楽しんでいただけると幸いです。
それではどうぞ。
「千聖、一体何を言っているんだい? 私は私だよ」
自分の知ってる薫はこんな人じゃないと突然言われ焦る薫。
「そう? 少なくとも、5年前のあなたは、今のあなたとは全然違ったと思うけど? ね、悠里?」
「……ん? うん、そうだね。今とは全く違うもんね」
話を振られ、薫を見ながら悠里も思い出す。
さて。彼女はこれからどんな反応を見せてくれるのだろうか?
「5年前の薫ちゃんは……お化けが苦手で……背も今より20センチ以上も小さくて……」
「なっ……!?」
「ちょっとでも物音がするだけで怖がって、私や悠里の後ろに隠れていたわよね。それから……」
「なっ、何を言っているんだい千聖! それに悠里も! そ、そんな事……そんな事……あったかなあ……覚えてないなあ……」
予想通りの反応に笑いそうになる悠里。
それなら、決定的な事を薫に言ってやろうかと千聖に視線で訴える。
悠里の言いたい事が解ったのか、彼女もそうね。と視線で返してくれた。
「あら? 思い出せない? 私の事を『ちーちゃん』と呼んでいたことも?」
「そうそう、呼んでたもんねー? 僕の事を『ゆーちゃん』って呼んでいたことも思い出せない?」
「「ねぇ、『かおちゃん』」」
「……っ!!!! ふ、フフ……その名前で呼ばれるのは……なんとも……懐かしい、ね……」
千聖と悠里の言葉に薫は、ぎこちない反応。
そして……
「……その呼び方……恥ずかしいから、その……や、やめて……」
「……ふふっ、あはははっ! 薫のその顔を見たの、いつぶりかしら? ふふふっ。薫、そのほうが可愛いわよ♪」
「ちーちゃん、笑い過ぎ。でも確かに、かおちゃんのその顔を見たのいつぶりだろうね? ダメだ。ちーちゃんにつられて僕まで笑っちゃいそう……」
「わ、笑いごとじゃないよ……」
完全に素の反応になった薫を見て、千聖と悠里は大笑い。
ちなみに悠里に至っては分かりにくいが、笑うのをなんとか堪えていた。
「ふふっ。どんな名前だって薫は薫なんじゃないの?」
「そうそう。かおちゃんはかおちゃんなんだからさ」
「ち、ちーちゃんてば……ゆーちゃんも……!」
ちーちゃんとかおちゃんの反応が面白かったし、そろそろ稽古の続きでもやろうかと悠里が締めくくった。
ちなみにちゃっかり千聖の事も昔の渾名で呼ばれ、顔を赤くしながら悠里を肘で軽く小突いたのは余談である。
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「『鳴いているのはナイチンゲール。ヒバリではないわ。朝はまだまだ来ないわ』」
「『ジュリエット……。あれはヒバリ。朝を告げに来たんだ。ごらん、東の空を』」
「『あの声は、私達を引き離し、朝を呼ぶ……意地悪な歌……』」
「『朝が来れば来るほど、僕達の心は暗くなってゆく』」
「ロミオはジュリエットにそう語りかけるが、時間とは残酷なもの。2人を追い詰めるかのように、鳥の鳴き声が囁いた……」
そして更に数日後。
日を追うごとに、3人の息がぴったり合ってきていた。
「千聖さん、お疲れ様です!」
その日の休憩中。麻弥が部室に入ってきた。
「お疲れ様」
「最近の千聖さん、すごくいい調子じゃないですか? 薫さんと悠里さんとの息も、前以上に合っている感じがしますし、以前よりもジュリエット役が板についてきてます!」
麻弥や部員達から見ても日を追うごとに上達してる感じがした。
もしかして千聖なりにジュリエットに近づいたのか?と麻弥は千聖に訊ねた。
「そうね、そうかもしれないわ」
「おおっ、良かったです! ちなみに、ジュリエットに近づけたのは、どんな事がきっかけだったんですか?」
千聖がきっかけは……と呟いた時。
「やあ、ちーちゃ……千聖!」
「千聖ちゃん、お疲れ様」
薫と悠里が声をかけてきた。
危うく昔の渾名で千聖を呼びそうだったのを悠里は見逃さなかった。
「薫。悠里。お疲れ様」
「最近、前にも増して調子がいいじゃないか。素敵だよ、千聖」
「どうも」
「千聖ちゃんが前よりも調子が良くなって安心したよ。正直ちょっと心配してた」
「……もう。悠里って意外と心配性なんだから。大丈夫よ」
「やっぱり、薫さんと悠里さんもそう思いますよね! 千聖さんのジュリエット、素敵だなあ……」
麻弥の言葉に千聖は褒めすぎよと言い、本番に向けて、やる事はまだまだたくさんあると言った。
「やはり、幼馴染みだけあって我々3人の息はピッタリだ。フフ。もしかして、好調なのは私のお陰……なのかい? 千聖」
「ええ、そうよ」
「ありがとう……お、オホン! それじゃあ私は個人練習をしてこようかな! じ、じゃあ、また……あ、アデュー!」
「……(かおちゃん。逃げたな)」
個人練習をしてくると言った薫を見て、あれは千聖に悟られないようにの照れ隠しだなと悠里は思った。
「アデュー……? 薫さん、なんだか変じゃありませんでした?」
「そう? あれはあれで、薫っぽいと思うけど」
「そうだね。ある意味、薫ちゃんっぽいと僕も思うけど」
「そういうものですかね……ところで、ジュリエット役がモノになってきたの、薫さんのお陰って本当ですか?」
麻弥の問いかけに、悠里もその話をしてたんだ?と千聖に訊ねる。
「……薫だけじゃなく、悠里といるとね、Pastel*Palettesにいる私じゃない、私になれるの。素の状態というか」
あらゆる視線や、『白鷺千聖』であることを一番忘れられるのが2人といる時だと千聖は言う。
確かに千聖は自分や薫といる時は素の状態な気がする……と悠里は思った。
「……きっと、ジュリエットもロミオといる時は、立場や家柄に縛られない姿でいられたと思うの」
「なるほど! それでジュリエットに近づく事ができたんですね」
「そういうこと。薫本人には絶対言いたくないけど、ある意味、彼女は私にとってのロミオかもしれない」
「あ。それ、僕もなんとなく分かる。そういう意味では薫ちゃんはロミオだよね」
千聖の言葉に悠里もうんうんと頷く。同時にこの場に薫が居たら、何て言うのかなと思ったが。
「念のために言っておくけれど、Pastel*Palettesにいる時の私も、嘘偽りなく、ちゃんと私よ?」
「もちろん、わかっていますよ!」
2人の会話を聞いて、悠里は他のメンバーと今も仲良くやれて良かったなと思う。
「もしかして、薫さんも同じ状態なんでしょうか? こう、いつもの王子様状態じゃないというか……」
「そうね。ある意味、お互い素の姿でいられているのかも」
「僕は、そっちの方が気が楽なんだけどね?」
「薫さんの素……どんな感じなんだろう」
素の薫を想像する麻弥に千聖と悠里は、いつか見られるかもと言った。
「……さて。私も個人練習をしてくるわね」
「僕も個人練習をしようかな。総仕上げ前の練習もしなきゃいけないし」
「はいっ! 本番、楽しみだなあ……」
それじゃまた後でね。と千聖と悠里は麻弥と別れる。
「さて。本番まであと少しだし、ロミオとジュリエットを盛り上げられるように僕も頑張らないと……」
「……ねぇ、悠里?」
「?」
悠里がそう呟くと、千聖が悠里の制服の袖を掴んできた。
しかも顔がちょっと赤い。
「そ、その……麻弥ちゃんの前では言わなかったけど、悠里も私にとっての……王子様なんだから……ね?」
「……ありがとね?」
後半辺りに小声で言う千聖。しかし悠里にはちゃんと聞こえていた。
その気持ちだけでも充分だと意味のお礼も言いながら。
そして本番当日まで、あと数日……
読んでいただきありがとうございます。
次回も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。