今回から遂に水野・函南連合艦隊が横須賀鎮守府入りします。
入港
日本国 横須賀鎮守府
【遂に今日か…】
「ああ、”彼等”を迎え入れる事になる」
横須賀鎮守府にある源重郎の執務室にて、テレビ電話を通じて源重郎と初老の男性が会話を行っていた。
「マスコミ対策は如何なっている、善吉?」
【問題無い……とは言い辛いが、制限区域を超えたら厳罰に処する様言い渡してある】
「そうか…」
源重郎から善吉と呼ばれた男、
【しかし、本当に深海棲艦を信用して大丈夫なのか? 前に研究所にて捕獲した個体を見た事はあるが、まるで獣…いや、人間を殺そうと必死だった。とても理解し合える様な存在では無かったぞ?】
「信用出来ないか? 彼等からのメッセージビデオは視たのだろう?」
【視たは視たが、役者に仮装をさせたと言われた方がまだ信用出来るな】
「確かに、実際に会ってみないと判からんだろうな。近い内に来れば良い、彼等のリーダーは若いが真っ直ぐな眼をしている」
【そうか…源】
「何だ?」
【これで…、これで変わるんだな?】
「ああ。このまま戦い続けても、消耗戦でしか無かった戦いだ。それに、遂に終止符を打つ事が出来る」
【海を…取り戻せる……か…】
モニター越しに善吉は天井を仰いだ。
深海棲艦が現れて十数年、人類は母なる海を奪われた。中には離島を奪われ、果てには沿岸部すらも奪われてしまった国もある。取り戻す為に多くの血を流し、そして奪い返される。そんな終わりの無い様な戦いに一筋の光明が差したのだ。
【源、俺は内心では人間は滅ぶ運命かと思っていた。環境破壊で海を汚し続けていた矢先に深海棲艦は現れ、艦娘をもって倒しても倒しても数は減らない。癪だが、世界の覇者気取りの人間に天罰を下しに連中は来たのではないかとのたまっている、あのイカレタ新興宗教家共の意見に成る程なと頷いてしまいそうになる】
「…連中とて不死身では無い。別海域から侵攻される事はあれど、日本国近海と南西諸島海域ではもう深海棲艦が復活する事は決して無い。まぁ、彼等曰く、船が沈めばそれを憑代にして復活するらしいが」
【やれやれ、これからは浮沈艦しか出港させられないな。ところで、指名された補佐官だが、強硬派繋がりの奴を入れて大丈夫なのか?】
【卯月中佐の事か?】
此度、智明達を迎えるに至って彼等リーダー2人に監視を兼ねた補佐官を付ける事が決まっていた。その選ばれた1人が強硬派と繋がりを持っていると囁かれているのだ。
【後先考えない連中の事だ、最悪拉致の可能性だってあるだろうに】
「だからこそ監視を付ける。それに、彼等には注意喚起するし、これがチャンスになるかもしれん」
【…絶好のチャンスだと飛び付かせ、逆に罠に嵌める訳か】
「上手くいけば一掃出来るからな」
【期待しておく。では、例の作戦始動までに伺おう。それではな】
そう言葉を最後に善吉は通信を切った。
源重郎はモニターの電源が切れたのを確認すると、窓越しに映る海を眺めた。
「強硬派が厄介なのは当然だが、善吉が言っていた宗教家共もそうだ。彼等を引き入れる事で如何、騒ぎ出すか判らん…」
源重郎達にとって守るべき人間側にいる敵は強硬派だけでは無い。
深海棲艦をこれまで環境を汚し続けた人類に罰を与えに来た神の使者と崇める『深海恭順派』なる新興宗教が、新海棲艦が現れて数年後に現れた。始めこそ終末論者にしか受け入れられなかったが、人類勢力の劣勢に徐々に信徒を増やしつつあった。国内では小規模なデモや集会が街中で行われる位であるが、海外では警官隊や憲兵と衝突し、怪我人や逮捕者が出る事態にまで発展している。今回、智明達を引き入れると言う事は深海棲艦を仲間にしていると言う事を知られる事になる。この事に対し、深海恭順派がどの様な反応を示すのかが不安であった。
「そろそろ姫乃達が合流する時間か、これから忙しくなるな…」
時計を確認しながら源重郎は智明達を迎える準備の確認を始めた。
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日本国領海 硫黄島近海 いづも船内
いづも船内にて重要な任務を任される事になった織川 姫乃少佐はカチカチになっていた。
今回の任務は日本国海軍が受け入れる事になる水野・函南連合艦隊を迎える事である。その中で彼等と交流した時間が長い姫乃が選ばれたのだ。
「しれぇ、大丈夫ですか?」
「だ、だ、だいびょうぶだよ雪ちゃん!!」
「噛み噛みですよ提督? リラックスしてください」
姫乃の様子に心配する雪風に答える彼女だったが、噛み噛みに応えていたので大淀が背中を擦りながら落ち着かせる。
「うぅ…蒼介さんが来れば良かったのに…」
「十大佐はあの陰湿クソメガ…ゲフンゲフン、内蔵中佐を見張る必要があるので仕方ないでしょう」
「ほら、水を飲んで落ち着け」
「有難う、磯ちゃん」
「全く、今回初めて会う事になる瑞穂の方が落ち着いているとは…もう少し司令としての威厳を持って欲しいな?」
一瞬毒を吐きそうになるも抑えつつ、大淀が姫乃のボヤキに応えた。大淀の言葉通り、公義を見張るには彼が適任という理由もあるが、迎える事になる智明達と彼は顔を合わせた事が無いのが一番の理由である。
水が入ったコップを姫乃に手渡しながら、緊張でガチガチの彼女と新しく配属された艦娘を比較する。姫乃が新たに建造した水上機母艦 瑞穂型 1番艦 瑞穂は少々慌てた様に答えた。
「い、磯風さん。私はそこまで落ち着いている訳では無いですよ?」
「顔に出ていないだけ瑞穂はまだ良いだろう?」
「ふえぇ、磯ちゃんに怒られた…」
「しれぇ、しっかりしてください!」
「
磯風から渡されたコップの水を飲んで一息吐くも、彼女から稲穂と比較された事にへこんでしまい、雪風に慰められていた時、甲板に出ていたレクイエムが目標を発見したと報告に来た。
「おぉう…、もう来たんだね。もう少し時間が欲しかったよぅ…」
そうぼやきながら姫乃は未だ緊張している自分に活を入れると、デッキへと出た。
水平線を見ると幾つもの黒い影が此方へと向かって来ており、その姿が明らかになっていく。
「はわぁ…いっぱいです」
「何時見ても圧巻ですね…」
「何と言うのか…彼等だけで世界を征服できそうだな…。しかも、一部面子が変わっている様だ」
「あれが深海棲艦を仲間にした男性適合者…」
雪風達艦娘が露わになった水野・函南連合艦隊の姿を眺めながらそれぞれ声を漏らす中、智明達はいづもに近づいてゆき、船体の片側に集まる形で並んだ。いづも甲板からタラップが海面に降ろされると、智明と芳彦が昇って行き、待っていた姫乃の前に並んだ。
「やぁ、姫乃ちゃん。久しぶり」
「元気そうだな、姫っち?」
「お久しぶりです、智明さん、芳彦さん。本日、横須賀鎮守府まで案内をさせて戴きます、織川 姫乃中佐です」
「おや、昇進したんだね?」
「はい。今回、智明さん達と協力関係を結ぶことが出来た功労者としてだそうで…」
此度、姫乃は水野・函南連合艦隊との協定関係を結ぶ上で重要なパイプ役を熟した功績として少佐から中佐へと昇進の辞令が下されたのだ。
「ひめっちがいなかったらここまでスムーズにはいかなかっただろうから妥当だな。ところで、そっちの娘は新入りか?」
「はい、新しく建造したらきてくれたんです。さ、みずちゃん、自己紹介して?」
「は、初めまして。水上機母艦、瑞穂です。どうぞよろしくお願い申し上げます。」
「初めまして。潜水艦 竜王の男性適合者、水野 智明です」
「反応動力推進航空母艦 飛天の男性適合者、函南 芳彦だ。同じ空母仲間として宜しくな?」
「はい。宜しくお願い致します、智明さん、芳彦さん」
挨拶も終わり、いづもに同伴していた輸送艦に艦隊メンバーが乗船してゆく様子を眺めていた姫乃が、ある事に気付いた。
「あれ、メンバーが増えましたか?」
「あぁ、うん。はぐれの艦隊と戦った時に鹵獲したり…後、翠鶴とヴィル、チェスが進化したね」
この日までに智明達は駆逐艦イ級2隻、ロ級1隻、軽空母ヌ級1隻、輸送艦ワ級2隻を鹵獲する事に成功し、翠鶴が空母ヲ級、ヴィルが戦艦タ級、チェスが軽巡ツ級に進化した。
乗船が終わり、横須賀へと進路を向けるいずもと輸送船団。襲撃に備えて神宮寺艦隊の艦娘達が同行していたが、敵が出現することは無く、無事に横須賀へと辿り着いた。
「うわぁ、沢山ヘリが飛び交っているけど全部見張りかい?」
「それもありますけど、半分は…」
「もしかしてマスコミか?」
「はい」
目の前に見える横須賀鎮守府周辺をヘリが飛び交っている様子を眺めながら尋ねてきた智明に対し、姫乃は答える。確かに、いずもへと近づいて来たヘリを軍のヘリが追い払っている。
「ま、世界規模の大ニュースになる訳だからな?」
「これは入港するまで船内で大人しくしていた方が良いですね…」
そんな言葉を交わしながら窓から離れる智明達。上空でヘリが飛び交う中、いづもと輸送船は無事に横須賀鎮守府へと帰港した。
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日本国 横須賀鎮守府 桟橋
「来ましたね」
「うむ、改めて見ても圧巻されるな…」
いづもから水野・函南連合艦隊と合流を果たしたと連絡を受けた重成と源重郎は桟橋にて姫乃達が帰港するのを待っていた。
水平線から次第に見えてくる船影。双眼鏡越しに見るといづもと共に水野・函南連合艦隊が並んで航行している。
「あ、あの…提督?」
「如何した、香取? 何時もの余裕が無いぞ?」
源重郎の横で不安そうに声を上げたのは練習巡洋艦 香取型1番艦 香取だ。
白を基調とした正肩章が付いた貴官服に灰色のタイトスカート、そして眼鏡を掛けたその姿は正に女性教官、又は教師といった見た目であるが、今は理知的な表情を不安そうな表情に変えていた。
「あれ程の大艦隊を本当に受け入れるのですか?」
「そうだ」
「見せて戴いた資料でのメンバーと些か異なっている様に見えるのですが?」
「ふむ…、待っている間に進化及び新入りを加えた様だな」
「しかし、普段冷静沈着な貴女がそこまで驚くとは仕方ないとはいえ、珍しいですね?」
「はい…驚愕という感想しかありません…」
「ま、暫くは此処に厄介になるんだ。戸惑ったままでは困るぞ?」
「済みません、提督」
智明達の交渉に同伴しなかった香取は視界に映る大艦隊に困惑するが、源重郎に窘められる。
間も無くいづもや輸送船は桟橋に接岸し、智明達が下船して来る。輸送船から降りるブティク達を撮影しようとマスコミのヘリが鎮守府内に近づこうとするが、警備へりに追い払われていた。
「ようこそ、横須賀鎮守府へ」
「待っていたぞ」
「お久しぶりです。境元帥、神宮寺大将」
「これから宜しく頼んます」
互いに向かい合い、敬礼を交わす。
「金剛達も、護衛お疲れ様でした」
「No,problem! これ位お安い御用デース♪」
「敵も現れなかったし、問題無かったわ」
「無事、護衛任務完遂しました!」
「任務完了、今回も完璧です!」
「ご主人様の御願いなら、例え火の中、水の中なのです♪」
「作戦完了。全艦無事に帰投です、はい」
護衛として同行していた金剛達も重成の前へと並び、敬礼を行った。
「迎えの任務、ご苦労だった。織川中佐」
「はい。任務、完了致しました!!」
源重郎の前には姫乃達織川艦隊が並び、同じく敬礼した。
「よーし、荷物を降ろして!」
挨拶も終わり、夕張の指示の下、春夏秋冬艦隊メンバーのコンテナに積み込んでいた機材や装備を降ろしていく。降ろした荷物は横須賀鎮守府に配備されているカーゴに積み込まれ、今後、水野・函南連合艦隊が利用するガレージへと運ばれていった。
「あら?」
その光景を眺めていた大和はガレージへと向かうカーゴの下でチョロチョロと動き回る黒い物体を発見する。黒い物体は春夏秋冬艦隊の傍に寄り添い、荷物を受け取るとカーゴの後に付いて行っていた。
気になった大和は黒い物体のい一つに近寄ってみた。すると、大和に気付いたのか黒い物体は動きを止めて大和の方を向いた。
黒い物体は鯨の様な姿をしており、黒い頭部に白い目、白い腹部下に足らしきモノが生えていた。見た目は駆逐艦イ級をデフォルメしたかの様なその物体は小さな足でトコトコと大和の下に近寄ると、首を傾げながら鳴き声を上げた。
「…きゅ?」
「か……、可愛いィィ!!!」
不思議そうに声を挙げた黒い物体に対し、頬を赤く染めた大和は駆け寄ってその黒い物体を抱き締めた。
「きゅ!? きゅーっ!!」
「こ、この可愛い物体はなんなんですかぁっ!?」
驚いて暴れるその物体を気にする事無く、大和は夕張に尋ね掛けた。
「その子達は『くちくいきゅう』。艦娘達で言う妖精さんと同じ立場よ」
「駆逐イ級ですか?」
「ううん、平仮名呼びで”くちくいきゅう”と呼ぶらしいわ」
「きゅ~」
夕張の言葉に続いて大和に抱き締められたくちくいきゅうが肯定の鳴き声を上げる。
彼女の言葉通り、くちくいきゅうは新生海人達にとっての妖精さんポジションな存在である。しかし、このくちくいきゅう達はブティクを仲間にした際、始めから居た訳では無く、彼女を仲間にして数日後、知らない内に現れたのだ。なので始めこそ警戒していた智明達だったが、ブティクと同じ様に敵対する様子も無く彼等に懐いてきた上、ブティク達新生海人の船体整備をしたり、物運びを加勢したりと此方の手伝いしかしなかったので、深海棲艦用の妖精なのだろうと思い至ったのだ。
ところが、会話出来る様になったブティクに聞いたところ、深海棲艦のコロニーにはこの様な存在はいなかったらしい。何でも、深海棲艦は資材を食べれば勝手に修復、燃料・弾薬の補充が出来るので妖精の様な存在はいらないからだそうだ。後にブティク達がくちくいきゅうから尋ねてみた所、くちくいきゅう達は深海棲艦と同じく海底深くに沈んだ船の残骸や骸を憑代にした存在なのだが、憑依した魂が他とは違い、思春期に満たない幼い子供達の魂が宿った存在らしい。
「この子達も仲間ですから仲良くして欲しいのです」
「そう…、心配は要らないのね」
「きゅ…♪」
電の言葉を聞きながら、加賀は近寄って来たくちくいきゅうの頭部を優しく撫でると、心地よさそうな声を挙げた。
「荷物の積込みはこれで終わりですね」
「そうですか、それでは智明と芳彦は秘書艦担当の娘を1名同伴させて境司令官の執務室まで来てください。私は準備がありますので、此方の香取が案内します。では香取、お願いしますね?」
「は、はい! お任せくださいっ!!」
荷物の積み込みが終わり、今後の予定を智明達に伝えた重成はその場を後にした。
「それではご案内をさせていただきます。練習巡洋艦 香取型1番艦 香取です」
「宜しく香取さん。僕は青の艦隊リーダー、水野 智明です」
「青天艦隊リーダー、函南 芳彦だ。宜しく”カトリーヌ”」
「か、カトリーヌ!?」
「芳彦さん、流石に此処で渾名は…(違和感無いけど…)」
「あぁ、悪い。何時もの癖で…」
「は、はぁ…」
何時もの様に香取に渾名を付けてしまった芳彦は智明に咎められる。
「じゃあ、僕達と同伴する娘は交渉時と同じで良いとして…、他の娘達はこの場で待機になるのかな?」
「ご心配いりません。職員の方々が待機場所まで案内をしますので」
「「分かりました(分かった)」」
「それでは案内致します」
香取の案内の下、智明と芳彦は前回交渉の時に同伴した夕張と不知火を引き連れ、源重郎の執務室へ向かった。
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「境提督、お連れしました」
「おぅ、待っていたぞ」
香取に連れられ、智明達は源重郎の執務室に辿り着いた。執務室には部屋の主である源重郎と重成が待っていた。彼等の秘書艦はいない様だ。
「香取、ご苦労様でした」
「いえ、私は案内しただけですので。では失礼します」
重成から労いの言葉を掛けられた香取は会釈をしつつ退室する。
「まぁ、座ってくれ」
「「「「失礼します(するぜ?)」」」」
「さて、これからの話だが…」
智明達を応接用のソファーに座らせ、書類を配った。
「まずお前達の扱いについてだが、名目上は雇った傭兵派遣企業という形にしたい」
「傭兵派遣企業…ですか?」
「これに関しては後に説明する。次に此処でのお前達の扱いだが、艦娘と同じ扱いで日本国海軍の規則に従って貰う代わり、横須賀鎮守府内の施設利用は基本自由。但し、外出に付いては現状不可、だが智明と芳彦、艦娘達なら監視付きで今後可能となるだろう。新生海人達については今後の次第にも依るが外出は現状不可能な上、パパラッチ共の動きが目立つ様になったら鎮守府敷地内であっても屋外に出る事を禁ずるかもしれん」
「不自由かとは思いますが、理解して下さい」
「世間の目もありますし、仕方が無いでしょうね。ブティク達を軟禁扱いにしないだけ有難いです」
源重郎達の言葉に智明達は納得する。確かに、今迄人間を容赦なく攻撃し、殺してきた深海棲艦であった存在を民衆は簡単に受け入れる事が出来無いであろう。
「次にやって貰いたい仕事の話だが、近い内に攻略中の西方及び北方海域へと出撃して貰う」
「それは、一か所ずつ攻略するのか?」
「いえ、青の艦隊と青天艦隊はそれぞれ別れて同時攻略を行って貰います」
「それは何故かしら?」
夕張の問いに対し、重成は手渡した資料と同じ書類の数ページ目を開いた。
「現状、貴方達の御蔭で我々は鎮守府近海及び南西諸島海域を完全に奪還する事に成功しました。残る攻略化対象海域は北太平洋の北方海域、インド洋の西方海域、ソロモン諸島を中心としたオーストラリア北部の南方海域、そして北方から南方海域の間にあるミッドウェー島を中心とした中部海域です」
資料にプリントされている世界地図を指で指しながら、重成は攻略対象となっている海域を説明していく。
「以上の攻略対象海域の中で現状、深海棲艦の動きが活発なのは西方及び南方海域です」
「一寸待ってください。ならば北方海域では無く、南方海域へ出撃すべきなのでは?」
「それはだな…」
不知火の問い掛けに対し、源重郎が答える。
「南方海域は直ぐ南にオーストラリアがあって、オーストラリア海軍もこの海域攻略に参加しているからだ。敵勢は強力な艦を揃えてはいるが、比較的大艦隊での攻略が出来ている御蔭で戦況は有利。だから現状は増援を寄越さなくても特に問題無い。一方の北方海域だが、最近になって深海棲艦の姿がパッタリと見当たらなくなってな、攻略が難航している中部海域と含めて近い内に大反攻が起こるのではないかと懸念している」
「北方及び中部海域は日本国本土に接しているので、片方は侵攻された際に何時でも迎撃できる海域に常駐して欲しい訳です。敵の動きは我々本土組が見張りますので、北方海域の調査及び攻略をして欲しい訳です」
「成程ね、それなら納得だわ」
疑問の答えが返って来たので智明達は納得する。
「それで…俺と智明、どっちがどっちに出撃するんだ?」
「其れについて、まず両海域の説明からしたいと思います」
重成が資料の新たなページを捲り、今後の作戦の項にある北方及び西方海域の説明欄を示した。
「北方海域はノーマル個体が確認されど数は少なく、殆ど上位練度の個体で編成された艦隊が配備されています。そして何よりこれら艦隊をアリューシャン列島のダッチハーバーに布陣している北方棲姫が統率している為、何より厄介です」
資料には北方棲姫の写真も添付されていた。隠れ基地にある深海棲艦のデータにもあったが、その幼い外見からは恐ろしい相手とはとても思えない。
「しかし最近になって、アルフォンシーノ方面まで敵艦隊を殆ど見掛けない事態が発生しています。我々としてはこれは大反攻の予兆ではないかと予想しており、また通商ルートを攻撃してきた敵潜水艦艦隊の一部が北方海域へ移動する姿を目撃したと巡視船から報告があったので、敵の規模は不明ですが潜水艦隊を含めた大艦隊がアリューシャン列島近海に集結していると考えられます。
次に西方海域ですが、北方海域と比較して潜水艦隊が多く配置されており、これ等艦隊を装甲空母鬼、装甲空母姫が指揮していますが、艦隊編成の練度は低いです。ですが、最近になってリランカ島に港湾棲姫が布陣し、周辺近海には軽巡棲鬼率いる艦隊が巡回している事が確認されています。姫、鬼級が共に2種類存在し強化された分、こちらも厄介です」
「港湾棲姫って…、オーストラリアのポートワイン沖に布陣してる陸上基地型じゃなかった? 何でリランカ島にいるの?」
「今年の春に南方海域に出撃している艦隊とオーストラリア艦隊合同でポートワイン奪還作戦が行われました。作戦は成功してポートワイン沖は奪還できたのですが、敵艦隊を指揮していた港湾棲姫の撃破を誰も確認出来ておらず、その遺体も発見出来なかったそうです。現在も周辺海域を探索はしていますが見付からず、別海域へと逃亡したものだと考えられていました」
「それが最近になって、西方海域で見付かったと…?」
「そうです」
各海域の説明を終え、重成は智明達の方に向き直った。
「我々としては中部海域と隣接しており、状況が読めない北方海域を危険視しています。従って、強力な新生海人を率いている青の艦隊は北方海域に。そして青天艦隊は西方海域に向かって貰おうと考えています」
「分かりました」
「異存は無いな」
智明と芳彦は納得し、夕張と不知火も頷く。
「今後行う作戦については理解したな? さて、最初に言った傭兵企業という扱いについてだが、最初は此方での保護観察という扱いにしようかと考えていた。だが、保護観察の扱いでは主導権が此方のモノとなり、お前達の望む自由行動が難しくなるだろう。おまけに政府の余計な連中の意向にも従わざるを得ない事になる。よって、今後お前達には傭兵派遣会社としての立場で勤め、此方から…将来的には各国から依頼される形で出撃する事になると理解して貰いたい」
「今後行われる北方及び西方海域攻略作戦も依頼の形になる訳ですね?」
「そうだ。そしてお前達には傭兵派遣会社として近い内に会見を開いて貰いたい」
「会見……ですか?」
「世間一般の者に貴方達の立場及び新生海人を理解して貰う手段としては効果的です。戦力の派遣及び、春夏秋冬艦隊による物資の輸送はどの国家も喉から手が出るほど欲しい状況ですからね」
「会見では戦力派遣及び物資輸送を事業とする組織を設立した事を公表して欲しい」
「ちょっと待って、確かに民衆や周辺国家に認めて貰う手段としては有効だけど、他の国に派遣出来る程艦の数が無いわ」
「……今後、派遣用戦力を獲得していく為に滷獲を優先して行え。という事ですか?」
夕張の意見と共に智明の表情が渋くなる。周辺諸国へ艦隊メンバーを派遣する事になる以上、様々な艦種の新生海人を多く集める必要がある。しかも、派遣先で新生海人達がどの様な扱いを受けるか分からない以上、これまで仲間にしてきた新生海人達を家族の様に付き合ってきた智明達にとって、今後仲間にした艦を派遣するだけの駒として扱われるかもしれない事に抵抗感が有った。
「心配するな。ヒトと同じ意思を持つ新生海人を鉄砲玉代わりに扱うつもりは無いし、無理に鹵獲を強要する気も無い。鹵獲のペースはそっちに任せるが…まぁ、輸送艦隊は多く揃えて欲しいと云う本音は有るがな?」
「如何云う事ですか? 傭兵派遣会社と名乗っていく以上、派遣できる戦力を確保しないといけないのでは?」
「どんな大企業も起業したばかりの時から十分な資金等を持っていた訳ではありません。先ずは我々、日本国からの依頼を遂行して貰いつつ、援助を交換に艦を増やしていって欲しいと考えています」
「資材等と交換に新生海人の譲渡を求めると?」
「譲渡というよりは借用だが、そう云う事になる。云わば派遣される社員、現状こそ多少の不自由は有れど新生海人は艦娘と同じく接する様、厳しく言い渡す」
「成程ね。だが、元深海棲艦である事に対して反感感情は出るだろう?」
「それはそうだろうな。だが、会見で深海棲艦と新生海人との違いを教えた上でなら手を出す気にはなれん。どの国も消耗戦を強いられている状況だ。約束を違えた事で援助を取り消される様な事は絶対に避けるだろう」
新生海人達を捨て駒にするつもりは無く、平等に扱ってくれるらしい。鹵獲に関しても強要はしない様で、智明達は安堵した。
「さて、最後にお前達艦隊リーダーには監視を兼ねた補佐役が付く。鎮守府から外へ出る時は必ず同行させる事になるが、補佐官として優秀な奴を選んだつもりだ。そろそろ来る筈だが…」
源重郎の話が終わるや否や、執務室のドアがノックされた。
「入れ」
「「失礼します」」
源重郎の許可と共に2人の男女が入室する。
「こいつ等が補佐役となる。自己紹介しろ」
「はっ、本日より補佐役を命じられました。鎮守府憲兵総長、
「…同じく、補佐役を務めさせていただきます。横須賀鎮守府情報課所属、
智明達に向かって敬礼する2人。見た目は活発そうな青年と理知的ながらも少々厳しそうな女性である。
「境……もしかして境元帥の親戚ですか?」
「はっ! 境元帥の孫になりますっ!!」
智明の問いに龍之介は元気良く答えた。確かに、顔の輪郭が源重郎に似ている。
「今日、話したかった事はこんなところだ。この後は2人に鎮守府内の案内をしてもらえ。何かあったらまた呼ぶ」
「境大佐と卯月中佐のどちらを担当として付けるかはお二人で決めて下さい」
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智明達が会話している時
横須賀鎮守府 水野・函南連合艦隊専用ドック
「司令官さん達はまだ終わらないのでしょうか?」
「こう待つだけなのはどうもいかんな…」
水野・函南連合艦隊専用に与えられたドックにて、智明達が戻って来るまで待機する事になった艦隊メンバー。
まだ智明達が行ってから1時間と十数分程しか経過していないが、羽黒と木曾が待つだけの現状に声を挙げた。
ドックには椅子やテーブルがあり、飲み物やお茶菓子も提供されていたが、既に空。暇を持て余しており、一部の新生海人達は落ち着き無くソワソワしていた。
「まぁ、横須賀鎮守府の説明とか色々されとるんちゃう?」
「私達の今後の扱いとかも説明されているでしょうし」
「きゅ~」
龍驤と浜風が妖精を背中に乗せながら歩き回っているくちくいきゅうの姿を眺めながら、智明達が何をしているであろう事を予想する。
「でも待つだけなんて、つまらないよ~」
「海デ遊ビタイデスゥ~」
「イー!」
「イー!」
「ロー!」
夕立やウィザードは退屈な現状に不満を溢し、それに駆逐艦イ級 スレイとジュド、ロ級 信濃がプールから同意の声を挙げた。
「施設外だけで良いから鎮守府内を見学させてくれれば良いのだけど…」
「私達はあくまでも余所者よ? 許可が出るまではどうしようも無いわ」
「Hey! 皆サーン、ご機嫌如何デース?」
ブーイングに対して雷と千歳が如何したものかと考える中、外から元気な声が掛けられた。声の方を向くと、金剛がケーキやらティーポットが載せられたワゴンを押して来ており、彼女の後ろから神宮寺艦隊の他面々が続いていた。
「ドックで待機しているだけはつまらないと思いましたので、御喋りしに来ました♪」
「後、お茶とお茶菓子のお代わりを持って来ましたので召し上がってください」
かくして、神宮寺艦隊の艦娘達とのお茶会が始まった。
交わすは世間話。互いにどの様な日常を過ごしていたかや、これから鎮守府で過ごすに当たっての艦娘達なりの注意点等を話していた。
「…きゅ」
「きゅ~」
「きゅ、きゅ…」
会話に華が咲くメンバー達の脇ではくちくいきゅう達が集まって休んでいた。互いに鳴いて会話らしきモノを交わしていたり、互いに寄り掛かって眠ったりしていた。
「貴方達もお菓子を食べる?」
「きゅ…」
「きゅ♪」
「嬉しそうです、はい」
漣が近付いてクッキーを差し出すと、くちくいきゅう達がトコトコと集まって来た。一匹のくちくいきゅうに春雨がクッキーを与えながら撫でると心地良さそうに鳴き声を上げた。
「Oh! It's pretty♪ この子達が深海棲艦だなんて信じられないデース」
「基本はコロニーの隅っこでたむろしていて他の深海棲艦とは係わっていないらしいわ。だから、人前に現れる事は決して無かったみたい」
「知らなかったわ…あら?」
「きゅっ」
一匹のくちくいきゅうが跳ねて加賀の胸に飛び込んだ。反射的に受け止めた彼女に対し、くちくいきゅうは甘える様に頬擦りしてきた。
「…甘えん坊なのね」
「きゅ~♪」
加賀は優しく撫でると可愛らしい声で返事する。
「…コノ子達ハ海デ死ンダ幼イ子供ノ魂カラ生マレタ存在ダカラ甘エ盛リナノ」
「デモスッゴイ働キ者ナンデスゥ。艤装ノ整備ハ勿論、色ンナオ仕事ヲ熟セルンデスゥ」
「戦ウ事ハ苦手ダケドネ。代ワリニ生体ゆにっとガ戦闘艇ヤ艦載機ノ操縦ヲ担ッテルワ」
「そうなんだ…。でも可愛いなぁ、一匹貰っちゃ駄目?」
「ソレハ駄目ダゾ。くちくいきゅうハ大事ナ仲間ダ」
「きゅ」
ハク達新生海人達がくちくいきゅうについて説明する中、お腹を撫でていた能代が一匹欲しいとお願いし、菫が却下した。
「ソレハソウト、私達ノ所デ造ッタ兵装ハ如何ダッタカシラ?」
「たしかファランクスと特殊弾頭、散香を提出したんですよね?」
「扱い方はもう慣れたのか?」
武器コンテナからファランクスと散香を取り出しながら、工作船鬼 山茶花が金剛達へと尋ねてきた。何故かファランクスはくちくいきゅうが頭に載せている。
「うん、届いた時から運用試験で早速使わせて貰っているよ」
「沢山の的をあっという間に狙って撃ち抜いてしまうファランクスは凄いです、はい」
「近代兵器だものね。でも、私達第2次世界大戦時の艦が近代兵装を装備出来るなんて思わなかったわ」
「電達ハいーじす艦ニ改造強化シテイルカラ、貴方達モ近イ内ニ改造強化ガ出来デショウネ」
「イージス艦かぁ…、そうなれば私達駆逐艦でも敵戦艦を粉砕☆玉砕☆大喝采! 出来る様になるのか~」
「フンサイギョク……何ソレ?」
「きゅ~?」
ファランクスの性能について感想を述べる能代と春雨、漣の3人娘。
盛り上がる漣の言葉に対し、意味が分からない山茶花は首を傾げた。
「特殊弾頭ハ砲弾デ使ッテイルノダッタワネ?」
「は、はいっ。対空特殊弾頭と対地特殊弾頭の両方は大型主砲の砲弾といて使わせて頂きました」
「使い所は限られマスが、どちらも凄い威力だったデース。特に対空特殊弾頭、アレさえあれば敵艦載機が幾ら来ても怖くないデース!」
「ファランクスは榛名達も使ってみましたが、この2つさえあれば対空兵装は十分なモノになると思います」
特殊弾頭の感想を金剛と榛名から聞いた山茶花は続いて加賀へと顔を向けた。
「ナラ散香ハ如何カシラ?」
「そうね…初めて扱う機体だし癖が強かったけど、慣れると強力な機体ね」
「散香はウチも最初は手古摺ったわな~。でも今マーク2に改良されとるし、近い内に更に改良した A2 が完成するで?」
「そうなの? それにしても…大型爆撃機と云い、貴女達の航空戦力は興味深いわ」
「陸上基地からしか運用出来ないけど、超長距離爆撃機もあるわ。これだけでも今後、戦況は有利になるだろうし」
「………」
龍驤と千歳の言葉に加賀は考える。あの交渉が終わった後日、連合艦隊の沖ノ島海域攻略時における戦闘映像を加賀達も視た。智明と芳彦、男性適合者や新生海人の実力もそうだが、自身と同じ艦娘達の圧倒的な力に彼女は目を奪われた。彼女達と同じ改造、装備が日本国海軍の艦娘達に配備されれば、深海棲艦の戦いに今度こそ勝てる。
「(その為にももっと彼女達の事を知らないといけない)…貴女達にお願いがあるの」
「……何?」
ふと、意を決した様な表情で加賀はハク達に向かい合った。
「私達と……戦って欲しい」
現状報告
・横須賀鎮守府に入港した!
・翠鶴は空母ヲ級に進化した!
・ヴィルは戦艦タ級に進化した!
・チェスは軽巡洋艦ツ級に進化した!
・駆逐艦イ級エリート『スレイ』を仲間にした!
・駆逐艦イ級エリート『ジュド』を仲間にした!
・駆逐艦ロ級フラッグシップ『信濃』を仲間にした!
・軽空母ヌ級フラッグシップ『海鳳』を仲間にした!
・貨物輸送艦ワ級エリート『華水木』、『胡蝶蘭』を仲間にした!
次回は VS 神宮寺艦隊+α。
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