俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ 作:白黒パーカー
「大丈夫かい、
俺の目の前にオールマイトがいる。
よかった、誰も死なずにすんだのだ。その安堵からさらに涙がこぼれてしまう。
「は、い。なんとか……」
オールマイトが俺に声をかけてくる。泣いてる姿を見られたくなくて腕で拭いたいけど、力がでなくて腕が上がらない。結局、顔だけ上げて震える口で返事をした。
「傷がひどいから無理に体を動かしてはいけない。すぐにヴィランを片付けてくるから少しだけ待っていてくれ」
それだけ伝えると、オールマイトが後ろを振り向いた。さっきの間に高速でヴィランへの攻撃を済ませたのか、緑谷たちや相澤先生はすでにそこにはいなかった。その視線の先にいるのはヴィランたちだけだ。
「……助けるついでに殴られた。国家公認の暴力だ。それに、さすがに速いや。目で追えない」
「けれど思ったほどじゃない。やはり本当の話だったのかな?弱ってるって話」
「さぁ、どうかな!」
オールマイトが死柄木に突貫するが、その巨体を受け止められる。
「ぬうッ⁉︎」
その攻撃は脳無によって阻まれたのた。対オールマイト。それだけに戦闘は拮抗していた。
しばらくオールマイトと脳無の攻防が繰り広げられる。
俺は動くこともできないから、それを目で追うことしかできない。
『ソースケさん、大丈夫ですか!』
少し遅れてルビーが俺の元へやってきた。表情とかないのに声だけで焦っているとわかるのは、この世界に生まれてからずっと一緒にいるからかな。
「る、ビー……ごめん、体が動かないみたい」
『ルビーちゃんが強制転身して魔力を供給しますから、絶対に死なないでくださいよ!』
「……死なないよ」
いつもは調子に乗るくせにこういうときだけ心配しやがって。調子狂っちゃうなぁ。
緑光とともに、再び魔法少女に転身させられた俺の体内に少しずつ魔力が供給されていく。
でも、傷を治したわけじゃないから、薄皮一枚から二枚に増えただけで相変わらず体は動かない。
「箱守!」
「じ、ろう?」
次から次へと。どこか慌てたような表情で近づいてきたのは山岳エリアにいたはずの耳郎。
なんで来たんだよ。
「アンタそれ、大丈夫なの⁉︎」
「んなことより、なんで、ここに、来るんだよ。……危ないで、しょーが」
「箱守のほうがひどい目にあってるじゃんか!なんでウチたちのこと待っててくれなかったの!」
息も絶え絶えで言葉を返したら耳郎が泣きそうな顔で叫んできた。俺がケガをしてなかったら胸元を掴まれてたぐらいに怒ってる。
ポタポタと耳郎の目から涙がこぼれ始めた。
あぁ、彼女の涙すら拭ってあげられないなんて、胸が締め付けられてしまう。
「ごめん耳郎。でも、これが正解だと、思ったから」
俺が来なかったら相澤先生はもっと傷ついていた。緑谷たちが死柄木たちに狙われていた可能性もある。
原作知識は封印されて、未だストーリーの先が見えてこない。
最悪の場合は、俺のせいでバタフライエフェクトが起きていて彼らが死ぬ未来もあったかもしれない。
でも、そんなことはさせない。
あの時と同じような結末にだけはしたくなかった。
「アンタがこんなに傷ついているのに、正解なわけないでしょ‼︎」
俺の言葉が許せないのか耳郎が怒鳴ってくる。
なんで、だって俺はあの子を救えなかったんだよ?
じゃあ、どうすればよかったんだよ。血を吐き出すのも構わずに俺は耳郎を睨んで、叫んだ。
「もう!見たく、ないんだよ……!目の前で絶望を抱いて、死んでいく子を。掴んだ手すら、助けられないのは、もう、嫌なんだよッ!」
ずっと後悔している。
俺に力があればあの子のことが救えたのに。
俺に勇気があればあの子を絶望の淵にたたき落とすことなんてしなかったのに。
ずっとずっとずっと、諦めきれなかった。
だからこそ、誰かの手を掴んで必ず助けられるような、そんな憧れた魔法少女になりたかったのだ。
だから、誓った。次こそは絶対に助けてみせると。
俺は魔法少女として少しでも多くの人を助けてみせると決めた。
俺の叫びを聞いた耳郎は口を閉じ、それからしばらくして口を開いた。
「……じゃあさ」
さっきまでの怒りが嘘のように、耳郎の声が優しくなる。
傷がない頭に手を置いて優しく撫でながら、俺の目を見つめてくる。
どんな気持ちが込められているのかわからない。けど、その目はあの女の子の瞳と重なったような気がした。
「一人で抱え込まないでよ。誰かを助けたいって思ってるのはアンタだけじゃないんだから。アンタの仲間が、
涙まじりにニカッと笑う耳郎。
突如、爆発音が聞こえた。
耳郎から視線を外してそちらを見れば、いつの間にか黒霧のワープホールと脳無に拘束されていたオールマイトを助けるために駆けつけた爆豪、轟、切島に緑谷がいた。
チームワークもクソもないバラバラな混戦だけど、確かにそこには仲間がいた。
「…………そっか」
心にできていた穴にストンと、何かがはめ込まれたような音が聞こえた。それはきっと幻なんかじゃない。
確かに俺の心が満たされた感覚。
俺は痛む肺を無視して大きく深呼吸する。ズキズキするし口から血を吐き出したけど代わりに意識が冴え渡った気がした。
「ルビー……」
『……なんですか?』
俺がルビーを呼ぶと、どこか警戒したような声で聞き返すルビー。
「スキル、ダウンロードして」
『まだ戦うつもりですか!』
「ちょ、箱守。ウチが言ったことわかって——」
まだ戦うのかと怒りを燃やす2人を視線だけで止める。
「大丈夫だよ、2人とも。よく、わかったから」
上手く声を出せないし言いたい言葉が形にならない。それでもこれだけは伝えなくちゃいけない。
「次は俺も、傷つかない、方法を見つけるから。信じて」
「…………」
長い沈黙それからクスリと笑い声が聞こえた。
「……わかった」
『本当にソースケさんはわがままなんですから』
ふふ、とルビーと耳郎が笑みを浮かべる。たぶん俺も笑っている。
唐突に
もしこの世に絶対に守るべき正義があるとするなら、それは少女の
俺は男だけど魔法少女になっている間は女の子だから、きっと俺の願いも正しいと信じたい。
成功するかどうかは俺次第。だけど大丈夫。今の俺は信じれなくても並行世界の俺には可能性があるはずだから。ここには支えてくれる仲間がいるのだから。
その一つをここで手繰り寄せる。
『それでソースケさん。どのスキルをダウンロードすればいいんですか?』
尋ねたルビーに俺は思い描いてた自分を伝えた。
「並行世界の、……
『ッ⁉︎わかりました、やってみます!』
俺の言葉の意味を理解したルビーが、緊張しながらスキルダウンロードを実行する。
魔法少女の衣装が緑光に包まれていき、並行世界の自分がダウンロードされていく。
一際強く光が弾けると俺の衣装が変わっていた。。それはいつかの別世界、
——小聖杯。
聖杯戦争のために作られたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの機能。
その機能は、過程をすっ飛ばして結果のみを再現する。
自分が可能だと強く信じていれば、魔力が続く限りどんな事でも実現可能にしてしまう
原点はともかく魔法少女のイリヤは数多の難関をこれに助けられてきた。
憧れゆえか、俺はその力に活路を見出した。
そのまま俺は強く願う。俺の傷を完治させるという願いを叶えるために。
体内に供給された魔力が抜けていく感覚。それと一緒に傷が塞がっていくのが目に入る。
「成功だ!」
がばっと起き上がる。さっきまで動かなかった体が動くようになる。痛みもない。体を見下ろしてみるが傷はなくなっていた。
やっぱり、できた!
「うわっ、急に動いて大丈夫なの!」
耳郎があわあわと尋ねてくるが、もう大丈夫。
彼女のほうを見てニカッと笑う。
「大丈夫!もうどこもケガなんてないから——こふっ⁉︎」
「大丈夫じゃないじゃんっ⁉︎」
耳郎にサムズアップしたら、口から血を吹き出した。
俺は沖田さんか。もしくはオールマイト。
どういうこと!
「え、なんで!傷は治ったのに⁉︎」
『ソースケさん。どうにもこのスキル、他のスキルとは違って不安定です!体内も中途半端に治っていません。あまり無理をすると一気に体が持ってかれてしまいます!』
「なにそれ怖、どこに持ってかれるのよ」
……さすがになんでもかんでも、ご都合主義はダメか。
よくよく自分が着ているドレスを見れば、ノイズ混じりに消えたり、戻ったりしている。
今までにこんなことはなかったのになんで。
「ちょ、ちょっと箱守!む、胸とかおしりとかいろいろ見えたりしてるから、隠してよ!」
「そんなことは今どうでもいいから。それより俺たち2人で遠距離からオールマイトたちをサポートするよ」
今気にしても答えはでないから、脇に置いておく。
戦況は拮抗している。ここで俺たちが戦力として加入することで形勢は逆転。俺たちの運命は俺たちで変えてやる!
「なんでアンタもヤオモモも、普段は恥ずかしがるのにこう土壇場で羞恥心忘れるの……。それで本当に体は大丈夫なの?」
「さっきはびっくりしたけど、無茶しなければ大丈夫そう」
「アンタはその無茶をするでしょ」
「だいじょぶだいじょぶ。耳郎のことも存分にこき使わせてもらうから覚悟してよ」
「はいはい。もうなんでもいいよ。無理そうだったら殴ってでも止めるからね」
「おー、怖」
耳郎のガサツな反応を後目にクラスカードを手にする。本当は小聖杯で一気に狙ったサーヴァントを
ここは、少し手順を踏んでからランダム召喚で行くしかない。
小聖杯に願いを込める。そのための魔力もくべる。望むのはクラスカードのクラス固定詠唱の省略。そして、
願い続ける度に体の中から魔力が抜けていく。空白のカードに絵が落とされる。
描かれたクラスは
「——
一瞬で、体はサーヴァントと置換される。
「ちょ、アンタまたなんて格好してるの⁉︎」
霊基置換することで衣装チェンジした俺にまたもや真っ赤な顔で怒る耳郎。一度下を見てから真顔で耳郎に答えを返す。
「なにって
今の俺は水着になっていた。
魔法少女の時とは違いカチューシャと長い三つ編み。右手に抱えるのは浮き輪。そして、大人っぽい黒のビキニとその上から羽織ったパーカー。
別におかしなところはないけど?
「なんでウチの反応がおかしいみたいな態度すんの⁉︎その格好で戦闘はヤバいでしょ!」
「いや、今までにもっとすごい衣装着てきたじゃん」
「羞恥心を取り戻してよ!」
荒ぶる耳郎を無視する。そんなことよりさっさとヴィランに攻撃を入れてかないと。
腕をばっと前に掲げ叫ぶ。狙いは爆豪目がけて飛ぼうとする脳無。
「リース、発射です!」
「はっ、リース?」
耳郎は一瞬俺を見て首を傾げるが、俺の傍に現れたものを見て口をぽかんと開けてしまう。
「
「リースです!」
使い魔のイルカ、リースが俺の言葉に従い飛んでいく!
爆豪に高速で飛んでいく脳無。そこに寸分の狂いもなく衝突したリースによって脳無が横に吹っ飛んだ。魔法少女状態の俺は狙えなくとも、サーヴァント状態さらに言えば
「エンジョイ&エキサイティング!水着ジャンヌ・ダルク、華麗に
「ちょ、箱守。やっぱあんたどこかケガしてない?テンションがおかしいんだけど?」
耳郎の心配もよそに俺のテンションはヒートアップしていく。まさに常夏、バケーション!
小聖杯の俺をダウンロードしているからか、水着ジャンヌ・ダルクを
「なんだよお前。さっき脳無にやられて瀕死になってたじゃないか。どうしてもう復活してるんだよ!」
「おい、魔法少女野郎!ふざけてんのか真面目なのかはっきりしやがれ!」
死柄木は首をガリガリと、爆豪は俺に助けられたのを察したのか怒りや屈辱がない混ぜになった複雑な表情で声をかけてくる。
なにより、俺に驚いた声を上げたのはオールマイトだった。
「箱守少年⁉︎いや、少女?とにかくまだ動いてはいけないだろ!さっきまで致命傷だったじゃないか!」
「大丈夫です、オールマイト!完全じゃないけど奇跡と魔法と友情で、動けるまで回復しました!」
「よくわかんないけど、適当じゃないかねそれ!」
オールマイトのツッコミは適切だけど、本当に大丈夫。
たまにコフッとするけど小聖杯のおかげで復活した。
「あー本当に何から何までヒーローにもヒーロー志望のガキどもにもイライラさせられるな。黒霧あのクソガキをやるぞ……おい、脳無。さっさと動いてオールマイトを殺せ!」
「そう簡単に殺らせると思うなよ!」
死柄木の命令でオールマイトに飛び込んでくる脳無。同時に死柄木と黒霧が俺目がけて襲いかかってくる。
さっきまでは色々とボロボロで対抗もできなかったけど、今は一人じゃない。仲間もいる。
「耳郎、スピーカー大音量で手と黒モヤの妨害して!」
「はいはい、わかってるよ!」
両足のスピーカーにイヤホンコードを差し込み、大音量で流される心音が爆音となり死柄木たちに向けて放たれる。
「くっ!黒霧」
「はい、わかってます!」
苦しそうな顔で命令する死柄木。それに応えるように一気に広げられる黒いモヤ。
でも、大丈夫。仲間はまだいる。
「爆豪!爆風でモヤ飛ばして!」
「俺に命令すんじゃねぇ!」
俺が声をかけるとキレ気味に黒いモヤを爆風で飛ばしてくれる爆豪。
そのスキに俺は右手に持っていた浮き輪を石投げの要領で死柄木に撃ち込んだ。
「キャッチ&リリース!」
「ぐはっ!」
「死柄木弔!大丈夫ですか⁉︎」
死柄木にぶつかった後ブーメランのように戻ってきた浮き輪をキャッチ。そのままオールマイトに目を向けた。
「イルカ遊撃隊!オールマイトの援護を!」
手をばっと掲げると今度は2頭のイルカが地面から水しぶきを上げながら泳いでいる。そのままの勢いで脳無がオールマイトに攻撃しようとする度に突撃していく。振りかぶった腕にアタック、掴もうとした手をアタックの連続。
けれど現状の俺では脳無を倒すだけの力はない。なんで水着ジャンヌが来てくれたのか正直、わからない。
けれど、脳無を倒せる人の背中を押すぐらいはできるはず!
「あとはお願いします!オールマイト!」
「ここまで生徒たちが頑張ってくれたのだ!私が!ヒーローが!平和の象徴がここで負けるわけがない!」
オールマイトが脳無に向かって拳を振るう。
体勢を崩しながらも脳無が拳で迎え撃つ。
飛んでもないパワーがぶつかり、その衝撃で台風みたいな風が吹き荒れた。
「ハァハァ、おいおいショック吸収ってさっき自分で言ってたじゃんか」
俺の攻撃に悶えながらも、オールマイトの行為を嘲笑う死柄木。
オールマイト並の身体能力に加えてそのオールマイトの攻撃を100パーセント受け止めるだけのショック吸収、終いには腕が千切れても戻に戻るだけの再生能力。確かに対オールマイトにはピッタリのヴィランだろう。
けれど、彼はそんなスペックだけのヴィランにやられるような人じゃない。
「私対策?君が私の100%を耐えるなら……更に上からねじ伏せよう!」
俺の
そうだ。オールマイトが負けるはずがない。
なんせ彼は人間でありながら現存する正真正銘の
自分で考えて戦うこともできない脳無が初めから勝てるはずもない。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!更に向こうへ!——プルス、ウルトラァッ‼︎」
その雄叫びとともに打ち上げられた脳無がUSJの天井を破って、飛んで行った。
その場にいたみんなが空を見上げるしかない。プロヒーローの、ナンバーワンヒーローのすごさを見せつけられたからだ。
それは俺の隣にいる耳郎も例外ではなかった。
「……オールマイト。すごすぎでしょ」
「さすが脳筋、魔法少女として尊敬する」
「魔法少女が脳筋はやっぱおかしいと思う」
耳郎の言葉を無視して、オールマイトに視線を下ろす。
「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば十分だったろうに……300発以上も撃ってしまった」
そこには相変わらず画風違いの体で笑みを浮かべるオールマイトがいた。でも、その体から蒸気が出ている。それは俺には見覚えのある光景。
やっぱり時間切れがきているのか?
時間が経つ度に戻っていくストーリーの記憶。そこに見えたものは本来の流れ。個性を継承したゆえに残り火だけで戦うオールマイトには時間制限がある。
原作とは違い俺や耳郎たちの援護が入ったものの、あまり変わらなかったみたいだ。
「脳無さえいれば…ヤツなら何も考えず立ち向かえるのに!」
「落ち着いてください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。まだ使える手下も残っています」
拗ねたような声を上げてボリボリと首を掻きむしる死柄木に冷静な言葉を尽くす黒霧。
このままではオールマイトの時間切れがバレてしまうのも時間の問題だ。
せめて、宝具を使ってアイツらを引かせれば。そう思い宝具を使おうとした瞬間、体に経験したことのないようなら痛みが走った。
「アガッ⁉︎」
「ちょ、箱守!」
「ごめん、ちょっとだけふらついただけだから」
「嘘!すごい汗だよ!」
地面に倒れそうになったけど耳郎が気づいて俺の体を支えてくれた。そのおかげで倒れこまずにすんだ。
これはまずい。
常にルビーからの魔力供給と小聖杯の願いでなんとか動けるようにしていた体に正真正銘の限界がきた。再び体が震えてきて、冷や汗も全然止まらない。かすんだように思考がまとまらない。
イルカたちも呼べるほどの魔力も浮き輪を投げ込むだけの体力も残っていない。
どうにかしてオールマイトを助けないと。
爆豪たちに頼みたいけど理由を聞かれたらオールマイトの秘密がバレる可能性もあって本末転倒だ。
じゃあ、耳郎に頼むか。耳郎の個性なら遠距離だから近づかずに攻撃ができるし、彼女に頼めば理由を聞かずにやってくれるはずだ。
……いやダメだ。下手に耳郎にヘイトを向けさせるのは危険すぎる。
未だこのストーリーの結末が見えてこない。どうすればいい。今の俺になにができる。約束したから自分を犠牲にするほどの無理をしてはいけない。その中でなにか……。
「あ」
まだできることがあった。
自分が
置換された体の能力に意識を向ければ、自分がしようとしていることが実現可能だと理解できた。でも、これを死柄木にしてもいいのか。
オールマイトの活動時間はもうわずか。やるしかない!
「ごめん、耳郎。最後に一つお願いがあるんだけど」
「え、なにっ、もう動いちゃダメだから!」
「大丈夫、ここから動かないから!体を手のヴィランのほうに向けて……」
「え?わかったけど」
耳郎に動かしてもらい、死柄木を真正面にとらえる。
時間が経つ度に震えが増す両手をなんとか持ち上げてある構えを作った。それはハートマーク。狙いは、死柄木だ。
「——あ、姉ビーム!」
「ちょ、箱守?」
姉ビーム。
それは自称姉の思い込みで狂化された水着ジャンヌ・ダルクがなにをとち狂ったのか生み出した洗脳光線。
みょんみょんみょーん!
それは見事オールマイトに意識を向けていた死柄木に当たる、ことはなく直前でかき消えてしまった。
最悪だ、ここにきて魔力切れ。
「またお前か。そうだ、オールマイトもチートで、ガキどももウザイけど、計画がくるった発端は全部お前のせいじゃないか」
俺にターゲットを切り替えた死柄木の目が極限まで細められる。くそ、失敗してしまった、しかも最低最悪のタイミングでだ。また俺はダメなのか。そんな暗い思考で頭がいっぱいになった瞬間。
ふわり、と。
「大丈夫」
耳郎に抱きしめられた。それも死柄木から姿を隠すように背中をヴィランに向けて。
「アンタは誰にも殺させない。ウチが守るから。あんな奴には指一本触れさせない」
俺を抱きしめる体がガチガチと震えている。向けられている殺気に気づいているのに抱きしめ続ける。手も繋いでくれているのか片手がぬくい。
もう教えたじゃないか。敵から逸らしちゃいけないって。
「もう怖いくせに庇ってくれちゃって、お姉ちゃん失格です」
「アンタはウチの姉じゃないし。こんなときまでふさげるな、バカ」
あ、強く抱きしめられると痛いです。もうちょっと優しくして。あとやっぱりぺったんこなんだな。葉隠と比べると胸元が寂しいというか
その時、どこかから発砲音がした。
あぁ、その音を引き金に記憶が戻ってきた。
「ごめんよみんな。遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!」
ネズ校長の声。
あの時応援を呼びにいってくれた飯田が、先生たちプロヒーローとともに戻ってきたのだ。
「ごめん、ルビー、耳郎。もう……寝る」
「あ、ちょ、箱守!」
『ソースケさん!せめて魔力供給をして傷だけでも治さないと!』
この勝負我々の勝利だ。
慌てた2人に返事を返す間もなく意識がブラックアウトする。
ただ耳郎に握られた手の温もり。それだけはずっと離れることはなく、俺は安心して夢を見た気がした。