名前
岩礁の穴へと入って行った智明。数メートル歩くと視界の先に人影が見えたので、艤装に取り付けてあるライトを人影へ照らした。
「ま、眩しいのです…」
ライトに照らされたのは幼い少女であった。
「君は……、駆逐艦『電』かな?」
「男の人? ええと、艦隊の司令官さんですか?」
「いや、司令官と言うか……是を見て貰った方が良いかな?」
そう言って智明は背中の艤装をみせると、電は目を大きく開けた。
「見た事の無い艤装ですね……あっ、艦娘と言うことは女の人なのですか?」
「いや…、男だけど……」
「男の人がどうして艤装を付けられるのですか? おかしいのです」
「ええと…、何て説明したら良いのか…」
智明は頬を掻きながら困った顔をする。
「色々と説明したいけど…、取り敢えず外に出ない?」
「分かったのです」
「僕は水野 智明、宜しくね」
「智明さんですね? 電は駆逐艦暁型4番艦の『電』なのです、宜しくお願いいたします」
出口へ向けて歩いていく智明達、しかしここで大事な事に彼は気付いた。
「あぁ、ええと……」
「どうしたのですか?」
「この先驚く事があるけど、落ち着いて貰えるかな?」
「? 解ったのです」
「良いかい? お待たせ」
「ホ~!」
「ロロ!」
岩礁の穴を出るとホ級とロ級が嬉しそうに声を上げた。その様子を智明の後ろで見た電は当然……
「なっ、深海棲艦!?」
自分の艤装の砲塔をホ級達へ向けようとし、ホ級達も武装を構え出す。その姿に智明は慌てて止めに入る。
「わわっ!! 待って皆!!」
「何で止めるのですか!? 深海棲艦は電達の敵なのですよ?」
「この子達は特別なんだ! ホ級達も御願いだから攻撃しないで!!」
「特別? どういう事ですか?」
「ホホ?」
「ロ~?」
電とホ級達は釈然としないまま、智明に疑問の声を上げた。
「取り敢えず武器を下げて、ちゃんと説明をするから…」
3者が武器を下げた事を確認した智明は安堵の溜息を出すと岩礁の出っ張りに座り込んで、電に是迄の経緯を説明しだした。
気付いたら海底基地にいた事
男である筈の自分が艦娘の様に潜水艦の力を与えられていた事
深海棲艦を調べる為に瀕死に追い込んだ駆逐艦を連れ帰ったら何故か懐いた事
深海棲艦は進化し、現在軽巡洋艦と駆逐艦を引き連れて攻略と資源集めをしている事
「そうだったのですか……」
智明の話を聞き終えた電は智明の状況を理解しながらも、驚愕の表情をしていた。
「まぁ、僕自身がこの状況を良く解っていないんだけどね…」
「それは電も同じ事なのです。でも信じられないのです、深海棲艦が仲間になるなんて…」
「仮定でしか無いけど、僕の存在が影響しているんだと考えられるだけど…」
「確かに、智明さんは艤装を装備できる特別な人なのです。それ以外に考えられるのは智明さん達がいる基地ぐらいなのです」
「そうだね、取り敢えず基地に戻ろうかな? 話は帰ってからしよう?」
「分かったのです」
「ホ!」
「ロ!」
こうして智明達は電を仲間にし、帰還した。
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海底基地
「はわわ、落ち着かないのです」
「まぁ、そうだろうね」
「ホ~ホ♪」
「トトト♪」
軽巡洋艦ホ級とト級に囲まれて頭を撫でられる電は困った表情で言った。今迄、理解し合う事が出来ない敵として戦ってきた為、電はそう簡単に慣れる事は出来ない様だ。逆にホ級達は智明が電を仲間だと説明するとすんなりと従い、電にも懐く様になっていた。
因みにこの軽巡洋艦ト級、駆逐艦ロ級が進化したモノである。帰還する際に遭遇した敵艦隊を撃破し、進化に必要な経験が貯まりきったのであろう。動かなくなったロ級は電に任せ、智明とホ級でロ級が運んでいたコンテナを運ぶことになった。
基地へ帰港した智明はロ級を隔離ドッグへ運び、ホ級の時の様にコンテナ1つと燃料が入ったドラム缶を用意した。残骸と燃料を食べ尽くしたロ級はその船体の腹部が肥大化していき、側面から頭部に連装砲が付いた目のないロ級の様な部位が現れ、その部位の下には腕が生えた軽巡洋艦ト級の姿となった。
「しかし、旭日島にこんな基地があったなんて……」
「僕はこの島に名前があった事を知らなかったよ」
ドックでホ級達と別れ、夕食を食べるべく食堂へ向かう智明と電。近未来的な基地の内部を物珍しそうに見渡しながら電は呟いた。智明達が利用している基地があるこの島は『旭日島』と呼ばれているらしい。
「ところで智明さん、あの子達には名前が無いのですか?」
「名前?」
「折角仲間になってくれた子達なのです。敵の深海棲艦達と区別しやすいように名前を付けた方が良いと思うのです」
「確かに…名前かぁ……」
腕を組みながら智明は考える。電の言う通りであり、折角の仲間なのだから名前を付けたい所だ。問題はどんな名前にすべきかであるが……
「う~ん……、思い付かないものだな…」
「急がずにゆっくり考えれば良いのです」
食事中もうんうん唸りながら考える智明に、電は微笑みながらそう言った。
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1週間後
製油所地帯沿岸
「電の本気を見るのです!!」
「イーッ!!」
「ロロロ!」
電の12,7cm連装砲が火を噴き、駆逐艦イ級達の22inch魚雷後期型が敵の軽巡洋艦ホ級率いる艦隊へ襲い掛かる。電達の連携に敵艦達は反撃出来ず、旗艦である敵ホ級が砲撃によって船体を真っ二つになって沈む頃には戦闘は終了していた。
「皆、お疲れ様なのです」
「イ~♪」
「ロ~ロ!」
電はイ級達に労いの言葉を掛け、イ級達も嬉しそうに答えた。
電が仲間になり以降、智明は彼女の実力向上の為に基地近海で深海棲艦狩りのみを続けていたが、電の成長は早く、武装改造も相まって軽巡洋艦と渡り合える実力を得たのだった。また、彼女の願いで生き残った敵深海棲艦を仲間にしたので、その戦闘育成を電に任せ、智明達は精油所地帯沿岸の海域を開放するために敵主力艦隊の偵察へ向かっていた。
新しく仲間として加入したのは駆逐艦イ級とロ級。戦闘慣れしている電に指導され、連携や戦術を学んだイ級達は、当時駆逐艦であったホ級達よりも早く活躍してみせるのであった。
「電ちゃーん」
「智明さん達が帰って来たのです」
偵察に向かっていた智明達が帰って来たが様子がおかしい。電達の元に着いた智明達であったが、ホ級が自分で動くこと無く智明とト級にワイヤーで引っ張られていた。
「智明さん、これって…」
「うん、どうやら進化の予兆みたい」
電が仲間になった日にロ級がト級へ進化したのでその様子を彼女は知っていた。
「それでは今日はこのまま帰還するのですか?」
「そのつもりだよ、こっちは重巡洋艦が旗艦の艦隊とやり合ったからコンテナがいっぱいになったしね。そっちはどうだい?」
「電達のコンテナも後ちょっとでいっぱいになるのです」
「なら、帰りの道ばたで敵艦隊と遭遇するかもしれないから丁度良いんじゃないかな?」
「そうですね、それじゃあ帰りましょう」
「トー!」
「イー!」
「ロー!」
電の言葉にト級達が元気良く声を上げた。
「敵主力艦隊は見付かったですか?」
「いや、今回遭遇したのは支援艦隊の様でね。まぁ片っ端から撃破したけど」
「そうですか、でも智明さんは凄いのです。羅針盤を使う事無く海域を航行出来るのですから」
電は感心して智明を誉める。
深海棲艦の特徴として、体から特殊な電磁波を周囲に放出している。これは一般の船におけるレーダーの役割をしているのだが、この電磁波が曲者で、是までの電子機器に不調を起こす効果があり、これによって人類はミサイル等の高度な電子機器を用いたハイテク兵器を使う事が出来なくなってしまったのだ。当然、レーダーや無線といった兵器以外の機械も使い物にならず、魔術や呪術を併用した『羅針盤妖精』を使わないと深海棲艦が支配している海域をまともに航海する事が出来ないのだ。
しかし、智明の艤装が特殊なのか、智明はその電磁波の影響を受ける事無く航行する事が出来た。また、仲間にした深海棲艦もいるので智明がいなくてもホ級達のいづれかがいれば電も迷うこと無く航行可能となっている。
「そうだね、後は深海棲艦を仲間にする力もか……。しかし、この力があるから色々と厄介なんだよなぁ…」
智明は溜息を吐く。彼が言った厄介とは『自分は簡単に人類側に付くことが出来ない』という事だ。本来、艤装を装備出来るのはその艦と適合した女性だけである。嘗て艦娘を生み出す為の実験の過程で男性にも適合実験が行われたが、全ての男性披検体が拒否反応を起こし、最悪死に至ったのだ。その後も色々と試行錯誤したが男性と適合できる艤装は生まれなかった。つまり、智明は男性で艤装と適合した第1号なのだ。しかも深海棲艦の支配海域を迷う事無く航行し、深海棲艦を仲間にする力を持っている。
そんな彼が人類側に接触すればどうなるか?
他の男性にも適合できる艤装を造る為、その能力を他の艦娘にも移植出来る様に捕らえられ実験、下手したら解剖されてホルマリン漬けになるだろう。このような事態が想定出来る為、智明は人類への接触を躊躇していた。
「でも智明さんの御陰でこの子達を助ける事が出来たのです♪」
そう言いながら、難しい顔をしていた智明に電は微笑む。
史実で電は溺れていた敵艦の乗組員を助けた事があった。そんな彼女は普段から「例え敵であっても助けられるのなら助けたい」そう口にする心の優しい娘なのだ。これまで唯沈める事しか出来なかった彼女にとって、智明の能力は新たな可能性となっていた。
「有難うね、電ちゃん…」
「はわぁ…、くすぐったいのです」
智明は微笑んで電の頭を撫でた。
「ト! トト!!」
「ト級? 敵かい?」
「ト!!」
周囲を哨戒していた偵察機が敵影を確認したらしい。規模は軽巡洋艦1隻、駆逐艦3隻の艦隊の様だ。
「どうするですか?」
「ふむん…」
敵は4隻に対し、こちらは6隻中、1隻が行動不能。行動不能なホ級をコンテナと一緒に置いて戦闘をする事も可能だが、新手が現れる可能性が捨てきれないのでこの作戦は却下となる。
「ト級は周囲を偵察機で警戒しながらホ級とコンテナの守護を、いざとなったらUSMの仕様を許可する。敵は僕と電達で当たるよ」
「トト!」
「了解なのです!」
「イー!」
「ロロー!」
「良し、出撃!!」
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海底基地 隔離ドック
「コンテナ4つが空っぽか……」
プールの傍に設置されている椅子に座りながら智明は呟く。電と駆逐艦イ級、ロ級が加入し、持ち出せるコンテナボックスが9つとなったのだが今回の進化とダメージ回復の分の消費で今日の収入はコンテナ5つ分となった。
「でも戦力がパワーアップしたのは良い事なのです♪」
「ヨヨヨ!」
「ヘッヘ!」
「ま、そうだね」
電の言葉に納得し、智明は隔離ドックのプールを眺める。プールには新たな姿となった潜水艦ヨ級と軽巡洋艦ヘ級が他の艦達と戯れていた。
今回の戦いで軽巡洋艦ホ級は潜水艦ヨ級に、そして駆逐艦ロ級が軽巡洋艦ヘ級に進化した。
「しかし仲間になって1週間足らずなのにロ級は進化したか…」
「あの子は頑張り屋だったのです。戦いの時も率先して攻撃していたのですよ」
「そっか……」
駆逐艦達の面倒を見ていた電の言葉に頷く。仲間にして1週間足らずであったので改造をしていなかったが、こうも早く進化する事が出来るなら仲間になったら直ぐに改造しようかと今後の方針を考える。
しかし、ここで仲間にした深海棲艦達に名前を付ける事を思い出し、自分と同じ潜水艦に進化したヨ級にどんな名前を送ろうか、智明は思考を巡らす。
そして…
「良し、決めた!」
座っていた椅子から立ち上がり、智明はプールに近付く。ワイワイと騒いでいたヨ級達は一旦静まり、彼を見つめる。
「ヨ級、君に名前を与える」
「ヨヨ?」
巨大な口の中に座っている女性という姿である潜水艦ヨ級。絵画『ビーナスの誕生』でビーナスが立っている大きな2枚貝を口に変えた様だなと馬鹿な事を考えながら、智明はプール岸に浮いているヨ級の頭を撫でながら微笑む。
「君の名前は”ブティク”、青の0号のブティクだ」
「ヨヨ~♪」
名前を与えられたのが嬉しいのか、ブティクと名付けられたヨ級は「ヨヨ、ヨヨ」と鳴きながらプールを泳ぎ回る。
「名前を貰えたのが嬉しいのですね」
「そうだね、こんなに喜んで貰えるなら考えた甲斐があったよ」
「他の子達は決まっているのですか?」
「それなんだけどね…」
現在、ブティク以外は上位存在へ進化する可能性がある。今回のブティクは智明に与えられた力でもある『竜王』が登場した『青の6号』に登場する潜水艦からその名前を取った。今後、どの様な艦へ進化するか分からないので、どうしたものか悩んでいた。
「どうしようかな?」
「潜水艦の名前だったのですか、でも船の名前に拘らなくても良いと思うのですよ?」
「それは確かに……でもなぁ…」
数時間後、色々と悩みながらも智明は仲間達の名前を決めたのであった。
潜水艦ヨ級 『ブティク』
軽巡洋艦ト級 『ヴァーチ』
軽巡洋艦ヘ級 『ヨハム』
駆逐艦イ級 『コーバック』
名前を与えられたブティク達は夜遅くまでワイワイ騒いでいたのであった。
現状報告
・駆逐艦暁型4番艦『電』が仲間になった!
・駆逐艦ロ級『ヴァーチ』は進化して軽巡洋艦ト級になった!
・駆逐艦イ級『コーバック』が仲間になった!
・駆逐艦ロ級『ヨハム』が仲間になった!
・軽巡洋艦ホ級『ブティク』は進化して潜水艦ヨ級になった!
・『ヨハム』は進化して軽巡洋艦ヘ級になった!
アンケート結果は、
1位、電(3票)
2位、夕張(2票)
3位、夕立(1票) でした。
夕張と夕立は今後、登場させる事にします。
深海棲艦達に与えられた名前は一部はネタバレ防止の為、元ネタの架空艦名を削ったりもじったりしています。
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