俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ   作:白黒パーカー

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幕間
魔法少女に休息を。平穏と恐怖はお見舞いとともに


 

 

 

みんなは千代田桃という魔法少女を知っているかな?

 

彼女はまんがタイムきららCaratで連載している作品、『まちカドまぞく』に登場する魔法少女だ。

ピンク色で可愛らしい桃色魔法少女に変身できる割に性格はクール。けれど感情がないわけでなくコロコロと表情を変えるし魔族よりも意外と闇深かったりする魅力あふれる女の子だ。

そして、俺が尊敬している魔法少女でもある。

 

もちろん憧れている人はプリズマ(イリヤ)であって、ステイナイト(イリヤ)ではないけど。ここ問題に出ると思います。

ちなみに応援したい魔法少女は暁美ほむらです。まどかぁあーーー!

 

まぁ、基本的に魔法少女全般が好きな俺だけどその中でも特に気に入っているのが千代田桃だ。きっと彼女の方針『物理で殴れば戦は勝てる』にシンパシーを感じているからだろう。

 

彼女(脳筋)は言った。

 

『まずは筋肉をつけよう。さらに筋肉をつけてついでに筋肉をつけよう。そして筋肉をつけよう』

 

片手ダンプをするだけはある。

そのストレートなまでの物理少女さに目をハートにして惚れてしまいそうになる。即堕ち2コマ。

さらに言えば、彼女はこの時骨折していたのだが、3日目以内にはリハビリがてらマイダンベルを持ち上げたほどの回復力と脳筋さを見せてくれた。

 

なるほど。筋肉は負荷をかけるもの。

尊敬している魔法少女がしているのだ。

すなわち、死にかけた俺もとりあえずダンベルを持ち上げるべきだと、頭ではなく心で理解した。

 

『ダメですよ、ソースケさん。普通に患者なんですから安静にしてください』

「えー」

『えー、じゃないです。その手に握っているダンベルを離してください』

 

病院の個室。

俺はベッドに腰かけて気合いを入れてダンベルリハビリを始めたところ、ルビーから止められてしまった。

 

「なんでだよ、ルビー。魔法少女は限界の時こそダンベルで負荷をかけるものでしょ?」

『ルビーちゃんが求めている魔法少女はとってもかわいくていじりがいのあるものであって、そんな脳筋は求めてないです』

「なるほど、価値観の相違か」

 

悲しいことだ。長年一緒にいる相棒と意見が合わないということは。

けれどルビー、俺はお前を否定しないぞ。ルビーが言うこともまた魔法少女のひとつに違いないからな。すなわちローマ。

 

『いや、そんな悲しい顔されてもルビーちゃんが困惑するだけですから。ていうか、そのダンベルどこから持ってきたんですか?』

「え?母さんが差し入れにダンベル持ってきてくれたよ」

『お母様ァ……』

 

前世と今世では両親は違うけど、今世の両親たちも優しい人たちだ。そして、良き理解者(筋トレバカ)でもある。

それだけに今世の両親たちだけは必ず幸せにしてあげたい。

心の中でそう誓いながら、カチャカチャとダンベルで負荷をかける。

 

『なにシレッと筋トレしてるんですか。次、筋トレでもしようものなら、ルビーちゃん特製安定剤注射を打ちますよ?しかも、筋肉注射っていうおまけ付きです』

「わ、わかったから。そんなに注射器をチラつかせないでも休むからさ……」

 

ルビーが強行策に走りやがった。

キラキラと光る針と得体の知れない液体が入った注射器で脅されてしまえば、首を縦に振るしかない。だって筋肉注射は痛いからヤダもん。怖すぎるよ。

 

顔からサッと血の気が引いたので素直にダンベルを机に置く俺。それを見てルビーがため息をついた。

 

『とにかくソースケさんは今日一日だけでも動かないでください。昨日は死の一歩手前だったんですよ?』

 

ルビーの言葉は誇張でもなく本当のことだった。

 

USJ編。

ウソの災害や事故ルームにレスキュー訓練しにきた俺たち1年A組は、ヴィラン連合との初めての邂逅をした。

その過程の中、俺は傷ついた相澤先生や緑谷たちを助けるために対オールマイト戦用に改造された脳無との戦闘に挑んだ。

 

しかし、宝具を使用したことで魔力不足なうえにオールマイト級のパワーを放つ脳無によって、魔法少女が解除されて死ぬ一歩手前までボッコボコ。

オールマイトが駆けつけなかったら、俺は今ごろ死んでいただろう。

 

「つっても、朝にリカバリーガールが来てくれたから体は全快だし。入院しても意味なくない?筋トレしていい?」

 

個性も使ってもらい、俺の体にケガらしいケガはなくなった。

病院側も退院させるかどうかで悩んでいたらしいが、オールマイトからの報告で致命傷だったと伝えられたこともあり、今日一日だけは検査入院という扱いになっている。

 

『ダメです』

 

さりげなく筋トレしていいか聞いてみたけど、ルビーにばっさりと切り捨てられた。

 

「そこをなんとか、……お願い♪」

『今は男の子なのであざとい顔しても無意味でーす』

 

チッ、ダメか。

 

不貞腐れているとルビーが『本当に入院しなくちゃいけない理由わからないんですか?』と声音を落として尋ねてくる。

ついでとばかりに注射器も構えられた。おい、やめろ。それは俺に効く。

 

「……スキルのことだろ」

『わかってるじゃないですか……』

 

ルビーがげんなりしたように体をふにゃらせる。

いや、わかってるけどさ。一日中ずっとベッドで寝ててもヒマだから。ついついダンベルを握ってしまうんだよ。

 

『ソースケさんは昨日、死にかけました。けど並行世界のスキル()()()をダウンロードして、その力で全回復という願いを叶えました』

「まぁ、中途半端にな。ホントなら完全に回復できたはずなのに」

 

実際はできなかった。

本来、カレイドステッキでスキルをダウンロードした場合、それにふさわしい衣装を着させられる代わりにそのスキルを完全に使いこなすことができる。

それが自分の知らない力であろうと()()()現にいままでスキルをダウンロードして失敗したことはない。

 

たとえナース服になったときも、スク水を着せられたときも、はたまたデンジャラスビーストに無理やり転身させられたときもそれは変わらなかった。

 

「やっぱり小聖杯になにか問題があったのかな?」

『だと思います』

 

小聖杯。

過程をすっ飛ばして結果のみを再現するその力はチートだ。

俺が可能だと強く信じていれば、魔力が続く限りどんな事でも実現可能にしてしまう。

 

俺自身もスキルをダウンロードできるかどうかは半信半疑だったけど、成功はした。

結果的に願望器は不完全に力を発揮したのだけど。

 

「ヤバかったな」

『やばかったですね』

「あんなノイズ混じりの服じゃ(おおやけ)で使えない」

『産まれたままのスッポンポンでしたからね』

 

思い出すのはあの時の衣装。

天の杯。無垢なる白きドレス。それはノイズ混じりで時には裸が露出してしまったのだ。

あの時は耳郎に指摘されても気にしてなかったけど、今さらながら恥ずかしくなってきた。

 

男で魔法少女って事実だけでぎりぎりなのに、裸とか完全にアウトだろ。葉隠じゃないんだから。俺のメンタルは金ピカ大王とも違う硝子(ガラス)なのだ。

 

『とにかく、あのスキルは他のスキルとは違ってなにか不具合(バグ)があります。今日はお医者さんの検査はもちろん、ルビーちゃんの特別検査も受けてもらわないといけません』

「えー、前半はともかく後半の検査は拒否したいんですけど」

『拒否権はもちろんありません♪』

「うへぇ」

 

 

久々のルビーのドSさにうんざりしていると、コンコンっとドアをノックする音が部屋に響いた。お医者さんだろうか。

 

「えっと、入っても大丈夫ですよー?」

「おー箱守!思ったよりも元気そうだなぁッ!」

 

俺の返事を聞いて入ってきたのは、同じクラスメイトの切島だった。

相変わらずのツンツン髪で俺の顔を見ると笑みを浮かべると、片手を上げて声をかけてきた。

 

「切島、急にどしたの?今日は臨時休校でゆっくりしてたんじゃないの?」

「いやー、連絡してたから無事ってことはわかってたんだけどさ。やっぱり心配になって来てみたんだよ。あぁ、あとこれ暇だったら読んでくれよ」

 

そう言って渡されたのはヒーロー雑誌。

暇であろう俺を案じて買ってきてくれたみたいだ。切島、できる子……。

ふと、切島の手にある紙袋が目に入る。中身は見えないけど膨らんでいるのがわかる。俺が見ていることに気づいた切島がそれを背に隠した。

 

「あっと、それにしてもケガがなさそうで安心したよ」

「一応完治はしてるからさ。今日はただの検査入院。わざわざ1人で来てもらってごめんね」

「あぁー……えっと別にいいってことよ!俺たち友達なんだからさ!」

 

切島が一瞬、言い淀んだもののサムズアップして熱いことを言ってくれる。

そっか、俺と切島ってちゃんと友達関係だったんだな。

 

「俺ってちゃんと友達いたんだな」

「うぉっ ⁉︎急に泣き出してどうしたんだよ!」

『嬉しくて泣いちゃいましたね〜』

「そ、そうなのか?」

 

うん、そうなの。

袖でぐしぐしと涙を拭くとそのまま切島に顔を向けて、

 

「それで切島、なんで()()()()()?」

「えッ⁉︎えっと、嘘ってなんのことだよ」

「さっき1人で来たのって質問したとき頷いてたけど、本当は違うんでしょ?」

 

冷や汗をタラタラと流す切島。

俺はそれを後目に部屋の中を見渡した。しばらくしてある一点を見つめる。

 

ぎしりと音を立てベッドから降りた俺は、そのまま見ていた場所まで歩いていく。

右手はデコピンの型を作り、そのままガンマンのように高速で指を振り抜いた。

 

「そこだ!おでこデコピン!」

「アイタッ⁉︎」

 

虚空に向けてデコピンを放つ。

本来なら空を切るだけの行為だけど、実際はバチン!という音と感触とともに女の子の悲鳴が上がった。

 

「ちょっと!いきなりデコピンするとかひどくない⁉︎しかもおでこにピッタリ当ててくるとかすごいし!」

「そもそも全裸でこっそり部屋の中に侵入するほうがひどいだろ。もう少し女の子としての倫理観を持てよ、葉隠」

 

そこにいたのはやはりというか透明の個性をもつ葉隠だった。相変わらず裸に対しての倫理観がどこか人とズレている。

 

「すまん、箱守!葉隠に頼まれたとはいえ黙ってて悪い!」

 

頭を下げて謝る切島。

どことなく仕草がぎこちなかったのはこれが原因だろう。

 

「いいよ。どうせこの倫理観欠如バカが切島に無理言って頼んだことでしょ?」

「わー、バカじゃないもん!ちょっとしたサプライズだもん!」

 

倫理観欠如はいいのかい。

 

「確かにビックリはするけど、これ絶対嬉しくないやつじゃん」

 

不意打ち誕生日祝いのベクトルじゃなくて、お化け屋敷的な意味でのビックリ。

 

それが失敗した葉隠は「残念だなぁ」と愚痴をこぼしながら、切島が持っていた紙袋を手にしてトイレに向かった。

たぶん紙袋に葉隠の服が入っていて今から着替えに行くのだろう。

 

空中に浮く紙袋が部屋を出るのを2人で見送ると切島がこちらを振り向いた。

 

「それにしても葉隠によく気づいたな。俺は知っていたとはいえ、この部屋に入ってからはどこにいるのか全然わかんなかったぞ」

「あぁ、それは簡単だったよ。俺の()()()()()()に葉隠の筋肉が反応したからさ」

「…………」

「そんな引くなよ。嘘だから」

「はは、だよなー」

「半分だけ」

「半分は本当なのかよ⁉︎」

 

ナイスツッコミ。

切島のテンションもだいぶ戻ってきたみたいだ。

ふと、切島が真面目な顔になる。

 

「でも、ほんと箱守はすごいよな」

「筋肉センサーのこと?」

「そっちじゃなくて。いや、確かにそれもすごいけどよ。USJでのことだよ」

 

なんだよ筋肉センサーじゃないのかよ。

目で続きを促すと切島は近くにあったイスに座る。

 

「あの後、蛙水や峰田に聞いたぜ。一人でオールマイト並に筋肉なヴィランに立ち向かったんだろ。漢の中の漢だぜ」

『魔法少女なのに漢とは』

「ルビー茶々いれるな。あと俺は男だから間違ってない」

 

ルビーにペシリとチョップする。

 

「まぁ、一人で挑んでボッコボコになってたんだけどな」

「それでもよ。自分が死ぬかもしれない状況でみんなを守るためにそんな強敵に挑んだんだろ?だから、その、すげーっていうかみんなを守ってくれてありがとうってーいうか。あぁー!なんて言えばいいかわかんねぇ!」

 

上手く言葉がまとまらないのかガシガシと頭をかく切島。

けれど俺はそれよりも別のポイントが気になった。

 

「ありがとう?」

 

なんでこのタイミングで切島がありがとうって言ったのかよくわからず首を傾げる。

するとタイミングよくドアが開いた。

 

「私たちソウスケくんにお礼を言いに来たんだよ」

「葉隠、……あ」

 

かわいらしい私服に着替えた葉隠は部屋に戻ってくると、すぐにふわりと前から抱きしめてくる。

切島も端で目を丸くしていた。

 

「私たちソウスケくんのこと心配して今日来たけど、それと同じくらいありがとうって伝えたかったの」

「なんで?」

 

なぜお礼を言われてるのかわからず聞き返してしまった。

 

「だって、ソウスケくん私たちのために頑張ってたんでしょ?それならお礼を言うのは当然だよ」

 

それが当たり前だと言わんばかりに言う葉隠。でも、別に切島や葉隠を直接助けたわけじゃない。

騎英の手綱(ベルレフォーン)でエリアにいるみんなが無事かどうか確認はしたけど直接関わったのは山岳エリア、入口、中央の3つだけだ。別にお礼を言われることなんてしてないのに。

 

「別に葉隠たちにはなにもしてないよ」

「ううん、ソウスケくんは私たちみんなを助けに来てくれたよ。そうじゃなかったら私がいたエリアに死にものぐるいな顔で来るわけないじゃん。——だから、ありがと」

 

語りかけられる言葉はすべて俺を褒める言葉だった。

なんだかむず痒くて、葉隠の胸の中でモゾモゾしてしまう。それが葉隠もこしょばゆかったのか耳元に喘ぎ声が聞こえた。

 

「葉隠……」

「自分が死ぬかもしれなかったのに相澤先生たちを助けようとしてくれてありがと」

「……俺、ちゃんと魔法少女らしくできたかな」

 

温かい葉隠の言葉。

今の俺はゲーセンにいったときと似たような心境だった。

だから、少しだけ自分の本音をこぼした。

 

「うん、できてたよ。だって相澤先生や梅雨ちゃんたちが生きてるもん。ソースケくんが助けてくれたからだよ。それにすごい魔法少女らしくてかわいかったよ」

「そこはかっこいいって言われたかったなぁ」

 

背中を撫でる手は優しくて涙があふれてくる。お礼を言われるために助けてたわけじゃない。次こそは目の前の人を助けたくて手を伸ばしただけだ。だけど、誰かに自分の夢を行動を認められるのが嬉しくて。

しばらく俺は葉隠の胸の中で静かに泣いてしまった。

 

 

「恥ずかしいところ見せたな」

 

ある程度泣いたあとで俺は2人と顔を合わせないように言った。

恥ずかしい。高校に上がってから俺の恥ずかしメーターは常に上げられっぱなしだ。

 

「ソウスケくん泣いてるところもかわいかったよー」

『バッチリ録画済みですから』

「コイツらァ……」

 

絶対今度シバく。心の中で葉隠とルビーをシバくリストに追加していると、切島が気まずそうに声を上げた。

 

「いつのまに2人とも付き合ってたんだよ。俺、先に帰ろうか?」

「は、なんて?」

 

切島が言ったことがわからない。目が点になる。

 

「だって、2人とも付き合ってるんだろ?前から妙に親しげだとは思ってたけどさ。さっきもカップルみたいに抱きしめあってたし、この前2人がゲーセンでデートしてたって峰田が血の涙流しながら言ってたぞ」

 

峰田ァ……。

アイツもあとでシバく。いや、まずは誤解を解いておかないと。

 

「違うよ切島。そもそも、こんな真っ裸女が彼女とかヤダから」

「ハァッ⁉︎そんなひどいこと言う口はこの口かぁ!」

「いふぁい、いふぁいはら。このばふぁはがくへ!」

「あいふぁ!」

 

怒った葉隠が俺の頬をグイグイ引っ張りやがるから、俺も葉隠の口を横に引っ張る。

ぐいぐいぐいぐい。

互いに引かないせいでほっぺが伸びてすごく痛い。

 

「やっぱり仲良いじゃねーか」

 

呆れたように俺たちのやり取りを眺める切島。

この野郎。こうなったら切島も道づれだ。

 

「ハァハァ……。そーいう切島は芦戸のことどう思ってるんだよ」

「な、なんのことだよ……」

「教室にいるときよく見てるし、楽しそうに話してたじゃん」

「え、切島くん!芦戸ちゃんのこと好きなの?」

 

俺の言葉に青春真っ盛りの葉隠が反応して口を引っ張るのをやめて切島のほうを向いた。大抵の女子はやっぱり恋バナが気になるのだろう。

 

「ち、違ぇよ!芦戸は俺と同じ中学校で知り合いってだけだよ!」

 

いきなりの飛び火に慌てて否定する切島。その反応じゃあ本当に違ったとしても勘違いの元だろう。

ニヤリと口の端が上がった。

 

「ほうほう、同中ですって葉隠さん」

「あらあら、恥ずかしがっちゃって思春期だねぇ。ね、ソウスケくん」

『切島さん漢まっしぐらだと思ったら、案外やり手ですねぇ〜』

「は、ハァッ⁉︎別に俺は芦戸のことそういう目で見てるわけじゃなくて。ヒーローを目指すものとして憧れてるというか、尊敬してるつーか」

 

みんなからの集中砲火に切島がイスから立ち上がり抗議するのをクスクスと笑う。当たり前の平凡な日常が帰ってきたんだな。

 

『ソースケさんもイリヤさんという魔法少女に憧れてますよ』

「まさかの飛び火!ルビー⁉︎」

「えー、誰々?それ私も知りたいなぁ!」

「そうだぞ箱守。漢らしく覚悟を決めろ!」

それから病室で周りの迷惑にならないようにけれど、ガヤガヤとにぎやかになる。

それは戻ってきた平穏。ヒーローとヴィランという対峙から離れた学生らしい談議で盛り上がっていった。

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ、ルビーちゃんはお二人のことをお見送りしてくるので、ソースケさんはしっかり休んでいてくださいね〜』

「ソウスケくん、バイバーイ」

「じゃあ、また明日な!」

 

ルビーと2人はそう言って病室を出て行った。部屋の中が急に静かになるのは、やっぱりさびしいな。

 

「ルビーもいないし、ダンベルでも持とうかな?」

 

一瞬、机の上に置いてあるダンベルに手が伸びたがすぐに下ろす。あとでバレたときが怖いし、ルビーはやるときはガチでやってくる。

 

「あーあ、暇だなぁ」

 

ベッドに横になり、暇だ暇だと独り言をつぶやいているとドアがノックされた。

コンコン、という控えめな音。

誰か忘れ物でもしたのかな?

 

「はい、どーぞー」

 

ゆっくりと開けられるドア。

そこに立っていたのは切島でも葉隠でもなければ、ルビーでもなかった。

 

「あれ、耳郎じゃんか」

 

唐突な来訪者は耳郎だった。片方の手でドアを開けたままこちらを見ている。

昨日の夜連絡したときは見舞いには来ないって言ってたのに。

ツンデレかな。

 

「なんだよ。来ないって言ってたのに来るなんて耳郎はツンデレかな〜?」

「…………」

「あ、あれ?耳郎、聞こえてる?」

 

嬉しくて意地悪な言い方をしてしまったけど、なぜか反応が来ない。

俺の顔を見てるから聞こえてないわけじゃないと思うけど。というか何も言わずに無表情な顔でずっと見られてるとすごい怖い。

え、なに?ツンデレ言われたことそんなに怒ったの?

 

「——ねぇ、箱守」

 

耳郎が目を離さずに名前を呼んでくる。

それと同時に部屋の中に入ってきた。彼女の手で開けられていたドアがゆっくりと閉まっていく。

 

「えっと、はい」

「葉隠と箱守って()()()()()()()?」

「へ?」

 

パタンと音を立ててドアが閉まる。一瞬なにを言われたのか理解できなくて変な声を出してしまった。

 

「葉隠かわいいもんね。体は見えないけどウチと違って明るく愛嬌もあるし、おっぱいも大きいもんね」

 

耳郎から中々でない言葉に混乱してしまう。いきなり葉隠の名前が出てきて混乱は混沌へと至る。

俺と葉隠が付き合ってるって、なんでそんなこと急に。

 

耳郎がそのまま枕元に近づきその白く細い手と華奢な腕で体を支えながら、俺に表情のない顔を近づけてくる。

いつもと違う様子に思わず後ずさりするけど、所詮ベッドの上。すぐに背中が壁にぶつかってしまう。

 

()()()()()()。切島いるのに葉隠と抱き合うとか、イチャイチャカップルだね」

 

もしかしてずっと前から近くにいたのとか、個性使って盗み聞きしてたとかいろいろ聞きたいことがあるけど、恐怖で声がでない。

 

「ねぇ、なんか答えてよ」

「え、えっと……」

 

だって耳郎すごい怖いんだもん。

 

「ピィッ⁉︎」

 

俺の顔の横に突き出された耳郎の腕に悲鳴を上げてしまう。いわゆる壁ドン状態。耳郎らしからぬ迫力に涙目になってしまう。

 

すぐ近くに耳郎の顔がある。

端正な顔や長いまつ毛がバッチリ見えるぐらい目の前に耳郎の顔があるのだ。

普段ならかわいーとかいじれるのに、今は全くいじれる気配がない。だって目がドロドロしてるもん。

 

ルゥビィイイイ!早く戻ってきて、へールプーミィー!

 

しばらくなにも言えずにお互いを見つめ合ってると、耳郎がふいに顔を横に逸らす。

 

「……ウチが守るって言ったのに。葉隠と付き合ってるなら、ウチただの邪魔ものじゃんか」

 

ぶつぶつとつぶやく耳郎。

……はぁ、なるほど。

 

「もしかして耳郎、()()()()()()?」

「ハァッ⁉︎別にそういうわけじゃないし!」

 

正解みたいだ。

顔を真っ赤にする耳郎。思わずツンデレツンデレと口ずさむぐらいにはツンツンしていた。

そう考えるとさっきまでの恐怖も薄れていく。いや、ごめん。やっぱり怖かったです。

 

「もうそーいう素直になれないところかわいーよね」

「かわいいって言うな。というかなんで聞こえてるんだよ……」

 

あいにく難聴系主人公のスキルは持ってないからバッチリ聞こえている。

というか、顔が間近だから当然聞こえるし、なんなら耳郎が喋る度に彼女の口から甘ったるい匂いがしてた。

 

前半はともかく後半については本人に言うと後が怖いから絶対に言わないけど。

 

「葉隠とは付き合ってないよ。というか友達もまだ3人しかいないのに彼女とかできるわけないじゃんか。あははは……」

「笑い方が怖いんだけど」

 

ジト目になって呆れる耳郎。だいぶ調子が戻ってきたみたいだ。

彼女はしばらくすると壁ドンをやめて少しだけ距離を開けた。近くにあったイスにシュンと座り込む。

 

「ごめん、箱守が死にかけてたって後から聞いたからすごい心配になっちゃって。……ウチ混乱してたみたい」

 

両耳から伸びるイヤホンコード同士の先っちょをつんつんしながら語る耳郎。

まぁ、入学してしばらくしか経ってないのにヴィランに襲われて、おまけにできたばかりの友達が死にかけだったと知らされたら誰だって混乱するだろう。

 

昨日、連絡したときはもう大丈夫としか伝えてなかったからなおさら焦ったのだろうか。

 

「ごめんな耳郎」

「謝るぐらいなら最初から言えばよかったのに」

「素直に言ってたらもっと混乱してたろ?」

「……否定はできないかも」

 

昨日はまだ初めてのヴィラン戦で耳郎の心がいっぱいだったはずだ。それに加えて俺のことまで伝えたら、余計な気苦労を背負わせたくなかった。

結果的にはそれも意味がなかったみたいだけど。

少しでも安心させようと耳郎の頭を撫でつける。

 

「勝手に頭撫でないでよ」

「耳郎を不安にしたお詫びだから、撫でさせてよ」

「……そっか。お詫びなら、まぁ許してあげる」

 

口では嫌そうな態度をしていたけど、顔は気持ちよさそうに緩んでいて頭を俺に委ねてくる。それがかわいらしくて微笑んだ。

 

しばらく頭を撫でていると、シュルシュルと伸ばされたイヤホンコードが俺の首に緩く巻かれていく。

 

「なにこれ?」

 

え、ホントになにこれ。

思わず真顔で質問してしまった。耳郎はその場から動くことなく顔を朱に染めながら、顔を逸らした。

 

「あんたを1人にしとくと危ないから、……今度はウチが守ってあげる」

「…………耳郎」

 

俺は耳郎の言葉に声が出なかった。代わりに彼女に向けて笑みを作った。

 

これ、守るじゃなくて殺すの間違いじゃないんですか⁉︎

いやほんとさ。イヤホンコードをシュッと絞れば、俺の首も一緒にキュッといっちゃうやつですよね!

内心テンパリ祭りのわっしょいわっしょい状態。先ほどの恐怖が戻ってきて背筋が震えてしまう。

 

とはいえ、これが本当に俺を守るという意思表示というやつなら、とりあえず言いたいことが一つある。

 

「耳郎に言いたいことがあるんだけどさ」

「な、なに?」

 

どこか乙女らしい反応をする耳郎。俺は彼女の反応をかわいいと思いながら、再び笑みを浮かべた。

 

「耳郎って付き合ったら、すごい束縛とかキツそうな彼女さんになりそうだよね。すなわち重い女の子!」

「ッ……⁉︎うっさい!」

「ぐえっ!」

 

まるで首輪のように巻かれた彼女のイヤホンコードがキュッと締まる。

手加減はしてくれてるみたいだけど、やっぱり耳郎と付き合うのは大変そうだなぁと実感しながら、ルビーが来るまでこの茶番を繰り広げていた。

 

 

 

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