俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ 作:白黒パーカー
——逃げなくちゃ。
『さ、ソースケさん!今日も元気に転身しましょうね!』
あの悪魔から逃げないと、俺は殺される!
「待って、ルビー!みんなが、みんなが見てるから!それどころか相澤先生が鬼の形相でこっち見てるから!せめてどこか更衣室かトイレで転身させて——」
『いやでーす』
「ばかルビー!」
「あはは!やっぱりソウスケくん裸になるの好きなんだ!」
「葉隠が言うなぁーー!」
雄英高校のグラウンド。
そこで俺はルビーに追いかけ回されていた。
魔法少女に変身させられそうで嫌がる俺、それを弄んで楽しむルビー、爆笑する葉隠。
そして、ヒーローなのに人殺しができそうな目でこっちを見てくる相澤先生という奇妙な光景ができあがっていた。
…………どうしてこうなった。
本当にどうしてこうなった。
他のクラスメイトたちよ。どうかお願いだからこっちを見ないでくれぇ!
★
雄英高校の合格通知が届いたのは、試験終了からしばらく日が経つ頃だった。
『このドア大っきいですねー!』
「まぁ、体がでかいヤツのためのバリアフリーなんだろ」
ルビーと一緒にドアを眺める。
ここがAクラスの教室かぁ。なんだかようやく原作に絡めると思うと、上手く言葉にできないけどワクワクしてくる。
この世界に来て思い出せないシーンも数々ある。が、それもきっと日を追う事にいつか思い出せるはず。ルビーやみんなと一歩ずつ前に進めればいいのだ。
「よし!」
今日から俺の2度目の高校ライフが始まる!
気合いを入れてドアを開けると、教室内にはほとんどの生徒が集まっていた。というより、俺が最後だ。
そして、目前には爆豪と飯田のコンビがメンチを切っていた。
「あ?」
「む?」
同時に俺に鋭い視線が突き刺さる。ナイスバッドタイミング。
前門の虎、前門の狼かな?後門はきっと相澤先生だな。なにそれ、どんな地獄。
「お、ソウスケくんだー!」
心の中で「地獄を見た」と呟いていると、少し離れた席からぶんぶんと制服の袖が左右に揺れる。
俺はもちろん彼女が誰だか知っている。そう、葉隠だ。今日は裸じゃなくて制服を着ているようで安心した。
そして、目の前でこちらを睨んでくる2人から逃げるチャンスを得た。
「お、おう!葉隠!今、すげーお前に会いたかった!」
「え、急になに。気持ち悪いんだけど」
おう、葉隠さん。本当のことだからってそんなこと言うなよ。
女性にそういうこと言われると男子は基本傷つくんだぞ?
しかも、キモいではなく気持ち悪い。後者の方がわざわざ畏まってる感じがして、なんかダメージが大きい。
「ひどいな。……うん、でも久しぶり。とりあえず入学おめでと」
「うん!私も電話で聞いてたから知ってたけど、こうやって顔合わせするとなんだか安心するよね!」
『私抜きでお話しをするなんてひどいですよー』
葉隠と話していると、ルビーが視界に飛び込んでくる。
「わぁ、ルビーちゃんも久しぶり。元気してた?」
『はい!毎日、ソースケさんをいじめて楽しかったですよ』
「俺はまったく楽しくなかったよ、クソ野郎!」
『ルビーちゃんはクソ野郎じゃないですもーんだ』
俺の扱いが酷すぎる。とはいえなんだかかんだと雑談が盛り上がってきたところで、
「——お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
低く冷たい声。
声のしたドアに顔を向けると、予想通り我らが担任、相澤先生が寝袋に入っていた。
そう言えばこのタイミングでしたね、先生来るの。
——待てよ。
今さらだけど、相澤先生はここまでどうやって来たんだろう。
やっぱり寝袋に入ったまま来たのか。それともドアの前で寝袋に入ったのかをなにそれ、どっちにしろ先生お茶目すぎて可愛い。
そんなバカなことを考えているうちに話はあれよあれよと進んでいった。
★
『個性把握テストー?』
Aクラスのみんなが声を揃えて相澤先生の言葉に反応する。
教室から移動した俺たちはジャージに着替え体育館、ではなくグラウンドに来ていた。
はい、原作通りですね。
ここの記憶は残っていたけど、俺という異物が混ざっていても変わらないことはあるんだな。逆に変わったことがあるとすればクラスが21人になっていたこと。これはつまりBクラスにも一人生徒が増えたってことだよな?
まぁ、これについては後々に確認すればいいだろう。
にしてもこの頃の相澤先生ってThe・合理主義っていうイメージが強かったよなぁ。
後々にすんごい生徒想いの優しい先生だってわかるけど、この頃はまだ信頼関係ができてないからかどこか相澤先生の顔が怖い。
俺としては先生含めクラスの子たちとは仲良くしていきたいよなぁ。
「実技成績のトップは
「ハァー?あのひょろっこいのがトップだぁー?」
だから、相澤先生。
そんな初っ端から爆豪のぷっつんメーター上げるのやめてもらえませんか?
横から爆豪が睨みつけるように見てくるんですけど。他のみんなも大なり小なり俺に視線を向けてくる。この視線はかなりつらい。目が泳いでしまう。
ちなみに試験の合計点は129Pだった。
うーん、正直やり過ぎたと思う。
割り振りとしてはヴィランPが69P。ここまではよかったはずだ。
問題はレスキューPのほう。なんと60Pもポイントをもらってしまったのだ。
まぁ、緑谷がお茶子を助けるために0Pのロボットヴィランをぶっ飛ばしたときが60Pも貰えたから、同じことした俺もそのぐらいもらえるのは当然だよね。
というわけで俺は圧倒の3桁で爆豪を押しのけて入試1位になってしまった。
「中学のときソフトボール投げいくつだった?」
「え、えっと、平均の22メートルぐらいです。はい」
とはいえ、それはそれ。これはこれ。
相澤先生の質問に俺は冷や汗がたらたらと垂れ始めている。喉もカラカラ。それはきっとこれから言われるであろう未来に恐怖を感じているからだ。
死刑宣告のように相澤先生の口がゆっくりと開いた。
「——じゃ、
「え、あの……」
『おやおや〜、個性ということは今すぐに、ここで転身しないといけないですね〜』
ぬるりと。
耳元で悪魔の囁きが聞こえた。
その瞬間、
俺はそのステッキから逃げるため、全速力で走り出した。
「……うっ、ひぐ、ルビーのいじわる」
『いやー、今の泣いてるソースケさんも女の子マシマシでベリーキュートですよ』
ルビーによって無理やり魔法少女に変身させられた俺はソフトボール投げの円の中で泣いていた。
うぅ、また裸を見られた。しかも今度はクラスのみんなにだ。こんなんじゃ裸の安売り、バーゲンセールだよぉ……。
今は顔を見られたくないからフードで隠す。
今なら経緯は違えど顔を見られたくないグレイの気持ちがよくわかる。
どこかにロード・エルメロイⅡ世はいませんか?
「うわ、あいつ女に変身したぞ?」
「わー、でら可愛い」
「女の子より可愛いとか、マジかよ」
「うんうん!ソウスケくんはそうじゃないと!」
「ハァハァ……くそぉ、男のくせにそんな贅沢なおっぱい付けやがってぇ!」
クラスのみんなが遠慮なく意見を投げてくるから、それが俺に刺さるトゲとなり顔が熱くなる。より深くフードで被り直す。
というか妙に葉隠が上から目線なのがすごい腹立つ。何様だあいつ。
そして、峰田。俺に少しでも触れたら全力全壊の
「
「……あい」
確かにその通りだ。ヴィラン戦はそんなこと言ってられないのはわかる。
俺はしぶしぶフードを取ると、相澤先生から受け取った計測用のメカメカしいボールを握りしめる。
目をつぶり、深呼吸をする。
「
『わかりました!』
言葉を合図に、ステッキから流れ込んでくる魔力を体内で回転させる。
最初はしぶしぶだけど、やるなら本気だ。誰にも——
「ルビー、もっと魔力を回して。こんなんじゃ全然足りない」
『もうっ!吹っ切れると人使い荒いんですから!』
「ステッキ使いの間違いだろ。まだ。俺の体が弾けるぐらいまで魔力を流し込んでいいから!」
『いきますよ!』
ドッと今度は激流のように、高密度の魔力が流れ込んでくる。魔術回路の中を新しい魔力が巡る度に体が熱くなっていくのがわかる。
それから俺はピッチャーのような構えを取ると、投げる寸前地面が砕けるほどに足を踏みしめた。
「全力全壊——
ゴオッ!と音を出しながら、緑色のオーラに包まれたボールが飛んでいく。まるで宝具の一撃のような、それほどまでの魔力の輝きが空の彼方へと飛んでいく。
計測結果は、
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤先生の手の中にあるデバイスに表示されていたのは『906.8』。
なんだか行けたような気がする!
思ったよりも数値が高くてホクホクしてしまう。思わずふふんと微笑んでしまう。
そして投げたのが爆豪ではなかったが原作通り、クラスメイトのおもしろそー楽しそー発言に相澤先生が反応。
結果的に8種目トータル成績最下位が除籍処分という無茶ぶりが出てしまった。
原作通りなら緑谷がドベになるんだけど。
まぁ、緑谷なら大丈夫でしょ。
というわけで俺は魔法少女らしく個性把握テストを乗り切ってみよう!
まずは50メートル走!
「ソイヤ!」
「うおっ、箱守のやつ空飛んでたぞ」
「うわー、速いなぁ」
握力測定!
「ふんっ!…………あ、壊れちゃった」
「え、それ壊れるの⁉︎」
「うーん、圧倒的ゴリラ☆」
立ち幅跳び!
「相澤先生。これ、ずっと飛べるんですけど」
「ん、そうか」
「無限⁉︎」
反復横跳び!
「おー、なんか普通だ」
「普通に反復横跳びしてる!」
「おい、俺のことなんだと思ってるんだ?」
そして、もう一度ボール投げを終了させると、俺はクラスメイトの端でぼーっとしていた。
うん、我ながら魔法少女らしい振る舞いができて満足だ。一部俺のことをゴリラだとか言うやつもいたが魔法少女であれぐらいは普通だろう。俺なんてまだまだ優しいほうだ。
というか、みんなが体操服ジャージの中、一人だけグリーンで薄着な魔法少女衣装とか場違い感がすごい。
そんな当たり前の事実に気づいて泣きたくなる。
本当は変身解除したいけどルビーのせいで解除できないし、この世に希望も魔法もあったもんじゃないよ。
「ふぇー、終わったよ〜」
「おー、葉隠。お疲れ様」
ふらふらと葉隠がやってきた。俺の隣にやってくるとうーと唸りだした。
「私の個性だとこれすごいキツいよ〜」
「まぁ、透明だと身体能力関係ないしな。その割には個性抜きで他の子たちにも負けてなかったけど」
葉隠と話していると次のボール投げは緑谷がやるみたいだ。
「でも、負けは負けたんだもん。うーん悔しいよ〜!」
「なぜ俺を叩くし」
『ソースケさんの体は締まっている割に叩きがいのある柔らかさが売りですからねー』
「勝手に売りにするなし」
『わわわ、わわわ!』
ポコポコと俺の肩を叩いてくる葉隠。
俺の手の中で不穏なことを言うルビーをブンブン振る。
緑谷のほうは相澤先生に個性を消されて絶体絶命ピンチタイムだ。
大丈夫。魔法少女やヒーローはピンチなったときこそ大逆転のチャンスなのだから。
「あんたらなんか仲良いね」
ピリっとした空気の中そんな空気の読めないやり取りをしていたからか、隣からロックなガール、耳郎響香が声をかけてきた。
「あ、耳郎ちゃん!」
葉隠が彼女の名前を呼ぶと、耳のイヤホンジャックとともに片手を軽く挙げる。
なにそれ、ちょっとしたしぐさがかっこいいんですけど。
そのまま耳郎は俺に視線を向けてくると上から下までジロジロと見てくる。
その視線に耐えきれず思わず内股になり、両腕で胸元を隠してしまった。
「うわ、間近で見るとほんとすごい格好だね。それでホントに男なの?」
「ちゃんと男だよ。あと服については全部ルビーが悪い」
『本当はピンク色にしたかったんですけどねー。どう頑張っても緑にしかならなかったんですよ』
「ピンクはダメだよ。俺より相応しい人がいるから」
こだわりはある。正直、俺の元にルビーがいるだけでも浮気をしている気分なんだ。
それに加えて
「ほーん、こだわりとかあるんだ」
楽器に触れる彼女だからか、どこか納得するような相づちを返される。
あ、緑谷が指だけでスマッシュした。
「それで2人は同じ中学?」
どうやら、耳郎は親しく俺と葉隠の関係が気になるのか。話を戻してきた。
なんだ、耳郎さんませてるのか。ませませかぁ?
「違う違う、葉隠とは入試で試験会場が一緒だっただけだから」
「へー、その割にはかなり息が合ってるけど?」
『まぁ、お2人は裸同士の関係ですからね』
「はだっ⁉︎」
ルビーが爆弾を落としてきた。
バカステッキの言葉に顔が真っ赤になる耳郎。絶対勘違いしてるよ、この人。
とはいえこれから同じクラスになるんだから誤解は解いておかないと。
「おい、ルビー言い方」
『事実じゃないですか』
「事実だけど全部は言ってないだろ、詐欺師かルビー。……詐欺師か」
『ちょっとルビーちゃん、詐欺師とか言われてショックなんですけど』
ルビーがグズるけど間違ってないだろ。
違法契約のステッキなんだから。
「あながち間違ってないかも」
「おい、葉隠までなに言ってんだよ」
とここで葉隠までとち狂ったことを言い出した。
彼女は腕を組んでうーんと体を横に傾けている。透明なだけに仕草がどこか大げさに見える。
「だって、私のおっぱいとお尻触ったじゃん」
「ファッ⁉︎」
「いやいや不可抗力だろ」
なにを言い出すかと思えば、あれはどう考えても仕方ないだろ。
だってそうしないとロボットヴィランにやられてたはずだし。
否定するべきところは否定しないといけない。
「不可抗力で乙女の柔肌触るなんて、ソースケくんは罪深いねー」
いやん、と体をクネクネさせる葉隠。
コイツ言いたい放題いいやがって。俺も容赦しないぞ?
「んなこと言ったら、葉隠も街中で押し倒してきただろ」
「ま、街中でッ⁉︎」
「あー、ずるい!それこそ不可抗力じゃん!」
「ずるいもなにも事実だからなぁ」
『道のど真ん中ですっごい密着していましたからねぇ〜、そりゃあもう熱々でしたよ!』
「街中……、裸で、熱々…………」
俺と葉隠の言い合いはヒートアップしていき、このまま胸ぐらを掴み合うぐらいの討論をしようとしたところで、ツンツンと肩をつつかれた。
それは葉隠もらしく揃ってつついてきた相手、耳郎に視線を向ける。
するとそこには顔が真っ赤になって震える耳郎の姿があった。
「……あの、その、…………2人の時間に割り込んじゃってごめん!」
「耳郎ちゃん⁉︎なんで逃げちゃうのさ!」
「あ、ちょ、耳郎⁉︎誤解!誤解だからっ!」
勘違いして逃走した耳郎を追いかける俺と葉隠。
そして、それを相澤先生にバッチリと見られていた俺たちは除籍処分とまではいかないにも反省文を書かされるという処罰を受けたのだった。
結局、耳郎の誤解を解くこともできませんでした。こんちくしょう。