アタランテとヒッポメネスがスイーツ脳だったら 作:グラドラル
純潔の狩人として人々に知られる英雄アタランテ。
彼女はアルカディア王イアソスの娘として生を受けたが、イアソスは男子を欲していたためアタランテは山へと捨てられる。女神アルテミスはアタランテの元に雌熊を送り、その乳を飲むことでアタランテは狩人の一団に拾われるまで生きることが出来た。それに感謝したアタランテは純潔の誓いを立て狩人として生きていく。肝心のアルテミスはスイーツ脳だったが。
後にアタランテはアルゴナウタイへの参加やカリュドンの猪狩りなどでその名声を高めていく。
イアソスは名を挙げたアタランテを自身の娘として受け入れるが、己を捨ててからの手のひら返しや、ただ後継ぎを生む道具としか見ていない父に対し、親子としての情は完全に冷めてしまう。
そんな中イアソスがアタランテの夫を募り多くの求婚者が押し寄せる。
己の結婚に国の行く末が掛かってしまえば容易く逃げるわけにもいかない。しかし純潔の誓いや、一度己を捨てた父の事を考えれば簡単に頷くことも出来ない。
悩むアタランテへアルテミスが神託を下す。
アタランテと競争し勝った者が夫となり、負けた者は殺すという神託。
もう一つ神託があったが、こちらは夫が決まるまで口外せぬよう厳命された。
アタランテはその内容に一時唖然としたが、アルテミスの神託ならばと受け入れた。
この時代最も速いアタランテを相手に速さを競い負ければ死ぬという条件に、それでも多くの者が挑み、そして死んでいった。
いつまでも相手が見つからないのではないかと多くの者が思い始めた時に、彼は現れた。
大海神ポセイドンを祖父にもつ青年ヒッポメネス。男たちの命を懸けた求婚に、話だけを聞いていた彼は初めは共感することはなかったが、アタランテを見た瞬間その思いは覆った。端的に言って一目惚れをした。
そしてそれはヒッポメネスの方だけではなかった。
アタランテは己を呆けた顔で見ているヒッポメネスを見つけ、その瞬間鼓動が高鳴った。
一目惚れだった。恋に落ちたとはっきり自覚出来た。あの信託は彼に出会うための物だったのだと確信した。あれが己が最も求めたものだと疑いもしなかった。
「あなたも、私に求婚するためにここに来たのか?」
「あっ、いえ、僕は……」
挑戦者もちょうど一区切りついた所だったため、この機を逃すものかとアタランテはヒッポメネスに近づき声を掛ける。
「君の話を聞いて、ただ一目見たいと思っただけだったんだけど……思ってたより……」
「思ってたよりなんだ?」
綺麗だった。美しかった。大したことはなかった。恐ろしかった。彼はどう思ったのだろうか。
怖くもあったがそれでも、彼の思いを聞いてみたかった。
「可愛いと思った……」
「何?」
「初めは綺麗だと思ったけど、僕の方を見て目元が柔らかくなって、こっちに来る時の弾むような足取りが女の子みたいで、それを見たら可愛いの方がしっくりきて……」
「そ、そうか」
すぐに顔が熱くなるのが分かった。
誉め言葉は飽きる程聞いてきたが、そんな事を言われるのは初めてだった。
それを嬉しく思ったのは彼が言ってくれたからだろうか。
求婚者ではないようだが、自分に対し全く脈が無い様ではなかった。
余人を交えずに話したい。そう思ったアタランテは、心の赴くままにしようと思った。
「私について来れるか?」
「え?」
「ついて来れたなら、今日の私と共に居られるのはあなただけだぞ」
ヒッポメネスにそう言ったアタランテは、周りに集まっていた者に声を掛ける。
「今日はここまでだ!私はこれから狩りに行く!」
そう言ってアタランテは走り出す。その速さはギリシャ最速。その場を離れる彼女を追いかけられるものなど誰も見当たらなかった。
凪の様に静かに、それでも荒れた海の風の様に速く。
誰にも気づかれずにアタランテを追いかける青年の姿があった。
スイーツ脳「汝なんて言い方女らしくなくて嫌だ……。では何と呼べば……そうだ、あなたと呼ぼう!他にこの呼び方をした者はいないし妻が夫を呼ぶ言い方としてちょうどいい……妻って!?落ち着けまだ結婚もしていないのだまずは恋人から始めても遅くはないそれからゆくゆくは……」