嗚呼、「黄泉の艦隊」が往く   作:影鴉

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アニメ版「艦これ」第2話を視た感想は…
足柄さんの扱いが公式でも「飢えた狼(モテない)」だなんて…涙がで、出ますよ。
そして間宮さんのお店のメニューガガガ…「根性焼き」ってなんだよ?(哲学)
でも間宮さんの「根性焼き」ならちょっと見たいかも(ドS並感)

今回は智明達の親書を受け取った日本国海軍の反応になります。


 会合

呉鎮守府 桟橋

 

 

「雪風よ、何時までそこに座っているのだ?」

「…………」

 

 

 桟橋でずっと座りっぱなしの雪風に磯風が問い掛けるが、彼女は答えない。

 彼女の提督である織川 姫乃少佐が伊8と共に行方不明となって以降、毎日ずっと桟橋の前で座り続けていた。

 

 

「何もせず、ただ座ったままでは司令も浮かばれんぞ?」

「……しれぇは帰って来るもん」

「だからと言って、何も食べずに待っていては身体が持たないだろうに」

 

 

 雪風は呉鎮守府に帰港して以降、碌な食事や睡眠を摂らずに待ち続けていた。その姿は余りに痛々しく、大淀や磯風といった艦娘、施設の職員達が施設内で待とうと説得するのだが雪風は聞き入れる事は決して無かった。

 

 

「伊8がブルネイ泊地で建造された事は聞いているだろう?」

「………聞いた」

「つまり伊8は彼処で轟沈したのだ。伊8か生きていたなら提督も無事である可能性はあるが、提督ももう……「しれぇは死んで無いもん!!」…雪風…」

 

 

 磯風の言葉を遮る様に雪風は否定の叫びを上げながら立ち上がり、磯風を睨み付ける。その顔は涙でグショグショだった。

 

 

「しれぇは絶対に生きてるもん!! どうして磯風はそんな酷い事言うの!?」

「私だって司令が死んだなんて信じたく無い! だが、司令の遺体は見付かっていないとはいえ、伊8は沈んだのだぞ? 周辺海域を隈無く探索したが見付からなかった、ボートが無い状態で司令が助かるのは不可能だ」

「だって…だって……うわあぁぁぁぁああん!! しれぇぇぇええ!!!」

 

 

 ついに雪風は泣き出してしまった。

 無理も無いだろう、基本幼い少女が素体である駆逐艦の中で雪風は更に幼い部類に入る上、姫乃の初期艦娘として磯風や大淀よりも長い付き合いだった。殆どの艦娘がオリジナルが死亡し、オリジナルのクローンになっている現状、自分達の本当の家族の記憶を持つ艦娘は殆どいない。そんな艦娘達と絆を築き、最も深い繋がりを持つ事になる提督は新たな家族とも言って良いのだ。

 仕方なく、磯風は雪風を抱き締めて慰めていると、アナウンスが流れてきた。

 

 

【〜♪ 双龍艦隊が帰艦しました】

「そういえば、特殊任務で南西諸島海域へ出撃していたのだったな。ん?」

 

 

 桟橋へ向かって来る天龍達。

 しかし、向かって来る艦娘達の中にボートがあった。出撃する双龍艦隊の姿を磯風は見ていたが、彼女達の提督である蒼介は呉鎮守府に残っており、誰もボートで同伴はしていなかった筈だ。そう考えている内に桟橋に双龍艦隊が到着する。

 ボートが接舷され、乗船者が降りて来る。1人目は長く美しい銀髪で眼鏡を掛けた軍服姿の女性。その背中には艤装らしきモノを着けているが、磯風の記憶にはその様な艦娘は無い。

 そして次に現れたのは……

 

 

「しれ……い?」

「しれぇ? しれぇぇぇぇえええ!!!」

 

 

 自分達の提督である姫乃の姿がそこにあった。

 既に雪風は叫びながら姫乃の元へと駆けて行き、驚いた表情の彼女へと飛び込んだ。

 

 

「しれぇ、しれぇしれぇっ!!」

「雪ちゃん!? それに磯ちゃんも!?」

「…一体今迄何処をほっつき歩いていたのだ……? 心配していたのだぞ……うぅっ」

「わわっ、磯ちゃん!?」

「この馬鹿司令! どれだけ心配させたと思っているのだ? 死んだと思っていたのだぞっ!!」

 

 

 雪風を追って来た磯風も姫乃が無事である事を見ると、ポロポロと涙を零して泣き出した。

 姫乃は慌てて2人を抱き締め、慰めるのだが、後から来た大淀も同じく泣きだし、それに釣られて雪風が再び泣き出したので必死に3人に対し謝るのだった。

 死亡したと思われた姫乃の帰還は呉鎮守府含め、日本海軍のニュースとして一気に広まった。しかし、彼女と双龍艦隊が持ち帰って来た親書は更なる大きな衝撃を与える事となる。

 

 

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 双龍艦隊が帰港して数日後、日本国に所属する各鎮守府、警備府、泊地、基地の主要な提督達や、特別な事情から低い階級に降格された提督などが直接、または秘匿回線を用いて一堂に会していた。

 非公式のこの会合が開かれたのは、深海棲艦との戦いで艦娘が初めて歴史に登場した際に開設された横須賀鎮守府。その横須賀鎮守府内の何処かに存在するが、特例故に公的な記録全てから抹消された存在しない筈の部屋で、およそ20名前後の提督達が顔を並べていた。

 

 今回、提督達が集結したのは双龍艦隊が南西諸島海域に出没した新種の深海棲艦及び、それらと艦娘を引き連れている男性について話し合う為だ。

 各提督の手元には親書と同封されていたデータのコピーと姫乃からの証言を纏めた資料が置かれ、最後に智明達の沖ノ島海域攻略時における戦闘映像がスクリーンに映し出されていた。

 自分達が知り得ぬ未知の存在に驚く以上に、鬼種が3隻にフラッグシップ以上の上位個体のみの編成と云う、南西諸島海域に出没する艦隊の編成及び数を無視した凶悪な敵艦隊を相手に圧倒的な力で撃破していくその姿は驚愕以上に恐怖を感じた。

 未知の武装をした艦娘や男性適合者はまだ良い、SMSで砲撃範囲外から戦艦を沈める装甲潜水艦や光学兵器で複数の艦を沈めて見せた原子力戦艦、圧倒的なダメージコントロールと艦載機積載数を誇る氷山空母に果ては光学迷彩でその姿を見えなくするステルス戦艦までいるのだ。

 敵対してしまえば大将が率いる艦隊でも全滅しかねない力に提督達の顔は暗い。

 しかし、この状況が面白くて仕方が無いとばかりに口元に笑みを浮かべる者が1人。如何にも歴戦の老軍人といった風貌の提督は境 源重郎(さかい げんじゅうろう)元帥。

 第1次、第2次海洋大戦にて戦線の指揮を執った最高司令官であり、常に最善と言える判断を下してきた。彼の迅速な判断が無ければ、大戦時の戦死者は何倍にも増えていたと言われている。

 一度は引退を決めようとしていたが、生き残った兵士や上層部の強い希望により提督達の総指揮を取り続ける事を決め、現在も横須賀鎮守府にて提督達を指揮する立場として他の提督達から信頼を寄せられてる。 源重郎は自分の手元の資料を軽く手で叩き、提督達を注目させた。

 

 

「さて、お前ぇ等はどう考える? ペーパープランですら無い架空艦の力を持つ男性適合者に近代兵器を武装に持つ艦娘達、そして何より深海棲艦を仲間にし、剰え強力な新型艦へと進化させるその力。まぁ、進化に関してはこの資料を見る限り深海棲艦共が元々持っていた能力らしいがな。そんなとんでもねぇ連中が俺達と同盟を組みたいときた、面白ぇ事になりそうじゃねぇか?」

「元帥さぁ、楽観視し過ぎてない? コイツらが殴り込み掛けて来たら鎮守府守りきれる自信が無いんだけど?」

 

 

 源重郎の言葉に否定的なコメントをしたのは佐世保鎮守府所属の銀条 ユーリ中佐。彼の言葉に相手が人間と同等の知能を持っているが故に情報的な混乱を齎す事が目的ではないのか? と半信半疑の提督は頷きながら同意している。

 

 

「そもそも、深海棲艦なんか仲間にする連中を信用しても良いわけ?」

「その心配は必要無いでしょう。彼等と共にいた織川少佐には暴行を受けた痕跡は全く無かったし、ストックホルム症候群の兆しも診られない。親書を届けに行った双龍艦隊のメンバーも簡単に捻れる実力を持っているだろうに、深海棲艦の襲撃から救ってくれたばかりかお茶まで出してくれる始末」

「それに向こうから送られてきたデータや武装は此方で調べた結果、どれも本物やった。疑い用が無いで?」

 

 

 ユーリの言葉に対し、神宮寺 重成大将と葛城 蓮少将が問題無いという発言をする。

 

 

「それに銀条君、大事な事を忘れています。彼等も妖精さん達を味方にしているのですよ?」

「……深海棲艦と戦う手伝いで召喚に応じた妖精達が敵側に回る事は決して無い」

 

 

 それでも納得していないユーリを諭す、30代半ばの白髪を後ろで纏めた少々病的な細面の男性は同じ佐世保鎮守府に所属する白浜 守矢(しらはま もりや)大佐。嘗て南方海域の最前線を指揮していた少将だったが、戦闘中に負傷した為に戦線へ立てなくなった事から降格申請後、比較的安全圏の佐世保鎮守府へ移った経緯を持つ。

 守矢の話に頷きながら同意している、黒ぶちの眼鏡を掛けて黒髪をオールバックにした青年は神宮寺 清(じんぐうじ しん)少将。重成の弟であり、ラバウル基地で他基地・泊地の提督達と最前線で戦い続けている猛者だ。

 

 

「だいたい、当人の姫乃嬢が問題無いと言っている以上、問題無いでしょう?」

「…姫乃の証言は兎も角、妖精達が味方になってる事実が有るなら問題無いか…」

「ちょっと! ユーリ君酷くない!?」

「まぁ、妖精が味方してるから敵対する心配が無いと言われても納得したくない奴もいるだろうけどね?」

 

 

 渋々納得するユーリの言葉に気に入らない内容が有った為に姫乃が文句を言う中、ユーリは言葉を続けながらチラリとある人物を見やる。智明達の艦隊メンバーを見て以降、仏頂面で黙ったままの村神 司郎中佐は眉を顰めた。

 

 

「村神、気持ちは解かるが私怨を持ち込む事は許されんぞ?」

「別に……心配いらないっす…」

 

 

 彼は過去に起きた深海棲艦による本土沿岸部襲撃の際に家族を殺されていた。この事から深海棲艦を深く憎んでおり、水上戦術機甲鎧装のパイロットを志望したのも復讐の為であった。

 しかし智明達の仲間となっている深海棲艦達にその怒りの矛先を向け、彼等と敵対する訳にはいかない。

 雪の戒める言葉に司郎は仏頂面のまま答えた。

 

 

「自分としては伊8が転生した事に驚きを隠せないのですが?」

 

 

 ユーリと姫乃の遣り取りに口を挟んだのは、ブイン基地所属の十六夜 恭也(いざよい きょうや)少将。清と同じく南方海域を守護する強豪提督3指に入っている。

 

 

「まぁ、この事態を転生で扱って良いのか判りませんがね。伊8がレクイエムと言う近代潜水艦になった訳ですが、大鯨が龍鳳へと変われば再び大鯨を建造出来る様に、再び伊8を建造出来たのですから」

「別種艦に改造された扱いなのかどうなのか…、技術者としては気になるねぇ」

 

 

 恭也の言葉に興味深そうに同意するのはショートランド泊地所属で南方海域攻略艦隊の最高責任者である光浦 源之丞(みつうら げんのじょう)大将。元々、水上戦術機甲鎧装の開発主任であり、第2次海洋大戦後は艦娘の艤装や武装の開発も行っていたが、提督としての適性が高かった為に提督の任に転向した経歴を持つ。

 モニターにレクイエムのスペックが表示された。

 男性操縦者と同じく架空艦であり、潜水艦にして50ノットもの潜航速度を誇る。武装は誘導魚雷から潜対艦、潜対空ミサイルを装備。戦闘になれば雷撃等簡単に回避し、一方的な攻撃で深海棲艦を撃破するだろう。

 

 

「織川少佐のレクイエムもそうだけど、一番はこの武装だね」

 

 

 そう言いながら源之丞は武装データが纏められた書類を示す。

 

 

「ミサイル兵器やイージスシステムの霊装化を成功し、果ては未だに実験段階な光学兵器まで武装として使用しているんだ。この書類に寄れば駆逐艦である雷や電達はイージス駆逐艦として改造された事によって、戦艦に匹敵する火力を持てる様になっているし、千歳は水上機空母のままだと云うのに水上ジェット機を運用して正規空母どころかヲ級改フラッグシップすら相手取れる様になっている」

「…彼等の技術を本格的に導入出来れば、戦況は大きく変わる」

「駆逐艦のみの艦隊で鬼や姫すらも無傷で相手取れる様になるかもしれんわな」

 

 

 深海棲艦と一進一退を繰り返している人類にとって、提出された技術は革命的と言っても良い。鬼や姫級は強力と言ってもミサイルといった近代兵器が通用すれば十分勝てる相手なのだ。普及すれば戦況は大きく変わり、此方が優勢になる事は間違いない。

 

 

「ぶっちゃけよ、同盟結んで自由を認めれば強力な艦隊が味方に付く上に装備や技術も提供してくれんだろ? 相手は敵対や裏切る必要なんか無い訳だから、同盟しない手は無いだろうに」

 

 

 北方海域の最前線である幌筵(ぱらむしる)泊地に勤めている夷隅 弘太(いすみ こうた)少将が声を上げる。赤い髪の毛をバンダナに纏めており、好青年の様にも見えるが蒼真と同じく第2次海洋大戦にて出兵し、生き残った数少ない強化兵の1人である。

 

 

「夷隅、事態はそう簡単に決めれるモノでは無いのだ」

「相手が圧倒的な力を持つ以上、如何に友好的だとしてもそれを信用するか脅威と見るかは別です」

「救いのヒーローが登場、民衆大喜び! なんて、そう簡単に創作物の様な展開にはならんで?」

「されど、提出された内容は私達にとって喉から手が出る程欲しいモノばかり」

 

 

 日本国に送られた智明達からの親書には定例の挨拶に始まって、後は彼等における内容が簡単に纏められていた。

 自分達、男性適合者は何時、誰によってこの様な姿にされたかは不明であるが、人類生存の為に深海棲艦と戦う事を目的としている事。

 人類勢力や艦娘とは敵対するつもりは無いが、降りかかる火の粉であれば生き残る為に止むを得ず払う事になる。だがもしも今後、深海棲艦との戦いの中で自分達と共闘の意思があるのならば喜んで応じ、出来る限りの協力をする事。

 共闘の意思がある場合、交渉を行う場所、日時が書かれていた他、交渉時に彼等が求めている事と代わりに提出出来る事が簡潔に記されていた。

 

 

「そういえば境元帥、この人達といる艦娘は如何するんですか? 龍驤さんや隼鷹さんは篠原大佐、那珂さんは銀条中佐の元に居たんですよね?」

 

 

 艦隊メンバーが書かれた資料を手に持ちながら源重郎に質問したのは、タウイタウイ泊地所属の斉藤 芳樹(さいとう よしき)少佐。齢12歳だが、提督適性の高さとギフテッド、つまり天才であった事から日本海軍所属の提督の中で最年少の提督となった少年だ。

 智明達が仲間にしている艦娘はいづれも嘗て提督の指揮下におり、戦いで深海棲艦に捕えられた者達だ。

 

 

「資料を読む限り、いづれも深海棲艦に捕まっていた所を救出したとある。なら練度と共に記憶も奪われているし、彼等と絆も育んでいるじゃろう。そんな彼女達に元所属とはいえ、今は知らない艦隊へ配属しろと強制は出来んわい」

「しかし、各海域での重要な戦力であった空母や戦艦を持たれたままなのは戦略的には拙いのでは?」

「だからこそ、向こうの交渉カードである戦力の貸し出しを利用するのじゃろうが。まぁ、貸してくれるのが艦娘なのか連中が呼んでいる新生海人かは判らんがのぅ」

 

 

 不安げな言葉を漏らす芳樹に対し、爺臭い言葉遣いで戒めるのはリンガ泊地所属にして西方海域攻略艦隊責任者である西園寺 王火(さいおんじ おうか)大将。モニター越しに移っているのは隻腕の男性で、長い黒髪を後ろでポニーテールの様にして纏めている。彼も蒼真、弘太と同じく大戦を生き延びた強化兵であり、大戦中に左腕を失いながらも尚も戦い続けたその姿から『鬼武者』と呼ばれその武勇は海兵達に広く伝わっている。

 

 

「『新生海人』、か。男性適合者特有の能力によって、怨念といった負の感情を消されて自我が目覚めた深海棲艦と書いてあるが、これもまた驚異的な能力だ」

「能力だけを視れば深海棲艦がいるだけ仲間として増やせる訳だが……詳しい内容は直接聞かないと解らんな」

「ですがこの能力と資料のお陰で我々が推測でしかなかった事が正しかったと判明しました」

 

 

 深海棲艦はかつて海の底に沈んだ者達の怨念を始めとした、負の感情の集合体が海底に沈んだ骸や船の残骸を憑代に生まれた存在である事。そして、艦娘達によって沈めたとしても、残った残骸は新たな負の感情の憑代となって再び深海棲艦として復活する事。これらは人類側もほぼ確実視していながら、検証・実証する術が無かった為に推測に留まっていた。

 そして、彼等は負の感情を浄化して完全なる自我を目覚めさせ、『新生海人』と云う、言ってしまえば艦娘の様なヒトへと生まれ変わらせたのだ

 

 

「彼等の持つ浄化の力、そして深海棲艦の残骸を資材として再利用する事で復活を抑えている。我々では残骸を集める事は出来ますが、完全な浄化や残骸の利用は出来ません。人類が完全に勝利する為にも彼らの力は必要不可欠です」

「それは承知の事。だからこそ、彼等と交渉をする必要はあります」

「せやな。それで、交渉に赴くのは誰にするん?」

「交渉に出るのは俺と重成、そして連中と長く関わっている姫乃。そして護衛として蓮、ユーリを連れて行く」

「私は同行しなくて良いのか、元帥?」

「雪は弘太や菜々と共に北方海域の警戒に集中しろ。深海棲艦の動きが怪しい以上、何が起こるか分からん」

 

 

 近頃、北方海域では深海棲艦の活動が沈静化しており、姿を余り見掛けなくなっていた。

 この事態は日本国近海及び南西諸島海域で智明達が深海棲艦を殲滅した事から起きた事例と似ている事から最初は智明達による事態だと思っていた。しかし、親書やデータからは彼等が制圧している海域は日本国近海と南西諸島海域のみと書かれている。嘘と云う可能性もあるが、虚偽の報告をする理由が無い為にそれ以外の要因があると源重郎は考えていた。

 

 

「大規模反攻の可能性が考えられますし、北方海域防衛を指揮する貴女まで連れて行く訳にはいきませんよ」

「ふむ…、解かった」

「交渉当日に彼等が牙を向く事は無いだろうし、戦闘の警戒は要らないでしょう。問題は彼等の扱いをどうするかですが…」

「行動の自由を認めるにしても、彼等が持っている力は余りに強過ぎる…」

 

 

 交渉後、智明達と協定を結んだ際に問題となるのが彼等の自由規制だ。親書には行動の自由を求められているが、全員が艦娘と深海棲艦、男性適合者という個人で人間を超える力を持つ存在を自由にさせるのは本人達に敵意が無いにしても周りが納得出来るものでは無い。

 

 

「…動向の監視役を付けるて事を条件とした許可が最大限の譲渡だろう」

「妥当やな。後は交渉次第やけど、上手くいくかいな?」

「さあ? 後は彼等に会ってからですし、彼等の対応・利害が一致するか次第となるでしょうね」

 

 

 後は交渉次第と云う結論になり、会合もこれ迄と解散する空気になった時、源重郎が口を開いた。

 

 

「さて、会合も是位でお開きにしてぇ所だが……公義?」

「っ!?」

「姫乃の件はお前ぇが原因らしいじゃねぇか?」

 

 

 源重郎が視線の先をモニターに映る内蔵 公義中佐にやると、待ち受けていたのか、表情は変わる事無く彼の眉だけがピクリと反応する。

 

 

「それについては大変申し訳無く思っております。再確認もしないままで織川少佐に間違った指令を言い、その結果、伊8を轟沈させたどころか彼女自身を命の危機に曝してしまったのです」

 

 

 スラスラと自身の不手際を告白し、深々と頭を下げて謝罪する公義。

 

 

「織川少佐にとって家族と当然な伊8を死なせてしまったのは私が原因、つまり私が殺してしまったも当然の事です。貴女にとって、私は殺したい位に憎くて仕方ない相手でしょう。謝っても許してくれる訳無い事は解かっていますが、それでも謝りたい」

「内蔵中佐…」

 

 

 言えるだけの謝罪をする公義に戸惑う姫乃。

 しかし、周りの提督達の表情は良いモノでは無く、公義を厳しく睨み続けていた。

 その後、公義は降格や解任の覚悟が有ると他の提督達に言い。降格は無かったものの暫くの間、謹慎処分を受ける事に落ち着き、会合は終わった。

 

 

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 会合が終わり、部屋を出た源重郎と重成。長い廊下を並んで歩きながら、今後の方針を話し合っていた。

 

 

「公義の事、どう思います?」

「姫乃を消す利点がちっとも無ぇからな。だが、奴が連絡を間違ったと言うのは嘘だろう」

「大方、くだらない私怨で姫乃を嵌めたと?」

「小賢しい割にはちっぽけなプライドに拘る奴だ。雪風に始まって大淀に磯風、そして伊8と続いてレア艦を建造してみせた姫乃を妬んでいてもおかしくないだろ?」

 

 

 源重郎の考えに顔を顰める重成。

 財界の大御所からの紹介と提督適性の高さから提督として採用された公義だったが、提督に着任して以降、彼には何かと怪しい噂を多く聞くようになった。野心家で執念深く、任務遂行の為には艦娘を沈めないギリギリまで扱き使い、艦娘登場初期にあった唯の道具や兵器として扱う考えを未だに持っている。

 艦娘や他の提督等からは人格に難有と言われ、異動か解任をした方が良いとの話がでたのだが、解任して鎮守府から追い出してしまえば彼の背後にある連中の動きが解からなくなる為に処置が出来無いでいた。

 

 

「強硬派の連中さえ網羅出来てしまえば、用は無いんだがなぁ…」

「中々尻尾を見せない以上、泳がせるしか他は有りませんしね」

 

 

 源重郎が言った『強硬派』とは対深海棲艦における派閥の一つであり、公義の様に艦娘を兵器・道具としてしか見ておらず、彼女達の意見を無視した強行進撃による深海棲艦の撃破を方針としている連中である。

 日本国において150隻相当しかいない艦娘で日本国から協定を結んだ国周辺の海域までを護っていかなければならない。全世界に展開している深海棲艦の数は相当なものだ。それを艦娘、そして僅かに生き残った強化兵達だけで護るのは至難の業であり、その中で練度の高い艦娘を失うのは以ての外となっている。

 しかし、艦娘がクローンによって再建造出来る事から強硬派は低い練度であろうと、大量投入する事よって海域奪還する作戦を提案。現状では練度を高めた艦娘による堅実な海域奪還が支持されている為に強行進撃は起きずに済んでいるが、艦娘と触れ合う機会が無い政界や財界の者に強硬派が多く、一部で強行進撃の方針を進めるべく工作活動を起こしている情報も入っており、その様な事態に陥る可能性も否めなくないのだった。

 公義を紹介した財界の大御所も強硬派の一派であり、他にも彼は彼方此方の強硬派と繋がりを持っている。現在、源重郎達は信頼できる憲兵や情報課にその足取りを探らせており、強硬派のリストアップを行っている。強硬派と判明すれば直ぐ様潰せる訳では無いが、いつ来るか判らない横槍に備える事は出来る様になる。

 

 

「そういえば、姫乃が出撃した当日に大阪警備府で一悶着起こしたそうです」

「蓮の奴にでもちょっかいを出したのか?」

「彼の艦娘へ蓮の侮辱を言った為に神通にキツイ言葉を言われて激昂したとか、そこへ蓮が現れて追い出されたそうです」

「ほう? あの控えめな娘がか、遣る問いには遣るもんだな」

 

 

 廊下を抜けた2人の前に、駆逐艦 綾波型9番艦 漣(改)と戦艦 金剛型1番艦 金剛、そして大和型1番艦 大和(改)が待っていた。漣と金剛は重成下に就いている艦娘であり、大和は源重郎の秘書艦にして唯一の艦娘である。

 

 

「お疲れ、ご主人様♪」

「提督遅いデース! 寂しかったヨー?」

「いけませんよ、金剛? 提督達は大事な話し合いをしていたのですから」

 

 

 数時間に及ぶ会合であった為に長く待たされていた彼女達。

 源重郎と重成は彼女達に労いの言葉を掛けた。

 

 

「すまねぇな、大和」

「待たせたね。漣、金剛」

「構わないわ。秘書艦だもの、待つのもお仕事よ」

「会議はどうだったデース?」

 

 

 重成の言葉を漣は笑顔で返し、金剛は会合の結果を尋ねてきた。

 今回の会合が未知の深海棲艦に関する内容であり、更に行方不明であった姫乃とも関係が有るのでは無いか? と艦娘達の間でも噂となっていた。

 

 

「それについてだが、後に詳しく話すが俺達は南西諸島海域に居る深海棲艦を仲間に率いている艦隊との接触と交渉を数日後に行う。交渉に応じるのは俺と重成、そして先日生還した姫乃だ」

「これに念の為の護衛として蓮とユーリが付いて来ます」

「その…大丈夫なのですか? 深海棲艦と交渉するのでしょう?」

「心配無ぇぞ、大和。深海棲艦はあくまでも艦隊メンバーで、連中のリーダーは元人間だ」

「元人間?」

 

 

 心配そうな大和へ源重郎が言った言葉にあった、『元人間』と云う単語に漣が首を傾げる。

 

 

「交渉相手のリーダーは世界初になるであろう男性適合者です。更に行方不明の艦娘も彼等によって救出され、仲間になっています。心配は要りません」

「それにな、お前達にはまだ言って無いが、親書を持って行った双龍艦隊が深海棲艦に襲われた際に、ワ級の艦体に助けられ、剰え茶まで御馳走になってやがる。随分とフレンドリーな連中だろうよ」

「「え…、えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」

「It's unbelievable!!!」

 

 

 重成と源重郎の話に大和達は驚愕の声を上げたのだった。

 

 

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佐世保鎮守府

 

 

 佐世保鎮守府は1889年(明治22年)7月に開庁した鎮守府であり、九州・西日本方面の防衛を担当していた。

 佐世保に鎮守府が置かれた理由は朝鮮半島及び中国方面への拠点という事だったが、何よりも天然の良港であると同時に人口が少なく港を作るのに便利だったからだと言われている。

 佐世保鎮守府に勤めている提督は2人。その1人であるユーリは会合を終えて自身の執務室へと戻っていた。

 執務室の扉を開くと、中には秘書艦である航空巡洋艦 最上型3番艦 鈴谷(改)がソファに座って女性向け雑誌を読んでいた。

 

 

「んぉ、提督じゃん、おっかえり~♪」

「おう、今唯~。留守番お疲れさん」

 

 

 雑誌をテーブルに放り、ユーリへ駆け寄る鈴谷。

 そんな彼女の頭をユーリはワシャワシャと撫でると、鈴谷はニカッと笑みを浮かべながら喜んでくれる。18歳であるユーリと見た目が今時の女子高生な鈴谷は傍から見たら学生アベック、先輩後輩な関係に見えなくもない。

 

 

「会議どうだった~?」

「後日、横須賀の元帥達が例の艦隊と交渉しに出るから俺達はその護衛をするってさ」

「例の艦隊って……、変な深海棲艦引き連れてんでしょ? キモくない?」

「キモいっておま…、連中は行方不明だった艦娘も引き連れてんぞ?」

「うわっ、マジ?」

「因みにリーダーは男な」

「うわ~、きっとマッドなガリ眼鏡とかキモデブっしょ。それ?」

「それ……他の奴に言うなよ?」

 

 

 偏見極まりない発言に流石のユーリもドン引き気味。智明達は男2人に対し、残りは艦娘と元深海棲艦の新生海人。ハーレムと言えるが、男性提督も似た様なモノな上、男性提督の下にいる大抵の艦娘が提督へ好意を抱くケースは多い為に鈴谷の様な感想を抱く事が出来なかった。

 実際に自身も鈴谷とケッコンカッコカリをしており、休日にはデートに行く仲であるから、羨ましいとは思わないし、キモいとも思わない。

 

 

「兎に角、護衛任務があるから艤装の手入れはしっかりしとけよ?」

「ほいほ~い☆」

 

 

 智明達の親書を受け取った日本国海軍は交渉に応じる姿勢をとった。

 近い内に行われる事になる水野・函南連合艦隊と日本国海軍との交渉は果たして成功するのだろうか?




現状報告
・日本国海軍が親書を受け取った!
・日本国海軍が交渉に応じる姿勢をとった!


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