嗚呼、「黄泉の艦隊」が往く   作:影鴉

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今回遂にブラス達、元深海棲艦組と蒼真達、鴉艦隊が交戦。
そして新たな情報を知った鎮守府サイドの話です。


 衝撃

カムラン半島

 

 

 水平線から向かって来る艦娘達を眺めながら、ブラスはフード付きコートを風で靡かせる。

 

 

「相手ヲ殺サナイ様ニ勝ツ、中々難シソウネ」

 

 

 コーバックが予め発進させておいたフリッパーが向かって来る艦隊を偵察し、編成を確認して戻って来た。

 

 

「ヲ、ヲヲヲ、ヲ!」

「重巡洋艦3隻二軽空母1隻ト駆逐艦2隻、ソシテ武装シタ提督ト思ワレル男ガ1人…」

 

 

 相手の編成は重巡洋艦妙高型の妙高と那智、足柄、軽空母千歳型の千代田、駆逐艦白露型の白露に時雨の計6隻、ここまでは良い。だが、武装した只の人間が同行しているのがブラスは気になった。

 確かに、艦娘達の士気を上げる為に出撃の際、同行する提督はいるがそれでも戦闘時は戦闘海域から離れた安全な海域で戦況を見守り、時に無線通信によって指揮を取る。だが、男は武器を手に艦娘達と共に向かって来ている。智明に教えて貰った人類側の歴史で、艦娘がまだ誕生していなかった頃、深海棲艦と戦う為に人間がその体を霊装化技術で強化して強化兵として戦っていたとあった。第2次海洋大戦で殆どの強化兵が戦死したらしいが、その強さは深海棲艦達を太平洋まで追い込む程であったと云う。ならば相手は是まで戦った深海棲艦に比べ、圧倒的に強いと言う事になる。だとしたら早い段階で無力化しないとかなり危険だ。

 向うの偵察機が来ない内にブラスはコートの前を閉じ、フードを深く被ってステルス機能を発動する。するとブラスの姿が溶ける様に消えていった。

 

 

「多分、アノ男ガ司令塔ナ筈。ナラ男ヲ抑エテシマエバ私達ノ勝チヨ」

 

 

 姿を消したブラスが皆に呼び掛ける。

 

 

「私ガ抑エルワ。其レ迄持チ堪エテ!」

「レレ!!」

「カ、カカ、カ!!」

「ヲッヲヲ!!」

「ト、トトー!!」

 

 

 ヴァーチ達が鬨の声を上げ、赤や黄、青いオーラが炎の様に噴き出す。

 艦娘達はまだ遠くにいるが、軽空母の千代田が艦載機を発艦させており、ハクも迎え撃つべく自身の艦載機を発艦させた。

 ハクの艦載戦闘機と千代田の零式艦戦52型が接敵し、青空の下、何度も旋回したり、上昇、降下して激しいドッグファイトを始める。その間を抜けて、艦上攻撃機の天山と艦上爆撃機の彗星が此方へ向かって接近して来る。

 

 

「対空戦闘用意。サァ、行クワヨ!!」

 

 

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ブラス達を発見する十数分前

 

 

 蒼真率いる鴉艦隊はホバークラフトに接近中であった敵艦隊を殲滅後、葛葉艦隊が到着したと連絡を受け、出撃を開始した。

 

 

「良いか? 俺達の目的は新種と思われるワ級の発見及び捕獲だ。捕獲である以上、戦闘において相手を沈めない様にする必要がある。今迄以上に難しい戦闘になると考えておけ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

 鴉艦隊は白露、時雨の2人を前に、その後ろを妙高、那智、足柄の3人が蒼真と千代田を囲む様に陣形を組み海上を進んでいた。

 

 

「しかし、凄いね提督は」

 

 

 航行中、時雨が蒼真へ振り返りながらそう語り掛ける。

 

 

「フラッグシップクラスの雷装巡洋艦チ級を一太刀で斬り捨てるんだもの」

「うむ、放たれる砲弾や魚雷を舞う様に避けて斬り込んだあの姿、見事だったぞ」

「格好良かったわ♪」

 

 

 蒼真達が交戦した艦隊は鎮守府海域で通商ルートを破壊する為に侵攻していた侵攻打撃艦隊であった。目的地である鎮守府近海へ向かう途中、蒼真達の船を見付けたのだろう。

 鴉艦隊は直ぐ様これを迎撃、フラッグシップとエリートのみのクラスで編成された艦隊であったが、誰も被弾する事無く勝利を収めた。

 その際に蒼真が見せた、部下の艦娘達にとって初めて見る強化兵の戦い方。

 

 敵の攻撃を紙一重で躱し、一瞬の内に接近して斬撃や銃撃を叩き込んで相手を沈め、

 

 敵が集まっている個所へ自ら突貫し、混乱させた敵に同士討ちを促す。

 

 第2次海洋大戦で生き残り、鍛え上げられたその実力は衰えていなかった。

 

 

「お前達、感心するのは良いが、今回の任務はワ級を見付ける事だ。俺を見ていないで周りを見回せ。偵察機は向こうに確認され次第、逃げられる恐れがあるから視認での索敵しか出来ないんだぞ?」

 

 

 褒めてくれるのは嬉しいが、今大事なのは任務を遂行する事。蒼真は冷静に部下の艦娘達に索敵を呼び掛けた。

 

 

「ていとくぅー、前方に深海棲艦と思われる影が見えるよ!」

 

 

 索敵を続けて十数分後、そろそろ夕方近い時間帯になる頃で白露が声を上げる。

 

 

「遂に見つけたか? 千代田、艦載機の発艦準備をしておけ。但し、俺が合図するまで飛ばすな! 発艦は可能な限り接近してからだ」

 

 

 自分達が見えている以上、向こうも此方が見えて居る筈なのだが相手が動く様子は無い。蒼真はスコープバイザーの望遠機能を使って編成を見る。

 

 

「何だ、これは……?」

「提督、如何しました?」

「数は4隻、だが編成が有り得ん」

「何だ、鬼でもいたか?」

「鬼の方がまだマシかもしれん。戦艦レ級エリートに空母ヲ級改フラッグシップ、潜水艦カ級フラッグシップと軽巡洋艦ト級フラッグシップだ」

「嘘でしょ!? 戦艦レ級エリートに空母ヲ級改フラッグシップですって!!?」

 

 

 蒼真が言う敵艦隊の編成に皆が驚愕の表情になる。

 戦艦レ級は現在、最も激しい戦闘が繰り広げられている南方海域の奥、サーモン海域北方でのみ出現している深海棲艦であり、この海域で出現するなどお門違いにも程がある位、圧倒的な力を持っている。戦艦でありながら鬼や姫と同等の力、砲撃・雷撃・航空・対潜と、あらゆる攻撃手段を持ち、ベテラン提督率いる艦隊すらも歯牙に掛けない程なのだ。

 空母ヲ級改フラッグシップもサーモン海域北方(まれにこの南西諸島海域の沖ノ島沖でも目撃される事がある)に出現し、鬼や姫では無い空母系の深海棲艦の中でトップに君臨する力を持っている。何より夜間になっても艦載機を飛ばす事が出来るのが圧倒的アドバンテージとなっている。

 蒼真自身も第2次海洋大戦で深海棲艦達が最後に仕掛けてきた大反攻の際にレ級を目撃したが、その圧倒的な力を前に仲間だった強化兵達も成す術無くバラバラの骸に変えられていく様子がその目に焼き付き、今でも忘れる事が無かった。

 冷や汗が流れ、脚が震える。その事に気付いた蒼真は両頬を何度も叩き、意識をハッキリさせった。

 

 

「……丁度良い。大戦で死んだ仲間の仇を取るチャンスだ」

「提督?」

「ワ級で無かったのは残念だが、奴等は全部この海域で居る筈の無い艦種。新種のワ級とも繋がりがあるかもしれない」

「と言う事は捕えるのだな?」

「そうだ。カ級やト級は兎も角、全力でぶつかっていっても中々沈まない連中だ」

「あら? なら本気でいっちゃって良いのね?」

「千代田、艦載機を飛ばせ! 奴らの武装を破壊し、航行不能にさせろ!!」

「了解! 攻撃隊、発艦開始よ!!」

 

 

 千代田が艦載機である零式艦戦52型、天山、彗星を次々と発艦させていく。それに応じて向うのヲ級改フラッグシップも艦載機を飛ばし始め、戦闘を飛んでいた零式艦戦52型部隊が敵戦闘機と激しいドッグファイトを開始した。

 

 

「良いか? 回避に重点を置いて戦え! レ級の砲撃は一撃で体を木端微塵にするぞ!」

「「「「「了解!!」」」」」

「鴉艦隊、往くぞ!!」

 

 

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カムラン半島 隠れ基地近海

 

 

「主砲、撃てえっ!」

 

 

 扶桑の掛け声と共に35.6cm連装砲が轟音を響かせながら火を噴く。放たれた砲弾は数キロ離れた的を木端微塵に粉砕した。

 

 

「目標ニ命中。全弾命中デ外レ無シ、御見事デス」

「有難う御座います、ブティクさん♪」

 

 

 現在この海域にいるのはブティクと扶桑の2人。東部オリョール海のボス艦隊撃破時に捕えられていた所を救出したのがこの扶桑だ。救出時は気絶していたのでそのまま基地へ連れ帰って介抱し、起きた所で事情を説明した。

 最初こそ「深海棲艦との合同艦隊に組み込まれるなんて……不幸です」とブティク達にとって失礼な事をブツブツ呟いていたが、謝罪後に彼女達とは直ぐに打ち解け、今は艦隊メンバーと肩を並べられる様に鍛錬を繰り返していた。

 今日もブティク同伴で砲撃練習を行っており、その正確な砲撃にブティクは只々感心していた。

 

 

「シカシ、ソノ6基モ搭載サレタ35.6cm連装砲ハ巨大ナ艤装モ相マッテ圧巻デスネ」

「主砲の火力は自慢できるんですけど、これだけ大きいと速度が出なくて…」

 

 

 扶桑の外見は肩出しの巫女服で、下はハイビスカスの花弁を象ったミニスカート。長く伸ばした艶やかな黒髪には、扶桑特有の特徴的な艦橋を模した髪飾りを着けている。しかし、何より特徴的なのはその巨大な艤装であろう。

 扶桑型の戦艦はその6基もの砲塔を搭載している為、艤装部分の占める割合がとても多い。また、艤装に合わせて配置された弾薬庫等の位置の関係上、全体の5割以上が被弾危険個所となっていたのである。

 ただし、扶桑と同時代の戦艦の中では門数が10門の艦も珍しく無く、6基以上の砲塔を搭載した艦も存在する為、扶桑型が特別変わっていたという訳では無かったりする。

 

 

「確カニ、低速度デコウモ艤装ガ大キイト爆撃機等ノ良イ的二ナリマスネ…」

「うう……、近代化改修が欲しいです…」

 

 

 納得するブティクに扶桑は弱気な声を上げる。扶桑の弱点は史実において2度に亘る近代化改装で改善されているので、そう言うのも当然である。

 

 

「大丈夫デスヨ。強化改造デ近代化改修ヨリモモットぐれーとあっぷ出来ル筈デス」

「強化改造ですか?」

「ハイ。私達ノ艦隊二雷ト電ガイマスヨネ? 彼女達ハ強化改造ニヨッテみさいる駆逐艦ニ成リ、戦艦れべるノ火力ヲ持ツ様ニナリマシタ」

「!? それは凄いです!! それなら私も火力はそのままで高速戦艦に成れるんですね?」

「夕張ト相談シナイト解リマセンガ、希望シタ能力ハ持テル筈デスヨ?」

「あぁ、これで火力だけの戦艦と言われずに済むのですね……」

 

 

 扶桑は恍惚とした表情で空を見上げる。妹共々不幸不幸と言われてきた日々から解放されるのだと思うと胸が高鳴ってしょうがない様だ。

 自身の手を重ね、目を輝かせながら空を見ていた扶桑はふと、見慣れない物体を見付ける。

 

 

「……アレは何でしょう?」

「如何シマシタ、扶桑?」

 

 

 空を見ながら怪訝な表情になった扶桑に、ブティクは首を傾げる。そんな彼女に扶桑は見付けた物体を指差しながら教える。

 

 

「アレです。鳥にしては何か変です」

「鳥デスカ……?」

 

 

 扶桑が指した方を向くと、確かに黒い物体が空を羽ばたきながら飛んでいた。

 

 

「……眼が、一つしかない?」

 

 

 目を凝らして良く見ると、その黒い物体は鳥の様な形状をしているのだが、頭部の前方に白い眼が一つあるだけで嘴といった鳥の部位が見当たらなかった。そして何より、生物の気配を感じない。

 

 

「拙イ!?」

「ブティクさん? キャッ!?」

 

 

 ブティクは直ぐ様、対空ミサイルであるIDASを黒い物体に向けて射出。飛んで来るIDASを避け様と黒い物体は羽ばたくが、追尾機能があるIDASは既にロックされている相手を逃す筈も無く命中。爆散して散り散りになった。

 

 

「ブティクさん、何を?」

「あれハ鳥デハ無イワ。龍驤達ガ艦載機ヲ持チ運ブ時ニ使ッテイル力ト同ジ感ジガシタ」

「龍驤さん達が?」

 

 

 黒い物体が爆散した後、紙切れの様なモノがヒラヒラと落ちてきた。ブティクはその紙切れを一枚手に取り見てみると、焦げながらも白く残った部分に模様の様なモノの跡が描かれていた。

 

 

「扶桑、今日ハ帰リマスヨ」

「先程の鳥の様なモノは拙いのですか?」

「偵察機ノ様ナものダト思イマス。新シイノガ来ナイ内ニ基地ヘ帰還シマショウ」

「わ、分かったわ」

 

 

 空を警戒しながらブティクは扶桑を連れて、急いで隠れ基地へ戻って行った。

 

 

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カムラン半島近海 葛葉艦隊がいる海域

 

 

「………………」

 

 

 辰巳は式神が爆散するまでの見た光景を思い返していた。

 

 

「未確認ん鬼と親しげに話をしいやおいやした扶桑。ほんで鬼が使こうてきた対空ミサイル……」

 

 

 先程まで見ていたのは白昼夢であったと言いたい程の信じられない光景。自分はとんでもない光景を目撃してしまったのでは無いだろうか?

 

 

「こんまま探索を続ければ、なん時か(何時か)はかな鬼や扶桑とも会えるやろう。やけど、こんままほな(このままでは)絶対に敵対しいや出会う事になる。もし、戦う事にならはったら………全滅しはる」

 

 

 辰巳の背筋に冷たいものが走る。蓮に教えられた霊装化したミサイルを使う男と新種のワ級との繋がりは解らないが、ミサイル兵器を使った新種の鬼は絶対にワ級と繋がりが有る。そしてあの新種の深海棲艦達はミサイルという近代兵器を使用してくると云う事。第2次大戦時レベルの兵器しか持たない艦娘達では攻撃範囲に入る前にミサイルを射たれたら全滅必至。

 辰巳は監視台から飛び降り、操舵室へ駆け込む。

 

 

「葛葉大佐?」

「撤退や」

「……え?」

 

 

 突如、焦った様子で操舵室に入って来た辰巳にクルー達は深海棲艦が攻めて来たのかと思った。それでも辰巳率いる艦娘達の実力なら問題無いと考えており、彼女達が出撃するから安全な海域まで移動しろと言うのかと思っていた。

 しかし、辰巳が指示したのは撤退。

 

 

「どうしたのですか、大佐? 急に撤退なんて…」

「早急に聞かいないとあかん用事が出来やはった」

「用事ですか?」

「今後ん戦いに大きく係わる問題や。急げ!」

「は、はい! 全速でパラオ泊地へ帰還します!!」

 

 

 何か鬼気迫る様子である辰巳に気圧された操舵士はホバークラフトの進路をパラオ泊地に向け、発進させた。その様子を見た辰巳は安堵した様子で搭乗室へと戻って行った。

 

 

「提督?」

「起きとったんか、雲龍?」

 

 

 辰巳が搭乗室の扉を開けて入ると雲龍が声を掛けてきた。その膝上に眠っている駆逐艦睦月型1番艦 睦月(改)と2番艦 如月(改)の頭を乗せ、2人の頭を撫でながら尋ねてきた。

 

 

「何処へ向かっているの? 目的海域には到着していたんでしょ?」

「問題が発生どした。今はパラオ泊地へ撤退したはる。」

「問題?」

「機密事項なんや、悪いがおせる(教える)事がまや(まだ)出来ーひん」

「”まだ”って事は何時かは教えてくれるんでしょ?」

そんな(そういう)事になる」

「なら構わないわ。機密事項なんだもの、仕方ないわ」

 

 

 そう言って辰巳に微笑む雲龍。自分の秘書艦に伝える事が出来ない事を申し訳なく思いながらも、辰巳は雲龍の気遣いに感謝した。

 

 

「有難う、雲龍」

「それよりも、今寝ている娘達になんて説明しようかしら?」

「そやな、折角ん出撃やったんに…」

 

 

 そう言って辰巳と雲龍は未だ寝ている睦月と如月、航空巡洋艦最上型1番艦 最上(改)と2番艦 三隈(改)、揚陸艦特種船丙型 あきつ丸(改)の5人を見渡しながら、どうしようかと頭を悩ますのであった。

 

 

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カムラン半島

 

 

 オレンジ色の夕日が水平線へ沈み始めようとする中、激しい砲撃、雷撃戦が繰り広げられていた。

 

 

「レレ! レ!」

「第一・第二主砲、斉射、始めます!」

「敵は右舷だ! しっかり狙え!」

「んにゃ!? んにゃー!!」

 

 

 妙高、那智、足柄の3人がヴァーチに向けて20.3cm(2号)連装砲を斉射するが、ヴァーチは低速ながらもその小柄な体でちょこまかと縦横無尽に動いて砲弾の直撃を避けていた。更に時折ヴァーチが飛ばす爆撃機が妙高達の足元に爆弾を投下して照準を狂わせる為、当てる事が出来ないでいた。

 

 

「もぉーっ、当たってよぉー!」

「ここは譲れないんだ」

「カ、カカ!」

「トート、ト!」

 

 

 白露、時雨の2人が61cm四連装(酸素)魚雷による雷撃でサポートしようとするが、コーバックが22inch魚雷後期型を、ヴィルが22inch魚雷前期型を放って相殺して妨害する。更にフリッパーが相殺し損ねた魚雷を破壊する為、ヴァーチ達に魚雷は届いていなかった。

 

 

「ああもう、しつこ過ぎ! 千歳お姉、助けてっ!」

「ヲヲーヲ?」

 

 

 空母同士の戦いはハクの有利な展開となっていた。戦闘機同士が戦う間を抜けて来た天山と彗星は、ヴァーチやヴィルが先に撃ち上げた羽衣弾の餌食になり、片っ端から墜落していった。結果、海上は墜ちた天山と彗星に乗っていた装備妖精達が浮き輪に捕まった状態でプカプカ浮いており、砲撃・雷撃戦に巻き込まれない様、必死に泳いで戦線から離脱していた。

 戦闘機同士の戦いも、芳彦仕込みのアクロバット飛行テクニックを使い、零式艦戦52型の攻撃を華麗に避け、その機体の翼部に弾丸を撃ち込んで落としていった。

 

 この戦況を砲弾が飛び交う中、蒼真は冷静に見定めていた。

 

 

(明らかに攻撃する頻度が少ない。どういうつもりだ?)

 

 

 蒼真達が攻撃しているのに対し、ヴァーチ達はその攻撃を避けたり相殺するだけで録な反撃を仕掛けて来ないのだ。

 砲撃や雷撃は勿論、艦載機による爆撃や雷撃も行ってこない。精々、妙高達の砲撃の照準を逸らす為に足元へ砲弾や爆弾を落とすだけであり、艦娘達に当てる気が更々無い様に感じる。

 

 

「馬鹿にしているのか、貴様等!! 真面目に戦え!」

 

 

 艦娘達も気付いているらしく、この中でも一番厳格な性格である那智がヴァーチ達に向かって怒鳴り付ける。だが聞いていないのか、理解していないのか、ヴァーチ達は相変わらず回避行動ばかりを続ける。

 

 

(挑発のつもりか、それとも俺達を沈めたくないのか………、後者は有り得んか)

 

 

 夕日は水平線に沈んで行き、間もなく夜になる。夜戦に持ち込まれたら千代田は艦載機を発艦出来無くなり、航空戦力が無くなる。一方で向こうのハクはフラッグシップクラスに成ると夜間でも艦載機を発艦させる事が出来る。そうなれば終わりだ。妙高が夜間偵察機を持ってはいるが、慰めにもならない。

 手加減して戦っているのも夜戦に持ち込んで、自分達をなぶり殺しにしたいからかもしれない。

 

 

「千代田、艦載機は後どれだけ残っている?」

「もう殆ど墜とされて10機程しか残ってないよ。でも変なの!」

「何がだ?」

「墜とされた機体に乗っている装備妖精達が皆無事なの!」

「馬鹿な……」

 

 

 相手は妖精達も傷付けない様に戦っていると云うのか? 蒼真は訳が判らなくなってきた。

 相手が手加減して戦闘を行っているにも関わらず、ほぼ無傷でいる事に憤りを感じはするが、それ以前にここまで自分達を傷付けない様にする理由が解らない。一体、何の為に……

 

 

(もうじき夜だ、夜戦になれば勝ち目は無い。今此処で状況を打破しなければ)

 

 

 蒼真は双剣を抜刀し、前に出た。側にいた千代田はその行動に驚く。

 

 

「提督、何をする気!?」

「砲撃は駄目、雷撃も航空戦も駄目。残っているのは白兵戦だけだ」

「無茶は止めて! あれだけ全力で攻撃したのに録なダメージを与えていないのよ?」

「このままでは負ける。撤退も出来るか分からんのだ。だから戦況を変える必要がある!!」

「提督!!」

 

 

 千代田が止める前に蒼真は飛び出した。当てようとしないヴァーチ達の砲弾や爆弾が巻き上げる海水でずぶ濡れになっている妙高達の横を通り過ぎる。

 

 

「提督!?」

「馬鹿者! 何をする気だ!?」

「ちょっと、無茶よ!?」

「ていとくぅ!?」

「止まって提督! 1人でなんて無茶だよ!!」

 

 

 妙高達が止める声を無視し、蒼真はヴァーチ目指し突き進む。

 人間である蒼真が突っ込んで来る事に対し、ヴァーチ達は動揺しながらも、蒼真の身体をかする様に砲撃を始める。

 

 

「あくまでも威嚇なだけか! ならば此方が本気である事を教えてやる!!」

 

 

 身体スレスレを過ぎていく砲弾等恐れる筈も無く、蒼真は一気にヴァーチとの距離を詰める。

 

 

「お前達には聞かないといかん事が山程あるから殺しはしない。だが暴れられては困るからな、腕は貰うぞ!!」

 

 

 ヴァーチに向けて双剣を振り上げる蒼真。しかし次の瞬間、砲撃音と共に振り上げた双剣の刃が砕け散る。

 

 

「コノ時ヲ待ッテイタワ」

「なっ!?」

 

 

 砕けた双剣に呆ける間も無く、突如聞こえてきた女性の声と共に蒼真は押さえ付けられた。ステルスで隠れて待機していたブラスは、司令官と思われる蒼真が前に出るまで待っていたのだ。

 

 

「「「「「「提督!?」」」」」」

「オット、動イタラ駄目ヨ? 提督ガ大事ナラ」

 

 

 蒼真が動けない様に押さえ付けながら、ブラスは蒼真を艦娘達の方へ向ける。蒼真は若干、海面から浮いているので、その様子は蒼真が勝手に浮かび出した様に見える。

 突如響き渡る声に妙高達は戸惑うが、辰巳の命が危ないので動けずにいた。

 

 

「くっ、姿が見えない…? 新種の深海棲艦か? (何が起きた!? 周りに他の気配は無かった筈だ?)」

「答エル必要ガ無イワ」

 

 

 自身を押さえ付ける謎の存在に蒼真は尋ねが、その正体であるブラスは答える筈が無い。

 

 

「此方ノ要求ハ只一ツ。今直グ貴方ノ艦隊ヲ撤退サセナサイ」

「て、撤退だと……!?」

 

 

 姿が見えないブラスからの要求に蒼真は目を見開く。

 

 

「私達ハ貴方達ト敵対スルツモリハ無イノ。大人シク撤退シテクレレバ何モシナイワ」

「……深海棲艦の言う事を信じろというのか?」

「深海棲艦ネ……、正確ニハ違ウワ」

「何だと?」

「説明ハ出来ナイワ。ソレヨリ、早ク撤退命令ヲシテクレルカシラ?」

「馬鹿な、背中を見せた途端に撃ってくるかもしれないのに撤退命令など出せると思っているのか?」

「敵対スルツモリハ無イッテ言ッテルデショ? ソレトモ全員気絶サセラレテ、近クノ無人島デ寝トク? 気絶中ニ襲ワレテモ責任ハ取レナイワヨ?」

「気絶だと?」

「わ級ガ相手ヲ気絶サセル武装ヲ持ッテイルカラ調ベニ来タノデショ? 私達モ全員持ッテイルワ。ソシテ今か級ガ艦娘達ノ真下ニ陣取ッテイルワ」

「っく…」

 

 

 蒼真は歯噛みする。カ級が妙高達の真下にいるのなら、攻撃されたら回避するのは不可能だ。全員が気絶させられ、敵か味方かも解らない連中が潜むこの海域におっぽり出されたらどうなるか分かったものでは無い。

 

 

「早ク決メテクレルカシラ? 撤退スルカ、気絶スルカ」

「………………分かった、撤退させる」

「懸命ナ判断ネ。私達モ千歳ヤ羽黒、夕立ノ姉妹ヲ攻撃シタクナイカラ」

「!? 今のは如何云う意味だ?」

「…口ガ滑ッタワネ。教エル気ハ無イワヨ?」

 

 

 そう答えられ、蒼真の足が海面に着く。体を押さえ付けられる感触が無くなった事から、解放されたと解かる。そのまま蒼真は妙高達も元へ向かった。

 

 

「提督、御無事ですか!?」

「1人だけで突っ込んで、捕えられて。どんなに心配したと思ってる!?」

「もうっ、心配させないで!!」

「無茶はしないでって言ったじゃない!!」

 

 

 妙高達が心配そうに駆け寄る。白露と時雨は蒼真の腰に顔を埋め抱き着いて来た。

 

 

「済まない、皆……」

 

 

 申し訳なさそうに蒼真は謝る。皆を残して死ぬ気は無いと言っておいてこの体たらくだ。

 

 

「(全く……情けないな、俺は…………)撤退するぞ」

「!? 宜しいのですか?」

「もう夜になる。俺達では奴らに勝てん、対策を練る必要がある」

「…ぐすっ、信じていいの?」

「信じるしかない。それに気になる事もある、急ぐぞ」

「………深海棲艦に見逃がされる事になるとはな…」

 

 

 一部悔しそうな表情をしながらも蒼真達は撤退を始め、ホバークラフトが待つカムラン半島海域郊外へ向かう。ヴァーチ達はその場に立ったまま何もせず、追い打ちを掛ける様な事はしなかった。

 

 

(声がした方の海面が僅かに揺れていた。多分、ステルスか何かで姿を隠し、立っていたのだろう。ステルスも気になるが姿を消していた女が言っていた千歳と羽黒が気になる。全く……とんでもない海域になったものだ此処は…)

 

 

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 去って行く蒼真達の姿が見えなくなったのを確認したブラスはステルス機能を解除し、フードを脱いだ。

 

 

「フウ、何トカナッタワネ……」

「レ~レ…」

「カ~」

「ヲ、ヲ…」

「ト……」

 

 

 ヴァーチ達も疲労困憊の様だ。

 蒼真達との戦闘は攻撃を無力化させながら相手を傷付けない様に立ち回っていた為、常に神経を使う非常に辛い戦いであった。

 

 

「偵察機ノ心配モ無サソウダシ、基地ヘ帰ルワヨ」

「レ~」

「…………」

「…………」

「ト~、ト?」

 

 

 ブラスの言葉にヴァーチとヴィルは返事をするが、コーバックとハクは黙ったままであった。

 

 

「如何シタノ、こーばっくニはく………ッテ、マサカ…」

「レ、レ~」

 

 

 ヴァーチが2人を突くが反応が無い。

 つまり、先程の戦闘によって2人は進化する練度に達してしまったのだ。

 

 

「……コノ状況デ進化準備ダナンテ…。ショウガナイワネ、引ッ張ッテ帰ルワヨ」

「……レ~」

「ト……ト~」

「愚痴ヲ言ッテモショウガナイワ」

 

 

 疲れた体に鞭を打ち、ブラス達はコーバック達を牽引して帰るのだった。

 

 

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大阪警備府 蓮の執務室

 

 

「うん、うん、分かったわ。交戦は控える様、頼むで? こっちも急いで対応しとくさかい」

 

 

 連絡を受けた蓮は受話器先の相手にそう答え、電話を切った。

 

 

「まさか御都合主義が現実になるなんて……、誰が思うんかいな?」

 

 

 大きく溜息を吐きながら蓮は今後の対応を考える。

 ”ミサイル兵器を使用する新種の鬼が出現した”、”更に戦艦扶桑型1番艦 扶桑が、その新種の鬼と親しげに話をしていた”パラオ泊地の辰巳から報告された内容だ。

 

 

「霊装化したUSMを使った男と確実に繋がりがあるんやろな、この鬼。そして仲間に艦娘もおると……一体、どうなってんのや?」

 

 

 蓮はワ級の件を横須賀へ報告したのは早計であったと後悔した。横須賀の上層部からの指令はワ級の探索と捕獲であり、敵対行為と受け取られる事は確実である。相手の数は解らないが、敵対してしまえば近代兵器の前に艦娘達は為す術も無く全滅するだろう。

 

 

「このままじゃ、何時か確実に被害が出るわ……」

 

 

 蓮は再び受話器を取り、ある場所へ電話を掛けた。

 

 

「………おう、蒼介はんか? 蓮や」

 

 

 電話を掛けた先は呉鎮守府の十大佐。

 

 

「ちょっと付き合うて欲しいのやけど、構へん? ん、重要事項なんや。蒼介はんがいた方が良え」

 

 

 蓮は辰巳からの報告内容を説明した。

 

 

「今回、横須賀に報告したのは早計やった。カムラン半島に潜んどる連中の正体や規模が解らん以上、下手な接触はアカン。せやから付いて来てくれへん? ………さいか、有難な」

 

 

 同行の承諾を貰い、電話を切る。そして、再び大きく溜息を吐いた。

 

 

「横須賀鎮守府の神宮寺大将なら解ってくれる筈や…」




現状報告
・戦艦扶桑型1番艦『扶桑』が仲間になった!
・トラック泊地所属の鴉艦隊と交戦し、勝利した!


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