俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ   作:白黒パーカー

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デートという名のお願いごとは、思い出の中に

 

 

 

「ねぇ、ソースケくん。最近、耳郎ちゃんと仲良すぎない?」

 

今日の授業も終わり、カバンに教材を入れて帰る準備をしていると、俺の隣の席にいる葉隠がわざわざ目の前にやってきて、開口一番にそんなことを告げた。

顔は見えないけど機嫌が悪いのはわかる。仁王立ちしている。

 

「別に普通だろ?クラスメイトだし」

「ダウト!」

 

なにがダウトだよ。別に嘘は言ってないし。清姫がいても大丈夫なくらいには誠実なつもりだ。

 

というか人に指さすのはやめなさい。指が見えなくても、動作と雰囲気でなんとなく何やってるかわかるんだからな?

 

「私知ってるんだからね!ソースケくんが耳郎ちゃんと2人で密室に逢い引きしてるところ!」

「こらこら、言葉を選びなさい。クラスメイトがうるさくなるから。特に峰田と上鳴の視線が怖いことになってるし」

 

葉隠の発言でクラスがにわかにざわめいた。主に女子たちの黄色い声と醜い男2人による唸り声。血涙まで流すとか尋常じゃない。

そのうち俺、あいつらに嫉妬で殺されない?

ヒーロー志望だからしないと思うけどさ。

 

「そもそも俺に聞かなくても耳郎に聞けばわかる話だろ。あくまで俺たちは普通に訓練してただけだし」

「耳郎ちゃんなら顔真っ赤にして、そそくさと帰っちゃったよ」

「え?」

 

後ろの席を振り返ると耳郎の席に彼女がいない。

あいつ面倒ごとだからって逃げやがったな!

恨むぞ耳郎。俺の心がアヴェンジャーしちゃうぞ。

 

「さぁ、観念するのだ!」

「何が観念するだよ。そもそも耳郎と俺がどんな関係だろうと葉隠には関係ないことじゃんか?」

 

たとえ俺と耳郎が逢い引きしていたとして、ただのクラスメイトである葉隠にとやかく言われる筋合いはない。

そういう面倒ごとはもうルビーだけでお腹いっぱいなのだ。

 

「だって耳郎ちゃんだけ扱い優しいのに、なんで私の扱いは雑なのー!」

 

ふむ。彼女の不満の理由は、耳郎だけ特別扱いしていることみたいだ。

しかし、葉隠は勘違いしている。それは今ここで正しておかないと。

 

「安心しろ葉隠。それは勘違いだぞ」

「え、そうなの?」

「あぁ。耳郎だけに優しいんじゃなくて、葉隠だけに雑な対応してるんだぞ。お前だけ特別だぞー」

「むきー!」

 

葉隠は俺の答えがお気に召さないようでポコポコと頭を叩いてくる。勢いの割に力加減してくれるみたいで痛くない。

 

「ずるいずるい、ずーるーいー!」

「あー、あー……」

 

叩くのをやめて今度は体を前後に揺すってきた。地味に酔って気持ち悪いからやめてぇ。

 

「優しくしてくれないと、試験で私のこと押し倒したことみんなに言う、……ぅむ!」

「よし、今日はなんでも一つお願い聞いてあげようかな。それでいいよな葉隠!」

 

とんでもないことを暴露しようとしたから、見えない口をなんとか押えた。

それを言ったら峰田と上鳴がケモノになって襲われる。

本当に危ないんだからコイツ。

 

そう思ってると、にゅぷんと指先から音とともにぬくい感触が襲ってきた。

 

「そーすえうんのえ、なむあかあまえ(ソースケくんの手、なんだか甘い)」

「ばか、喋るなし」

 

透明でどこ押さえればいいかわかりにくいのに葉隠がもごもご喋るせいで、葉隠の口に指が入っちゃった。

葉隠の口の中を傷つけないようにゆっくりと引き抜くと指がテカテカ光ってるんだけど、これどうすればいいの?

 

 

 

 

 

 

「わーい、ソースケくんが優しい!」

「ほんと教室であんなこと言おうとするの次からやめてくれよな」

「うん!わかってるわかってる!」

 

学校から出てしばらく葉隠の隣を歩く。

結局、葉隠の爆弾発言を阻止するために『なんでも一つ聞いてあげる』と考えなしに言ってしまった俺は現在進行形でそれを実現させられている。

 

お願いごとは『放課後、私に付き合って』だそうだ。

もしかして葉隠は男慣れしているのだろうか。

行き先不明の葉隠のみぞ知る状態。もしかしたら俺はゲームヒロインのごとく葉隠に攻略されるのかもしれない。

 

「あれ、そういえばルビーちゃんいないけどどこ行っちゃったの?」

「今日は訓練もなかったし、先に家に帰ったよ」

「えっ⁉︎ルビーちゃん個性なのに一人で帰っちゃったの?」

「まぁ、そういう個性もあるんだよ」

 

実際はルビーは魔術礼装で個性ではないから、別に俺とルビーの距離制限なんかはない。もちろん魔法少女に変身しているときは変身解除しないためにも一緒にいるけど、特に何もない日は今日みたいに別々で行動する。

 

「それじゃあもしかして2人きり?……えへへ」

「なんで急に笑うんだよ」

「いやー、別にー」

 

2人きりとわかるや否や、突然テンションを上げる葉隠。

そんなにお願いを聞いてもらえるのが嬉しいのか?

んー、女の子の気持ちはわかんないや。女の子には変身できるのに。

 

「あ、そういえば前から気になってたことがあるんだけどさー」

「さっきから唐突だなぁ。別にいいけどさ」

 

葉隠さんは気持ちが一転二転するぐらいに、会話のテンポが目まぐるしい。

俺が呆れていると、葉隠が屈託ない声音で質問してきた。

 

「ソースケくんってなんで()()()()()()()()()()?」

 

その言葉を聞いた瞬間、思わず足を止めてしまった。

ヒーローを目指す理由。

俺の動きが遅くなったことに気づいた葉隠が体ごとこちらに向けてくる。

 

「ん、どしたのー?」

「……いや、なんでもない。あとヒーロー目指してる理由は秘密」

 

頭をよぎった理由を忘れるようにかぶりをふって、黙秘権を行使した。

 

「えー、なんでー?」

「なんとなく」

「そっかー」

 

葉隠は不思議そうに体を傾けていたけど、教えてくれないとわかったのかまた別の話題を振ってくる。

普段は空気読まないくせに気なんて使っちゃって。

一瞬暗くなってしまった空気も彼女のおかげで明るくなったからか、俺も安心して深い息を吐いた。

 

 

「じゃじゃーん!とーちゃくー!」

「ここって、ゲームセンターじゃん」

 

ポーズを決めてこちらに体を向ける葉隠の後ろにはゲームセンターがあった。

もしかして今日の目的地はここですか?

 

「それじゃあ時間ももったいないしちゃっちゃと遊ぼっか」

「ちょ、引っ張らなくても行くから」

 

葉隠に手を引かれながら店内に入ると、様々なゲーム機の音が鳴り響いていた。

このうるさいけどどこか楽しみにあふれた空間。なんだか懐かしいな。最近は特訓ばっかでゲームセンターにも来てなかったし。

 

「ねぇ、まずはあれやろ!」

「いいよ、とりあえず今日はじゃんじゃん遊ぼうか!」

「お、ソースケくんもテンション上がってきたね!」

「おー!」

 

2人で手をぐっと上に伸ばして声をあげる。

こう見えて俺は遊ぶときはトコトン遊ぶタイプなのだ。

 

 

まず最初にやったのが格闘ゲーム。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

「うわーん、ソースケくんもうちょっと手加減してよぉー!」

 

葉隠をコンボの嵐でボッコボコに倒して。

次にやったレースゲームでは、

 

「わわ、裏切ったー!協力してゴールするって言ったのに」

「葉隠、俺に乗せられちゃったねー」

 

協力関係を築いてからの追い抜きで葉隠が叫び。

最後のリベンジだとゾンビシューティングをすることになり、

 

「はっはっは!私は不滅だァーーー!」

「いや、不滅なのゾンビだから!私もソースケくんも体力ゲージミリだから!」

 

テンションが上がりすぎて葉隠にツッコミを食らってしまったり。

 

 

「はぁー、疲れた」

「ソースケくん、ゲームやるとテンションすごい上がっちゃう人なんだね」

「ちょっと楽しみすぎた」

 

ゲームセンターの端っこに置かれたベンチに2人で座りながら、雑談を交わす。

思ったよりも張り切ってしまったせいで、2人ともヘロヘロ状態だ。

 

さっき自販機で買ってきたコーラを口に含む。瞬間にやってくるこのシュワシュワが疲れた体にはたまらない。

葉隠は俺のお金で買ったチョコミントのアイスをぺろぺろ舐めていた。

 

「んー、美味しい。アイスありがとねー」

「いいよ。今日楽しませてもらったお礼」

 

にしても葉隠みたいな透明人間ってステルス機能だよなぁ。

食べたものとかは外から丸見えみたいなオチないかな?

 

丸見えではないかー!

 

ってすごく叫んでみたい。

 

「どうかした?私の顔なにか付いてる?」

「なにか付いているっていうか、なにもついてないかな」

 

葉隠の横顔を見ていると、とはいえ透明なんだけど。彼女が俺の視線に気づき、おそらく首を傾げたような動作をしている。

見えてなくても案外わかるもんだな。

 

「さて、葉隠も楽しんだみたいだし。そろそろ帰るか」

「えー、まだ最後になにかしたいなー」

 

とんだわがまま姫だ。足をバタバタさせる葉隠を尻目になにか遊べるものはないかなーと探していたら、あるものが目に入る。

でも、葉隠やりたがるかなー?

少しばかり疑問を持ちながらも、彼女に提案してみた。

 

「じゃあ、最後にあれでもやるか?」

「おぉー、プリ★クラだー!」

 

俺が指さしたのはプリ★クラという、まぁ、言ってしまえば女子が好きなアレだ。写真撮ってデコるやつ。

ただ葉隠は個性で透明なこともあってあまり興味がないかもしれないけど、せっかくなら良い思い出になるかも。

 

「撮る撮るー!」

 

と思ったけど意外と乗り気だった。

アイスを食べ終わった葉隠はまたも俺の手を引っ張って、空いているプリ★クラの機体に入る。

 

「へー、ほー」

 

葉隠は興味深そうに中を眺めていた。

そんな彼女の様子を横目に機体のアナウンスに従い、選択していく。

 

「へー、すごい手馴れてる。もしかしてよくプリ★クラ撮ってたのー?」

「ルビーに散々魔法少女に変身させられて、体も操られてたからな。たくさん撮ったよー」

「わー、目が死んでる」

 

あはは、と乾いた笑いが盛れてしまった。

魔法少女だけじゃない。カレイドステッキの能力をフルに使われて色んな衣装で写真撮ったなぁ。

そういえばゲーセンに行かなくなった理由もルビーの強制コスプレ撮影会から逃げるためだったなぁ。

 

「プリ★クラそんな珍しいか?」

 

過去のできごとを思い出さないように、葉隠に気になってたことを質問した。

 

「うん!友達からはあんまりプリ★クラに誘われたことないから、今すごいワクワクしてる!」

「まぁ、透明の個性だし誘いにくかったんだろうな」

「だと思うなー」

 

よし、画面選択は終わったと。

あとは残されたカウントダウンを待つだけだ。

 

「だからソースケくんがプリ★クラ誘ってくれて嬉しかったなぁ」

 

その声音には無理している様子はなく、たぶん本当に言ってるのだろう。

たまたま誘っただけなのにそんなに喜ばれるとは思わなかった。

カウントダウンはスキップできるけど、もう少しだけ雑談していようかな。

 

「葉隠、なんで俺がヒーローを目指してるのか聞いたよな?」

「え、あ、うん」

「あんまりみんなの前で言えないことなんだけどさ。俺、別にヒーローになりたいわけじゃないんだよ」

「え?」

 

葉隠から目を逸らして前のカメラを見る。

 

「それ、ほんと?」

「うん」

「そっかー」

 

ふむふむと隣から納得したような声が聞こえた。

 

「怒らないの?」

「なんで?」

「いや。みんなが真面目にヒーロー目指してる中で一人だけヒーロー目指してないから。しかも、雄英に通いたい子もいたのに俺が割り込んじゃって」

 

想像していたよりも怒ってなくて逆に怖い。

震える手を葉隠に隠して隣の彼女をチラッと見る。

目が合った。透明で彼女の顔は見えないけど、たぶん俺の目を見ているのだろう。そんな気がした。

 

「だって、まだ理由聞いてないもん。聞いてもいい?」

 

カウントダウンまでまだ時間がある。俺は頷きながらぽつりぽつりと話した。

自分の夢を。ヒーローを目指す理由を。

 

「俺、魔法少女になりたいんだよ」

「んん?ソースケくんもう魔法少女だよ?」

 

葉隠の言ってることはたぶん個性のことだろう。でも、違うんだ。そういうことじゃない。

 

「まぁ、確かに力は持ってるけど。まだ心が足りてないというか。それにこの力を使うにはヒーロー免許が必要になってくる。それに——」

「それに?」

「それに、なれないかもしれないけど。昔から憧れている魔法少女がいるから」

 

目を閉じれば、まぶたの裏に常に憧れている人の姿を幻視した。

 

自分と同じステッキを持つ少女(イリヤ)が、光の羽が儚く舞うあの遠い丘で背中を見せてくるあの姿が脳裏に焼き付いているのだ。

まるでどこかの『正義の味方(エミヤ)』と同じポーズをしているのが微笑ましくて、そしてどこまで手を伸ばしても届かないことを知っているのに、羨ましくて。

今でもその背中に追いつこうともがき続けている。

 

「大丈夫だよ、ソースケくん」

「葉隠?」

 

ふと、柔らかい感触が体を覆った。

目を開ければ葉隠が俺に抱きついていたのだ。理由がわからない。

 

「ソースケくんの目指す魔法少女がどんなものかわからないけど、試験から今日までずっとソースケくんを見てたからわかることもあるよ」

 

顔が見えないぶんその声音がどこまでも優しくて、耳に心地よくて、いつの間にか俺の腕は葉隠の背中に回っていた。もう手は震えていなかった。

 

「なにがわかるんだよ」

「きっとヒーローみたいに誰かを助ける魔法少女になれるって」

「根拠もないのに、いい加減だなぁ」

「大丈夫だよー、私も頑張ってヒーロー目指すから。一緒に頑張ろうよ!」

 

やっぱり根拠ないじゃないか。

でも、なぜか彼女が言うとなんだかできるような気もしてくるから、葉隠もなんだかんだでヒーローだなって思ってしまった。

 

「それにこういう時こそプルスウルトラだよ!」

「ふふ。限界のさらに向こうへ、だな」

 

2人して笑っていると、カシャリとシャッター音が響いた。

 

「あ、そういえば」

「プリ★クラの撮影中だったな」

 

その後、できあがった写真はどこぞのイチャイチャカップルとばかりに男女が抱きついた写真ばかりで、これはルビーにはバレてはいけないと心に固く誓った。

 

「ふむ。せっかくだしスマホのカバーケースにでも貼ろうかな?」

「絶対にやめて!社会的に死ぬぅ!」

 

 

葉隠の暴挙を止めるのに、またアイスを奢ったのだった。

 

 

 

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