イギリス代表候補生セシリア・オルコットにとって、エイダ・ブラウンという少女は複雑な意味を持つ存在である。
まず、単純に学園の同級生であり、ルームメイト。
更に、祖国ひいては自らの所属する企業の抱えるテストパイロットでもある。
更に更に、学園にいる一時的た間身の回りの世話をしてくれるメイドでもある。
更に更に更に、本来はさる名家の令嬢付きのメイドであり、つまり他人のものである。
だがしかし更に更に更に更に――――……。
密やかな乙女の慕情を傾ける一輪の花でもある。
エイダ自身はほどほどに整った容姿をしている訳ではなく、これはエイダも他人も、それどころかセシリアでさえ認めるだろう。
名を表すような亜麻色の髪と泣き黒子が特徴で、それ以外と言えば極度のスキンシップ好きというか、有体に言ってセクハラ娘なことか。
今も風呂上りのマッサージにかこつけてうつ伏せに寝たセシリアの体を好き放題しているわけだが。
どういう訳か、この娘を一目見た時からセシリアは電撃的な恋に落ちてしまったのだ。
まぁ、それも運命というものなのだろう。
「セシリア様は日増しに肌艶が良くなりますねぇ。」
「ん、ふぅ…そ、そうかしら?きっとエイダさんのマッ、ぁんっ……マママッサージのお陰ですわね!」
「いえいえ、とんでもない。私の稚拙なマッサージなど……ふふ、やはり私たち年頃の女を美しくするのは恋です。セシリア様、私を想いながら女として特訓していらっしゃるのでは?」
横乳に指を沈めながらたっぷりと含みを持たせた彼女の問い掛けで、セシリアは耳やうなじまで真っ赤にして黙り込んだ。
彼女は絶対にバレていると確信させつつも、核心には触れない言葉を使っていつも“いじめる”。
明らかに解す意図などないソフトタッチでくびれや脇腹を撫でてクスクスと笑う彼女はそれ以上踏み込まなかった。
代わりに腰から下へ踏み込んできた。
「気持ち良いですか?」
ツボを捉える親指と尻を這う四本の指はそれぞれ異なった快感を引き出す。
知れず熱い吐息を漏らしたセシリアはコクリと頷いて枕に顔を埋めた。
彼女の名誉のために補足しておくと、今でこそマッサージ兼合意のセクハラとなっているが、元々は本当にマッサージだけの時間だった。
メイドに肌を晒す抵抗がなかった彼女を上手く言いくるめて、本性を隠したエイダがバスローブを脱がせてからじわじわとお触りが増やし。
今や一通り揉み解した後は遠慮なく愛撫してくる始末。
「セシリア様は本当に頭から爪先まで美しくていらっしゃる……」
「(ああ、こんなはしたない姿をエイダさんに……もっと、もっと見て下さいまし……)」
完全に需要と供給が一致している二人は時を忘れてそうしていたいのだが、生憎とセシリアの体も限りがあれば、明日も授業がある。
最後に足裏を、妙に踵を念入りに指圧してから、エイダは労るようにセシリアの肌を摩っていく。
うなじから肩へ、背中は大きく円を画くように撫でると時に指が脇の方へ滑ってしまうが、偶然なら仕方ない。
器の大きなセシリアはどこに指が触れようとそのくらいでは何も言わないのだ。
「どうですか?どこかまだ凝っているところやまだシて欲しいところはありますか?」
「いえ、大変気持ちが良くて、本当に満足しましたわ」
腰の滑り台を越えてむにゅりと臀部を覆った手の平が左右反対に円を画いて捏ねると、セシリアの肌に朱が増した。
最後に脚をランディングして手が離陸した後、スプリングを撓む音と共にエイダの体温が離れていった。
毎度ながらこの瞬間にそこはかとない寂しさを覚えてしまうセシリアは想い人の背中を目で追う。
ハーブティーを淹れに行ったことは分かっていた。
彼女の淹れたお茶を飲みながら予習復習をするのが二人の日課になっているからだ。
「(ああ、今日も幸せでしたわぁ……)」
カチャカチャと茶器の用意や湯を沸かす大好きな生活音をBGMに余韻に浸って思い起こすのはエイダの顔ばかり。
目覚めて最初に見るエイダの微笑。
朝食を摂りながら見つめ合う時のエイダの澄ました顔。
口惜しいが違うクラスということで別れる時のエイダの励ましてくれる笑顔。
飛んで。
放課後、訓練の為に向かったアリーナで待ち合わせたエイダと目が合った時の安堵の表情。
エイダから始まってエイダで終わる。
ぽーっと顔を緩ませている内にスリッパが床を叩く音が聞こえてくるはず。
パタパタ、と。
案の定、キッチンから軽やかな足音がベッドに歩み寄ってくる。
「いつも裸で寝ていては風邪を召してしまいますよ」
「あら、けれど、エイダさんがいつも着せて下さるじゃありませんの」
「ふふ、そう言えばそうですね」
足先に触れた布地が脚を通して上ってくるが、セシリアはわざと力を抜いたままベッドに沈みこんでいた。
すると、エイダは何も言わず微笑み、片手で足腰を支えてパンティーを穿かせてくれる。
まぁ、今更とはいえ尻を上げれば色々と見えてしまうという理由もあるのだけれど。
「どうぞ」
「ありがとう」
セシリアの体を起こすついでに差し出されたブラの紐に腕を通すと、苦しくない程度に寄せて胸を整えてくれる。
その際にまたお触りがあるが、それも一種のご褒美――……どちらへのかは定かでないが――と思って目を瞑って流した。
寝ていたのだから当然だが、下着の選択はエイダがしているため、彼女の気分を知るいい印にもなった。
今日は黒ですのね、と考えたセシリアは寝間着に袖を通した。
黒を、それも下着で黒ということは今のエイダは特別そういう気分なのでは、と邪な推測が頭を巡る。
湯が沸いてエイダがキッチンに行ってしまい、自分で着ることになったのが残念らしい。
着衣を逡巡していた。
「エイダさん、私が運びますから着替えをなさって下さいな」
寝間着を来てしまったセシリアはそそくさとエイダの元へ行く。
葉が開く間に運んでおくことはセシリアにだって当然できるし、エイダも早く着替えなければ冷えてしまう。
別にバスローブのエイダを目に焼き付けようだとかそういう考えはセシリアにはない。
「いえ、今日は少し体が火照っているので」
亜麻色の髪を耳にかけながら笑ったエイダの流し目でセシリアの心臓が大きく跳ねた。
それが余りによく訓練された“色目”で、比喩ではなく頭がくらくらしてきたセシリアは思わず固まってしまった。
「あ、え、あ、あ、えっとだだだ大丈夫でしょうか?かっ風邪とか引いて、引いていましたら!」
「さぁ、どうでしょう……?少し熱を診て頂けますか?」
前髪を上げて額を露出させたエイダが眉を八の字にして顎を引いた。
わざわざ上目遣いにする辺りあざといのだが、それもフィルターが掛かってしまえば魅力的な仕草に早変わり。
不思議!可愛い!
ぎくしゃくとセシリアが手を伸ばすと、エイダは唇を尖らせる。
またあざとい。
「体温計を使わず熱を測る時はこうするものではありませんか」
「ひゃう!あわわわわわ……」
やたら密着してコツンと額同士合わせたエイダは茹で蛸のように赤いセシリアを見詰める。
最早彼女の方が熱暴走しているのは測らずとも明らかだった。
「どうでしょうか?私、熱ありますか?」
「あああああありません!ありませんわ!」
ぐいーと引き離して逃げ出したセシリアを見送ったエイダは悪戯っぽく笑う。
ハーブティーのポットから香るナツメグに満足した彼女はトレイに一式乗せて机に向かった。
可愛い可愛いお嬢様がむくれて待っているのだろうと想像しただけで花が咲くような笑顔が抑えられない。
勉強の前の美少女成分は充分。
二人ともメリハリはきちんとしたい性格なため、これからは真面目な時間だ。
「(ああ、セシリア様には寝る前に着替えを見せて差し上げなくては)」