月の少年の儚世に咲く薔薇の名は   作:ゆるポメラ

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ゆるポメラです。
楽しんでいただけると幸いです。

それではどうぞ。


第2話 役への向き合い方

そして数日後。

 

「おはようございます。演劇部の練習場所はここでしょうか?」

 

演劇部の部室に千聖がやって来た。

それを見た部員の反応は、キレイだ~とか本物の芸能人だ等、様々だった。

 

「千聖さん! 来てくれてありがとうございます!」

「いいえ。とんでもない。麻弥ちゃんがいて安心したわ。みなさん、これからどうぞよろしくお願いします」

 

麻弥と他の部員にも挨拶する千聖。有名人なのに嫌味な感じがしない等、部員からは好印象である。

 

「千聖! 来てくれたんだね! 私のジュリエット!」

「……どうも」

 

薫の言葉に千聖は微妙な反応。

 

「詳細を説明したいところだけど、もう1人役者が揃ってからにさせてくれ。手続きでちょっとだけ遅れると言っていたからね……」

「……?(もう1人? 一体誰なのかしら……)」

 

千聖がそんな疑問に思った時だった。

 

「失礼します。演劇部の練習場所はここでしょうか?」

 

入ってきたのは遠くから見れば、少女にも視えなくもない1人の少年だった。

その人物を見て千聖は驚く。

 

「えっ……? ゆ、悠里!?」

「……あれ? 千聖ちゃん? なんでここに……ああ、そういう事」

 

驚いてる彼女をよそに納得する悠里。

他の部員から見て、外見はミントグリーン色で前髪が長めのショートヘア、ややツリ目で瞳は薄い青紫色の人物だった。

第一印象は……薫とはまた違う感じのイケメン……が大半だった。

 

「悠里! 来てくれたんだね! 予定より早かったじゃないか」

「手続きが僕の予想よりも早めに済んだんだ。千聖ちゃんがいるって事は、そういう事だろうと思ってるから、薫ちゃん、詳細を聞かせてもらえないかな?」

「ああ、もちろんだよ。さあ、2人共こちらへどうぞ」

 

詳細を聞く為に悠里と千聖を近くの席に案内する薫。

 

「フフ……千聖、何度も断られたから正直ダメかと思っていたよ。本当は最初から、来てくれるつもりだったのだろう? 君は本当に素直じゃないね」

「何度も何度も断ったのだけどね。羽丘の校長先生や、演劇部の方が熱心に交渉に来てくれて……公演への情熱を感じて、出演を決めたのよ」

「……僕の知らないところで、そのやり取りが行われてた事に驚きなんだけど」

「私は寧ろ、薫が悠里を呼んだ事にびっくりよ。さっき言ってた手続きって、羽丘が女子校だから?」

「うん。自分で言うのもアレな気がするけど……僕、音ノ木坂学院(おとのきざかがくいん)の共学の為の試験生なんだよ」

 

自分が試験生になったのは色々と訳ありだけどね?と千聖と薫に話す悠里。

彼が着ている制服は、濃紺のブレザーに、濃淡の青と赤のチェックのズボン。赤のネクタイをしており、これは自分の学年が千聖と薫と同じ2年だからとの事。

 

「最初は私服で来ようかなと一瞬考えたんだけど、違和感あるから制服で来た。それで、通わせてもらってる理事長先生から、書類も届けてほしいって頼まれて今に至る訳」

「去年は花女の文化祭にも来てたものね。あの時以来くらい、びっくりしたわ……」

「……あの時の千聖ちゃんと花音(かのん)ちゃんの表情は今でも覚えてる」

「さすが悠里と千聖だね。君達2人の儚さに……乾杯」

「麻弥ちゃん、早速今回の公演について決まっていることを教えてもらえるかしら」

「はいっ!」

 

このままだと話が進まないと判断した千聖は薫をスルーし、麻弥に説明を求める。

 

「……なるほど。今回は記念の公演なのね。私も、公演が盛り上がるように精一杯がんばるわね」

「僕も頑張るよ。物語進行役なんて、去年の文化祭以来だから」

「はいっ、よろしくお願いします! ジブン、照明係として裏でしっかり支えますからっ!」

「…照明の位置とか、照らすタイミングとか色々聞くかもしれないけど……麻弥ちゃんよろしくね?」

「はいっ! 気になる事があったら遠慮なく言ってくださいねっ!」

 

頼りにしてるよと悠里が言う。

ちょうど台本の読み合わせが行われるみたいなので、参加する悠里と千聖なのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「『僕は誓う。この美しい月にかけて────』」

「『月はいけません。月は満ちたり欠けたりするもの。あなたの愛も変わりやすいものになってしまうわ』」

「『では……何にかけて誓えばいいのかい?』」

「ロミオはそう言いました。しかしジュリエットは浮かない顔。それはそうだ、月に完全な形なんて無い……」

「『僕は……僕は、あなたの小鳥になりたい────』」

 

薫と千聖が演じ、悠里が2人の心境を読み入れる。

一通り読み合わせを終えた3人は休憩に入る。

 

「薫さん、千聖さん、悠里さん、お疲れ様ですっ!」

「「「お疲れ様」」」

「3人とも素敵でしたよ~! 既に完成している感じすらありましたよ!」

 

麻弥が労いながら、読み合わせでの感想を述べる。

 

「どうもありがとう。それにしても、千聖はさすがだよ。さきほど台本を受け取ったばかりなのに、あの完成度とはね。それに悠里も。読み手が加わるだけで、こうも変わるとはね」

「ありがとう。けれど、今のは本読みに過ぎない。完成させるには、もっとジュリエットを知っていかなくちゃ」

「僕も今のは客観的な視点で読んだだけだから。千聖ちゃんも言ってたけど……完成させるには、もっと登場人物を知らないといけないと思う」

「完成を楽しみにしているよ、私のジュリエット達。それじゃあ私は、個人練習をしてくるよ」

 

お互いの感想を述べた後、薫は個人練習をしに行ってしまった。

何か困った事があったら遠慮なく言ってくれと言いながら。

 

「……ジュリエット達って……千聖ちゃんと薫ちゃんはともかく、僕は男なんだけどな。まぁいっか。僕も向こうで個人練習をしてくるね?」

 

やれやれと溜息を吐きながら、悠里も次に備えて個人練習をしてくると千聖と麻弥に言った。

持参してきたであろう、スケッチブックを持ちながら。

 

「いやあ、薫さんって本当にすごいですよねえ。普段はああいう感じなのに、こう……お芝居になると一気にスイッチが入るっていうか」

「薫は天才なのよ。どんな役だろうが、台本を読めばすぐにその役を自分に降ろすことができる」

「ほへ~……役を降ろす、ですかあ」

「私は薫と真逆。あらゆる資料を読み込み、バックボーンを理解して、役に近づいていくタイプなの」

 

自分と薫との役の違いを麻弥に言う千聖。それにと付け加え……

 

「悠里だってそう。劇の台本を渡せば、全ての役に視点と心情を与えて、見ている人達を物語の世界観に引き込ませることができる」

「世界観に引き込む、ですかあ」

「最もこんな事、悠里しかできない事だけど。だって物語進行役って言っても、遠回しに全部の役をやってるもの。初めて気づいた時は私と薫も驚いたわ」

「ぜ、全部の役……ですか」

「ええ。やり方を聞いたら、私と薫の真ん中辺りだって」

 

それを聞いた麻弥は、只々驚くしかなかった。

 

「……はぁ。私がジュリエットを理解するにはもう少しかかりそうだわ。薫はさっき、台本を受け取ってすぐなのにジュリエットの完成度が高い、と言っていたでしょ?」

「はい。言ってましたね。ジブンもそう感じました!」

「本当はね、薫から演目は聞いていたから、今日を迎えるにあたってあらゆる『ロミオとジュリエット』を読んだり、見たりしたの」

「そうだったんですか……!」

「ええ。だから、ある程度のところまではできていたと思う。けれどあれは、凡庸な演技でしかない……そう思ってる」

 

もっと、ジュリエットの人物像を確立させていかないとと千聖は付け足す。

 

「頑張ってくださいっ! 千聖さんならきっとできますよっ!」

「私なら……」

「あっ……『千聖さんならきっとできる』は禁句でしたね。すみません……」

 

失言を言ってしまった事を千聖に謝る麻弥。

以前、この事でパスパレのメンバーと色々あったのだ……

 

「ううん、いいのよ。ありがとう、麻弥ちゃん。私ならできる……そうね。ジュリエットを演じきってみせるわ。このまま薫の独壇場なんて許せないもの」

 

寧ろ気にしないでと千聖は言った。

 

「ジブン、応援してますっ。それに……、千聖さんがこんな話をジブンにしてくれたの、すごく嬉しいです」

「こんな話、って?」

「ああ、えーっとですね、千聖さんがこの役に対してどんな努力をしているか、とか。どんな思いでこの役と向き合っているのか……とか、そういう話です!」

「千聖さん、前に『努力はして当然のもの』って言ってましたよね。だから、誇れるものでもないって」

 

その言葉に千聖は今でもそう思ってると言った。

 

「千聖さんは今まで努力してる姿を周りに見せなかったですよね。だから、ジブンは千聖さんの完成形しか見たことなかったんです。今までは、千聖さんが完成する過程を知らなかった」

 

バンドの練習の時も、ある程度できる状態から自主練に参加したり、今日みたいにジュリエット役について悩んでる事や迎える努力を知ったと麻弥は言う。

 

「……千聖さんの過程を初めて知れたんです。フヘへ、それが嬉しくって」

「ふふ。私、少し甘くなってしまったかしら?」

「フヘへ。でも、ジブン、今の千聖さんすっごく好きです」

「ありがとう。……けど、その『フヘへ』はやめなさい」

「えへへ、すみません」

 

 

彼女の笑う時の癖を注意しながら、そんな話する千聖と麻弥なのであった。




読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。
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