俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ   作:白黒パーカー

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8話:緑谷/箱守サイド『過去と力と脳無戦』

 

 

俺は魔法少女になりたい。

それが2度目の人生を得た俺の願いだった。

 

力とか形という意味ではなく、精神的な意味で魔法少女になりたいのだ。

いや、やっぱり力も形も欲しい。

気持ちだけでは、救えるものも救えない。

 

それならヒーローでもいいじゃないかと思う人がいるかもしれない。でも、俺は英雄(ヒーロー)にはなれない。そんな資格なんて持ってない。

あとは魔法少女(イリヤ)に憧れていたことも理由の一つだろう。

 

でも、きっと。

一番の理由は転生する前の出来事が原因だと思う。

そうだ。自分が死んでしまったあの日のことが。

 

大学帰りの俺は一人の少女を救おうとした。

まだ空が明るい時間帯。

車通りの激しい道路。

 

その道路には一人の小さな女の子がいた。腰を抜かして恐怖の顔で動けなくなっていて、彼女に向かって車が迫ってきている。あと数秒も経てば少女と車は衝突するだろう。理由はわからない。考える暇もなかった。

 

周りには俺以外の人がいなくて。

助けないと女の子が死んでしまう。死ななくても無事ではないはず。

助けられるのは俺しかいない、そんなことを考える前には体が動いていた。

 

女の子の元に駆けて手を伸ばす。彼女の顔が見える。

その時の表情は今でも忘れていない。

そして、

 

 

——死んだのだ。

 

 

 

 

 

 

「ヒッ!」

「ケロ……相澤先生の体が……」

 

峰田くんが小さく悲鳴をあげた。

蛙吹(あすい)さんの引きつった声も聞こえる。どちらも顔が青ざめてるのが僕にもわかる。いや、僕も2人と同じような表情をしているはずだ。

 

ワープ個性のヴィランによって水難エリアに飛ばされた僕たちは、そこで待ち構えていたヴィランたちを撃退した。

僕は左の指二本を犠牲にしたけど、そのおかげで2人はケガをしないですんだ。

 

けど……。

 

目の前で行われる攻防。いや、すでに一方的な暴力に変わっていた。

脳無と呼ばれていたヴィランに頭を掴まれている相澤先生は体がボロボロになっている。

僕たちのことを守るためにヴィラン連合に一人飛び込んだ相澤先生。

不得意な戦況の中でもプロヒーローの強さを見せてヴィラン連合を圧倒していた。

 

けど、リーダーらしき身体中に手を付けたヴィランと脳無が戦闘に参加したことで状況は一転した。

 

相澤先生の右肘が朽ちたように筋繊維がむき出しになり、体中から血を流している。特に頭からひどい出血をしている。

脳無は無言で相澤先生を攻撃し続けていたのだ。

 

「このままじゃ相澤先生が殺される」

 

思わずつぶやいた言葉。

どうにかしないと、どうにかしないと。僕に今できることはなんだ?

痛む指を無視して策を巡らす。

 

右腕を犠牲にしてあの脳無を攻撃するか?

いや、制御できない力を放って後でどうなるかわからないし、それがあのヴィランに通じるのかもわからない。

じゃあ、蛙水さんと峰田くんに協力してもらう?

 

ダメだ。現状を打破するだけの作戦が思いつかない。

やっぱり腕を犠牲にしてでもワン・フォー・オールのフルパワーで殴るかと決意した瞬間、それは聞こえた。

 

「——騎英の手綱(ベルレフォーン)ッ‼︎」

 

そんな喉を裂いたような必死の叫び声が空から聞こえて、思わず顔を上げた。

 

「ケロッ!」

「なっ⁉︎」

 

生きた流星がこちらに迫ってきていた。

いや、違う。あれは、

 

「おいおいおい、なんでこんなところにペガサスがいるんだよッ⁉︎」

 

それは天馬(ペガサス)だった。

しかも、その背中には箱守くんが手綱を引いて、空から急降下。そのまま横殴りに脳無を吹き飛ばす瞬間が目に入った。

衝突に脳無は耐えられなかったのか、手から相澤先生を離して遠くの建物に突っ込んだ。

 

あとに残ったのはいつもの魔法少女衣装とは違う姿に身を包んだ箱守くんで、荒い息を吐きながら手だらけのヴィランを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ……本当に、死ぬ」

 

頭が痛い。身体中のどこかしもが痛い。魔力という魔力を全部宝具に回したせいか、立っていられるのが不思議なくらいに体の震えも冷や汗も止まらない。

 

夢幻召喚(インストール)が解除され、おっぱいからクラスカードが飛び出した。

そのせいで、いつもの魔法少女姿に戻ってしまう。

 

「ソースケさん!バカですか!宝具を長時間使用するだけでも体に甚大なダメージを与えるのに、最後の最後で全魔力を注ぎ込むとか死ぬ気ですか⁉︎」

「珍しく、ルビーが、まともな、こと言うじゃん……」

 

ルビーからのお説教に息も絶え絶えだけど、笑みを浮かばせる。

耳郎たちのところから離れた俺は夢幻召喚(インストール)によって選ばれたサーヴァント騎乗兵(ライダー)、メデューサの宝具の一つを使用した。

 

——騎英の手綱(べルレフォーン)

 

騎乗できるものなら幻想種をも御し、さらにその能力を向上させる御する黄金の鞭と手綱。

基本的に魔法陣から彼女の子どもであるペガサスを呼び出して流星のごとき光を放って突貫する対軍宝具。

あくまでペガサスは宝具ではないところがすごいよね。

 

それによって俺はUSJのいくつかのエリア状況を確認してみんなをサポートして回った。掠っただけとはいえ黒霧の邪魔もできたのは大きかったと思う。

飯田は今ごろプロヒーローたちを呼びに行ってるだろうか。

 

「おいおい、なんだよそれ。ここに来て邪魔キャラだと?ふざけるなよ、黒霧は使命も果たさないし、完全なゲームオーバーだよ」

「すみません、死柄木弔(しがらきとむら)。まさかあそこにいる少女が乱入するとは思わず」

「言い訳かよ。あー、もう、お前がワープ持ちじゃなかったら今すぐにでも粉々にしていたよ!」

 

ヴィラン死柄木弔が苛立ちを隠さずに首を掻きむしっていた。

その隣にはいつの間にか黒霧もいた。

ストーリーは思い出せないけど、キャラは覚えているからわかる。今回の首謀者はおそらくコイツらだ。そして、その後ろにオール・フォー・ワンがいることもわかっている。

 

「さすがに何十人ものプロ相手じゃかなわない。あ~あ今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

 

どこかゲームをしているみたいに残念そうな声を漏らす死柄木。

この頃の死柄木はまだ子どもっぽさも残っていたな。

宝具で使用した魔力はまだ完全に回復仕切っていない。どうする?

 

「でも、その前に平和の象徴が守りたいものは潰しておかないとな」

 

——脳無、邪魔しにきたこのガキを殺せ。

 

「は?」

 

瞬間、目の前に現れたのは俺がさっきぶっ飛ばした脳無だった。

引き絞られた腕が俺目掛けて振りかぶられる。

 

おいおい、嘘だろ。

劣化してるとはいえ魔力を注ぎ込んだ対軍宝具をお見舞いしたんだぞ。

なのに、動けないどころかケガ一つ見えないなんて。再生能力速すぎだろッ!

 

「ルビー!物理保護ッ‼︎」

『展開します!』

 

一瞬の判断で、魔力で編んだ星型のバリアを作り上げる。

が、それは脳無の一撃で数秒ももたずに砕け散った。

 

「あ、ぶなっ⁉︎」

 

単純な動きのおかげでなんとか躱すことができたけど、それでもギリギリ。オールマイト並のスピードとパワーで腕を振るわれたから、かすった箇所の皮がめくれて血が吹き出す。

守りに入ってるだけじゃジリ貧だ。攻撃するしかない!

 

「——連続砲撃(フル・フォイア)ッ‼︎」

 

ルビーから不足した魔力を回復するために供給されていた魔力を回すことで脳無の体に魔力弾と化した拳を連続で叩き込む。

魔力不足で体が悲鳴をあげてるけど、構わず続行。

 

『ダメですよソースケさん!無限の魔力でどれだけ供給できても、ソースケさんの魔術回路じゃ一度に供給できる量も限られてるんですよ⁉︎一旦退避して回復しないと!』

「そんな余裕ないよ!それに、俺がやらないとみんなが殺されちゃう!」

 

俺がいなくなれば襲われるのは確実に緑谷たちだ。それに脳無は命令が変更されない限り機械みたいに命令を遂行する。逃げたところで追いつかれる。

 

もしかしたらこのピンチを助けてくれる誰かが来てくれるのかもしれない。

でも、それは今の俺にはわからない。ストーリーに関する原作知識が封印されてるせいでなにも見えてこないのだ。

 

だから逃げられない。誰かを見捨てるなんて許されない。助けを求める人が目の前にいるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それで救える命があるなら俺は前に進めるんだ!

 

 

 

「しぶといな」

「くっそ!」

 

死柄木の声が聞こえてくるが何かを言い返す余裕なんてない。

何度も何度も脳無の単調ながらものすごいスピードの攻撃を紙一重で躱し続ける。

 

もう魔力の供給が間に合ってない。かするたびに皮膚がめくれて血が吹き出す。

息も荒くて思考が止まりそうになるのを必死に堪えるしかない。

 

脳無の腕が引き絞られる。拳がくる。

ボヤける頭で俺はそれをいなすためにも構えを作り、

 

「黒霧」

「わかりました」

 

足を踏みしめようと思った瞬間、右足が地面に沈みこんだ。

 

「なッ……⁉︎」

 

足下を見れば右足だけが黒霧のモヤに包まれている。やばい、もう脳無の拳が目の前まで来ているのに。

 

「ルビー、物理保護!——ぐハァッ!」

『ソースケさん⁉︎』

 

星型の壁を作り出したけど魔力が足りないのか星屑のように消えてしまい、モロに脳無の拳を腹にくらってしまった。

脳内に火花が散ったように目がチカチカする。殴られたお腹を押さえる暇もなくどこかの建物に衝突した感覚だけが、体の痛みと硬いコンクリートの感触で伝わった。

 

「さっきの、仕返、し……かよ」

 

奇しくも、宝具でぶっ飛ばした脳無と同じ状況だ。

違いがあるとすれば向こうは無傷で俺は満身創痍なこと。

ルビーを手放してしまったせいで魔法少女も解除されてしまった。

 

「うっ、カハッ……ァッ!」

 

荒い息が止まらない上にまともに息もできない。

視界が血のせいで真っ赤だ。体も痛くて指一本動かせないや。魔力回路の無理がたたったかな?

 

緑谷たちが俺を助けようと必死になって動いている。俺が戦闘の最中からずっと助けようとしてくれていたけど、それを阻むように死柄木と黒霧が邪魔していた。個性上、下手に触れられないだけに攻めあぐねていたのは視界の隅に見えていたからわかっていた。

 

『ソースケさん!逃げてください!』

 

ルビーが一生懸命こちらに飛んできてるけど、間に合いそうにない。

だって、俺の目の前には一瞬で近づいた脳無が俺を殴るために腕を後ろに引き絞っていたからだ。

魔法少女にも変身できないし全く動けない。完全な詰み。

 

——あ、また俺死ぬんだ。

 

そう思った瞬間、死を直感した脳に走馬灯が走った。

あの日、俺が死んだ日のことが鮮明に映画のフィルムが回るように思い出されていく。

 

 

 

 

 

 

あの時、俺の伸ばした手は少女に届いていなかったのか。

 

——いや、確かに()()()()()()()()()

 

車が迫ってきている。女の子は怯えてしまって体が固まっていた。

あんな小さな女の子が自分よりも速い車が迫ってきていたら、絶望を顔に浮かべるのは仕方ないことだろう。

 

助けられる人は俺以外にいなくて、だからこそ俺は彼女の元へ走った。

俺が近づいたことに気づいた少女はこちらに顔を向けて、笑顔を浮かべた。絶望から希望へと変わったのだ。

 

そして、俺は彼女の手を掴んだ。この手に小さな女の子の温かさを感じることができた。少女は助かったと安心したのか笑みと共に涙も流している。

あとはこの場から離れて車から逃げるだけ。

一歩前に進むだけで助かる。それだけで助けられる。

 

 

それなのに俺の体はそこで固まってしまった。

 

 

『は?』

 

ここに来て迫る車が怖くなってしまったのだ。足がすくんで動けない。恐怖で歯がガチガチと鳴ってしまう。

動かなくちゃ、動かなくちゃっ、動かなくちゃッ‼︎

 

この時も走馬灯が見えたのか、死の瞬間、車の動きがやけに遅く感じた。

俺は見てしまった。少女の顔が希望から絶望に堕ちる瞬間を。

 

そして、ぶつかる車。妙に耳に残る生々しい衝突音。

自分の体が浮いているのだけはわかった。

それでも、少女の手だけは離さない。温もりはまだ感じる。

 

ドシャリと体が地面に落ちる音。

 

受け身もとっていないまま地面に落ちたのに体が痛くない。感覚が麻痺してしまったのだろうか。だけど、まだ握った手のひらから温もりだけは感じている。

最後の力を振り絞ってどうにか首だけを動かし、少女を見た。せめて彼女だけでも生きてほしいという願いにすがって。

 

「——ぁ」

 

かひゅっと自分の喉から声にならない音が漏れた。

目が合った。血だらけの少女が俺のことを見ていた。絶望に染ったドロドロに濁った瞳で俺の目を覗いている。

 

「————」

 

ゆっくりと少女の口が動いた。なにか言ってるけどなにも聞こえない。

最後にわかったのは少女の目から涙が溢れたことと、握っていた手のひらから温もりが消えたことだけだった。

 

 

 

 

 

 

そうだ。確かに俺の手はあの女の子に届いていたのだ。それなのに、俺は彼女を死なせてしまった。

ずっと後悔している。身のうちを焦がすほど怒りの炎で自分が燃えている。

 

力がなかったからだ。俺がただの一般人だから彼女を助けられなかった。気持ちだけは人は救えないけど。それどころか心すら恐怖に負けてしまったのだ。なにもない空っぽの人間。

 

力があれば恐怖に負けなかったのだろうか。

俺が今のままだからあと一歩踏み出すことができなかったのか。

だから、憧れた人(イリヤ)と同じ力を望んだ。無限の可能性を引き出してくれるカレイドステッキを手にした。

 

視界の先で死柄木が峰田と蛙水の頭を掴もうとしている。掴まれたら塵になって消えてしまう。

緑谷は黒霧の個性に襲われていた。ワープの中に入れば最後確実に殺されるだろう。

 

助けないと。無理に体を動かしてでも彼らを助けなくちゃいけないのに。

なんで体は動いてくれない?

 

涙が溢れる。こんな自分が許せない。

今度は力も形もあるのに、気持ちだってこの胸の中にあるのに。なぜこの手は動いてくれないんだ。前回は掴むこともできたのに、なんで俺の手は届かないの。

 

「——みん、なを……たすけて」

 

掠れ声で願いを叫ぶ。

ヒーローにもなれない。中途半端な魔法少女にしかなれない俺は涙しか流せない。最後のわがままを口にすることしかできない。

そして、死刑宣告のように脳無の腕が振り抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——()()()()()

 

瞬間、脳無と死柄木、黒霧が殴られたように吹っ飛んでいった。

俺の前に人がいる。

その声はどこか悪に対する怒りに燃えていて。

 

「私が来た!」

「おー、る……まいと」

 

目の前には英雄(ヒーロー)が立っていた。

 

 

 

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