俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ 作:白黒パーカー
「あのさ、私とペアになって大丈夫?葉隠に怒られない?」
申し訳ないような表情で謝ってくるのは同じクラスメイトの耳郎響香。彼女はヒーローコスチュームに身を包み、気まずいからか不安げに瞳を揺らしている。
そんな彼女の様子に俺はため息をつきながら、グラウンドβに設置された液晶画面を見上げる。
そこに表示されているヒーロー訓練の組み合わせ。
『ヴィランチーム:轟、障子、上鳴VSヒーローチーム:耳郎、箱守』
本来ではありえないはずの組み合わせにこめかみを押さえてしまう。
現状であの3人を相手にして勝てるのか。
未だに俺は耳郎の誤解を解くことはできていないのに。それどころか余計にひどくなっている今、こんな強敵チームと戦うなんて。
きっと俺の幸運値はEランクに違いないだろう。
とりあえずあのバカステッキの首(?)を絞めないといけない。
★
誰も除籍処分されることなく個性把握テストを無事に終了した次の日。
今日はみんなが楽しみにしているヒーロー基礎学。ナンバーワンヒーロー、オールマイトの授業だった。
「私がー、普通にドアから来た!」
そんな決め台詞とともにドアからひょっこりと体を出すオールマイト。
なんだろう。寝袋にくるまってた相澤先生しかり、うちの学校の先生ってお茶目な行動する人多くないか?
どうでもいい思考にふけっていると、話は進んでいく。
今日の授業内容はいきなりヒーロー訓練。
オールマイトに言われた通り、コスチュームに着替えた俺は集合場所のグラウンド βに来ていた。ちなみに1人だ。
なんせ俺には葉隠以外の友達がいない。みんなの前で魔法少女変身したせいか、クラスのみんなは俺に声をかけようか迷ってるみたいだ。
俺から声をかけないのかって?
そんなことできたらとっくに友達でいっぱいだよ。
『大丈夫ですよ、ソースケさん!友達がいなくてもあなたには頼れるステッキ、ルビーちゃんがいるんですから!』
「いや、ルビーが人前で変身させるからみんな声かけにくいんだろうが」
なにそれどこのマッチポンプ。
はぁ、オールマイトも授業の準備かまだいないし。しばらくルビーと雑談でもしてようかな。
「あ、ソウスケくんだ!着替えるの早いね〜。一人?」
すると、どこからともなく明るく元気な声が聞こえた。やってきたのはマイフレンド葉隠だ。
「別に1人だし。葉隠こそほかの子たちと来なかったのか?」
「みんなまだお着替え中!私はすぐ終わっちゃったから先に来ちゃった!」
そりゃそうだ。だってお前脱ぐだけだもんな。
彼女の姿を確認すると頭が痛くなってくる。
「お前個性が透明化だからって、真っ裸はヤバいだろ」
「裸じゃないもん。ちゃんと手袋付けてるし」
葉隠の言う通り、確かに手袋をつけている。つまり
マンガやアニメを見てた時はすごい格好だなぁ、とどこか他人行儀だったが、リアルで友達がそんな格好してるとただただヤバい。完全に痴女。
誰かの性癖開発してそうな見た目だということだけはわかる。
「痴女」
「うら若き乙女に痴女とはなんだー!」
「ハッ!」
「あー、鼻で笑ったな!」
某鬼っ子姉様を見習い鼻で笑うと、葉隠がむきーと唸る。
「というか裏切り者!なんでソウスケくんはマトモそうなコスチューム着てるのさ!」
また変なことを言ってこの子は。俺が魔法少女に変身するイメージがあるから変わってるように見えるが、それはルビーのせいだ。つまりルビーが絡まなければ中身はしっかりとした普通平凡な男だ。
故に俺が言うことは変わらない。
「そりゃ、俺がマトモだからに決まってるだろ」
「ダウト!」
「なんでさ⁉︎」
即否定に声を上げてしまう。なぜだ!
「だって魔法少女なのに所々で脳筋に走るし。女の子よりも女の子みたいで可愛いし。クラスの子たちも言ってたよ」
「……?魔法少女が脳筋に走るのは普通じゃない?」
「普通じゃないよ⁉︎」
どうやら女子たちの中では魔法少女は脳筋にならないらしい。確かに魔法少女は可愛らしい衣装で魔法を使ったりして煌びやかに勝つのだろう。しかし待て。
俺も変身したときは容姿も衣装も可愛らしいし、ちゃんと魔力(物理)を使ってる。つまり、物理系魔法少女も魔法少女だ。
そもそも魔法少女のチカラは無限大。諦めないことこそ素敵な魔法じゃないか。
しかし、どれだけ言葉を重ねても葉隠からの理解は得ることはできなかった。
「にしても、ソウスケくんのコスチューム魔法少女関係なしな衣装だよね」
「あぁ、まぁある施設の制服をイメージしてるからな」
俺は自分の服を見下ろした。
上は白で下は黒のズボン。これで右手に令呪があればぐだ男になれそうだ。
そう、今の俺の格好はFGO最後のマスターになる藤丸立香と同じ、カルデアに支給される魔術礼装だ。やっぱりFGO好きなら憧れる衣装だろう。
もちろんこの世界のコスチューム会社が作っているから魔術的効果は全くないが着心地はすごくいい。
俺の戦闘スタイル的に言えばコスチュームはいらないように感じるが、常時魔法少女でいるつもりもない。公の場に出る時の衣装と思えば必要だろう。
「白いと汚れ目立ちそー」
「うっさい」
「魔法少女のときはすごい可愛いのに口が悪いなー。魔法少女のソウスケくんが見たいなぁ」
「やだ」
「ケチ」
『それじゃあ魔法少女にしちゃいましょう!——強制転身!』
「ルビー⁉︎」
妙にルビーが静かだと思ってたら、唐突に声を張り、俺の体が優しい緑光に包まれた。
一際強く輝くと魔法少女に変身してしまった。せっかくのコスチュームお披露目なのに。これじゃあいつもと変わらないじゃないか。
「ふざけるなよ、ルビー……ッ⁉︎」
無理やり変身させたルビーにお仕置しようと手を動かそうとする。
しかし体が金縛りにあったように動かない。これは、
「ルビー、体の制御、奪ったな」
『ふふーん、我慢できなくてついやっちゃいました!』
なんとか動く顔をルビーに向けると、てへっとあざとく返された。こんのバカステッキ。血管がブチ切れそうなほど無理やり体を動かそうとするが、指の先すらピクリともしない。これは俺ではどうすることもできないぞ。
それどころかルビーによって強制的に体を動かされる。腕を組んで胸元を押し上げる、いわゆるセクシーポーズを作ってしまう。
『ほら、葉隠さん!いまならこの豊満なメロンにお触りし放題ですよ!』
「る、ルビー⁉︎」
「ごくり……それじゃあ」
「や、やめっ」
俺の制止も無視され、葉隠の手袋がゆっくりと俺の胸に近づいてくる。
そして、
「…………んぅっ♡」
俺の口から甘い喘ぎ声が出てしまい、顔が一気に熱くなる。
「ほほぅ」
葉隠は俺の反応に気を良くしたのか、ふむふむ頷きながら、本格的に俺の胸をまさぐぬてくる。
「……んあっ♡……ふぅ♡…………やめっ♡」
「なかなかなモノをお持ちで」
上に下に、左に右。押したりつつかれたりと妙に手つきがいやらしくて、我慢しても声が止まらない。
ルビーのせいで迫りくる葉隠を阻止することも、手で顔を隠すこともできない。
——恥ずかしい。
まだ誰もいないグラウンドで、体の自由も奪われてきっと顔も赤いはずだ。目が潤んでしまう。
葉隠に顔を見られないようにせめてもの抵抗で顔を右に逸らすと、そこで耳郎と目が合った。
「「あ」」
葉隠は気づいていないのか未だに俺の胸をモミモミと揉み続けている。その間、俺と耳郎の時間は凍っていた。
「あ、あの……」
先に動き出したのは耳郎だった。
顔を真っ赤にして口をパクパクさせると、そのまま1歩後ずさった。
「ま、また——2人の邪魔してごめんっ‼︎」
「だから、勘違いだから!行かないで耳郎!むしろ俺を助けてー‼︎」
そんな叫びとともに耳郎がまたしても走り抜けてしまう。俺はそれを止めることができずガクリと項垂れることしかできなかった。
★
とまぁ、そんな感じで絶賛耳郎との関係は拗れに拗れの勘違い状態になってしまったわけである。
今だって顔を合わせるだけで逸らされる。
説得するにも、もう試験が始まって時間がない。
俺たちのチームはラスト戦。1回目は原作通りにで緑谷と爆豪がドンパチやってました。
「…………」
「…………」
沈黙がつらい!
まぁ、冗談はよしこさんだ。
正直、訓練とはいえ
体ごと耳郎に顔を向ける。そうするとピクっと肩を揺らし、耳郎がこちらを見返す。
「なぁ、耳郎。色々言いたいことがあるとは思うし、誤解を解きたい気持ちもある。でも、ひとまず今はヒーロー訓練に集中しないか?」
「……あぁ、うん。うちもごめん。びっくりしすぎてちょっとテンパってたかも」
やはり雄英ヒーロー科に受かるだけある。
俺の話を聞くと耳郎は大きく深呼吸して再びこちらを見る。その目はさっきまでの気まずげな色はなくコクリと頷いた。
今回のヒーロー訓練はヴィランがアジトのどこかに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理するというアメリカンな設定だ。
ヒーローチームの勝利は制限時間までに核兵器を回収するかヴィランの確保をすること。
ヴィランチームは制限時間までに核兵器を守るか、ヒーローを捕まえることになる。
ヴィランチームは核兵器を傷つけなければ基本自由な行動ができるので、守るものが多いヒーロー側のほうが不利になっている気がする。
しかも、向こうの個性は索敵・攻守ともに優れている。こちらも耳郎の索敵と俺の攻守で能力的にはイーブンにも見えるが、2対3という人数差もある。
「うちの個性は【イヤホンジャック】。このプラグを地面とか物に挿せば索敵できるし、心音を爆音の衝撃波にして放てるよ。あと頑張れば6メートルぐらい伸びるよ」
「俺の個性は【魔法少女】だな。女の子に変身して空を飛んだり、魔力の篭もった拳で殴ったり、魔力の斬撃を足蹴りから放つことができるよ。あと時間をかけるけど奥の手もある」
「殴ったり蹴ったりするのって魔法少女?」
「魔法少女」
「はぁ」
お互いに個性がなにか伝えあったけれど、耳郎は俺の説明に首を傾げている。言ったことがすぐに呑み込めないと解釈した俺は魔法少女だともう一度伝える。が、やっぱり納得してもらえなかったです。ぐすん。
魔法少女だって物理で攻めるもん。
ちなみに世間的には【魔法少女】が俺の個性の名称になっているが、別に俺自身は無個性である。まぁ、混乱を防ぐためにも個性と言っておいたほうが都合がいいこともある。これぞ大人の秘密だ。
俺と耳郎は作戦を話し合って索敵を耳郎にしてもらい、ヴィラン遭遇時は俺がメインで近接戦闘で捕縛。耳郎は俺のサポートというシンプルなものになった。妥当な役割分担だろう。
耳郎が訓練ステージになっている建物の壁にプラグを差し込む。
「うん、たぶん2階の左から2番目の広めの部屋。そこに3人ともいるみたい」
「まぁ、上鳴もいるし味方同士の個性でやられないように距離を取ってるのかもな」
2階へと続く階段を登りながら、ヴィランチームの状況を推察する。俺自身は彼らの個性がなにか、弱点まで理解している。が、そこまで俺が彼らと話してないので知っているのはおかしい。耳郎と共有できるのは個性把握テストで見れたぐらい。あと耳郎情報でまかなうしかない。
とはいえ、俺自身の動きとしてはすぐに対応できるように備えておくつもりだ。
目的の部屋にたどり着く。ドアはついておらず覗けば部屋の様子がすぐ見ることができる。
俺は無言で耳郎と合図を取り、部屋の中に突っ込んだ。
まずは先制攻撃。ステッキからの魔力を拳に集中させる。
「
瞬間、視界を白で埋め尽くされる。
いや、これは轟の個性でできた氷?
というか、初っ端から全開で個性使って来るか普通⁉︎
「ッ‼︎——
体が氷に呑み込まれる前に魔力弾と化した拳で粉砕する。
雪結晶が舞い散る中、視界が広がった。
「ふぅ。やっぱりこれぐらいの氷じゃお前を拘束できないか」
白い息を吐き、こちらを見据えてくる轟。
そこから少し離れた場所で様子をうかがってくるのは上鳴だ。
そして、轟の後ろには核兵器があり、それを障子がボディガードのように守っているみたいだ。
「悪いけど俺を拘束したいなら倍以上の氷が必要だぜ」
「そうだな。そうさせてもらう」
短い言葉とともに彼の右足の先から氷が新たに生み出されていく。それはさっき防いだ氷よりも量が多いし、スピードが一段と速くなった。
「——
こちらも負けじと両拳に魔力を貯めて連続で拳を放っていく。けれど砕けても砕けても氷がでてくる。あぁ、もう鬱陶しい!
彼の弱点はわかっている。連続して氷の個性を出し続ければ、彼本人の体温が下がっていきいつかは個性が使えなくなる。それを防ぐための左の炎だが、ストーリーが進み彼が成長しなければ使わない。なら、ここが勝機だ。
しばらく殴り続けていると、氷の勢いが止んだ。個性切れ。
俺はそう決断すると魔力で強化した脚で前方に加速した。
そして、轟の奥の核兵器を目指そうとした瞬間、近くで電気が弾けた。
「来ると思ったぜ!——ショックボルト!」
「ルビー!物理障壁ッ!」
『あいさー!』
間一髪だった。ルビーの魔力によって編まれた壁が上鳴の電気を防いでくれる。
さっきまで上鳴は離れていたのに氷で視界が見えないうちに移動していたのか。
「逃がさねぇ」
「くそっ!——
上鳴の電気が止めば今度は轟の氷が襲ってくる。拳で粉砕しながらも、足が氷で掴まれないようにステップを踏む。
そのまま攻撃に移ろうとした瞬間、後ろから悲鳴が上がった。
「あがぁっ!」
「耳郎⁉︎」
後ろを振り返れば、耳郎の腰から足までが氷で覆われている。俺の撃ち漏らしが耳郎を襲っていた。
『ソースケさん、前です!』
「くっ!
その隙を狙われた。轟の氷が襲ってきてなんとか躱そうとしたが左腕が波に呑まれる。
なんとか砲撃を放ち左腕を氷の波から抜き取った。強引にやったから少し痛む。
キツい。
じきに彼らの個性は底がつくはずだが、それでもこう交互にこられると攻めきれない。
そして、俺の予測だがこのペースだと時間制限までに彼らの個性が切れることはないだろう。
本気の
ちらりと耳郎に目を向ける。
「ごめん、耳郎!一旦撤退するぞ!」
「うっ、悪い」
俺は耳郎を持ち上げると魔力で強化した脚で、そのまま飛んでくる氷や雷を躱しながらあの部屋を後にした。
★
「ここまで来れば大丈夫だろ」
あの部屋から離れて俺たちは壁にもたれかかり少しばかり休息を取る。制限時間が少ないとはいえ時間はもう少しあるだろうけど、
いやー、にしてもあの布陣はどう崩すべきか。交互に個性を使ってるところから制限時間までもたせる気だろう。
「
腕を組み、うんうん、唸っていると隣から耳郎が謝ってきた。
なんだ、急に。もしかして俺と葉隠の勘違いにようやく気づいてくれたのか?
なわけないか。
「どうしたんだよ、耳郎。急に謝ったりして」
「うち、さっきの戦闘で全然役に立てなかった」
どうやら葉隠のことではなくさっきの戦闘で力不足だったことを思い詰めてるみたいだ。
体操座りして組んだ腕の中に頭を入れてる。
とはいえ、あの中で耳郎は唯一のサポーターメイン。攻撃できないことはないけど、轟と上鳴の前では近づくのが無理だろう。
「まぁ、あのメンバーの中では耳郎は戦闘タイプじゃないからなぁ」
「……それどころか轟にやられたせいで箱守にも迷惑かけちゃって」
「それは迷惑だったかも」
「……意外とズバズバ言うね。本当のことだけど」
耳郎は体操座りのまま、顔だけ上げて落ち込んだような呆れが混ざったようなジト目を向けてくる。
「もっと甘々なオブラートに包んで、遠慮すればよかった?」
「いい。そっちのほうがもっと傷ついてたから」
『ソースケさん、こういう所はデリカシーないですから!』
「別にデリカシーがないわけじゃないし。耳郎なら大丈夫だと思ったから」
「なんで?」
ルビーの言葉にぷいっと顔をそらすと耳郎が不思議そうに尋ねてくる。
原作で知ってるから。って言えないのがもどかしい。だから、俺が言える範囲で言えることを口にした。
「俺が信じてるから」
「へっ⁉︎」
「耳郎には俺がいるし。魔法少女は絶対に負けないから」
「……あぁ、そっちね」
一瞬顔を赤らめたものの、俺の言葉を聞いてウンザリしてる。なんでい?
不思議そうに耳郎を見ていると、ルビーがぴょんぴよん跳ねる。
『ね、デリカシーないでしょ!』
「ないね」
「なんでさ」
なんかルビーと耳郎が笑いながら通じあってる。バカにされてることだけがわかる。
「でも、どうしよっか。このままだと時間制限で負けちゃうし」
『魔法少女状態のソースケさんでも、あの狭い空間、しかも核爆弾に傷をつけないようにしてあの2人を相手にするのは厳しいですね〜』
「じゃあ、やっぱりうちも戦闘に混ざったほうがいいかな?」
「まぁ、今のままじゃ勝てないな。なら、賭けでもしよっか」
「はい?」
『あー、なるほど。アレを使うんですね』
その様子を耳郎が首を傾げるのを脇に、ふともものに着けたカードケースから空白のクラスカードを取り出すと、そのまま地面にかざし霊基の固定を開始する。
縁をつなぎ、空白に落とし込まれたクラスの名は
前回はステッキを通した
けれど、今回は違う。——クラスカード本来の使い方。そして正真正銘の奥手を使う。
「——
詠唱を始めると俺を取り囲むように地面から魔法陣が浮かび上がる。
それは英霊を召還するための儀式。
「汝の身は我に、汝の剣は我が手に。
聖杯のよるべに従い、この意この理に従うならば応えよ!」
言葉を紡ぐたび、魔法陣は輝きを増していく。
傍で見ていた耳郎が唾を呑み込んだ音がはっきり聞こえるぐらいには思考が冴え渡っていくのがわかる。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者!」
ここに呼ばれる英霊が誰かわからないけど。
使えるものはなんでも使う。
すべての人を助けたいと願うのなら。それが魔法少女という在り方なら。俺は己のすべてを、全力を持って尽くさなくてはいけない。
たとえこれが博打だとしても負けるよりは百倍マシだ。
そして、俺は最後の詠唱を終わらせる。
「汝、三大の言霊を纏う七天! 抑止の輪より来たれ 天秤の守り手よ!
——
体が光に包まれ、彼方の英霊に置換される。
選ばれた英雄の名は——、
「よし、作戦を思いついた。これから時間いっぱい耳郎のことを使い潰すからよろしくね」
「使い潰すって。なにやらされるのか怖いんだけど」
「大丈夫」
数分、思考にふけっていた俺はドレスの端をふわりとひるがえし、耳郎の目を真っ直ぐに見つめる。
——
「う、うん……」
その言葉を口にした時、耳郎が頬を染めぶるりと体を震わせたようにも見えたが、たぶん気のせいだろう。
『ソースケさんも人が悪いですよねぇ』
ルビーがなんか意味のわからないことを言ってたが、まぁ、いつものやつだ。気にしても仕方ない。
俺と耳郎は残り時間も少ないため、作戦を説明すると、再びあの場に攻め込むことにした。
★
「なぁ、あいつら来るのかな」
ヴィランチームサイド。
上鳴は頭の後ろで腕を組みながら、同じチームの障子と轟のほうを見る。
「どうだろうな。さすがになにもせずリタイアは向こうも望んでないだろう」
轟が特になにも答えなかったから、代わりに障子が返事をする。
さきほどオールマイトの放送もあり、タイムリミットもあとわずか。けれもあともう一回だけ攻め込むぐらいの時間はある。同じヒーロー科だからこそここであきらめるという考えはないだろう。
と、そこで障子が個性で複製した耳が音をキャッチする。
「どうやら来たみたいだぞ」
「うぉっ、マジか!頑張っていいとこ見せないとな!」
気合いを入れる2人を尻目に轟は右半身の調子を確認する。さっきまで個性を使っていたから体が冷えているが、あと何回かは耐えられるはずだ。
左の個性を使えば何度でも氷を放てるが——それはダメだ。それではアイツの思うツボだ。
ゆえに彼は右の個性だけでヒーローになると決めたんだ。
カツンカツンと妙に落ち着いた足音が聞こえてくる。
あんなふざけた見た目でも、気を抜けばやられる。轟はドアのない入口を見やり、いつでも個性を放てるように構える。
そして、入口に人影が見えた瞬間。彼らは時間が止まったように固まってしまった。
それはなぜか?
なんと彼らの視線の先には、白いドレスを着た箱守がこちらを見て微笑んでいたからだ。
その周りでは天使の輪っかをつけた羽の生えた金色のなにかが飛んでいる。
「は?」
それは間の抜けた上鳴の声か。残りの2人も声は出さなかったが、上鳴と同じ気持ちだったろう。
なぜ衣装が変わってる?
西洋の白いドレスを着て黒いハット帽を被る箱守。あの浮いてる気持ち悪い生き物はなんだ?
魔法少女の際どさとは違い、そこに溢れる微笑みはこのヒーロー訓練土壇場にはあまりにも場違いなもので。
その違和感すらも白く塗りつぶすほどの優しさが空間を覆っていた。
カツンと箱守は笑顔のままに歩みを進めた。
「ッ⁉︎」
最初に意識が戻ったのは轟だった。身の危険を感じた彼は箱守を拘束するために個性を発動する。
なぜ魔法少女の姿ではなくドレスなのか、女のままだから個性は発動したままだろうが、理由はわからない。けれど、この最終局面で出し惜しみをする理由もまたない。
放たれる轟の個性。勢いよく氷の波が箱守に迫り、あと少しで彼を拘束できると思った次の瞬間、氷が次々と砕けていった。
「やらせない!」
その理由は箱守の前に立つ少女。
耳郎が耳から伸びるプラグを氷に差し込み、心音を響かせることによる振動で氷を内部から砕いていたからだ。
轟は一瞬目を見張るも、ここが攻めどきと思考が理解し、さらに個性をブーストしていく。体力が切れるその時まで氷を生み出し続けると決めた。
(これ、ほんとキツいってば!ホントに箱守のやつうちを使い潰す気だ)
耳郎は背中に尋常じゃないほどの冷や汗をかきながら、内心でこの作戦を立てた男に愚痴をこぼす。
次々と迫る氷。それに呑み込まれないように個性を使用して中から粉砕していく。
箱守から頼まれた命令の一つは、自分が轟を拘束するから、それまであの氷の波を耐えてくれだ。
一歩ミスれば2人ともども氷の波に呑み込まれてしまう。
別に全てを粉砕しなくてもいい。あくまで自分と後ろの箱守が呑み込まれないように正面の氷に集中しろ。
薄皮一枚のその緊張感で速く走る心臓の鼓動すら個性によって振動に変えていく。
とにかく今の耳郎にはこれしかできないと理解している。さっきのミスを挽回するように個性の発動を限界まで行っていく。
ヒーロー学校に来て、まさかいきなりこんなボロクソにこき使われるとは思ってなかったけど、これはこれで悪くないと思ってる自分がいることに気づいた耳郎は、それを振り払うように最後の力を振り絞り轟の個性を防ぎきった。
個性の使い過ぎでふらりと倒れる耳郎。
——ありがとう。
その視界の端から聞こえた声とともにドレスの端を揺らす箱守の姿が目に入った。
★
信じていた。後のヒーロー免許試験。そこでサポートアイテムがあるとはいえ大地を砕くまでのことをしたんだ。全力で個性を使えば耐えきれると信じてた。知っていた。
耳郎が頑張ってくれたおかげで突破口が切り開かれた。
なら、次は俺の番だ。
倒れる彼女にお礼を言った俺は、目の前で体の半分から冷気を放つ轟の元に向かう。
そして、この身に置換された英雄の真髄。
「——私は世界を動かせず、けれど世界は私を鈍らせない」
カツカツと足音を立ててドレスを揺らす。
夢幻召喚によって選ばれた
賭けでいえば負けと言ってもいいくらいのハズレだ。
だけど、それで戦いに負けたわけじゃない。
彼らの力は等しく希望への切符に他ならないのだから。
かの
息を呑むように俺を見つめることしかできない轟の前に立つ。
「どうか御免あそばせ。私の無知なる殺人に、お付き合いくださいまし」
殺されるその寸前まで、微塵も殺意を感じさせない。こんなに可憐な少女が暗殺など企むはずがない。そんな偏見が強くなればなるほど俺のことを止めることはできなくなる。
それが彼女の、シャルロット・コルデーの対人宝具。
中学まで平和に暮らしてきた他の2人もこの殺気に気づけず動けない。
ゆえに彼にたどり着けるかが勝利の鍵だった。
「
今日一番の笑みを浮かべ、轟に手を伸ばした。
轟は最後まで抵抗もできずそれを受け入れる。
『轟少年、確保!』
「は?」
オールマイトの音声が聞こえて目の前の轟から声が漏れる。
彼が顔を下に向ければお腹に確保テープが巻かれている。
そう、俺は夢幻召喚したシャルロット・コルデーの宝具を応用して、抵抗の意思すら感じさせず、轟の腹にナイフを突き刺す代わりに確保テープを巻いたのだ。
「轟!」
宝具の効果が切れたみたいで、障子と上鳴が俺を拘束するために走ってくるのが見える。
すぐにクラスカードを抜き取らないと、この英霊の力じゃ2人の相手なんてできない。
今すぐにでもルビーを握りしめ魔法少女に変身しなければならない。
…………というわけでもない。
——だって俺自身がなによりの囮なんだから。
『はーい、核兵器確保でーす』
「なっ!」
「うそー⁉︎」
障子が驚き、上鳴が悲鳴を上げる。
核兵器にあの気持ち悪い天使に変身したルビーがタッチしたからだ。
ふふーん、世間で言えばルビーも俺の個性の一部。常闇のダークシャドウと同じだもん!
『ヒーローチーム。WINNERーー‼︎』
オールマイトのアナウンスとともに俺たちヒーローチームの勝利で終わったのだった。
あとがき
シャルロット・コルデーに夢幻召喚したことで、ルビーはあの天使(?)になっていた。
『ルビーちゃん!すっごく不満なんですけど!なんですかこの気持ち悪い生き物は!』
「あぁ、シャルロットが言うには天使らしいだけど」
「天使?……ぷっ」
『あ、耳郎さん、笑いましたね!』
「そうだよ、耳郎。あとルビーすごい似合ってるよ」
「ソースケさん、怒りますよ!」
珍しくルビーに反撃することができて満足する想助だった。
もちろんあとでお仕置きというなの嫌がらせを受けたのはのちの話。
※英霊召喚の詠唱はしっかりとプリズマイリヤ版になってるのでアニメ9話を確認してもらうとわかりやすいです。