嗚呼、「黄泉の艦隊」が往く   作:影鴉

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御待たせ致しました、今回は姫乃と芳彦達の顔見せ回となります。


 事情

海底基地 会議室

 

 

「姫乃ちゃん、落ち着いた?」

「はい……なんとか…」

 

 

 芳彦達が到着後、放心状態から中々戻って来なかった姫乃を智明は、整備妖精に頼んでクレーンキャリアーを使って会議室まで運んで貰った。

 我に返った姫乃は自分がいた場所が違う場所に変わっていた事から「テレポートしてる!?」と言ってしまい、初対面である筈の龍驤にハリセンで叩かれた(ツッコまれた)。

 

 

「えぇと、智明さんが言っていた驚く事ってこれですか?」

「まぁ、そうなるかな?」

「うぅ、襲って来ませんよね?」

 

 

 恐る恐るブティク達を眺める姫乃に、ブティクは口を開いた。

 

 

「失礼デスネ。敵デモ無イ相手ヲ襲ウ趣味ハ持チ合ワセテイマセンヨ? …智明ハ襲イタイ(R指定)デスガ」

「しゃ、喋った!?」

「彼女達は鬼だから話す事は可能だよ? 其れよりブティク、今変な事を言わなかった?」

「変ナ事デスカ? 言ッタ覚エハアリマセンガ?(すっとぼけ)」

「鬼カラ上位種ハ人並ミノ知力ハアルシ、会話可能ヨ? 覚エテナサイ?」

「ふぇ? きゃあ!?」

 

 

 自分の背後から声を掛けられて声の方を振り向くと、港では見なかった鬼がニヤニヤ顔で姫乃を見ていた。

 

 

「え!? 何で!? 後ろには誰もいなかったのに!?」

「姿ヲ消シテイタカラ見エナカッタノヨ。私ハすてるす戦艦鬼ノぶらす、宜シク提督サン?」

 

 

 驚いた姫乃に満足した表情でブラスは自己紹介する。

 

 

「私ハ装甲潜水艦鬼ノぶてぃくト言イマス。智明ノ部下デスノデ宜シクオ願イシマス」

「原子力戦艦鬼・烈ノよはむヨ。宜シク頼ムワ」

「原子力戦艦鬼ノびふとデス。よはむ姉様ノ妹ニナリマス」

「高機動潜水艦鬼ノこーばっくデス! ドンナ潜水艦ガ相手デモ負ケマセンヨ?」

「氷山空母鬼…、はく……デス」

 

 

 ブラスに続き、ブティク達も自己紹介をし、姫乃は彼女達の優しそうな笑顔に戸惑っていた。

 

 

「見た目は深海棲艦なのに、普通の艦娘みたい…」

「確カニ見タ目ハソウデスガ、私達ハ深海棲艦デハアリマセン」

「え?」

「私達ハ智明ノオ陰デ人ヲ憎ミ、只襲ウダケダッタ存在カラ自由ノ身ニ解キ放ッテクレマシタ」

「生マレ変ワッタト言ウベキカシラ?」

「生まれ変わる? れーちゃんみたいに?」

 

 

 ブティクは姫乃に説明した。深海棲艦は負の感情に支配され、それによる破壊衝動で人や艦娘を襲っており、上位存在へと到り知能が発達しても刷り込みによって違和感を感じる事無く、襲い続けると。

 

 

「言ウナレバ、深海棲艦ハ負ノ感情ニ支配サレタ呪ワレタ人形デス」

「そんな」

「私モ元ハ駆逐艦は級ダッタ身。ソンナ負ノ感情ニ支配サレテイタ私ヲ智明ハ救ッテクレマシタ」

 

 

 智明は深海棲艦を負の感情から解き放つ、浄化の力を持っており、これによってブティク達は支配から解放された。呪われた人形から自我のある存在として生まれ変わる事が出来た彼女達は智明へ恩を返すべく、共に戦う事を決意したのだ。

 

 

「マァ、イキナリコンナ事ヲ言ワレテモ納得デキナ……アラ?」

 

 

 ブティクから話を聞き終えた姫乃は涙を滝の様に流し、号泣していた。

 

 

「ぐすっ……ひぐぅっ…し、深海棲艦に…ぞんな……ずびっ…事情が…あ…あったなんで……」

「アララ、泣カシチャッタワネぶてぃく?」

「泣カスツモリハ無カッタノデスガ……」

「ほら Admiral(提督)、顔を拭きなさい。可愛い顔が台無しよ?」

「ずびー。ふぇええ、れーちゃぁん、可哀想だよぉ」

 

 

 斯くして、姫乃が泣き止む迄暫くの間待つ事となる。

 

 

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早朝

 

トラック泊地

 

 

「あ゛~、疲れた~」

「優梨子っち、その言い方おっさん臭いよ?」

「そうよ、優梨子さん。元モデルが言う言葉じゃあ無いわ?」

「そんな事言ったってさ~、実際疲れてない?」

 

 

 任務明けの朝帰りである斑鳩 優梨子と彼女の艦娘である重雷装巡洋艦球磨型3番艦 北上(改二)と4番艦 大井(改二)が本舎から出て来て、大きく伸びをしていた。

 

 

「そりゃあ、カムラン半島海域を丸一日掛けて哨戒していた訳だし、疲れて無い筈無いじゃん?」

「夜間もある任務がきついのは分かりますよ?」

「でしょ~?」

 

 

 今回、優梨子達は蒼真に代わってカムラン半島における新種の深海棲艦探索の任務に赴いていた。カムラン半島周辺海域を哨戒して探索するのだが、芳彦達が小型レーダー発信機を配置し終えた今、出会える訳も無く燃料と労力を消費するだけに終わっていた。

 そんな任務明けである彼女達は次の任務迄、鋭気を養うべく1日休みを貰ったのだった。

 

 

「今日一日は丸々休みだからさ、スパでゆったりしよ~?」

「お~、良いね~♪」

「お風呂でゆったりして、マッサージしてもらって♪」

「駆逐艦の娘達はまだかしら?」

 

 

 先程大井が言ったが、優梨子は元モデルである。世界を股に掛けるファッション、グラビアモデルであり、此処トラック泊地ことチューク諸島にもグラビア撮影で訪れていた。その為、本舎近くにあるスパリゾートに顔が効く事から、今日1日皆で楽しもうと計画していた。

 因みに優梨子の率いる艦娘は元軽巡洋艦で現重巡洋艦の北上と大井、駆逐艦綾波型1番艦 綾波と2番艦 敷波、睦月型10番艦 三日月と11番艦 望月であり、高機動雷撃戦を得意としている。特に北上と大井は優梨子が提督に着任した時からの付き合いであり、唯一無二の親友と言った関係で互いに愛称で呼び合う仲になっていた。

 

 

「司令官、お待たせしました!」

「遅くなってご免~」

「ほら、望月早く!!」

「んぁ~、眠い……」

 

 

 優梨子達が待つこと数分、駆逐艦の4人がやって来た。

 

 

「こら、遅いぞ?」

「済みません司令官、望月がベッドから離れなくて」

「だって…徹夜だし、眠いし……」

 

 

 腰に手を当ててわざとらしく叱る優梨子に三日月は謝る。実際に優梨子は怒っている訳では無いので直ぐに微笑む。

 

 

「これで全員揃ったね、それじゃあ出発♪」

「「「「「おー!!」」」」」

「お~」

 

 

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旭日島 海底基地

 

 

 深海棲艦の実態について知った姫乃の号泣が漸く止み、智明達は話を続ける事とした。

「これで3度目な気がするけど、大丈夫かな?」

「ぐずぅ…、ずみまぜん……何度も…」

「コレデ拭イテクダサイ」

「ありがどう…ブティクざん……ずびっ」

 

 

 ブティクからティッシュを渡され、涙でびしょびしょな顔を拭く。

 

 

「ええと、ブティクさん達は智明さんにお陰で支配から解放された訳ですね?」

「そうだよ」

「お祓いでもしたんですか?」

「大体合っているけど、僕と芳彦さんだけが持つ能力と言って良いかな?」

 

 

 智明は姫乃に自身と芳彦が持つ能力の説明と教え損なっていた芳彦達の紹介をした。

 

 

「…凄い力ですね。でも、どうして智明さんと芳彦さんだけが持っているんですか?」

「それについてはちょっと解らないんだよね。まぁ、共通点はあるんけど、解る?」

「共通点ですか?」

 

 

 姫乃は智明と芳彦を見比べる。これと言った共通点は見当たらないと感じた彼女は芳彦のある個所に気付く。

 

 

「あのぉ、芳彦さんの腰に付けているのって艤装じゃ?」

「お? 漸く気付いたか」

「漸くって…芳彦さんって、女だったんですか!? じゃあ、共通点って…智明さんも!?」

「何故そうなる……」

 

 

 見当違いの答えに芳彦はズッコケる。

 

 

「僕も芳彦さんも男だよ、姫乃ちゃん?」

「で、でも艤装を男性が装備なんて……」

「まぁ、僕は今艤装を付けていない状態なんだけどね。僕達は男性適合者って事」

 

 

 そう言いながら智明は着ている上着を捲り上げ、背中の接続部位を姫乃に見せた。

 

 

「本当だ……。でも、ブティクさん達の事と良い、智明さん達が男性適合者であると言い……驚く事が多すぎです」

「ははっ、次第に慣れるから問題無いよ」

 

 

 何度も驚いたせいか、少々お疲れ気味な姫乃に智明は言う。

 

 

「パイプ役になって貰うからな、慣れてくれなきゃ困るぜ? ま、直ぐ仲良くなれるさ」

「うぅ、頑張ります…。ところで智明さん、パイプ役って何をすれば良いんですか?」

「そこまで難しい仕事をする訳では無いから心配しないで。鎮守府に帰す際に、姫乃ちゃんに親書を持たせるから、それを上層部の人達に渡して欲しいんだ」

 

 

 智明達の計画はこうだ。

 日本国に自分達の存在を公表した上で同盟を結び、霊装化された近代兵器の技術及び戦力提供等を交渉カードに、自分達の身の安全の保証や必要な支援を提供して貰う。

 

 

「せ、責任重大じゃないですか!?」

「そこまで緊張しなくても良いよ? 要は親書を届けてくれれば良い訳だから」

「それじゃあ、親書を書き上げ次第、呉鎮守府へ戻れる事になるんですか?」

「鎮守府へ帰すのは一仕事してからだな」

「一仕事?」

 

 

 芳彦の言葉に姫乃は首を傾げる。

 

 

「姫乃ちゃんには親書と一緒に撮影記録も持たせるからね」

「撮影記録?」

「百聞は一見に如かずって言うしよ、俺達が戦闘している姿を撮影するって事さ」

「成る程、演習を撮影するんですね?」

「違うぞ」

「え?」

「撮影するのは実際に深海棲艦と戦っている光景だ」

「え?」

「因みに沖ノ島海域の攻略光景を撮影するから」

「…………………」

 

 

 智明達は親書と共に自分達が戦っている姿を撮影した記録を送り、相手に艦隊の実力を見せ付ける必要があると考えていた。交渉は互いに対等な立場で行っていかなければならない。相手に嘗められてしまえば自分達に不利な条件を次々と押し付けられてしまうだろう。

 智明達、水野・函南艦隊が持つ交渉カードは、

 

「自分達男性適合者の存在」

「深海棲艦を仲間にする力」

「人類勢力が未だに知らない深海棲艦の情報」

「霊装化された近代兵器を製造する技術」

「そして自分達艦隊という戦力」

 

 所有艦艇数が少ない国が交渉相手なら直ぐに相手から飛び付いてくれるだろうが、智明達が相手取るのはアメリカやイギリスといった大国に並ぶ程の艦艇を所有している日本国。下手な交渉をしてしまえば即座に裏切られ、データ等の美味しいモノは奪われ、男性適合者である自分と芳彦やブティク達は研究機関へとぶち込まれる可能性がある。

 要は第一印象で油断出来ない相手であると思わせれば良い訳だ。その為、日本国海軍が手を煩っている沖ノ島海域を完全に解放する事で、自分達の実力を見せ付ける必要がある。

 

 

「だから、姫乃ちゃんには実際に現場を見た証人として沖ノ島海域攻略には付いて来て貰うから」

「直ぐに帰したいのは山々なんだがな。俺達の力を見せ付ける必要があるから、済まねぇな」

「え、えぇぇぇええええ!?」

 

 

 その日一番である驚愕の声を姫乃は響かせたのであった。

 

 

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トラック泊地 リゾート・スパ

 

 

「ふわぁ~、生き返るわ~♪」

「あ~、凝り固まった体が解れていく~♪」

「あ、そこ、気持ちいい~♪」

 

 

 リゾート・スパ施設の一つであるマッサージコーナーにて優梨子、北上、大井の3人がマッサージされている。

 リラクゼーション効果のあるお香の煙が漂う中、マッサージ師によって体の筋肉を揉み解されながら、肌に美肌効果のオイルを刷り込まれていく。

 3人共にご満悦といった様子で心地好いマッサージを堪能していた。

 

 

「はふぁ〜身体の芯まで暖まりますぅ~」

「気持ち良ぃ~」

「あひぃ~、電気がツボにぃ~、痺れるぅ~」

「ZZZ…」

 

 

 また、温泉・プール区画では駆逐艦の4人が様々な温泉に各自入って楽しんでいる。

 

 

「午前中は此処でゆったりして、お昼ご飯食べ終わったらショッピングに行かない?」

「良いですね! 新しい服を探しましょう♪」

「優梨子っちも大井っちも、前も買わなかった?」

「何言ってんの北上っち! 最近、新しいのが出たんだよ?」

「これは早速、北上さんに着せて試さなければ……」

「え? 私が着せ替えされる前提?」

 

 

 着せ替え人形にされる運命を察知した北上は午後からの受難に溜息を吐くのだった。

 

 

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リゾート・スパ ホテル区画のとあるホテルの一室

 

 

「ん、む…」

 

 

 目が覚めた蒼真はベッドに付属されている時計に目を向ける。

 

 

「12時前……、昨夜は飲み過ぎたか…」

 

 

 頭に痛みは無く、気分も良いので二日酔いでは無い様だが、昨夜の記憶が途中から霞が掛かった様に思い出せなかった。

 

 

「……確か足柄と2人で飲みに歓楽街へ赴いて、酔った足柄の愚痴を聞いて……」

 

 

 昨晩、蒼真は足柄と約束した通り2人で飲みに出ていた。最初こそ酒を酌み交わしながら、楽しく世間話をしていたのだが、彼女が出来上がり始めてから愚痴を延々と聞かされる羽目になった。

 周りの光景が普段寝泊まりしている兵舎で無い事から飲んだ後、近くのホテルにでもチェックインした事は解かる。

 

 

「良くチェックイン出来たものだ………ん?」

「うにゅう……」

 

 

 取り敢えずシャワーでも浴びようかと体を起こそうとすると、右半身に柔らかい感触と共に重量感を感じた。しかも、声も聞こえる。

 

 

「………………まさか…」

 

 

 掛け布団を捲ると、足柄が蒼真の体に抱き着いて眠っていた、全裸で。

 

 

「………………」

「んぅ、……蒼真ぁ……」

 

 

 蒼真の胸元を頬ずりしながら足柄は寝言を呟く、全裸で。

 

 

「…………まさか K点を超えるとは」

「うにゅぅ……幸せにしてねぇ……」

「……はぁ」

 

 

 幸せそうな表情で寝言を続ける足柄に蒼真は溜息を吐きながらも起こさない様に器用にベッドから出てシャワールームへ向かった。

 この状況を如何したものかと頭を捻らしながら…

 

 

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 午前中をマッサージや温泉での休息に当てた優梨子達は昼食後、ショッピングモールで買い物と洒落混んでいた。

 

 

「北上っち、可愛い~♪」

「いや~、無いわこれ。派手過ぎるわ~」

「そんな事無いわ、北上さん! 似合うって!」

 

 

 服屋に来た優梨子達は、優梨子監修の下、休日に着る新しい服を選んでいた。

 

 

「眼鏡が有れば完璧じゃない、優梨子さん?」

「それ戴きよ! 後で伊達眼鏡を買いましょう♪」

「私で楽しむ気満々だよ、この2人…」

 

 

 優梨子と大井は北上に色々と衣装を着せては楽しんでいた。因みに北上が着せられている衣装は白いワンピースに薄生地のカーディガンを羽織り、ムートンブーツを履いている。三つ編みだった髪型も今は降ろされてストレートロングとなっており、道行く男性がチラチラと視線を向けていた。

 そんな優梨子達の元へ流行の服を持って綾波達が駆けて来る。

 

 

「司令官、これどうですか?」

「似合う?」

「おお~、良いね~♪」

「私と望月はどうですか、司令官?」

「おお~、それも中々。大井っちはどう思う?」

「わぁ~、可愛いじゃないですか! 良いですよ♪」

「私的にもそれはアリだね」

「やったね、望月♪ 司令官達のお墨付きだよ!」

「服は機能性重視でしょ~?」

 

 

 わいわいと騒ぐ7人だったが、ふと綾波がある人物を見付ける。

 

 

「司令官、あれ!」

「ん? 御堂君と足柄っち?」

「2人だけって珍しいね」

 

 

 綾波が指差した先には蒼真と足柄が2人だけで歩いていた。

 

 

「珍しい組み合わせですね?」

「ねぇ、優梨子さん。あの2人が来た方向って…」

「ホテル区画……、まさか!?」

「え!? あの2人ってそんな関係なの?」

「知らなかった……」

 

 

 足柄は蒼真の腕に抱き着いて幸せそうな表情をしており、蒼真も抱き着いている彼女を咎める様子も無くそのままにしている。

 

 

「どうする優梨子さん?」

「どうするも何も、これは出歯亀しろと私のゴーストが囁いているわ!」

「何処の少佐さ? 優梨子っち…確かに少佐だけど…」

「という事で、特殊任務『御堂大佐ト重巡洋艦足柄ノ関係ヲ調査セヨ』を開始します!」

「「「「「了解!!」」」」」

「え、皆出歯亀好き!?」

 

 

 北上以外が優梨子の案に賛同し、一同は蒼真達の後を追う事となった。

 

 

「あー、足柄?」

「なぁに、蒼真?」

 

 

 腕に抱きついて離れない足柄。

 頬を軽く染め、蒼真を見つめる姿は恋する乙女であった。

 

 

「その……、済まんな。この様な事になってしまって」

「気にしていないわ」

「しかし……む…」

 

 

 微笑みながら答える足柄に蒼真は尚も謝罪の言葉を続けようとするが、爪先立ちで唇を重ねて来たので中断される。足柄は蒼真の首に腕を回して舌も捻じ込んできたが、蒼真はそのまま受け入れた。

 2分間程で足柄から唇を放し、彼女は笑顔で言った。

 

 

「私は幸せよ?」

「! ……そうか、ならこれ以上は何も言わん」

 

 

 そんな足柄に蒼真はただ微笑み返す。

 

 

「……が、覗き見とは感心しないな。斑鳩少佐?」

「え……!?」

 

 

 そう言って蒼真が顔を向けた先には、2人のキスシーンを出来るだけ近くで観ようと、隠れていた木箱から体を乗り出していた優梨子達がいた。

 

 

「バレてた!?」

「さすが、御堂大佐ね!」

「いや、隠れていないからバレバレだし…」

「撤退、撤退よ!!」

 

 

 そう言って脱兎の如く逃げていく優梨子達。

 その姿に蒼真は呆れながら溜息を吐くだけだったが…

 

 

「ま、待ちなさい。貴女達ぃ!!!」

 

 

 足柄の方は余程恥ずかしかったらしく、熟し切ったトマトの様に真っ赤な顔で追いかけていった。そんな足柄を蒼真はまた溜息を吐きながら見送るのであった。

 

 

 そんな彼らに沖ノ島への出撃命令が下るのは数分後の事である。

 

 

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旭日島海底基地 食堂

 

 

 海底基地の食堂では明日行われる『沖ノ島攻略に向けて頑張ろうパーティー』なるものが開かれていた。

 皆がテーブルに並べられた料理で舌鼓を打ち、明日の作戦で支障が出ない程度にお酒を酌み交わしている。

 

 

「え? 智明さんって提督もされているんですか?」

「此処には提督は居ませんから。施設の整備等は妖精さん達がしていますが、作戦や戦闘の指揮は智明さんや芳彦さんが基本しているのです」

「自ら出撃するんですか、十大佐みたい」

 

 

 姫乃は電に智明についての話を聞いていた。智明が2人しかいない男性適合者である事を知ってから色々と気になる様だ。

 

 

「はーい、タコヤキ焼いてきたから食べてやー?」

 

 

 そこへたこ焼きが盛られた皿を持った龍驤がやって来る。

 

 

「龍驤さん、有難うなのです」

「うわ~、美味しそ~♪」

「そういや、レクイエムはドイツ艦やったな。蛸は大丈夫なん?」

Oktopus() は悪魔の魚と呼ばれて避けられていたから、初めてね」

「タコは美味しいのです。レクイエムさんも試してみるのです」

 

 

 電の勧めでレクイエムはたこ焼きを一口頬張る。暫く咀嚼していたが、

 

 

「タコの程よい歯応えが良いわね、ソースも lecker(美味しいわ)

「気に入って貰えて何よりや」

 

 

 レクイエムの感想に龍驤は満足し、次のたこ焼きを焼くべく厨房へ戻って行った。

 姫乃達がたこ焼きをつつく中、隣では扶桑が夕張と改造や武装について相談していた。

 

 

「戦艦なので可能ならこの火力は残したままで機動性等を上げて欲しいのですが…」

「原子炉タービン(大)があるから出力は問題無いわ、装甲だって合金装甲で厚さや重さは変わらずに防御力は上げられるし。後は改造先を如何するかね、やっぱり航空戦艦やミサイル戦艦やら色々パターンはあるけど何が希望?」

「そうですね、万能性は欲しいですが提督率いる函南艦隊の編成だと火力不足が否めませんから、やっぱり火力重視の戦艦でお願いしたいですね」

「ならヨハムやヴァーチがいるから、あの娘達の武装を参考にしたら直ぐ叶いそうね」

あの時(第2次大戦時)に『欠陥戦艦』等と不名誉な名前を付けられてしまったのでそれを払拭出来れば何も言いません」

「い、一途な思いね…」

 

 

 「もう不幸とは言わせない」とどんよりしたオーラを纏いながらブツブツ呟きだした扶桑に夕張はちょっと引き気味。そんな夕張の元へニヤニヤ顔の隼鷹と少々不機嫌顔の千歳が現れる。

 

 

「夕張〜、聞いたぜ〜? 智明とシケこんだらしいな〜?」

「ぶふぅっ! な、何故それを!?」

「不知火から聞いたわ。抜け目ないわね」

「あ、あの馬鹿駆逐艦……勝手に人の情事を…」

「とも君と2人っきりの機会だからってズルくない?」

「先に智とシた千歳に言われたくな「夕張さん……」……はい!?」

 

 

 冷たい呼び声に油の切れたブリキ人形がギギギと首を動かす様に声の方を向く夕張。そこには電が笑顔で立っていた。目は全く笑っていなかったが…

 

 

「お話があるので付いて来て欲しいのです」

「いや、あの……「付いて来て欲しいのです」……はい…」

 

 

 言われるままに夕張は電の後を付いて…というか引き摺られて食堂の外へ連行されて行った。

 

 

「夕張ちゃんが電ちゃんに連れていかれたけど、どうしたんだい?」

「さぁな〜。それより智明〜、ジントニック作ってくれよ〜」

「私にはモッキンバードをお願いね、とも君」

「はいはい」

「あの、私にも何か良いですか智明さん?」

「良いけど、扶桑ちゃんと姫乃ちゃんは何系が良い?」

「ええと、甘い系でお願いします」

「私はまだ未成年なので…」

 

 

 夕張と電を心配しつつ、智明は隼鷹と千歳、扶桑に頼まれがカクテルを作るべく準備をしだした。

 

 

「”隼ちゃん”、”夕ちゃん”はどうしていなちゃんに?」

「決まってるじゃんかよ〜、夕張が抜け駆けしたからに決まってるだろ?」

「抜け駆け?」

「智明とシたんだよ」

「”シた”? 何を?」

「なんだよ〜、その歳で知らないのか?」

 

 

 智明がカクテル作りで此方の会話が聞こえていない事を確認した隼鷹は、意地悪い笑みを浮かべて姫乃の耳元でその意味を説明する。すると、隼鷹の説明を聞く姫乃の顔がみるみる内に赤く染まっていった。

 

 

「な、な、なななななぁ!?」

「あっはっは!! 何、夕日みたいに赤くなってるんだい? それ位もうやってる歳頃だろ~?」

「気に!? わ、わらひはべひゅに…そんな事!?」

「何だよ~、まだ処女なのか~」

「しょ!? じゅ、隼ちゃんはどうなのさ!?」

「え、私? そりゃあ開通済みさ」

「!?!?」

 

 

 徳利から注いだ日本酒をくいっと引っ掛けながら爆弾発言をする隼鷹に、姫乃は驚愕の表情となる。

 

 

提督(芳彦)と酒飲んでた時にさ、互いにムラムラ~ってしたからそのまま」

「軽っ!? 理由が軽すぎるよっ!!?」

「良いんだって、互いに好きなんだしさ。雷や羽黒もこっそりヤっちまってたしさ」

「ふぇ?」

 

 

 さり気無く他の艦娘の事まで洩らす隼鷹。その言葉が聞こえていた様で、離れた席で飲んでいた雷と羽黒が口から飲み物を盛大に噴き出し、その噴出液をまともに浴びた木曾と那珂が悲鳴を上げた。

 そこへ智明が作ったカクテルを持って来て彼女を窘める。

 

 

「隼鷹ちゃん、余り下な話は止して欲しいな。おまたせ、扶桑ちゃんのはヴァイオレット・フィズね」

「くぅ〜。美味いね、智明のカクテルは♪」

「美味しいわ、とも君♪」

「本当、美味しいです智明さん」

「喜んでもらえて何よりだよ」

 

 

 千歳達に微笑みながら、智明は姫乃を見やる。彼女はレクイエムの隣で新たにやって来たブティク達、潜水艦組に囲まれて如何したら良いか分からないといった表情をしていた。

 

 

「ソ、ソソソ~?」

「カカ」

「ヨ~」

「え~と…、何でソ級達は私の周りに?」

「コノ娘達ハコノ基地ニイタノヨ? 貴女ニ気付カレナイ様ニ行動シテイタケド」

「気付かなかった……」

「そ級ハうぃざーど、か級ガまらこっとデよ級ハぼるがデス」

「れーちゃんは驚いていない様だけど、知ってたの?」

「ええ。でも水野 Admiral(提督) が皆を紹介するまでは黙っておいてくれと言われてたから」

「そんなぁ…」

 

 

 レクイエムは既に知っていた事に軽くショックを受ける姫乃。そこへ芳彦がビールジョッキ片手に現れる。

 

 

「よっ、提督さん。調子はどうだい?」

「あ、芳彦さん。潜水艦の娘達に囲まれてしまって…、でも楽しんでいます」

「ははっ、そりゃ良かった」

 

 

 大皿に盛られた唐揚げを摘まみながら芳彦は笑う。

 

 

「でも、深海棲艦とこうしてご飯を食べながらお喋りするなんてまだ信じられないです」

「元深海棲艦ト呼ンデ欲シイワネ」

「あ、御免なさい」

「呼び名を変えたらどうかしら、函南 Admiral(提督)?」

「そうだな。他の深海棲艦と区別しておいた方が良いよな…」

 

 

 ビールを一口飲んで、芳彦は考える。そこへ、雷と羽黒がやって来る。

 

 

「司令官、どうしたの?」

「悩み事ですか?」

「いやな。ブティク達、元深海棲艦の呼び名を何にしたものかとな」

「呼び名を決めるの? 良い考えだと思うわ」

「確かにブティクさん達を元深海棲艦と呼ぶのは寂しいですね……」

 

 

 芳彦の言葉に雷と羽黒は頷く。

 そんな芳彦達の元に智明もやって来る。

 

 

「どうかしたんですか、芳彦さん?」

「ああ、ブティク達の呼び名を元深海棲艦から別のにするなら如何したら良いか、とな?」

「……確かに区別を付けた方が良いですね。姫乃ちゃんは何か良い名前を想い付かないかい?」

 

 

 智明も考えながら、姫乃に尋ねる。

 

 

「え!? 私ですか?」

「何かイメージみたいなモノでも良いんだけど?」

「そうですね……」

 

 

 コップに入ったウーロン茶で喉を潤し、姫乃も考えるが、ふと思いつく。

 

 

「ブティクさん達は生まれ変わったと言っていましたよね?」

「ソウデスネ、私ハソウ考エテイマス」

「なら、生まれ変わったと言う意味で”新生”と言う単語は付けたらどうですか?」

「新生か、良いな」

「新生ですか、成程………」

 

 

 姫乃の案に智明は納得する。確かに負の念に支配されていた彼女達が自分や芳彦に解放され、完全な自我を持つ個体に生まれ変わる過程は新生と言って良いだろう。

 

 

「となると新生何にする?」

「生まれ変わった艦艇で『新生棲艦(しんせいせいかん)』とか?」

「ソノマンマッテ感ジデスネ」

「”棲”ノ意味ガ解カラナイワ」

「そういやそうだな……」

 

 

 良い単語は出たが、それに続く言葉が中々思いつかない。そんな時、智明は思い付く。

 

 

「『新生海人(しんせいかいと)』はどうかな?」

「新生海人?」

「かいとトハ何ト書クノデスカ?」

「海より生まれし人と書いて海人。深海棲艦から生まれ変わって人に成った存在。どうかな?」

「ヒト………デスカ?」

「ブティク達は立派な感情がある。僕達みたいに笑ったり、怒ったり出来るんだ。それは立派な人だよ」

「智明………!!」

「智明さん……」

「だから新生海人なんだけど……、やっぱり変かな?」

「ソンナ事無イデス!!」

「ブティク!?」

 

 

 ブティクが勢いよく席から立ち上がったので、智明達は驚く。

 

 

「新シク生マレシ海ノ人、良イ呼ビ名デス。何ヨリ、私達ヲ人ト呼ンデ下サルノガ嬉シイデス」

「喜んで貰えて何よりだけど、そんなに嬉しい?」

「当然デス。何セ智明ガ名付ケテクレタ」

「半分は姫乃ちゃんのアイディアなんだけど……ぶもぅ!?」

「智明♪」

 

 

 テーブルから身体を乗り出し、智明を抱き締めるブティク。制服越しながらもその豊満な胸に彼の頭をギュウギュウと押し付けている。

 

 

実にあざとい…

 

 

「何時マデ抱キ締メテイルツモリナノぶてぃく! サッサト離レナサイ!!」

「ソ、ソソソー!!」

「カカッカ!」

「ヨーヨ!」

 

 

 この状況にコーバック達が騒ぎ出す。しかし、暫くの間離れていたからか一向に放す様子が無い。

 

 

「さっさと離れるぞいかずっちん、はぐろん。姫っちと”れくいー”も早く」

「れ、れくいー……」

「あの、智明さんを助けないんですか?」

「あんなに集られたら助けようが無いだろ? それに、もっと集まって来るぞ」

「もっと?」

 

 

 ブティクの胸元で智明は腕を振り回して暴れるが、一向に放してくれない。

 そして、そこへ突撃してくる複数の影……

 

 

「好イ加減ナサイ、ぶてぃく!!」

「……智明カラ離レテ…」

「智明ノ危機ヨ。助ケルワヨびふと!!」

「ハイ! 姉様!!」

「レレレレー!」

 

 

 ブラス、ハク、ヨハム、ビフト、ヴァーチが参戦し、遂にはテーブルがひっくり返る始末。芳彦達が料理やらを避難させていた為に、特に被害は無いが、肝心の智明は……

 

 

「よ、芳彦さん……智明さんが!?」

 

 

 智明は重なり合ったブティク達の下敷きになっており、はみ出てピクピクと痙攣していた腕が遂に力尽きて動かなくなった。

 

 

「落ちたな……(確信)」

「そうね」

「落ちたって…助けないと!?」

「大丈夫、大丈夫。どうせ、最強のセコムが来るだろうから」

「せこ……? きゃっ!?」

 

 

 智明に覆いかぶさる形となっていたブティク達が吹き飛ばされる。圧迫死しかけた智明の前に現れたのは重武装した電だった。

 

 

「智明さんから離れるのです」

 

 

 灰色と黒色の機動隊か特殊部隊が着る様なプロテクターやヘルメットを装着し、その手にはショットガンの様な重火器を持っていた。そして何故か……サングラスを掛けており、表情が読めないが多分目のハイライトは消えているであろう。

 

 

「貴女達は何時も何時も、智明さんを困らせて。好い加減にするのです」

「イヤ、シカシ……ふぉぼっ!?」

 

 

 弁解しようと口を開いたヨハムをショットガンから放たれたゴム弾が直撃する。

 

 

「姉様!?」

「ハ、鼻ガ……」

「言い訳なんか聞きたく無いのです」

 

 

 ショットガンに新しいゴム弾を補充しながらそう言うと、気絶している智明を担ぎ上げる。体格差もあってシュールな光景だ。

 

 

「智明さんは電が責任持って部屋に連れて行くのです」

「ア、アノ…電?」

「何ですか、ブティクさん?」

「智明ヲドウスルノデスカ?」

「部屋に連れて行くのですが、何か?」

「エ、アノ…」

「何かあるのですか?」

「………何モ無イデス」

「なら失礼するのです」

 

 

 智明を担いだまま、電は食堂から去って行った。その姿を千歳や浜風が何故か羨ましそうな目で追っており、食堂入口には疲れた表情の夕張が座り込んでいた。

 暫く無言が続いたが、姫乃が心配そうに芳彦に尋ねる。

 

 

「あの……、智明さんは大丈夫でしょうか?」

「いなずっちんだし大丈夫だろ、多分」

 

 

 智明を担いで去って行く電の姿を見送った姫乃が芳彦に尋ね、芳彦は愉快そうに笑いながら答える。

 

 

「さぁて、そろそろ切上げるぞ。明日は決戦沖ノ島海域だ!!」

《は~い》

 

 

 芳彦の号令で片付けを始める艦娘と新生海人達。その顔には明日行われる沖ノ島攻略作戦に対する不安は少しも見られなかった。

 

そして翌日

 

 水野・函南艦隊は沖ノ島海域へ向けて出撃する。時を同じくして、呉鎮守府からは双龍艦隊が、トラック泊地からは蒼真率いる鴉艦隊と斑鳩艦隊が南西諸島海域へ向けて出撃した。

 

今、様々な思惑が南西諸島海域で交差する。




現状報告
・ブティク達、元深海棲艦を『新生海人』と名付けた!
・芳彦と雷との絆がより深いものとなっていた!
・芳彦と羽黒との絆がより深いものとなっていた!
・芳彦と隼鷹との絆がより深いものとなっていた!
・電は進化してガーディアン電になった?
・智明と電の絆がより深いものになった?


尚、活動報告にてアンケートを設けましたので宜しかったら御回答お願いいたします。


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