あの水平線の向こうへ   作:神崎 一

3 / 4
神崎です。

前に書いた4話分までストーリー的には同じ流れな感じですが、全部消して表現する方法・文を変えてみています。
前より読みやすくなっていれば良いと思ってくれると嬉しいです。

古い1話を今回2つに分けてみました。
追放シーン後半から、今作のヒロイン的役割の艦娘登場までのお話です。

・2022/06/05:誤字修正
・2022/06/11:誤字脱字修正、表現に違和感があった個所を修正


002話 日常が変わり始めた日

「せめてもの慈悲として、仕度をする時間だけは与えてやる。今日中に出ていけ!!」

 

恐らく家族として、そして父親としての最後の一言だったのだろう。3人ともに彼の視界から消えようと、そそくさとリビングを後にする。その姿は、まるで目障りの存在が無くなって嬉しそうに、ようやく家族団らんで過ごせると楽しそうに、本当に喜んでいるようだった。

家族の姿は、もう2度と目にする事は無いのかもしれない。彼はそう覚悟した後、誰とも会わずに一人で部屋に足を運んだ。いや、一人と妖精と言えば良いだろうか。

 

部屋に戻った彼は、急ぎ支度に取り掛かる為に大きなカバンを取り出そうと部屋を見渡す。すると、いくつかの書類が散乱しているのが目に入った。クリアファイルにまとめられたであろうものが、乱暴に置かれていた為なのだと見て取れる。

そして彼は書類を拾い上げると、それらの内容が目に入り驚きを露にする。

 

「これは……!?」

 

自分が知らない間に、本当に事が進んでいるのだったと、改めて思い知らされる。

 

そこにあった書類は……「国立大学試験不合格通知書」「国立高校早期卒業証書」。

大学試験不合格通知は、おそらく彼の父親が手回しをして正式に不合格を伝えたものだろう。早期卒業証書は、本来就職先の都合等で早期に学校を卒業させる為の特別制度だが、父親が一刻も早く提督養成学校に向かわせたい為に得たものだろう。

 

次に提督養成学校に関するものが三枚と交通チケットが数枚、「室蘭(むろらん)提督養成学校試験合格通知書」「同養成学校入学証書」「同養成学寮入室許可証」。

試験合格通知書だが、彼は試験など受けていない。試験免除と言っていたが、おそらく父親が裏で手を回していたのは確実。政府公認の入学証書がある為、拒否すれば政府の意向に反する事になる。ご丁寧に学寮の手続きも、本人の同意無しで全て終えていた。室蘭行きの切符もある。おそらくこれで学寮に行けと言っているのだろう。

 

そして最後の一枚「戸籍謄本」。

彼の分籍済(ぶんせきとどけ)の戸籍が記されている。分籍済(ぶんせきとどけ)とは、親との戸籍を分ける為の手続きである。「戸籍を抜く」とも言われる。これにより、彼と春日家との縁は、正式に無きものになった。

これもまた、彼の父親が手回しをしたもの。彼はこんな手続きは行っていないし、する気も無かったわけだが。

 

父親は政治家の権力を存分に発揮させ、春日家の世間体を保った策略であるのは明白。

春日家から伝えられる美しき家族愛のストーリー──提督の力を持つ事がわかり、提督養成学校に進む事を決めた春日家の長男。その道に進むために戸籍を外すという、苦渋の決断をした立派な息子。そして、それを見守る家族達──という、春日家が傷を負わすに彼を追放させる構図がそこにあった。

単に父親が感情的に追い出せば、その理由をマスコミの追及が春日家に襲い掛かる。だが、これほど都合が良い大義名分であれば、誰も春日家に攻め入る事は無い。

 

「親父は、本気で追い出したかったんだな……」

 

これは世間体と言う味方を付けた、まさしく追放劇そのもの。確実にこの家から追い出してやると、その現実からはもう逃げられないぞと、これらの書類はソレを言外に伝える為に置かれたものだ。

そう落ち込む彼だが、状況は一刻を争うほどに、感傷に浸っている時間も与えてはくれない。予約された交通チケットの時間が迫っていたのだ。今この場で交通手段を失えば、雨風を凌ぐ宿に向かう事すら叶わなくなる。

 

衣類などの最低限必要なものを、素早く準備していく。最低限と言っても、元々弟に贔屓してきた家族なのだ。彼に買い与えられた洋服もそれほど多いわけでは無く、整理する量はこの衣類も含めてそれほど多くは無い。

無言で仕度を整えていると、いつの間にかナナを含めた妖精()がカバンの上に、ちょこんと座り込んでいた。

 

「がれいごめんね……あたいのせいで……」

「……ナナのせいじゃないさ」

 

確かに彼が妖精と出会う事が無かったら、家族からこのような仕打ちを受ける事も、住処から追放される未来は無かっただろう。だが、たらればを語っても意味は無い。妖精(フェアリー)と出会った事で、大切な何か(・・)を得られた。それもまた出会えたからこその未来だ。

 

「あたいは、がれいの事大好きだよ。絶対離れないからね!」

「ありがとうナナ」

 

彼が妖精()の方を向いて、少し微笑みながら感謝を伝える。こいつは辛い時も悲しい時も、支えになってくれたなと。

そして、ナナ(妖精)が泣いている。これは彼の為の涙だ。牢獄に閉じ込められながらも心を腐らせなかったのは、笑顔を絶やすことなく愛情を彼に注いでくれたからだろう。

 

そして、彼は住み慣れたとは言えない、苦い思い出が詰まっている、住処と呼ばれた鎖が無い牢獄だった場所から立ち去る時がきた。かつての(・・・・)家族に見送られる事無く、一人その場を後にする。

 

「最後の見送りも無しか……じゃあな、もう二度と戻って来ねぇよ。」

 

勘当され牢獄を追い出された彼は、室蘭(むろらん)に足を運ぶ事以外を許されなかった。しかし、この追放という出来事が、そして室蘭(むろらん)に足を運ぶ事が、後に「提督の力」という概念の変化を齎す(もたらす)切っ掛けになるのだが、その事を知る者はまだ誰もいない……

 

 

 

*******************

*******************

 

 

 

時はしばらく進み、春日牙零(かすががれい)とそのパートナーであるナナ(妖精)達は、バス・鉄道を乗り継いで本州の最北端に辿り着いていた。ここは、室蘭(むろらん)に向かう為の中継地点である「むつ市」、陸奥湾と面する青森県北東部の市である。

 

「やっとここまで来たか……、ナナ(妖精)達は大丈夫か?」

 

彼が妖精達(フェアリー)声をかけると、彼の肩にちょこんと座り込む。無邪気な笑顔で接してくる3人の妖精達(フェアリー)は、どうやら彼とは良好な関係にあるようだ。

 

「がれい!あたいは大丈夫だよ!」

 

この元気いっぱい!がトレードマークのような妖精(フェアリー)はナナ、彼が最初に出会った妖精(フェアリー)だ。最上位の非常に珍しい特殊な妖精な為、種別の名前も無いのだとか。ただ、少なくとも女神クラス以上(・・)である事は確かだ。

彼とナナとは強い絆で結ばれていて、お互いに友達以上の感情があるのを認めている間柄でもある。後ろに続く妖精達(フェアリー)の上位種であり、3人の中ではまとめ役な存在だ。

 

「がれいちゃ~ん、わたくしも大丈夫よぉ?」

 

このおっとりした話し方の妖精(フェアリー)はリペア、彼がナナの次に出会った2人の妖精(フェアリー)の片方だ。"応急修理女神"と呼ばれる女神クラスの上位妖精であり、ナナ程ではないにしろ特殊な妖精でもある。

リペアは、ナナの部下的という位置付けの存在で、修理女神という存在だけあって治療が得意なのだそうだ。

 

「殿下、私も問題ありません!」

 

もう一人しっかり者な雰囲気の妖精(フェアリー)はフィックス、彼がナナの次に出会った2人の妖精(フェアリー)の片方だ。リペアと同じく"応急修理女神"と呼ばれる女神クラスの上位妖精だ。

フィックスも、ナナの部下的という位置付けの存在というのもリペアと同じなのだが、牙零(がれい)を主人として認めており、彼の事を名前では無く"殿下"と呼んでいる。フィックスも修理女神という部類の妖精なのだが、修理(治療)よりも防御を得意とし、彼を守る為の盾としてその役割を担っている。

 

妖精(フェアリー)に名前を付ける習慣が無い為、3人の名前は彼が考えたものだ。2人にリペアとフィックスという名前を付けた時も、その嬉しさから相当はしゃいで(・・・・・)いたらしい。その姿が目に浮かぶようだ。

 

 

先ほど牙零(がれい)とその妖精達(フェアリー)が到着した所は、下北半島を南北に進む鉄道の終着駅「大湊(おおみなと)駅」のホームである。見た所彼らと駅の従業員以外に人を見かけない、物静かな駅とも言えるかもしれない。

なぜこのような場所に来ているのか?その答えは、自分の部屋に投げ捨てられるように置いてあった「室蘭(むろらん)提督養成学寮入室許可証」にある。この許可証には、当然ながら各関係資料が同封されていたわけだが、むつ市~室蘭(むろらん)間で運行されている専用船で、提督候補生を輸送する旨が記載されている指示書が含まれていた。学寮に向かう為には、当然ながらこれに従うしかない。

 

遠目に見える大きな施設、むつ市での彼らの目的地である「大湊(おおみなと)湾」が見える。ここから歩いて行けるようだが、到着までに1時間程度を要するようだ。そこには、彼等の本日の宿泊先となる施設も準備されている。早めにチェックインして、乗船準備をしておきたい。

 

「さぁーて、これからどうするかだけど……あまり時間が無いから、先に湾に向かって宿の手配をしてもらおう。楽しみだったと思うけど、今回は観光は後回しかな。次にチャンスがあったら、皆で遊びに行こうな。」

 

楽しみは後にしようと、申し訳なさそうに妖精達(フェアリー)へ伝える。すると──

 

「がれいに付いていく以外に、何もする事ないよ?」

「そうですわぁ、がれいちゃんは、わたくし達を置いていかないわよね?」

「私には、殿下をお守りするという使命がありますので!」

 

──それに対して、大丈夫だと笑顔で彼に答える。何があっても彼に付いていくのだという、妖精達(フェアリー)の強い意志を感じる。過去に家族とは粗末な関係だった中で、絆を深めた仲なのだ。強い信頼関係になるのも頷ける。頼もしい限りだ。

 

彼らは大湊(おおみなと)湾に向けて、国道を歩き始めた。徒歩で約1時間の小さな旅だ。しばらく歩いていると妖精達(フェアリー)がそわそわし始めたように見えた彼は、ナナに声をかけてみる事にした。

 

「なぁ、ナナどうしたか?そわそわしてるみたいだけど、何かあったのか?」

「うーんとね、この辺って妖精の気配を感じるんだよね。ほら、がれいの家の近くって、妖精の気配感じなかったからねー」

 

ナナ(妖精)が言っている通り、彼の実家である春日家付近には、妖精の気配が感じられないと言っていた。牙零(がれい)自身も妖精達(フェアリー)3人以外の姿を、未だ見かけた事が無い。

彼らが今居る辺りは、大湊(おおみなと)湾付近を含めると、確かに海軍や提督養成学校に関連する施設に近い。提督や妖精達が居ない方がおかしい地域だが、気配が感じられるものの姿は見かけていない。人数が少ない為、このような場所で滅多に会う事が無いのかもしれないが……

 

「妖精の気配はあるんだけどぉ、がれいちゃんが居るから緊張して隠れてるんじゃなぁい?」

「殿下は大変魅力的ですからな、他の妖精達も緊張してしまうのでしょう」

 

そう、強力な提督の力を宿した提督候補生に、女神クラスの妖精が3人揃っているのだ。並の妖精なら、萎縮もしてしまう事だろう。

特に彼は自覚が無い。それもそうだ、比較対象が居なかったのだ。自分以外に"妖精を見て話せる"者と……いや、"妖精を理解出来ている"者と、顔を合わせた事すら無いのだから。

 

「ねーがれいあっち見てよ、なんか公園があるよ?」

「ここは『水源池公園』だな、むつ市の観光は出来なかったけど、公園に寄って休憩するか?」

「嬉しいね!行こうよ!妖精の気配があるから、誰か居るかもしれないよ?」

 

そんな彼も、妖精(フェアリー)が居るかもしれないと言われたら、心の底から染み出てくる好奇心を抑える事は難しい。なにせ、3人以外の妖精と話をした事が無いのだ。興味が沸かないわけがない。

 

「よし、その妖精に会いに行こうか」

 

 

── 水源池公園 ──

 

ここは重力アーチ式石造堰堤(せきぞうえんてい)である「旧大湊水源地水道施設」、国指定重要文化財として管理されている由緒正しき公園だ。この水道施設は、過去に海軍専用水道施設として使われ、その後市民用水道として使われた土木遺産として保存されている。

また、この公園には「八重桜(ヤエザクラ)」や「染井吉野(ソメイヨシノ)」等の桜の木が約200本植えられており、春になるとその美しい桜の姿を眺める事が出来るという。

 

「へー、人が少なくて静かなんだな」

「そうだねー。こっちの方があたいは好きだなー」

「ナナに出会ったのも、たしか公園だったよな」

「うん!こういう自然は大事だからねー。力がみなぎってくるよ!」

 

小さいながらも、緑に囲まれた公園なのだ。堰堤から聞こえてくる水の音も、より自然を感じさせるアクセントになっている。

 

「それは良かった。じゃあ、もう少し公園を回ってみようか」

「うん!」

 

そのまま公園の中央に向かって歩いていると、小さな池が見えてきた。その池は四角い形のものが2つあり、それらの池を繋ぐように細い水路のようなもので繋がっている。細い水路の上には、数歩で渡れる程度の小さな橋が架かっていて、池に囲まれた島を渡れるようだ。

 

「がれいちゃん、妖精が居たわよ~」

「殿下、妖精だけじゃなく人も居られますな」

「ん?妖精だけじゃなくて……人も?」

 

その小さな橋の上に、一人少女が佇んでいた。赤い着物を着ており、着物と同様に紅く煌めいた長い髪が、その少女をより引き立たせているようでもある。小説で描かれるファンタジー世界で美しい種族が居るという話が良くあるが、まさしくソレが目の前に舞い降りたような印象を受ける程の美少女。

赤い着物の少女があまりに凛として美しく、彼も驚きを隠せない。

 

「……」

「こらっ!がれい!何見惚れてるのよー!あたいというものがありながら!」

「……っ!ごめんごめん」

 

一人自然を堪能していたようだが、こちらの慌ただしい様子を感じ取ったのか、赤い着物の少女がこちらに気付いた。さすがに女神クラス3人を連れている人物となると、どのような人間かは限られてくるだろう。それを察したのか、少女の方から声を掛けてきたのである。

 

「こんにちは。あら、そちらは司令官……にしては若いわね。もしかして候補生の人?」

「なっ!?」

 

少女の声を聞いた彼は、見惚れていた自分に鞭を打ち、警戒心を表に出す。いきなり政府ご用達の内容である"司令官"や"候補生"などの専門言葉が、少女の口から出てきたのだ。一体何処の誰で何者なのだ?と怪しむのも無理は無いだろう。

 

「もしそうだとしたら、あなたは関係者か何かなのでしょうか?」

「あぁ、ごめんなさい!探るとかそういうのじゃないから!妖精を連れてたから、提督候補生の人かなと思ったの。大丈夫よ、私も妖精が見えるから安心して」

「え?妖精が見えるんですか!?」

「えぇ、ちなみに妖精と話も出来るわよ。ほらご挨拶をしてみて」

 

だが、その警戒心も取り越し苦労で済む事となったが、彼は彼で驚きを隠せずにいた。それもそうだ、今まで全身全霊で主張してきた事を、今までその全てを否定された事を、偶然出会ったばかりの少女が全力で肯定したのだ。それも別の妖精を連れ添って、だ。

 

「うぅ……こんにちは……」

「あー!やっぱり妖精が居たんだ!こんにちは!」

 

着物の少女の肩に、妖精が座っていて姿を見せていた。その妖精は"装備妖精"と呼ばれており、多くの種別がある平均的な力を持つ妖精だ。ポニーテールがアクセントとなっている、かわいらしい姿をしている。その様子から、どうやら恥ずかしがりやの妖精のようだ。

 

交流を深める為、ナナ達に腕を引かれて連れて行かれてしまったようだ。同じ妖精同士だ、話も弾んでいるのだろう。

そして妖精の次は自分が交流を持つ番だと、彼も少女に話しかける事にした。提督候補生という用語を知っている人物だ、明日以降も関係施設等で見かけたりする可能性もある。ここで人間関係を広げておくのは、今後の候補生生活において、良い方向に進む切っ掛けになるかもしれない。

 

「俺は春日牙零(かすががれい)、あなたの見立て通り提督候補生として大湊(おおみなと)湾まで来ました。あなたも候補生ですか?」

「私は候補生じゃないわよ。私はね……」

 

少女は勘違いを正す為、自分の身だしなみを整えなおして、そして彼に向って伝える。

 

「私は『神風型(かみかぜがた)1番艦駆逐艦(いちばんかんくちくかん) - 神風(かみかぜ) 』、艦娘(かんむす)よ。明日出向する輸送船の護衛任務を受けているわ」

 

そう、少女は艦娘であり、おそらくは彼の護衛役になるであろう事を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。