍田、2人の名前に龍がある事から『双龍艦隊』と周りから呼ばれていた。

 2人が無事に帰艦した事に静かに喜びながら、蒼介は天龍と龍田2人の頭を優しく撫でる。

 

 

「よ、止せって提督…」

「あら、天龍ちゃんったら恥ずかしいの?」

 

 

 頬を赤く染める天龍に龍田はからかう様に尋ねる。そんな龍田も頬が赤い。

 

 

「む…、お前達には子供っぽかったか?」

 

 

 蒼介はそう言って撫でる手を止める。

 

 

「いや、その…よ…」

「あら? 私は嫌じゃないわぁ。子供っぽいかもしれないけど、私は嬉しいもの♪」

 

 

 そう言って、蒼介の片腕に抱き付き微笑む龍田。そのまま彼女は蒼介を連れて本舍へ向かい出す。

 

 

「さ、今日は暑いから早く屋内に行きましょう♪」

「龍田、引く力が強くないか?」

「うふふ、知らな~い♪」

 

 

 龍田が蒼介を連れて行き、桟橋に残っているのは天龍1人。

 

 

「って、おい! 俺を置いて行くなー!!」

 

 

 天龍は慌てて2人を追いかけるのだった。

 

 

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大阪警備府 執務室

 

 

 呉鎮守府とはまた別の場所にある大阪警備府。

 太平洋戦争時は戦力的に極少数の兵力しか持たない代わりに、衣糧廠・予科練航空隊といった膨大な人員・物資の管理を行っていた重要な拠点であった。

 その本舍の執務室で1人の提督が書類のチェックを行っていた。

 提督になれば自身が率いる事になる艦娘達の日毎のコンディション確認や資材庫に残存する資材と消費した数の収支、本部である横須賀鎮守府からの連絡事項、依頼された任務内容等様々な業務に勤める事になる。

 

 自分の艦娘達が任務に赴いている間に出来るクエストをチェックし、今後行うクエストを仕分けている提督の名前は葛城 蓮(かつらぎ れん)少将。

 彼は提督の適性が高かった為に日本海軍に入った元一般人で、元は複合企業『葛城グループ』の御曹司であった。その為、経済・政界にも顔が利き、日本から遠く離れた基地に勤め、最前線で戦っている提督や艦娘達への支援を自身の企業を通して積極的に行っていたりする。

 初めこそコネや昇進目的であると影口を叩かれていたが、本人が気にする事無く提督としての功績を重ねていった事から、やがてはそんな声も聞こえなくなった。

 

 仕分けも終わり、一息吐いたところで執務室の扉がノックされる。

 

 

「入りや」

「失礼します」

 

 

 部屋に入って来たのは青を基調とした制服に身を包んだ女性、黒髪をショートボブにし、制服越しからでも分かるムッチリとした色気ある体型、そして短めのタイトスカートとストッキングの間から見える生の美脚が艶かしい。

 

 

「葛城提督、作戦完了。艦隊が帰投します。」

「ふむ、愛宕達が帰って来たんか」

 

 

 蓮の秘書艦である、重巡洋艦高雄型1番艦 高雄が提督に艦隊帰艦の報告をし、蓮は席から立ち上がる。

 

 

「たしか姿をパッタリと見せなくなった深海棲艦共の調査やったな?」

「はい、愛宕達の調査海域は南西諸島海域のバシー島沖となっています」

「連中が居ないのは有難いんやけどな、理由が解らんのは不気味や」

「今回の調査で何か解れば良いのですが…」

 

 

 蓮と高雄が愛宕達を迎えに出ると、彼女達は既に艤装を武装課に預けて整列していた。

 

 

「葛城艦隊、調査を終えて只今帰艦しました♪」

「おう、ご苦労やった」

 

 

 糸目の変わらぬ表情で蓮はニコニコ笑いながら愛宕達の帰艦を労う。

 

 

「皆疲れとるやろ? 今日は暑いし潮風でベタベタの筈や。報告は後で良いさかい、先に汗を流しや」

「いいわねー♪」

「さっすが提督! 話が分かる♪」

「ちょっと…、提督に失礼ですよ飛鷹、…川内姉さん」

「でも先に汗を流せるのは有難いわ。レディーとして汗臭いままで司令官と話は出来ないもの」

「身体中、ベタベタ…」

「ホンマにお疲れやったな、ワイの事は気ぃせんで良いさかい。行ってきぃや」

「それじゃあ、お言葉に甘えます♪」

 

 

 再度愛宕達は敬礼し、浴室がある兵舍へ向かった。

 

 

「それじゃ、ワイ等は執務室へ戻るで?」

「報告を後にして宜しかったのですか?」

「構へんよ。愛宕はアレでしっかりしとるさかい、風呂も先に上がって報告書を纏めるやろ」

「その”しっかり”が何時も続いていれば良いのですが」

「いっつも真面目やったら肩が凝るで? ゆとりは無いとアカンよ」

「それはそうですが…」

「高雄ももう少しゆったりしぃ? 折角の美人さんなんやから固いまんまはアカンで?」

「び!? 提督、からかわないで下さい!」

 

 

 顔を赤らめて声を大きくする高雄に蓮は肩を竦める。

 

 

「おお、怖い怖い。ほな戻ろか」

「あ、提督!? もうっ」

 

 

 笑いながら本舍へ戻る蓮を高雄は追うのだった。

 

 

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「ほな、報告を聞こか?」

 

 

 汗を流し、一息吐いた愛宕達は蓮の執務室に集まった。

 

 

「はい、提督。調査海域であるバシー島沖ではめぼしいモノは見付からなかったわ」

「バシー島沖”では”っちゅう事は他の海域では見付けたんやな?」

「ええ。手前のカムラン半島海域で私達は謎の貨物輸送艦ワ級だけで編成された艦隊に遭遇したわ」

 

 

 愛宕の報告に蓮は眉をしかめる。

 

 

「ワ級だけやと?」

「そう。それだけでも異常なのに、その艦隊は8隻で行動していたの」

「そいつ等はどないしたん?」

「逃げられたわ」

「逃げられた? 他に敵艦が邪魔してきたんか?」

「いいえ。私達はワ級だけの艦隊と交戦、相手の特殊武装によって追撃不可能にされて逃げられたの」

「……そん時の話、詳しく話しぃ」

 

 

 愛宕は頷き、カムラン半島海域での出来事を話し出した。

 

 

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カムラン半島

 

 

 ワ級のみの艦隊を発見した愛宕達は、深海棲艦が消えた原因の手掛かりになる可能性を考え、ワ級達がいる海域へ向かった。

 

「敵影確認、距離3500」

「飛鷹、準備は出来てる?」

「大丈夫よ。何時でも発艦出来るわ」

「良い、皆? 今回の戦闘は勝つ事が目的じゃないわ。ワ級含む深海棲艦達が消えた原因を探る事が重要事項。相手の様子を良く見て異常が無いか調べるのよ」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 目標の姿も視認でき、砲撃可能な距離に縮まる中、ワ級達は逃げる素振りどころか動く気配を見せなかった。

 

 

「逃げる素振りも見せないなんて、馬鹿にしているの?」

「戦う術が無い筈なのに…」

「気をつけて、エリートクラス以上は武装を持っているから!」

「でもオーラを出していないわ?」

 

 

 動く気配が無いワ級の様子に同伴艦達が疑問の声を上げる。

 射程距離に達した愛宕達は一旦、移動を止めてワ級達を観察する。ワ級達は自分達の方を向きながら6隻、2隻の複横列に並んで只、浮いていた。

 

 

「見たところ異常なところは見られないわね…」

「私達が見える距離にいるのに動こうとしないのは異常だけどね」

「愛宕お姉さん、どうする?」

「…此方の行動に対する反応が見たいわ。飛鷹、艦載機を飛ばして!」

「了解よ、発進!」

「此方から攻撃しては駄目よ? あくまでも妖精さん達にワ級達の反応を観察させて、但し向こうが攻撃してきたら直ぐに引き返させるのよ?」

「任せて、上手く立ち回るわ!」

 

 

 飛鷹が艦載機である艦上爆撃機『彗星一二型甲』と艦上攻撃機『流星』を発艦させた瞬間、ワ級達に動きがあった。

 

 

「愛宕お姉さん、アレ!!」

「あれは……、煙幕?」

 

 

 突如、ワ級達から黒い煙が上がり、彼女達を包んでいく。1分も経たぬ内にワ級達は煙で姿が見えなくなった。

 

 

「愛宕さん、どうする?」

「只の煙幕か解らない以上、あの煙に触れるのは危険だわ。今日は風が強くないからそこまで広がってはいない様だけど、艦載機の妖精さん達に注意させて」

 

 

 愛宕が注意を促す中、煙幕に隠れたワ級達がどう動くか、飛鷹から発艦した流星達は煙幕の周りを旋回しながら見張る。

 次第に煙幕が薄くなっていき、ワ級達の姿がぼんやりと見えそうになった時、彼女達は愛宕達から逃げる様に反対方向へ進み始めた。

 

 

「愛宕さん、あいつ等逃げるよ!!」

「護衛がいない貨物輸送艦に煙幕を使う……益々怪しいね?」

「全艦、全速前進。追うわよ!」

 

 

 ワ級達の追跡を開始した愛宕達。暁、響を前にし、後を川内、神通、飛鷹、愛宕の順に続く。

 逃げるワ級達は空に向かってナニカを打ち上げ始めた。ある程度の高度へ昇ったナニカは爆発すると、白い煙の様なモノが拡がった。流星の1機が近くで爆発したナニカから拡がったモノに包まれると、煙を上げながら墜落していく。

 

 

「艦載機が墜とされた!?」

「このぉ!!」

「!? 待って川内姉さん!!」

 

 

 敵対行動と受け取った川内は、神通の止める声も聞かずにワ級達に向けて20.3cm(3号)連装砲を放つ。しかし、砲撃は避けられ、反撃かワ級達は一発だけ撃ち返してきた。

 

 

「川内、避けて!」

「!?」

 

 

 愛宕が呼び掛けるが既に遅く、ワ級が放った砲弾は川内に直撃。爆発と共に艤装の衣服部位が破れ散るかと誰もが思ったが……

 

 

「キャアアァァァァ!?」

「川内姉さん!?」

 

 

 バチィッ!! というナニカが弾ける様な音が響き渡り、川内は悲鳴を上げながら痙攣する。そのまま彼女は崩れ落ちてしまった。

 

 

「姉さん!? 川内姉さん!!」

「そんな……、川内さんが…」

「な、何よ今の攻撃は!?」

「皆落ち着きなさい! ここはまだ敵の攻撃範囲なのよ!」

「「「「!!」」」」

 

 

 謎の攻撃に川内が倒れ、混乱しかけるが愛宕が一喝して皆が冷静を取り戻す。

 

 

「追跡は中止。暁と響はワ級達がまた攻撃して来ないか警戒していて! 飛鷹、墜とされた艦載機は?」

「沈んでいないし、乗っていた妖精さんは無事よ。あの煙に突っ込んだらエンジンをやられたみたい」

「後で私の水上機で助けに行かせるわ。神通、川内のバイタルは?」

「大丈夫……、心臓は動いてる…。気絶してるみたい…」

 

 

 今にも泣きそうな表情で神通は答えるが、川内が無事である事に愛宕は安堵する。

 

 

「…川内姉さんは何をされたんですか?」

「一概には言えないけど、川内に直撃した際の弾ける様な音に彼女が痙攣した事から電撃を受けたて考えられるわ」

 

 

 自身が搭載している水上偵察機『零式水上観測機』を墜落した装備妖精の元へ向かわせながら愛宕は答える。

 川内を無力化させたワ級達はこれ以上の攻撃を仕掛ける事無く、再び煙幕を撒きながら逃げる様に去って行った。

 

 

「電撃って……、テーザー銃とかスタングレネードみたいな?」

「そうね、川内が受けたのは直撃した相手を痺れさせる電撃弾だと思うわ」

「…それって、相手を…殺せませんよね?」

「電撃の出力次第では相手を黒焦げに出来るわ。でも川内は死んでいない」

「ワ級達は私達を殺すつもりは無く、足止めの為に川内に反撃してきたって事? 有り得ないわ」

 

 

 ワ級達の行動が理解出来無いといった様子で飛鷹は驚く。彼女達、艦娘や提督達人類の見解では深海棲艦は自分達を深く憎んでおり、どちらかが死ぬ迄執拗に襲って来るのが普通だからだ。

 勿論、上位体になれば知能が発達するから不利になれば撤退したりするが基本的に逃げる様な行動は取らない。それが駆逐艦や軽巡洋艦といった下位体ならそれが更に顕著になる。

 元々、武装を持たないワ級にそれが当て嵌まるのかは解らないが、同じ深海棲艦である以上、獲物がいれば襲って来る筈であり、今回の様に武装しているなら尚更だ。

 

 

「愛宕お姉さん、コレは何かしら?」

 

 

 愛宕達が思考の渦に嵌まりかけた時、暁が海面に浮かぶ、バレーボール程の球体を指差して尋ねてきた。周りを見回すと、その球体は複数浮いており、近くに漂っていた1個を響はしゃがんで指で突つこうとしていた。

 愛宕の脳内でその球体と先程川内が受けた電撃弾が重なり、大声を上げた。

 

 

「!! 触ったら駄目よ響! 2人共、今直ぐにソレから離れなさい!!」

 

 

 ビクッと驚きながら響は指を引っ込め、暁と共に球体から離れる。

 

 

「愛宕お姉さん、コレは何なの?」

「見てなさい」

 

 

 愛宕は15.5cm三連装副砲の砲口をプカプカと海面を浮かぶ球体の1つに向け、撃ち抜いた。

 すると先程、聞いた弾ける様な音が響き渡った。

 

 

「コレって……機雷?」

「川内が受けた電撃弾の機雷バージョンと言ったところかしら? よっぽど私達に追って欲しく無いみたいね」

 

 

 そう言って愛宕は溜め息を吐きながら周囲を見回す。この電撃機雷はワ級達が去って行った跡に大量に浮いていた。

 

 

「取り敢えず川内を介抱しましょう? 近くの島に寄るわよ。飛鷹、艦載機は皆戻って来た?」

「ええ、墜ちた妖精さんも愛宕さんの水上機に回収されたみたいだし、大丈夫よ」

「良かったわ。それじゃあ、移動するわよ?」

 

 

 未だに気絶している川内を神通と2人で抱え、愛宕達は近場の島へ向かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「近場の島に着いた後、数分で川内は目を覚ましたわ。バイタルチェックもしたけど、異常は無かったわ」

「…その機雷は回収出来んかったんか?」

「撤去ついでに色々試してみたけど、専用の器具を持っていなかったから無理だったわ」

「さいか…」

 

 

 報告を聞いた蓮は眉間に皺を寄せた。

 

 

「煙幕に艦娘を気絶させる電撃弾と電撃機雷……」

「艦載機を墜落させた煙も気になりますね…」

「墜落した流星は回収しているわ。粘性の強い気体に包まれた事位しか解らなかったから、装備課に調べて貰っているわ」

「どれも今迄に聞いた事が無い武装や。しかも、それを使っていたのがワ級?」

「新種のワ級と考えて良いのかしら?」

「エリートクラスに成らずに武装したノーマルやさかい、新種だとしたら厄介や」

 

 

 愛宕が纏めたレポートを読みながら、蓮は机に置いてある扇子を取って扇ぐ。

 

 

「武装したノーマルクラスがエリート以上に成ったらその実力は未知数や。それに今後、この新種が既存のワ級に成り代わるかもしれへん」

「補給だけのサポートだけで無く、攻撃支援も行うノーマルクラスのワ級……」

「厄介ね…」

「鎮守府から南西諸島海域迄で姿を消した理由は新たな戦力開発の為か? だとしたらヤバイで…」

 

 

 蓮は深刻そうな表情をし、扇いでいた扇子を閉じる。

 

 

「今回のワ級の件は現問題の原因に繋がっている可能性大や。横須賀に連絡しておくさかい、今後の対応を尋ねんとアカン」

「それじゃあ、任務は完了ね?」

「せや。ホンマ御苦労さんや皆、ゆっくり休みぃ。但し、川内は念の為に医務室で詳しく検査をしとき、何かがあったら大変や」

「えぇ~」

「…姉さん!」

 

 

 蓮の言葉に川内は不平の言葉を漏らし、神通が注意を促す。

 その姿に蓮はクスリと笑う。

 

 

「ちゃんと行くんやで? さもないと今後暫くの出撃は禁止や」

「そ、そんなぁ~」

「さっさと行きぃ? 今迄、成果が無かった調査に初の結果を残せたんや。今夜はお祝いや」

「お祝い!? もしかして…」

「せや。あの『十六夜亭』さかい、ちゃんとおめかしするんやで?」

「やった! 川内、これより医務室へ出向します♪」

 

 

 目を輝かせながら川内は執務室を後にした。閉じられた扉越しに廊下を駆けてく音と共に「わーい!」という声が聞こえる。

 

 

「申し訳ありません提督…、姉さんが失礼な態度を…」

「気にせんでええ。神通も休んだ後、準備しとき?」

「はい……」

「飛鷹に暁、響もお疲れさんや。部屋に戻って良いで」

「了解、失礼するわ♪」

「今夜は楽しみにしてるわ、司令官♪」

「失礼します」

 

 

 神通、飛鷹、暁、響の4人も退室する。

 

 

「愛宕と高雄も部屋に戻って良いで? ワイは横須賀へ出す報告を纏めておくさかい」

「そうはいきません。秘書官なんですからお手伝いします」

「3人でやれば早く終わるわ」

「…2人共有難な、御言葉に甘えるわ」

 

 

 高雄姉妹の好意に感謝し、3人は作業を始めるのだった。

 

 因みに、『十六夜亭』とは大阪警備府の近くにある高級料亭であり、艦娘や普通の提督では一生に1度行けるか解らない程の有名な店であったりする。

 

 

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カムラン半島 隠れ基地

 

 

「桜達を見られたか……」

「しかも一部とはいえ、武装までもとは…」

 

 

 東部オリョール海を開放したにも関わらず、智明達の表情は明るく無かった。

 何故なら桜達、春夏秋冬艦隊の姿を人類勢力が率いる艦娘達に見られたからだ。

 現在、智明と芳彦は夕張と不知火の4人で今後の対策を考えていた。

 

 

「使った武装は何だっけ?」

「爆雷投射機付属13.5cm単装砲から発射した電撃弾と羽衣弾に索敵妨害煙幕弾、そして電撃機雷の4つね」

 

 

 智明の問いに夕張が答える。

 『羽衣弾』とは、強力な粘着力を持った霧状の気体を出し敵機を操縦不能にする対空弾であり、飛鷹の流星を墜落させたナニカの正体である。

 

 

「ウミガラスやソードフィッシュを見られずに済んだのは行幸だな」

「そうですね、桜達は良くやってくれたよ」

「だが、今後確実に向こう側の艦娘が調査に来るな」

「それは確実でしょうね。ワ級だけの艦体にノーマルクラスなのに未知の武装を持っているのだから」

「今後は深海棲艦メンバーの出撃は控えた方が得策でしょうか?」

 

 

 頭を抱える智明達に不知火が提案する。

 

 

「それが一番だが、東部オリョール海のボス艦隊を撃破出来た以上、残党を壊滅させねぇと代わりがまた現れちまう」

「沖ノ島海域攻略の為の武装開発や改造強化で資材をまた大量に消費するだろうし、資材集めをしないといけないから桜達、貨物輸送艦を留守番にするのも効率が落ちるわ」

「なら、司令が前に行った様に偵察機による哨戒を行いながら出撃を行うしか無いのでは?」

「不知火ちゃんの言う通りだね。でも偵察機だと向うにも発見される可能性が高いからグランパスやフリッパーでの海中哨戒が確実かな? でも”アレ”の開発が終われば艦載機だけでも問題無くなるだろうけど」

「『小型レーダー潜水ブイ』の事ね? 明日位で完成するから後は設置してしまえば攻略した海域での艦船の動きは丸分かりになるわ」

 

 

 夕張の報告で芳彦達の空気は少し明るくなる。これで自分達以外の艦隊が海域内に進入した際に、その動向を知る事が出来る。

 しかし、智明の表情だけは晴れていない。

 

 

「実は問題はそれだけじゃ無いんだ」

「まだあるのか?」

「はい。こちらで集めた資材を海底基地へ運んだコーバックの報告なんだけど…」

 

 

 コーバックの報告によると最近、鎮守府海域で敵潜水艦の姿を良く見掛けるらしい。その中にはエリートクラスやヨ級もおり、始めは海底基地を探しに来たのかと警戒していたが、海底基地がある海域を連中は気付く事無く素通りしているらしい。

 

 

「鎮守府海域ってトモ達が制圧したんじゃないのか?」

「全滅させたのを確認したから南西諸島に来たからね、別海域から海中深く泳いで侵入したんだと思う」

「それで、連中の目的は?」

「進路先には日本があるから本土の鎮守府へ奇襲を仕掛けるのではないかと考えてる」

「それが本当なら都合が良いのでは? 酷い言い様になりますが、日本国側の鎮守府が近海の潜水艦掃討に手を回せば此方の調査に来る回数や艦娘の数も減るでしょう」

「不知火の言う通りね。ともやブティク達をまだ知られる訳にはいかないし、でも海底基地を発見される危険性もあるから動きは見張っておかないと」

「暫くは偵察を出す必要があるね…」

 

 

 その後、明日完成予定の小型レーダー潜水ブイを制圧海域に設置する作業と敵潜水艦の動向確認を優先事項とし、設置作業が終了次第、東部オリョール海の完全な制圧を行う事となった。

 

 しかし、智明達は失念していた。

 日本海軍の基地は本国だけでない事を…

 

 

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トラック泊地

 

 

 南西諸島南部に位置するトラック諸島。

 現在はチューク諸島と呼ばれ、ミクロネシア連邦のチューク州の州都でもあるこの諸島に日本国海軍の基地が置かれている。

 何故、国外に日本国籍の基地が置かれているのかというと、深海棲艦に対抗出来る主戦力である艦娘を保有している国は殆どが大国であり、そう多く無い為だ。防衛力を持たぬ国家は艦娘を保有している国に対し、希少金属や燃料といった資源や土地等を提供する代わりとして、艦娘という戦力を求めたわけだ。

 こうして、嘗て太平洋戦争時に地理的重要性と太平洋の荒波から環礁によって隔離された広大な内海という泊地能力の高さから“日本の真珠湾”ないし“太平洋のジブラルタル”とも呼ばれ、旧日本海軍の一大拠点が建設された基地が現代になって再び蘇る事となったのだ。

 各鎮守府や基地は、規模や周辺海域の深海棲艦の勢力規模によって配属される提督や艦娘の数が異なり、着任したばかりの新米提督から中堅提督まで、経歴から保有する艦娘までバラバラな実にバラエティに富んだ提督達が勤めている。

 ここトラック泊地は南西諸島海域の最前線基地であり、南方海域の深海棲艦達との激戦が続くラバウル方面への兵站拠点としても重要な役割を有している事から、小規模の諸島でありながら3名の提督がトラック諸島周辺の海域防衛の任務を勤めている。

 

 

「御堂君、御堂君。横須賀から指令が来たよ!」

「…既に確認済みだ。それと君付けは止してくれ」

 

 

 チューク州の中心地であり、日本統治時代には春島と呼ばれていたウェノ島に建てられているトラック泊地の本舎にて、流れる様に長い桃髪を揺らしながら豊満な体つきの女性提督が短い黒髪をオールバックにした三白眼の青年提督へ声を掛け、呆れた返事を返させる。

 

 女性提督の方はまだ20代前半で着任して日が浅いが、艦娘達一人一人と心を通わせ合い、最も艦娘達から信頼を受けている提督として知られている斑鳩 優梨子(いかるが ゆりこ)少佐。駆逐艦と軽巡洋艦による高機動雷撃戦を得意としている。

 青年提督の方は当時、10代後半ながらも『第2次海洋大戦』に強化兵として志願し、深海棲艦達による大反攻戦の地獄を生き延びた御堂 蒼真(みどう そうま)大佐。現在は重巡洋艦妙高型の姉妹を主力に置いた『鴉艦隊』を率いている。

 

 本来、上官に対して気安い言葉など掛け様ものなら厳罰が下るのだが、提督に対して気安く話し掛ける艦娘が多い為にそこまで五月蠅く言われなくなった。因みに斑鳩少佐が21歳、御堂大佐は26歳である。

 

 

「カムラン半島海域に新種のワ級が出現したそうだな」

「ノーマルクラスなのに武装してるって! 怖いよね~」

「指令書によるとパラオ泊地の提督達と連携して新種のワ級を捜索しろとの事だが…」

「司郎君と辰巳おじさんのどっちが来るのかな?」

「さぁな、それより皆守少将の元に行くぞ。俺達トラック泊地からは誰が向かうか決めなければならん」

「りょうか~い♪」

 

 

 御堂達はこのトラック泊地の最高責任者であり、空母の運用では各泊地に勤める提督達の中で1,2を争う実力を持つ皆守 宗一郎(みなかみ そういちろう)少将がいる執務室へ向かう。

 

 南西諸島海域に陣取る水野・函南連合艦隊と人類勢力との新たな接触迄、時間は刻一刻と迫っていた。




現状報告
・深海棲艦の新たな動きを察知した!


用語
『第1次海洋大戦』
深海棲艦が出現したその年に人類が行った大規模掃討戦。核以外のあらゆる兵器が用いられたが、深海棲艦達の呪術的防御の前には全くの無力だった。この大戦によって戦争に参加した兵士の80%が戦死、海岸部の町の殆どが壊滅し、逃げ遅れた市民は皆死亡した。

『第2次海洋大戦』
艦娘が誕生する前に行われた世界規模の反攻作戦で、深海棲艦達の呪術的防御を打ち破る力を武器に付与する霊装化技術が発達し、兵士の強化手術が成功した事から行われた。序盤、少なく無い犠牲を払いつつも勝ち続け、太平洋中央まで深海棲艦達を追い詰めたが、別海域に突如として軍団規模の大群が現れた事によって戦線が崩壊。出撃した強化兵の殆どが一般兵を逃がすために戦死した。


アンケートにお答えくださった方々、どうも有り難う御座いました。
話の都合上、今回は新たな艦娘を登場させることは出来ませんでしたが次回登場するので、どちらが登場するかお楽しみに。


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