俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ   作:白黒パーカー

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幕間
2人きりの訓練は汗とミルクの香り


 

 

 

「特に今日は連絡事項もない。各自、時間を無駄にしないように」

 

相澤先生の言葉でホームルームが終了した。ほどよく張り詰めていた教室の緊張感もほどよく解けたのがわかる。

雄英高校の授業もだいぶ慣れてきた。授業内容もヒーロー訓練を除けば、普通の高校と変わらない。

前世の知識を持っているからいくぶんか楽だが、とはいえやっぱり授業は好きになれない。一番前の真ん中よりな席で居眠りできないし。

 

「じゃあな、箱守(はこもり)

「おう、切島またな」

 

片付けを終わらせた俺は切島に挨拶して教室を出る。

この友達みたいなやり取り。なんと俺、男友達ができたんです!

この前のオールマイト授業での戦闘を見えていた切島が、俺の魔法少女としての戦闘スタイルが男らしかったの気に入ったようで、向こうから声をかけてきてくれたのだ。

魔法少女なのに男らしいとは、哲学か?

 

『ソースケさん今日はどうしますか?』

「どうしようかな?走り込みはするとして、クラスカード使いこなせるように練習しようかな?」

 

ルビーと話しながら今日の予定を考え直す。

高校生になってからクラスカードの使用率がぐんと伸びた。

これからのことも考えると、もう少し使いこなせないといけない。

 

「おーい、箱守」

 

廊下を歩いてると後ろから声をかけられる。振り返るとそこには耳郎がいた。

 

「どしたの、耳郎?」

「いやー、あのさ。今日ってこの後時間空いてる?空いてなかったら別にいいんだけどさ」

 

もじもじとプラグの先をツンツンしながら尋ねてくる耳郎。

なんだろう、もしかしてデートのお誘い?

もしそうならルビーだけ家に帰らせて、今すぐにでも耳郎のお誘いにオーケーするんだけど。

 

「今日はトレーニングだけだから、時間は空いてるよ」

「そっか。……もしよかったらウチと今から対人訓練しない?トレーニングルーム予約して取ってあるから、……ってなんで落ち込んでるの?」

「いや、耳郎からのお誘いにちょっとびっくりしただけ」

 

まぁ、耳郎だもんね。わかってたよ。そんなことする子じゃないもんね。

むしろ不純なこと考えてた俺が悪いんだ。

勝手に期待した俺を笑えよ。なぁ、笑ってくれよ。

 

「……ダメ、かな?」

 

そんな俺の落ち込む様子を見た耳郎が不安そうに尋ねてくる。それは助けを求める子どものようで。胸がキュッと苦しくなる。

……もう、そんな言い方されたら断れないよ。耳郎はズルい子。

魔法少女はいつだって困ってる人の味方なんだから。

 

「いいよ。俺もちょうど学校の設備が気になってたし」

「そ、そっか。……よし」

 

落ち着いた様相で隠したつもりかもしれないけど、ちゃんと最後まで聞こえてるからね。

もー、後ろで隠れてガッツポーズするなんて耳郎はかわいいなぁー!

 

「それで他に誰誘ったんだ?」

「え、えっと、とりあえずあんたと、ルビーだけ……かな」

 

え、他に誰かいるのかと思ったら俺たちしか誘ってないの?

 

「え、2人?」

『ルビーちゃんも合わせたら2人と1ステッキですよ〜』

「そ、そうだよ。3人みたいなもんだよ」

 

それは実質2人なのでは?

 

「と、とりあえずそういうことだから!早く行かないと時間もったいないから!」

 

どこかまくし立てるようにズンズンと歩いていく耳郎。俺は置いてかれないように後ろに着いていくと、隣で浮いていたルビーに声をかけた。

 

「なぁ、ルビー」

『どうしました?』

「これって、やっぱデートのお誘いかなぁ……」

「はぁっ⁉︎」

 

俺の発言に顔を赤くした耳郎はすごいかわいかったです。はい。

プラグでどつかれたけど、謝罪はするけど後悔も反省もしません。おもしろいほどに過剰反応する耳郎が悪いと思います。

 

 

 

 

 

 

「へー、校舎内にある割に広くて使いやすそうだな」

「うん。組手するには十分だね」

 

耳郎が予約していたトレーニングルームに到着する。

予想以上に設備が良くて2人して感嘆の声を上げた。

とはいえ、驚いてばかりもいられない。時間は有限。行動は合理的に。

部屋の端っこにカバンを置いて、俺はルビーを手にする。

 

「さて、やるか。ルビー!」

『はーい!転身開始!』

 

鏡面世界のような空間に移った俺の体が緑色の光に包まれていく。肉体は変化し、光の体にいつも通りの衣装が追加されていく。

最後に一際強い光を放つとそこには魔法少女の俺がいた。

 

久しぶりの転身バンク。やっぱり簡略版の転身よりも、フルの方が気合いが入るよね。

首をコキコキならしながら、調子の確認をしていると視線を感じる。

ふと横を見ると耳郎が俺のことをじっと見ていた。

 

「なに?」

「いや。魔法少女に変身しても奇声上げなくなったなー、と思って」

「奇声上げるとか変質者かよ」

「あながち間違ってなくない?」

 

おい、こら。お前は俺をなんだと思ってるんだ。

ただの魔法少女に変身する平凡な男だぞ?

んー、字面から見てもよくわかる変質者。まだ女体化してるだけマシだとわかる。男のままだと余計にメンタル削られそうだから。

 

「もう裸を見られた人なら大丈夫なんだよ、メンタル的に。それに耳郎は特に大丈夫」

「ん、なんでウチは大丈夫なの?」

 

耳郎は不思議そうに首を傾げる。おや、気づかないのだろうか。

 

「だって葉隠に胸を揉みしだかれた場面、耳郎見てたじゃん。あれ以上のことはそうそうないでしょ」

「ん、んっ!じゃあ、そろそろ組手お願いしてもいいかな?」

 

俺が葉隠に胸揉みシーンを伝えると、顔を赤くして話を逸らす耳郎。

ウブなのか、それとも他に理由はあるのか……。

 

俺は一度咳をして話の流れを戻す。

 

「今日は近接格闘の練習でいいんだよね?」

「うん、箱守。すごい強かったから教えてほしくて」

 

今日の目的は近接格闘の練習。言ってしまえば組手だ。

耳郎の戦闘スタイルは個性上サポートや遠距離がメインになるものだが、それが通用しない相手が出てきたときのために護身術を身につけておきたい、というのが耳郎の意見だ。

 

俺は耳郎の言ってることが正しいと思う。

もちろん強みや武器を伸ばすことは大事なことだ。それによって自信がつくし、万が一の危機の時に窮地を脱するための必殺技になれば、安心感も違う。

 

でも、現実は厳しい。

現場ではむしろ弱点や苦手なことを迫られることのほうが多いはずだ。ヴィランはえげつない。彼らに人質が取られるだけでヒーローは大きく行動を制限されてしまう。

 

オールマイトみたいに強みだけでゴリ押しができるならともかく、平々凡々な俺たちではそれは無理。

ゆえに多くの武器や力、仲間が必要になってくる。

遠距離サポーターが近接格闘の技術を手に入れれば、足でまといにならないはずだ。

 

だからこそ、自分の弱みを理解したうえで、そこから目を逸らさない人は好感が持てる。俺自身力になってあげたくなる。

ただし、俺のやり方は少しだけストイックかもしれないけど。

 

「一応、言っとくけど俺も独学なだけで、専門的な近接格闘ができるわけじゃないからな?」

 

こういったものはプロヒーローとして活躍する相澤先生たちや、武術を知っている尾白のほうが上だと思う。俺はあくまで砲撃(フォイア)斬撃(シュナイデン)を人に使ってもいいレベルに落とし込むために身につけたものだし。

とはいえ、俺を頼ってくれたんだ。それに対して俺は全力で答えるのが礼儀だろう。

 

「それはわかってるから大丈夫」

 

耳郎に確認を取ってみたが、数秒も経たずに頷いた。なるほど。わかってるならあとは言うまい。

 

「とりあえず耳郎。俺から教えられるのはヤラれる前にヤる攻撃型の近接格闘だけ。あと言葉で言うのは苦手だから基本実践で教えてくけど。痛いのが嫌ならいつでもギブアップしていいから」

「冗談。ウチはヒーローになりたいし、もう足でまといになるのはやだ」

 

気合いは十分みたいだ。俺のように構えを作った耳郎を見て笑みが浮かべる。

その表情、俺の心が(たぎ)る。

 

「それじゃあいくぞ!」

 

俺はその言葉とともに拳を引き絞って踏み込んだ。

 

 

 

 

 

結果的にいえばワンサイドゲーム。耳郎がボコボコになるだけの訓練だった。

 

「ハァハァ……、きっつ」

 

トレーニングルームで大の字になる耳郎は身体中ボロボロで俺のせいでケガもしている。息も絶え絶えになって苦しそうだった。

俺は彼女の元に行くと、自販機で買ってきたペットボトルを差し出した。

 

「お疲れ様、耳郎。ほい飲み物」

「……ありがと」

 

上半身を起こして力ない感じでペットボトルを受け取った耳郎がフタを開けてごくごくと飲み物を飲んでいく。髪にしたたる汗が妙に色っぽい。

ペットボトルの中身が半分程度いったところで、彼女はふぅーと息をついた。

 

「……箱守の鬼畜。女の子に容赦なさすぎ」

「もうちょっと手加減したほうがよかった?」

「ごめん、ちょっとした仕返し。今のままでいいよ。訓練の意味なくなっちゃうし」

 

ジト目で見てくるから優しくしたほうがいいかと聞いたら、首を振られて謝罪される。

それから耳郎は視線を俺から天井に向ける。

 

「結局1回も勝てなかった」

「動きは結構よかったよ」

「負けたら意味ないじゃん」

 

合計して何回戦っただろうか。少なくとも50回くらいはやったのは覚えてる。

そして、耳郎は頬を膨らませていて拗ねている。

 

当然、そんな顔をしていたらルビーに狙われるのは必然であった。

 

『ふてくされてるところも可愛いですね!』

「か、かわっ⁉︎」

「たしかにかわいいな」

「ちょっとあんたら、次そんなこと言ったら許さないから……」

 

怒りからか、ゆらゆらと耳から伸びるプラグが蛇のように俺たちに狙いをつけている。

後々の峰田や上鳴みたいに被害を受けたくないので両手を上げて降参するのが賢い選択。

 

許してくれたのか耳郎はプラグを下げると、痛む体に歯を食いしばりながら上半身を起こした。ちょっとケガさせすぎたかな?

 

「よしルビー。耳郎のケガ治すからスキルダウンロード、治療魔術の使える俺で」

『はーい、転身!』

 

カレイドステッキの十八番。並行世界の自分、今回は治療魔術のスキルをダウンロードする。

俺の体が魔法少女に転身する時と同じように光で包まれる。そして、数秒経つと泡のように弾けた。

 

それを見ていた耳郎は俺の姿が変わっていく様を見て目を丸くする。

そして、一言。

 

「なんで、()()()()?」

 

ナース服。今の俺の姿はナース服だ。まだ体は女のままだからいくぶんかマシな格好。でもミニスカだからあんまり男どもに見られたくない。

この力の弊害があるとすれば、スキルをダウンロードした場合、それに見合った服装を強制されてしまうのだ。

 

魔法少女なら魔法少女らしい衣装に。アイドルならアイドルらしい衣装と言った感じに、衣装チェンジする。

なんで治療魔術を使える俺にふさわしい衣装がナース服なのかわからない。

 

「そういうものだから気にしないで。俺はもう考えないようにしてるから」

「あんたはそれでいいの?」

 

それでいいのです。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいから。回復させるから耳郎じっとしててね」

「んっ……変なとこ触んないでね」

「へいへい」

 

耳郎の忠告にテキトーな返事をして、治療魔術を行使していく。

体内の魔力を循環させる度に、彼女の体の傷口が塞がる。

その様子を見ていた耳郎が呆れたように声をかけてくる。

 

「にしてもあんたの個性万能過ぎない?空も飛べるし、なんか魔法みたいのも使えるし、今だって傷治してるし。あんたの身体能力も凄いけども強すぎ。もしかして弱点とかないの?」

「別に弱点がないわけじゃないぞ」

「嘘でしょ」

「嘘じゃないよ」

 

耳郎の治療を完了させた俺は、ナース服を解除して魔法少女に戻る。

それから太ももに巻き付けてあるカードケースからクラスカードを取り出した。

 

「たとえばこれ」

「あぁ、前チーム組んだ時に使ってた奥の手、だっけ?」

「そう。これは確かに状況を変化させたいときの奥の手で強力な力だよ。だけど」

 

クラスカードのクラスを固定して、地面にかざして詠唱を開始する。

選ばれたクラスは騎乗兵(ライダー)

 

「——夢幻召喚(インストール)!」

 

詠唱を完了させると、体は彼方の英霊と置換される。

十字架のようなステッキを手に、その服装は聖なる雰囲気を醸し出しながらも、完全に布面積が少ない衣装にチェンジした。

 

「男なのに発育の暴力……」

「今日はマルタか。組手してたから()に引っ張られたかな?」

 

どう考えても聖女に見えない。ただの鉄拳聖女。

 

「まぁ、こんな感じで準備するまでに時間がかかる上にランダムでなにが来るかわかんないから、結構リスキーなんだよ」

「そう言われると使い勝手が難しそうな奥の手だね」

「せめて、詠唱時間だけでも簡略化したいんだけど」

 

イリヤみたいに詠唱省略することができればいいんだけど。

今の俺にはできない。知らず知らずのうちに歯を食いしばってしまう。

 

「そうだよ。この前みたいに敵がいないところで使えれば御の字だけど、ピンチの時は奥の手の準備すらさせてもらえないから」

「それがあんたの弱み、ね」

 

ふむふむと頷く耳郎。

そういえば俺もお前に聞きたいことがあったんだ。

 

「そんなことより耳郎。お前、俺になにか隠してるだろ」

 

俺の発言にビクッと反応する耳郎。

油の切れたロボットのようにぎこちなくなる。明らかに隠しごとをしてる態度。

ここまで動揺するということは耳郎からしたら相当なことなのだろう。

 

「……別になにも隠してないよ」

「顔逸らしてもダメ。隠してるのわかってるから。それともルビーの自白剤使う?」

『私のステキな霊薬を使えばきっと耳郎さんもハッピーになってペラペラとしゃべってくれますよ?』

「……わかった。話すからルビー抑えといてよ」

 

しらばっくれていた耳郎も注射を構えるルビーを見て、顔を青ざめさせてコクコクと頷く。やっぱり素直なのが一番。

ちなみにルビーの自白剤は魔力と希望とステキな夢でできている安全安心の霊薬なので、副作用もなにもないです。

 

「で、結局なにが目的なの」

 

俺は再度、耳郎に問いかける。

彼女はまだ悩んでいるのかもじもじと内股になって両手を握ってはパーにしてせわしない。

 

「耳郎?」

「あ、あんたの……」

「うん」

 

名前を呼ぶと唐突に顔を俯かせて黙る耳郎。

髪で目元が隠れて表情が見えない。しばらく待っていると耳郎が口を開いた。その声は震えている。

 

 

「あ、あんたの……お、おお、おっ…………」

「お?」

「お、おっぱい……触らせて」

「え?」

 

発言の意味がわからなくて一瞬固まってしまう。

今、耳郎なんて言った?

考える暇も与えず、ガバッと耳郎が顔を上げてこちらを見る。

その顔は上気したように真っ赤になっていた。

 

「前に葉隠があんたのおっぱい触ってて、どんな感触なのか気になったの!」

「感触ってお前」

 

胸元を手で押さえるように一歩引くと、耳郎がまくし立ててくる。

 

「だって!私のおっぱい全然大きくならないのに!まだ成長期だから可能性もあるって信じてるし、他の女の子に負けるのなら嫌だけど納得はできる。けどさ!さすがに男のあんたにまで負けたのは納得できない!あんた見る度に悔しくて。……すごい悔しくて。しかも、ヤオモモと同じかそれ以上のものとか。せめてどんな感触なのか知りたいだけで——」

「もういい耳郎。それ以上言うな」

「あっ」

 

話していくうちに耳郎の目にじんわりと涙が溢れてきた。その必死さが虚しくて声までひくついてきて。

 

そんな彼女を見ていられなくて、俺は優しく頭の後ろに手を回して抱きしめた。

スレンダーというのがピッタリな体。組手をしたせいで耳郎の体は髪から服まで汗びっしょりで。でも、そんなことがどうでも良くなるくらいに強く抱きしめた。

 

これ以上の言葉はもう不要だ。言わなくたっていいんだ。

俺は気づいた。

俺が魔法少女になる度に彼女の尊厳を傷つけていたことに。

 

俺には彼女の胸を大きくできないし、これからも魔法少女に変身しなくてはいけないから、彼女を傷つけてしまう。

だから、せめて彼女の気が済むまで慰めてあげないと。そのためなら、俺のおっぱいは耳郎の自由にさせてあげる。

傷つけたままではいられない。それは()()()()()()()許される行為ではない。

 

「そっか、ごめんな耳郎。いいよ。俺のおっぱいでいいなら好きなだけで揉んでもいいよ」

「……うん」

 

耳郎の髪を優しく撫でつけると、気持ち良さそうな声とともに素直に頷く彼女。

なんというか、彼女の泣いている姿を見ていると幼い子どもを見ているような、胸の奥と女の子の大事なところが熱を帯びてキュンキュンしてくる感覚が全身を支配してくる。

まさか、これが母性というものか。

 

『なんですか、これ?ルビーちゃん思考が追いつかないでーす』

 

そんなルビーの気が抜けるような声がする中。俺はトレーニングルームの予約時間いっぱいまで、マルタの姿のまま耳郎のことを慰め続けた。耳郎は耳郎で子どものように俺のおっぱいを揉みしだき、時には顔をうずくめたりして、おっぱいを味わっていた。

 

ちなみにその間のことはルビーがカメラ機能で録画していて、耳郎が落ち着いた頃には悶絶してしまうのは後の話。

また今回のことをきっかけに時間を見つけてはたびたび耳郎と対人訓練をするようにもなった。

 

 

耳郎響香と仲良くなった!

 

 

 

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