後、今回の話中に性的及び艦娘轟沈に近い描写が含まれている部分があるので苦手な方はご注意下さい。
お知らせ
『設定集 イ号』において、艦娘の項に足りていなかった設定を追記しました。
旭日島 海底基地食堂
「ブティク達は大丈夫かな……?」
「心配し過ぎよ、智」
久々に戻って来た隠れ基地にて智明がそう呟き、夕張に呆れられる。
鎮守府近海の海域にて怪しい動きをしている深海棲艦の動きを監視するべく、智明は鎮守府近海まで赴き、動向の監視を行っていた。
監視の結果、深海棲艦達は潜水艦を主力に輸送船団を襲い、日本国に通じるシーレーンの破壊活動を行っている事が分かった。これに対し、日本国海軍は即座にこの通商破壊艦隊の殲滅を開始したが、幾ら倒しても増援が現れ一進一退を繰り返していた。
しかしここのところ、増援はボス艦隊の敵通商破壊主力艦隊だけとなり、他の海域には増援が出現しなくなっていた。この事を警戒した日本国海軍は一端攻撃を止め、ボス艦隊が陣取っている海域周辺で監視する様になったのだった。
「日本国は大規模な反攻作戦が行われると警戒している様ね」
「相手が動き出すまでに準備を整えておく訳ですか」
「芳彦さん達からの報告では、南西諸島海域内でも此方へ向かっている敵艦隊を時折見掛けているらしいからね。まぁ、そっちは発見次第撃破しているらしいけど」
「ソ~」
智明と共に隠れ基地へ来たのは夕張と不知火、ウィザードの3名。監視の際はウィザードが智明と同行し、離れた海域で夕張か不知火が待機、余りの1名が隠れ基地で留守番となっている。
「しかし、夕張ちゃんは凄いね」
マグカップに入ったココアを啜りながら、智明は夕張に視線を向ける。
「芳彦さんの原子力機関を解析してメンバー用の機関を作成するんだから」
「まだ完全とは言えないわ。戦艦や正規空母サイズにしか装備させる事が出来ないのだから」
「燃料食いの戦艦や正規空母に持たせる事が出来る時点で十分です。今後、燃料を消費する必要が無くなるのですから」
そう、夕張は原子力空母である芳彦の機関を解析する事で、大型艦用機関『原子炉タービン(大)』の作成に成功したのだ。機関のサイズから戦艦や正規空母クラスの大型艦しか装備出来ないが、これによって装備艦の燃料消費が無くなり、最大船速での長距離航行が可能となった。
完成した原子炉タービン(大)は早速、ヨハムとビフトの2人に装備させられた。カムラン半島の隠れ基地へ帰ったら扶桑にも装備させる予定だと言う。
「何時かは駆逐艦サイズも作る予定だけどね」
「原子力駆逐艦か、凄いな…」
夕張の発言に智明は圧倒される。
ふと時計を見ると夜中の0時前を指していた。
「明日も早いから先に寝るよ。お休み」
「お休み、とも」
「お休みなさい、智明さん」
「ソソ~♪」
飲み終えたマグカップを戻し、智明は食堂から出て行った。
「ソ…そぁ~」
「ウィザードも智と一緒に行くでしょ? 貴女も早く寝なさい」
「ソ」
ウィザードが大きく欠伸をし始めたので夕張は彼女にも寝る様に促す。ウィザードも食堂から出て行き、残っているのは夕張と不知火、そして食堂の厨房で皿洗いや明日の朝食の仕込みをしている妖精さん達だけだった。
「不知火も明日は中継役なので、そろそろ休ませて貰います」
「ねぇ、不知火。ちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「何ですか?」
椅子から立ち上がった不知火に夕張が声を掛ける。
「不知火って、芳彦とシたの?」
「…………いきなりなんですか?」
「気になっただけよ。智も千歳に食べられちゃったし、私達艦隊が隠れ基地へ初めて来た次の日の貴女と芳彦の様子が智と千歳がシちゃった次の日の様子と同じだったから」
「……………ふぅ」
小さく溜息を吐き、不知火は再び椅子に座る。何も答えずに部屋へ戻ろうかとも考えたが、夕張は興味を持った事には付きっ切りになる性格の為、今後もしつこく尋ねてきそうな気がしたのでさっさと答える方を選択した。
「……そうだったとして、何を知りたいのですか?」
「う~ん、まぁ色々と知りたいけど………ヤってどうだった?」
「………またダイレクトですね」
夕張のズケズケとした質問に不知火は呆れた表情になる。しかし、質問されてしまえばその時の状況が脳内で再生されてしまう訳で…………
「……………────ッ!!」
「あら、顔が真っ赤よ。不知火?」
脳内に再生されるのは思い出すだけで赤面しそう(既に真っ赤である)になる、甘々な記憶を刻みつけられた自身の姿。
智明達、水野艦隊と協力関係を結んだ夜に行った、
この結果を許せない自分がいたのか、その夜は歓迎会と言う事もあり、普段は余り飲まないアルコールを摂取したせいか、歓迎会も終わり各自解散の流れになった後、不知火は芳彦の部屋へと足を運んでいた。部屋には当然、芳彦が1人だけ。そこで彼女は彼に問い掛けた、「不知火は司令官にとっての何なのか?」と、
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不知火はここ、カムラン半島海域を制圧していた艦隊の一つである敵前衛部隊に捕えられていたところを救出された。
深海棲艦に捕えられた艦娘は自身が積み上げてきた練度を嘗ての記憶と共に奪われる。自身の体に降ろされた艦船の記憶や一般常識こそ奪われる事は無いが、自身が所属していた艦隊が何だったか、自分の提督や共に戦った仲間達の記憶共々根こそぎ奪われていく。その際に感じる体中からナニカを吸い取られていくショックで艦娘は気絶するのだが、不知火もその例に漏れずに気絶してしまった。
気が付けば深海棲艦製の拘束具で身動きが取れない状態になっており、敵艦隊に運ばれている最中であった。深海棲艦達に捕まった艦娘達がどの様な運命を辿るのかは誰も知らない。噂ではバラバラに解体された挙句に深海棲艦達の餌になる、戦艦や空母といった上位存在の深海棲艦の素体へと改造される等と言われているが上層部すらも知らない情報となっている。
自身がどんな目に遭わされるのか、想像も着かない恐怖に不知火は震えるしかなかったが、其処へ深海棲艦達に襲い掛かる艦上爆撃機と艦上攻撃機。突然の奇襲に深海棲艦達は混乱し、爆撃と雷撃によって尽く撃沈していき残ったのは不知火自身だけであった。
暫くして、呆けていた不知火の元に駆逐艦 雷と共に現れたのは反応動力推進航空母艦 飛天という聞いた事の無い装甲空母の力を与えられた男。
「俺は函南 芳彦、反応動力推進航空母艦 飛天の力を与えられている。お前と同じ存在だ、男だけどな。それは兎も角、もう大丈夫だ」
拘束具を壊しながら男は笑いながらそう言った。自分が助かったという嬉しさもあって、不知火は彼が見せたその笑顔が忘れられない。
それから不知火は芳彦率いる函南艦隊のNo.3として共に戦う事になる。原子力空母という正規空母や装甲空母の艦娘を超えたスペックに、見た事の無い艦載機を操り戦局を有利に導いていく芳彦。練度を上げながら捕えられていた艦娘を次々と仲間にしていき、当時3隻だけだった函南艦隊も立派に艦隊と呼べる位の規模になった。
そんな彼の日常は少々ズボラで、雷や羽黒、龍驤に時折お世話されたりしている。歌う事や勝負事が好きで那珂と共に良く歌い、賭け事でヘマをしては木曾に怒られた。そんな艦娘を率いる提督としては余りらしくない彼に不知火は興味を持った(結局は全員が興味を持っていた訳だが)。そして、その興味は徐々に募っていき、彼への感情も変化していった。
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そして、ここにきて不知火は芳彦に尋ねたのだった。
「俺にとって不知火は大事な仲間であるが、1人の女としても見ている」
それが芳彦からの回答だった。1人の女、つまりは只の部下として見ていないと言う事。その事に嬉しさで表情には出さないものの胸が高鳴る不知火であったが、芳彦の言葉はまだ続く。
「だがそれは艦隊のメンバー全員に言える事。あいつ等も何だかんだで俺に好意を持っているしな」
続く言葉に不知火は少し落胆する。芳彦は艦隊のメンバー全員を不知火と同じ立場で見ているのだ。自分だけ特別と思ってしまった不知火にとって、仕方が無い事だとしても喜ばしい事では無かった。
「だがな…」
「司令官……、!?」
途中で言葉を止め、芳彦は不知火に近づくとその両肩を優しく掴み押し倒す。押し倒された場所はベッドであった。
「司令……」
「此処に居るのは俺とぬいぬいだけだ。皆が揃っている場所で1人だけを贔屓するのは無理だろうが、お前と2人きりの時は”お前だけを愛す”よ。お前がそれでも良いのであれば……」
「………卑怯です司令官。不知火を押し倒しておいて、結局不知火に選択させるなんて…」
「ん、抱く以上はぬいぬいの同意が欲しい訳で…」
「不知火としてはそのままキスを落として抱いて欲しかったです」
「………意外とアグレッシブなんだな…。良いのか?」
「不知火が慕っている男性は
「そっか。なら、もう気にしないからな」
「んふぅっ……んむ…」
そのまま芳彦は自身の唇を不知火の唇と重ねる。そのまま芳彦の唇から舌ば伸び、不知火の唇を抉じ開けて彼女の舌に絡めていく。触れ合う粘膜の感触、初めての、しかし心地良い感覚に不知火の『女』としての身体が身じろぎする。
「…ンっ……ふぅ……っ、はぁっ……ぁぅ…」
「ん、んっ……ぷふぁ…、ふぅむ………ん…」
数分間のキス。不知火にとって初めてとなるキスであったが、芳彦が彼女の舌に自分の舌を絡ませながら、柔らかいハリのある唇を貪っていく。漸く芳彦は不知火から顔を放すが、銀の線が互いの唇から伸びていく。
「…ぷぁは。不知火、脱がすぞ?」
「はい、お願いします」
暫くの間、互いの顔を見つめ合い、芳彦は不知火の艤装衣服である制服へ手を伸ばす。不知火は徐々に脱がされていく自分の衣服を見詰めていたが、疼く体に我慢できなくなった彼女は今度は自ら芳彦にキスを落とすのだった。
そして、
「その……司令官に抱かれた夜は………とても良かったです…」
「ふ~ん、不知火がそう言うのなら相当なのね」
「不知火の『女』が満たされて、『悦び』でいっぱいに………って、何を言わせるのですか!?」
「………自分から言ったんじゃない」
「くっ………恥ずかしくて死にそうです。不知火はもう寝ますっ!!」
茹蛸の如く顔を真っ赤にした不知火は、そのまま逃げる様に食堂を後にする。その後ろ姿を見送りながら、夕張はクスリと笑うのだった。
「堅物の不知火があれ程か……。芳彦が積極的であるってのもあるだろうけど、やっぱり我慢できそうにないわね…」
そんな事を言いながら、夕張は普段、見せ無い様な笑みを浮かべるのだった。
翌日
「それじゃあ言って来るよ、夕張ちゃん」
「ソソ~♪」
「留守番宜しくお願いします」
「はいはい、気を付けてよ?」
若干、雲が出ている翌日。智明達は深海棲艦の監視の為、再び鎮守府近海まで出撃する。昨日の夜、この海域に設置している探知レーダー発信機の中で一番南方に設置した機体が艦隊規模の深海棲艦が通過した事を探知していた。反応から、進路は鎮守府近海であり、今日位でそろそろ静かにしていた通商破壊艦隊も動き出すのではないかと智明達は踏んでいる。
「では出撃するよ?」
「了解」
「ソー!」
不知火とウィザードを引き連れ、智明は出撃した。
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正午過ぎ
鎮守府近海
「しれぇ! 前方に敵艦隊の艦影を確認、距離4000です!!」
「有難うね、雪ちゃん♪ 皆、戦闘準備!」
「「「「了解!」」」」
艦隊の前を進み、双眼鏡で周囲を警戒していた駆逐艦陽炎型8番艦 雪風(改)が敵影を発見し、提督である織川少佐に注意を促す。
織川少佐こと姫乃は現在、鎮守府近海に陣取っているボス艦隊である通商破壊主力艦隊を撃破すべく自身の艦隊を率いて進撃中であった。途中、他の敵艦隊に遭遇する事無く航行を続けていたので艦隊メンバーのコンディションは万全である。
尚、織川艦隊の編成は旗艦が軽巡洋艦大淀型1番艦 大淀(改)、雪風、駆逐艦陽炎型12番艦 磯風、潜水艦巡潜3型2番艦 伊8となっている。新人提督である為、姫乃の元に所属している艦娘はこの4人しかいないが、いづれもレア艦と呼ばれる中々御目に掛かれない艦娘達であり、彼女達の提督である姫乃は周りの提督達から『ラッキーガール』の渾名で呼ばれ、拝まれていたりする。
「淀ちゃん、偵察機を飛ばして!」
「お任せください。艦載機、発艦!」
姫乃の指示に従い、大淀が零式水上観測機を発艦させて敵艦隊の編成を探る。
「敵艦隊編成、潜水カ級フラッグシップ1隻とエリート2隻の梯形陣形を組んでいます!」
「ようしっ、雪ちゃんと磯ちゃん、はっちゃんの雷撃で先制攻撃をするよ。3人ともお願いね?」
「はい、司令っ!」
「任せろ司令、心配はいらない」
「戦闘は…あまり好きじゃないけど、仕方ない」
「淀ちゃんは艦載機で3人の援護と指揮をお願い!」
「指揮管理、承りました。提督は安全な場所へ!」
尚、姫乃は1人用の高速ボートに乗っている。本来、小型ボートでは駆逐艦の砲撃でも一撃粉砕され大変危険であるが、その高機動性と鎮守府近海では基地等の距離が直ぐ近い為に良く使われていたりする。
「さぁ、提督が見守っております。勝ちますよ、全艦突撃!」
「「「了解!!」」」
先に大淀が発艦させた零式水上観測機が搭載した爆弾をカ級達に投下し、激しい水柱を立ち上げていく。それに続き、雪風、磯風、伊8の3人が開幕雷撃を対潜爆撃によって怯んだカ級達に放ち、戦闘は開始された。
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鎮守府近海 別海域
「ここの海域にもいないか」
「ソ~」
鎮守府近海にて深海棲艦の監視に来た智明はウィザードを連れ、シーレーン襲撃時に陣取っていたエリアを回って新たに配置されていないか調べていた。鎮守府近海の北方から調べているが鎮守府の提督達によって撃破されて以降、再配置はされていない様だ。
【智明さん】
「不知火ちゃん? どうしたの?」
鎮守府近海から少し離れた海域で待機している不知火から無線が入って来る。
【留守番中の夕張から連絡です。鎮守府近海側に設置した小型レーダー潜水ブイが深海棲艦の大艦隊が此方に向かっているのを探知したようです】
「大艦隊!? 数は?」
【30隻相当らしいとの事です。如何しますか?】
「急襲することで日本国が被害を受けるのは僕達にとっても、余り嬉しく無いからね。その艦隊を追跡、場合によっては攻撃してその数を減らすよ」
【相手の数は15倍相当です。撤退のタイミングを間違え無い様、気を付けてください】
「うん、深追いをするつもりは無いから心配しないで」
【……智明さんに何かあったら夕張さんが悲しみます】
「うん? 夕張ちゃんがどうしたの?」
【いえ…、それでは敵艦隊の進路データを送信します。どうか、お気を付けて】
不知火から送信された敵艦隊の進路データを受信し確認する。どうやら敵艦隊は通商破壊艦隊のボス艦隊が配置されているエリアへ集結するつもりのようだ。
「これは本格的に反攻作戦を行うつもりかな?」
「ソ~ソ?」
「兎に角、敵がどう動くか確認しなきゃね。行くよ、ウィザード」
「ソソー!!」
智明達は敵艦隊が集結するであろう海域へ向かった。
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呉鎮守府
「~♪」
とある執務室の机の前で、黒縁眼鏡をかけた提督が鼻歌を歌いながら上機嫌で爪の手入れをしていた。
「あの小娘もそろそろ、敵通商破壊主力艦隊が陣取っている海域に到着している頃ですかねぇ?」
内蔵 公義中佐は時計を見やる。姫乃に出撃を促し、彼女が鎮守府を出発して5時間近くが経過しようとしていた。敵艦隊の配置海域との距離を考えると彼女達はそろそろ目的の海域に到着する時間帯だ。
「上手くいけば敵の大艦隊とぶつかって名誉の戦死、ボス艦隊を倒して帰って来ても彼女を上手く言い包めば私に責任は追及されないでしょう」
そう、公義は上層部からの”敵通商破壊艦隊が反攻作戦を行う恐れがる為に出撃を控え、準備を整えておく様に”という指令を知っていた上で姫乃に出撃を促したのだ。確かに現在は3~4隻規模のボス艦隊しか鎮守府近海にはいないが、何時、大群を率いて深海棲艦達が攻めて来るか判らない状況なのだ。何時、何処から現れるのか判らない現状で出撃するのは自殺行為に等しいモノであった。
「まぁ、ここ数日の間全く動きを見せませんし、『ラッキーガール』等と呼ばれている彼女です。ボス艦隊を撃破して戻って来るのでしょうね、戻って来るまでにどう言い包めるか考えておかなければ……」
そんな事をズケズケと言ってのける公義。
尚、執務室には彼1人である。本来なら秘書艦として艦娘が1人傍に滞在しているのだが、兵器としてしか見ていない公義は基本、艦娘を執務室に入れず、手が掛かる雑務をする時にだけ執務室に呼んで、仕事を手伝わせていた。
【緊急報告! 鎮守府内の全ての提督、艦娘に連絡する!!】
突如、館内放送が鎮守府中に響き渡る。
【巡視船が鎮守府近海へ接近する大艦隊規模の深海棲艦の影を確認! 直ちに出撃準備をし、敵の攻撃に備えよ!!】
「おやおや、本っ当に都合が良い……、考える手間が省けました♪」
そう言って笑みを浮かべる公義は身の毛がよだつ、吐き気を催す様な厭らしい笑みであった。
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夕方過ぎ
鎮守府近海 敵ボス艦隊配置海域近海
「そろそろ目的のエリアだね」
「ソ」
道中、敵艦隊に遭遇する事無く、智明とウィザードは目的の海域である敵ボス艦隊が配置されている海域の近海まで辿り着いた。時間は既に夜に近い夕方過ぎ、夕日も半分近くが水平線に沈みかけていた。
「! あれは……」
そろそろ目的海域に入る頃になって、爆発音が響いている事に気付く。智明達が目を凝らすと、視線の先に爆炎がもうもうと上がる光景が映った。
「戦闘が始まっている!?」
30隻もの深海棲艦達が何かを囲む様に攻撃を続けており、水柱や爆炎で見えないがその攻撃先にいる艦娘達が懸命に応戦していた。しかし、艦娘達の攻撃頻度が深海棲艦達より遥かに少ない事から、その数が深海棲艦達の半分以下であるか、装備の殆どを破壊されている事が想像出来る。
「このままじゃ危ない! 急ぐよ、ウィザード!!」
「ソ、ソソー!!」
艦娘達が危険だと判断した智明は急いで現場へと向かった。
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「くっ……数が多すぎる!?」
「ちっ………倒しても倒しても湧いてくる」
砲弾の雨を降らしてくる敵駆逐艦達に大淀は15.5cm三連装砲で応戦し、雷撃を仕掛けようと接近してくる潜水艦達に磯風が九四式爆雷投射機で爆雷をお見舞いする。
「しれぇ! 魚雷が無くなりそうですっ!!」
【Feuer! こっちも…、そろそろ拙いかも…】
61cm四連装(酸素)魚雷で潜水艦ヨ級エリートと軽巡洋艦ヘ級フラッグシップの2隻を轟沈せしめながら雪風が悲痛な声を上げ、海中から迫って来る潜水艦達に魚雷を放ちながら伊8も無線で弾切れが近い事を知らせる。
「うぅ…なんでこんな事に…」
危機的状況と焦りから姫乃は泣きそうになりながらも懸命に状況を打破する策を考える。
ボス艦隊と交戦した姫乃は先制攻撃の爆撃や雷撃によって浮足立った敵艦隊を大きな被害無く撃破する事が出来た。そのまま呉鎮守府まで帰還しようとしたところで新たな敵艦隊を確認、充分な余裕があった事からこれを撃破する事にした。
しかし、交戦中に次々と増援が出現。異常事態と判断した姫乃は直ぐ様、撤退を指示するが敵潜水艦達に先回りされていたらしく、周囲を囲まれてしまったのだ。攻撃を一点に集中し、脱出経路を確保しようとするが敵艦を撃破する度に新たな敵艦が道を塞ぐ上、周囲から容赦無い攻撃が降り注いでくる為に身動きが取れなくなっていた。
「何とか、何とかして脱出経路を確保しなきゃ……」
自身が乗っているボートのすぐ近くにも砲弾が落ちてきて、ボートを大きく揺らす。
艦娘達は装備や航行能力共に無事ではあるが、被弾していない訳では無く、艤装衣服は所々破け、綺麗な肌を覗かせていた。このままでは全滅は必至、焦る気持ちを抑えながら姫乃は周囲を囲む深海棲艦達を観察する。
「何処かに包囲の薄い箇所が………あった!!」
姫乃は包囲している深海棲艦の数が少ない箇所を発見する。あの箇所を集中攻撃すれば増援が来ても塞ぎ切れない筈。そう判断した姫乃の指示は早かった。
「皆、7時方向を集中攻撃して! あそこを突破するよ!!」
「了解です、司令っ!!」
「撃って撃って撃ちまくれ! 大丈夫、司令は私が守ってあげる」
「強行突破ですか…。でもそれしか生き残る術は無い様ですね、行きますよ!!」
「あそこだね? 魚雷を装填して……さぁ行くよ」
雪風達は残った砲弾、魚雷で目標を攻撃する。敵艦は木端微塵に吹き飛ぶ中、新たな敵艦が空いた包囲を塞ごうと近寄るが更に飛んで来る砲弾や魚雷に拒まれて塞ぎ切れない。その僅かな隙間へ姫乃達、織川艦隊が突貫する。
雪風が10cm連装高角砲を、大淀が15.5cm三連装砲で横から迫る深海棲艦達を吹き飛ばし、磯風が姫乃を守りながら25mm三連装機銃で空から追撃してくる敵艦載機を撃ち落とす。海中からも敵潜水艦達が魚雷を放ってくるが伊8が魚雷で相殺していき、遂に織川艦隊は包囲網を突破した。僅か十数秒の脱出劇であったが、約1時間の包囲戦もあって、彼女達は数時間の出来事に感じられる程、精神を消耗していた。
「皆、無事?」
包囲していた敵艦隊から急速離脱する中、姫乃は艦娘達に呼び掛ける。
「大丈夫ですっ、司令!」
「まだまだいける、心配するな」
「少しやられましたが、問題ありません」
「そっか、良か……」
皆の無事に安堵しようとしたその瞬間、突如高速ボートが粉砕し、姫乃は空中に投げ出される。
「……え?」
何が起きたのか解らないまま、姫乃は海に落ちた。
「「「「提督(司令)!?」」」」
後続だった伊8が直ぐ様、姫乃の元に駆け寄る。
「大丈夫!? 怪我は無い?」
「大丈夫みたいだけど、何が起きたの!?」
「ボートが爆発した……、まさか待ち伏……!?」
言葉を言い終わらぬ内に伊8は覆い被さる様に姫乃へ抱き付き、途端に伊8の背中が爆発した。
「か……はっ……」
「はっちゃん……?」
伊8が吐血し、庇った姫乃の顔に飛び散る。艤装衣服であるスクール水着のお陰で背中が抉られてこそいないが、艤装衣服の背中部位は完全に破けており、防ぎ切れない衝撃が伊8の内臓に深刻なダメージを与えていた。
「けほっ……提…督、無事…だよ……ね? 良か……た……」
無事な姿の姫乃を確認した伊8はそのまま倒れ、海に沈んでいく。
「いや……、いやぁぁぁぁあああああああああああ!?」
絶叫を上げながらも、姫乃は伊8が沈まない様に抱えるが、伊8の身体は徐々に冷たくなっていく。
「提督! くっ!?」
「しれぇ!? きゃあ!?」
「もう追いついて来たか!? くそっ、提督を助けるのに邪魔だ!!」
大淀達が姫乃達の元へ向かおうとするが、伊8に爆撃した艦載機や彼女達を追って来た深海棲艦達が砲撃や雷撃で、その行く手を阻む。
「逃げて!」
何とか姫乃達を助けようと応戦を開始する大淀達に、姫乃は泣きながらも叫ぶ。
「逃げて、お願い!」
「提督!? 逃げろだなんて…」
「嫌ですっ! 司令を置いて逃げるなんて出来ません!!」
「待っていろ、こいつ等を蹴散らして直ぐに助けてやる!!」
「私はもういいから逃げてぇ!! もう皆が傷付く姿を見たくない!!」
「くっ、退けぇ貴様等ぁ!!」
残り僅かの弾薬で必死に姫乃達に群がる深海棲艦を攻撃するが、追って来た艦隊が続々と集まりつつあった。
「”提督命令”よ! ”私は置いて急いで逃げなさい”!!」
「提督っ!!?」
「くっ、体が…」
「嫌です! 司令、しれぇ!! 嫌だぁ!!!」
姫乃が使った『提督命令』とは、提督着任の際に行われる精神分析で合格判定を貰った提督だけに与えられる一種の強制プログラムである。艦娘の中に司令官である提督の指示に従わない者がいた事から作られたプログラムであり、この”提督命令”と云うワードがプログラム起動のキーとなっており、起動ワード発音の後に命じた内容を艦娘は己の意思に関係無く、強制的に実行する。
この人権無視甚だしい且つ、悪用される事間違い無しであるプログラムは前述した通り、提督の適性が有る者を前もって精神鑑定し、悪用しないか重点的に調べた上で託しても安全だと確定した者にのみ、提督着任の際にこのプログラムを使う権限が与えられる。従ってこの権限を持つ提督は10人程度と少なく、姫乃はその中の1人であった。
姫乃の提督命令によって大淀達は身体が強制的に動き、撤退せざるおえなくなる。雪風は最後まで抵抗していたが、提督命令に逆らう事は出来ずに大淀達と最大船速で離脱して行った。
「御免ね……皆…」
周囲を囲む深海棲艦達の隙間から撤退していく大淀達の姿を確認できた姫乃は、本当は使いたくなかった『提督命令』で大淀達を無理矢理動かした事を謝った。これ以上追っても意味が無いと感じたのか、深海棲艦達は逃げる大淀達を追撃する事無く姫乃達の周りに集結していた。
「御免ね、はっちゃん。こんなにボロボロな姿にしちゃって、酷い提督だよね…」
長時間の戦いで心身共に疲労困憊な姫乃は、伊8を抱えて浮かび続けていられなくなり、彼女と共に徐々に沈んでいく。この後溺死するから弾薬の無駄だと考えているのか、深海棲艦達は攻撃してくる事無く、姫乃達が沈んでいく姿を周りで眺めていた。
体が完全に海中に沈んでいき、姫乃は伊8を抱きしめながら目を閉じた。
(ああ……、温かいなぁ…)
動く事は出来ないが、辛うじて意識は戻った伊8は共に沈みゆく姫乃の体温を感じていた。
(提督は何も悪く無いよ。何時もはっちゃん達に…優しく接してくれていたもの……とっても嬉しかったよ…)
姫乃の胸元に抱き締められている伊8は徐々に姫乃の心音が弱くなっていく事から、自分が無力である悔しさに涙を零すが、直ぐに海水と一緒になる。
(いつかは、私も沈むと…覚悟はしてたけど……提督や、みんなと会えてからで…よかった…)
伊8の意識はここで途絶えた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
青年の絶叫とも言える大声と共に姫乃達を囲んでいた深海棲艦達が飛んで来るミサイルや魚雷で爆散していく。突然の攻撃に深海棲艦達は混乱し、これに青年の後に続く小型潜水艇や潜水艦ソ級が魚雷を放って更なる追撃をする。
「そこを退けぇぇぇええええええ!!!」
大声で怒鳴りつける青年こと水野 智明は艤装の上部からUSMを発射し、フラッグシップクラスの軽空母ヌ級や雷装巡洋艦チ級を一撃で葬って行く。
集まっていた事から身動きが取れない敵駆逐艦達の横を通り過ぎ様に66cm近接水中ミサイルを叩き込んで木端微塵にする。
応戦しようと魚雷を向けるフラグシップ・エリートクラスの潜水艦カ級、ヨ級達にホーミング式53cm艦首(ポンプジェット)魚雷を放ってバラバラにしていく。
「間に合え!!」
敵の数が減ったのを確認した智明は沈んでいく姫乃達の元へ急速潜航していく。
「ソソーソ!!」
まだ残っている敵潜水艦達が智明へ魚雷を向けるが、ウィザードとグランパスが雷撃で次々と沈めていく。
潜って行く智明の手は遂に姫乃達の身体に届く。
「摑まえた!」
姫乃と伊8を抱え、智明はゆっくりと浮上していく。水圧の関係上、急に浮上しては人間である姫乃の身体に悪影響が及ぶと考えたからだ。浮上する智明達の邪魔をさせない様、ウィザード達が攻撃しようとする深海棲艦を撃破していく。
仲間達の援護の下、智明は無事に海面浮上を完了した。
「意識は無い。でも心音は………良かった、まだ動いている!! でもこっちの艦娘は……」
生体センサーで姫乃の状態を確認した智明は、彼女がまだ生きている事に安堵するが伊8の方はかなり危ない事に危機感を覚える。
「皆、急いで撤退だ!」
「ソー!!」
艤装の上部に姫乃と伊8を乗せ、智明達は離脱を開始した。ウィザードとグランパスに搭乗している装備妖精達が大暴れした御蔭で殆どの深海棲艦は海の藻屑となったが、それでもまだ生き残りがおり、智明達を逃して堪るかと追撃を開始した。
智明達の背後に付いたヨ級フラッグシップが22inch魚雷後期型を放ってくる。
「悪いけど後ろにも対応できるんだよ!!」
智明が後部射出口から53cm艦首(ポンプジェット)魚雷を2発発射し、1発は敵の22inch魚雷後期型を相殺、残りの1発でヨ級フラッグシップを撃破した。
尚も敵艦隊は攻撃を仕掛けようとするが、グランパスの攻撃によって次々と撃沈し、智明達は追撃を振り切る事に成功する。
「もう直ぐ不知火ちゃんのいる海域だ」
「ソソソ」
姫乃達を極力揺らさない様に智明達は不知火の待機海域へ向かう。
夜になり月が海面を照らす頃、智明達の目に不知火の姿が映る。
「やった、着いた!」
「智明さん!? 背中の2人は一体?」
「話は後だ! 急いでこの2人を治療しないと!!」
「どうやらその様ですね、そちらの艦娘は不知火とウィザードの2人で運びます」
状況を察した不知火は直ぐ様、行動に移り、智明達は無事に海底基地へ帰還する事が出来たのであった。
現状報告
・呉鎮守府所属の提督、織川少佐と彼女の艦娘、伊8を救出した。
今回の話中であった深海棲艦に捕らわれた艦娘(ドロップ艦)が練度を奪われる事についてですが、RPGである「レベルドレイン」に近いモノ(+記憶を奪う)であると御想像下さい。
追記:何故、姫乃が『提督命令』を使った際に伊8だけは動かなかったのか?
『提督命令』は、対象がちゃんと意識がある状態で聞いていないと効果がありません。伊8は姫乃と共に沈んだ際に意識が戻っておりますが、姫乃が『提督命令』を使った際には気絶していたので、効果がなかった訳です。ついでに、轟沈(死にかけ)状態でも効果が無いという設定なので今回の場合はこれも当て嵌まります。
感想にて御指摘下さったけーさん、有難う御座いました。
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