楽しんでいただけると幸いです。
それではどうぞ。
それから数日後。
「はい、ここまで~! これより15分の休憩で~す!」
「「「お疲れ様でした」」」
練習をしてると、ちょうどキリが良いところで休憩の時間になった。
「……ふう」
「お疲れ様。浮かない顔をして、どうしたんだい? そんな顔、君には似合わないよ」
「薫ちゃんに同意。悩みがあるなら聞くけど?」
浮かない顔をしてた千聖に薫と悠里が声をかける。
「薫と悠里は『ロミオとジュリエット』のお話は好き?」
「ああ、好きだよ。愛し合った2人が、最後まで愛を貫く……悲劇ではあるが、とてもロマンチックな物語じゃないか」
「……僕は好きか嫌いかって言われたら好き……かな。ただ毎回読む度に、評価が変わるから何とも言えないかな」
千聖に『ロミオとジュリエット』の物語は好きかと突然聞かれ、驚いた薫と悠里だったが、2人は彼女の質問に答える。
「私はこの物語をあまり好きにはなれない。昔からそうよ。ロミオとジュリエットも、若いとはいえとても身勝手に思えてしまうの」
「……聞かせてくれるかい? 千聖の中の『ロミオとジュリエット』」
「僕も少し興味あるな」
薫と悠里がそう言うと彼女は口を開いた。
「キュピレット家と、モンタギュー家……。ロミオとジュリエットは対立関係にある一族同士であるにも関わらず、恋に落ち、誰の了承も得ず、出会って数日で結婚をする。それがきっかけとなり、両家の対立は激化……。そのせいでロミオは親友を失うだけでなく、ジュリエットのいとこであるティボルトを殺してしまう。そして、最後に2人は……」
「「……」」
そう。この物語は悲劇の物語。最終的にそう締めくくられるのである。
「愛を貫くのは素晴らしいことかもしれない。でも、一方で周りが見えていなさすぎるようにも見える。それを『悲劇の愛』だなんて……美化しすぎよ」
それに自分はジュリエットを知れば知るほど、自分とは真逆の存在だと感じると千聖は言う。
「私は、Pastel*Palettesというバンドにいる。Pastel*Palettesとして立場をわきまえた行動をいつも心がけているわ。……ジュリエットのように、何にも縛られまいとする振る舞いなんて、理解しようとしても難しいわ」
3人の中で静まる空気。すると、近くにいた部員から、こんな会話が聞こえてきた。
「今日の薫さんと千聖さんと悠里さんも素敵だったね~! 千聖さんって子役からやってただけあるよね! やっぱりすごいよ~!」
「うんうん! 凄いな~。演劇も上手いし、本当に完璧!って感じだよね」
「…………」
どうやら千聖の事について話していた。
それを聞いてた悠里は複雑な気分だった。否、どちらかと言えば、嫌な気分だった……
部員達が悪気はなく言ってるのが余計にタチが悪い。
「……。『名前がなんだというの? 薔薇は他の名前で呼ぼうともあの甘い香りは変わらないわ』」
「それは……ロミオとの逢瀬のシーンでのセリフだね」
「そのセリフって、結構奥深いと僕は思う。それにしても……急にどうしたの?」
薫と悠里の言葉に千聖は再び口を開く。
「薔薇は……薔薇という名前がなければ、きっと違う匂いに感じる。私はそう思うの。さっきの部員達の会話、2人も聞こえてたでしょ? 彼女達は、彼女達の知る『白鷺千聖』を基準に見ているのよ」
それを聞いた薫と悠里は一番辛いのは言われてる本人だろうに……と思った。
「宣伝ポスターにも『ジュリエット役はあの白鷺千聖』とあったわ。……名前とは、そういうものなのよ。そして、私はその名前を背負って生きている」
確かに悠里も宣伝ポスターを初めて見た時には、そう書かれていた。
『あの白鷺千聖』という表現は、さっきも千聖が言ったように、他の人が知る基準の千聖を見ているのであって、悠里や薫が知る彼女を見ている訳ではない……
「……ふふ。どうしたのかしら、私。2人にこんな話をしても仕方ないのに」
「僕が言えた義理じゃないけど、千聖ちゃんは千聖ちゃん。薫ちゃんは薫ちゃん。僕は僕。中身は変わらない……でしょ? 薫ちゃん?」
「ああ、周りがどう見ようが構うことないさ! 千聖はもっと、気ままに演じることを覚えたほうがよさそうだね。ジュリエットのような、天真爛漫な振る舞いを、ね」
「気ままに……?」
「君はジュリエットを演じる白鷺千聖を演じているんだ。少し、力をいれすぎじゃないのかな?」
薫がそう言うと、気分転換に校内をデートしないか?と千聖と悠里に提案した。
「…言う立場が逆な気がするけど……まぁいっか。薫ちゃん、エスコートお願いしてもいい?」
「もちろん。喜んでエスコートするよ。ジュリエット」
「だから僕は男なんだけどな……他の人達にはなんて言うのさ?」
「ふふ、部員達には私から言っておくさ。私の姫達がお疲れだとね」
「それはそれで安心のような……不安なような……」
「……」
悠里と薫のやり取りを見て、千聖はこう口にした。
「……薫。あなたこそ、瀬田薫を演じているんじゃなくて?」
「千聖……? フフ、何を……」
「…………」
その言葉に若干の焦りが窺えたのを悠里は見逃さなかった。続けて千聖はこう言った。
「
「……え?」
読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。