「あれが深海棲艦か……」
水平線の向こうにポツンと黒い影がプカプカと浮いている。
擂り粉木かバットを太くした様な形で真っ黒な体色であるその物体は『駆逐艦イ級』。
はぐれなのか一匹狼なのか1隻だけで海を漂っていた。
水面から頭だけを出して見ているためか相手は智明に気付いていない。
「資材の確保とこれからの戦いに慣れる為に狩らせて貰うよ」
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前日
妖精の案内で智明は他の妖精達と対面した。
夕食時であった為、一部を除き食堂に集まっていたのだ。
妖精達は皆人が良く、智明は直ぐに打ち解ける事が出来た。
共に夕食を済ませた後、妖精達に連れられて施設を巡って行った。
智明達がいる施設は海底基地であり、小さな無人島の内部を刳り貫いて建設したモノらしい。海面から下に大部分の施設が揃っているが、島の上にも飛行機の発着場や港、田畑が揃っており、それらは島の外側からは見えないように工夫されている。
基地の施設としてはドック、艤装の整備室、妖精や艦娘、提督等が住むであろう住居施設、食堂、浴場、資材・武器倉庫等、基地として十分な施設が完備されていた。
しかし…
「資材が空っぽ!?」
案内された資材置き場には鋼材やボーキサイトといった機体の整備や修復に用いる資材が全くと言って良い程無かったのだ。
一応、弾薬はあったのだが、鋼材等と比較して多いだけであり2,3回の出撃で空になるのは明らかだ。
唯一、燃料は海底基地の周囲が油田となっており持続的生産は可能であった。しかし、燃料はこの施設の運用にも用いられるので無駄遣いは許されない。
「燃料は良しとして、他の資材を集めないといけないのか……」
与えられた知識では、資材は国から支給されるか遠征で資材の集積所から集めることで手に入れるらしい。しかし、この施設は国どころか外部との繋がりは断絶されていると妖精達から言われた。つまり……
「僕1人で遠征して地道に集めるしか道は無いか……」
出撃できる船(人員)が自分しかいない為、今後資材集めに苦労するであろう事が用意に想像出来て肩を落とす智明、そこへ肩に載せていた妖精が彼の首をつついて呼び掛ける。
「何? へ? 資源精製装置?」
その言葉に智明は与えられた施設の情報を思い出す。
「確か……深海棲艦を倒した際の残骸から資材を造る機能だっけ?」
智明の問いに妖精達がうんうん頷く。
海底基地にある施設に深海棲艦を資材に還元する装置がある。原理については情報に入っていなかったので全くもって不明であるが、深海棲艦が倒せば倒しただけ素材の元になるのだ。
かくして今後の活動存続と確実に起こるであろう深海棲艦との戦いに備える為、智明は深海棲艦狩りに出撃するのであった。
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「後ろは獲った、相手がこっちを気付いていない今がチャンスか…」
智明は53cm魚雷を射出口に装填する、目標はイ級のスクリュー部位。
武装の特性上、無駄打ちは御法度。使う魚雷は駆逐艦を沈めるなら破壊力は十分、されど自分は戦闘経験などゲームでしか行った事の無い素人。
果たして上手くいくか?
「良し…、行けっ!!」
ポンプジェット式の53cm魚雷がイ級へと奔っていく。同時に智明は潜水を開始してイ級の下方へ進んでいく。1撃目で仕留め切れなかった場合に真下から襲撃して確実に仕留める算段だ。
放たれた魚雷にイ級は気付く事無く命中、爆発と共に高い水柱が上がる。
2発目の魚雷を装填しながら海中で様子を眺めるとバラバラになったイ級の残骸が沈んでいく。どうやら初めてである魚雷攻撃は見事目標に命中し、撃沈出来た様だ。
智明は手持ちの回収ボックスにイ級の残骸を詰め込む。
「1隻だけじゃこれだけか…、もっと集めないと」
持ってきたコンテナボックス内を眺めた智明は次の獲物を求めて進み出した。
数時間後…
「結構、集まってきたな…」
近くにあった製油所跡地で艤装に乗り込んでいた妖精達と昼食を取りながら、智明はコンテナボックス内の集積量を確認する。
今回は自分の主力となる魚雷攻撃に慣れるために1隻のみで行動している駆逐艦のみを不意打ちの形で襲撃している。基本は背後から、そして時折海底沿いに進んで真下から攻撃した。何れも相手は気付く事無く撃沈してくれた為、魚雷の無駄撃ちは今の所無い。
順調に深海棲艦を撃破してその残骸が溜めていっており、途中で見付けた天然資源の採掘場からも資材を確保出来た。
「天然資源の採掘場も見付けた事だし後は……!」
視線の先に新たな敵影を確認する。
「新たな獲物だ、行くよ皆!」
妖精達が艤装に乗り込み、智明は潜水を開始して接近する。
(駆逐艦イ級にロ級の2隻か…、後方から一気に仕留める!!)
これまで1隻のみの時だけ攻撃していた智明。しかし将来、艦隊と戦闘になるかもしれない可能性を考えると1対複数の戦闘にも慣れないといけない。
十数回の戦闘で魚雷攻撃にも慣れてきた、魚雷2発を装填し、敵艦隊の水面下後方から接近する。
(発射!!)
イ級とロ級へ向けてそれぞれ1発ずつ魚雷が向かっていく。
位置の関係上、後ろであったイ級が先に被弾し爆発する。イ級は轟沈するが攻撃されているに気付いたロ級は回避する。
「やはり簡単にはいかないか…」
智明の姿を確認したロ級は反撃に5inch連装砲を放ってくるが直ぐさま潜行し回避する。
「今度こそ…」
海底深く潜行する智明を見失ったロ級、武装は5inch連装砲のみの為水中へ逃げた彼を攻撃できない。ロ級の真下を取った智明は再度装填した魚雷を発射した。
真下からの魚雷攻撃でロ級は木っ端微塵になる。
「よし……」
残骸を回収する為、浮上する。コンテナボックスを開いて残骸の一つに手を伸ばす……
その時、目の前に水柱が昇る。
「!!? うわあっ!!」
突然の事態に驚愕するや否や右肩を被弾する。専用服の御陰で腕は千切れずに済んだが袖はボロボロで右腕はだらんと垂れ下がり上げる事が出来無い、どうやら折れたようだ。
骨折の痛みに顔を顰めながらも攻撃が来た方向を向く。向かって来るのは3隻、駆逐艦イ級、ロ級、ハ級である。しかし、1隻だけ様子が違った。
「…エリート艦か?」
イ級とハ級の後方を追って進んでくるロ級は赤色のオーラを纏っている。智明は知識からそれが通常の深海棲艦を越えた力を持つエリート艦であることが分かった。
「エリート艦含む3隻か……、残骸回収に気を取られていた僕が悪いとはいえこれは……」
本来、イ級、ロ級は魚雷を武装していない。しかし強化されたエリート以上になると魚雷や爆雷を武装するようになるのだ。この状況でハ級が21inch魚雷前期型、そしてロ級エリートが21inch魚雷後期型を武装しており対潜攻撃できる敵が2隻いるのだ。竜王の速度や旋回能力があれば駆逐艦の魚雷攻撃を回避するのは容易いがそれを扱う自分自身は今日から戦いを始めた素人、これまでの不意打ちではない真っ向勝負をすることになる。
「逃げる方が良いのだろうけど……、攻撃されたままってのも…癪だ」
智明は潜行を開始し、敵からの攻撃の様子を見る。
連装砲の攻撃が届かない海中へ逃げた智明を攻撃する為にロ級エリート、ハ級が魚雷を放ってくる。
「サポートを頼むよ、皆!」
敵の攻撃に対する情報処理を搭乗している妖精達に任せ、自身は攻撃と回避に専念する。
レーダーに映った魚雷の速度等の情報が脳内に流れてくる。智明はロ級の魚雷に対しこちらも残り少ない魚雷を発射し、大きく横へ旋回した。放った魚雷は敵の魚雷へぶつかり大きな水柱を打ち上げる。
敵艦隊が智明を見失い、彼の後ろを通り過ぎようとするが彼はその隙を見逃さない。
アクロバットに上部旋回し、敵艦隊へ魚雷を放つ。魚雷は駆逐艦たちへまっすぐ進んでいくが、気付いたロ級エリートが回避行動を始め、イ級、ハ級もそれに習う。ロ級エリート、イ級は回避するがハ級が被弾、航行不能になった。
「くそっ! 2発外した」
敵が撃って来たので直ぐさま潜行する。残る魚雷は1発、他にも武装はあるが練習しているのは53cm魚雷のみ。1隻を航行不能にしたと言っても1対3、逃げるのは癪だからと挑んだがリスクが高い。
「一瞬でも気が抜けないな……」
智明は全速力で向かってくる2隻の元へ突き進む。
牽制に最後の魚雷を放つ、戦闘を進んでいたロ級エリートは回避行動に入り大きく進路を逸れたが命中する位置にいないイ級はそのまま直進してくる。智明は体を斜めに傾け、イ級とすれ違う形にする。
「喰らえ!!」
すれ違い様に『66cm近接水中ミサイル』を2発、イ級に撃ち込む。智明の背後でイ級は大爆発を起こし轟沈した。
「大盤振る舞いだ!!」
レーダーで捕捉しているロ級エリートへ虎の子のUSMを発射する。空高く飛び立った対艦ミサイルはロ級に向かって突き進み、ロ級は未知の兵器であるUSMに戸惑いながらも撃ち落とそうと5inch連装砲を放つが当たらない。USMはそのままロ級エリートの船体に飛来して爆殺した。
ロ級エリートが完全に撃沈されたのを確認した智明は航行不能で動けないハ級に66cm近接水中ミサイルで止めを刺した。
「勝ったか…」
周囲に敵がいないかレーダーで確認した智明は水面に力無く浮かび上がり空を眺めた。いきなりの対複数戦に勝利できた自分にホッとしながら、もしも爆雷装備の駆逐艦や潜水艦が敵艦隊に含まれていたらどうなっていたかと考え恐怖した。
「人生、何が起こるか分からない……」
死んだと思ったらいきなりこの世界で目が覚め、体は改造されて深海棲艦と戦う事を余儀なくさせられていた。逃げることも選択肢にあるであろうが、この世界に身寄りは無い。
「生き残りたければ戦うしかないか……」
智明は潜水して深海棲艦の残骸を回収し、基地へ帰還した。
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海底基地
コンテナボックスの中身を資源生成装置に入れ、起動する。
初めてとなる深海棲艦狩りの成果はコンテナ1箱(コンテナ1箱に駆逐艦30隻分入る)に駆逐艦4隻分だった。
資源生成装置がガタガタと大きな音を立て、資源搬出口から鋼材のインゴットやボーキサイト、弾薬がコンベヤで流れてくる。精製された資源は自動的に資材置き場に搬入されていくので智明は同乗した妖精達に感謝の言葉を告げてから被弾した右腕の治療の為、メディカルルームへ行った。
本来、艦娘がダメージを負った場合、浴場形式の場所で入渠し修復するのだが、この施設ではメディカルルームにある入渠カプセルに入ることで高速修復が可能となる。
智明がカプセルに入るとナノマシンが折れた右腕に注入され、たちまちの内に骨が繋がって青黒くなっていた肌も綺麗になっていた。
その後、用意していた私服に着替え、資材置き場へ向かい成果を確認する。
「今回の成果から艦体の修理及び補充する弾薬を差し引いて……、残りはこれっぽっちか…」
支出分は腕の修復に使い切った53cm魚雷、66cm近接水中ミサイル3発とUSM1発分。ギリギリ黒字となる結果であったが、今後新しい船を所属させると火の車になりかねない状況に智明は溜息を吐いた。深海棲艦にも通用するホーミングミサイルはやはり強力な分、費用が大きかった。今後、使用するのは極力控えた方が良さそうだ。
「暫くは1人で頑張るしかないかな……?」
今後のプランを考えながら智明は食堂へ向かった。
現状報告
・海底基地周辺の深海棲艦を撃破した!
智明がいる海底基地の妖精達は武装の開発・整備は勿論、施設の整備、果ては食事の用意まで出来る万能さん。
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