俺が転生特典で望んだものはカレイドステッキ 作:白黒パーカー
今日は3話連続投稿なので、幕間を見てない人は見てみてね。
6話:USJ『知識とタオルとUSJ』
『なにも無かった俺に転生する機会をくれてありがとう』
感謝の言葉が胸に染み込んでいく。
それは俺の嘘偽りない素直な気持ちだった。
この世界に転生した俺には、強力な個性持ちと対等にもしくはそれ以上の力が与えられた。
しかも1つだけではない。3つもだ。
まず1つ目に挙げられるのは、カレイドステッキ。
並行世界を運営する魔法使いに作られた万能礼装で、無限の魔力と別の自分のスキルをダウンロードできる力。
残念な性格に目をつぶり、数多の嫌がらせと辱めに耐えられれば多大な力を与えてくれるだろう。
2つ目はクラスカード。
置換魔術を活用することで英霊の座に繋ぎ、一騎当千のサーヴァントの力を劣化しているとはいえ自分の力にできる。
さらに言えば俺が持っているのは神的なにかによって渡された特別性。オールクラスカード。
本来は1カードにつき1人の英霊としか繋がれないものだが、これは違う。条件と枷はあるが、これ1枚で数多の英霊の力を行使できる。
そして、最後に挙げられるのが原作知識。
これは与えられたというよりは元々持っているもの。
他の転生者も武器として持つことが多く、前世では物語を知らない友達にマウントするぐらいにしか使えない、まさに転生したからこそ真価を発揮するものだった。
物語として知っているからこそ、これから進む行き先がわかる。サー・ナイトアイの未来視以上の情報量を手に入れているのだ。
バタフライエフェクトが発動して多少は知ってる未来が変わるかもしれない。
それでも敵の情報、起きるであろう大きなイベント。それらを知っているだけでも色褪せない価値がある。
ヴィランの動きを予測し、死ぬはずだったキャラクターを助ける。
本来起きるはずの犠牲を減らせるなんて正義の味方からすれば喉から手が出るほど欲したいもので、素敵なことだ。
本来死ぬはずだった人を救いたい。誰にも死んでほしくなかった。その気持ちは昔も今も、これからも変わらない。
できるのならすべての人を助けたいのだから。偽善でも自己満足でもそれでいい。生きてくれるのならそれで構わない。
——あぁ、それができたのなら本当によかったのに。
自分の弱さが許せない。
満足に人を助けることができない自分が大嫌いだ。
なんでこの手が届かないのだ。こんなに力を貰っておいて、こんなにもまっすぐに手を伸ばしているのに。——どうして!
体の中を感謝と怒りと、そして悲しみがぐちゃぐちゃに混ざりあっていて、頭がおかしくなる。
でも、不思議と自分が捻じ曲がる気配は見えてこない。
当たり前だ。
結局のところ、やることはなにも変わらないのだから。
俺は魔法少女。カレイドステッキ、ルビーで変身する魔法少女。
そうだ。
俺は魔法少女なんだ。
魔法少女のチカラは無限大。諦めないことこそ素敵な魔法。
——なら、俺は負けちゃいけないんだ。
たとえどんな手段を選んだとしても。
たとえどんな残酷な選択をするとしても。
最後の最後まで誰かの希望である魔法少女が、負けてはいけない。絶対に諦めちゃいけないんだ。
「うっ、あぁ……」
パチパチと周りで炎が弾けるなかでも聞こえてくるのは、
『ソースケさん、分かってるとは思ってますけどやりすぎは魔法少女としてダメですからね?』
「……わかってる」
俺が魔法少女姿で大人であろうヴィランを片手に持ち上げていると、もう片方の手に握っていたルビーが忠告してくる。
「やりすぎない程度で、動けないように殴っといたから」
『魔法少女としてはいささか暴力的ですけどね』
辺り一面には先程まで俺一人に寄ってたかってニヤついていたヴィランたちがお腹をおさえてうずくまってる。
何人かは気絶してるけど、まぁ、気絶できただけマシなほうだろう。
どこかその光景を冷めた目で見ながら、掴みあげていたヴィランをそこらに投げ捨てる。
すると、残ったヴィランたちから悲鳴が上がった。
「よもやよもや、だよほんと。原作知識の記憶は
『後半に関しては自業自得だとルビーちゃんは思うんですけどねー』
「うるさいルビー、シャラップ」
周りにはまださっき撃ち漏らしたヴィランが数人残っている。全員が全員俺を見て怯えてるのがわかる。
おそらくというか確実に他の場所で被害に遭っているクラスメイトたちがいる。それに相澤先生が脳無戦をするまでもう時間がない。遊んでる暇なんてもう残ってない。
「ほんと、穴があったら入りたい!」
狙いは前方のヴィラン。空を駆け、すでに引き絞った拳に魔力が灯る。
「——
USJ、燃ゆる火災エリア。
俺は、いや俺たちは現在進行形でそして原作通りにヴィランたちに襲われている真っ最中だった。
★
「今日のヒーロー基礎学だが俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
「何するんですか?」
「災害水難なんでもござれ。レスキュー訓練だ」
委員長決めも無事に決まった数日。
原作通り、今日はレスキュー訓練ということでバスで敷地内にある別の施設に移動することになっていた。
コスチュームに着替えた俺たちは新委員長飯田のもとバスに乗り込もうとしている真っ最中。
「ちょっとソウスケくん」
すると隣にいた葉隠が声をかけてくる。個性のせいで顔は見えないけど、どこか声音が低い。いわゆる機嫌悪いですよアピールだ。
こういうときの対処には慣れている。
怒ってる子がいるときは少し離れたところで落ち着くまで関わらないのに限る。
散々、ルビーに弄ばれてきた俺だからこそできるスルースキルを存分に発揮するとき。葉隠の言葉を無視して彼女から少し距離を離してみると、離れた分だけ近づいてくる。
もう一歩距離を空けると今度は服を掴まれた。
葉隠に俺は負けない。
「ねぇ、聞いてるのー。無視ですかー?」
「聞いてるから、ほっぺぐりぐり押すのやめぃ」
人差し指でぐりぐりとほっぺを押され続けて、両手を挙げて降参する俺。男なのに即落ち二コマとか情けない。
いや、仕方ないんだ。だって今の葉隠怖いんだもん。声音がさらに1オクターブくらい下がってるもん。
「で、なに?」
「そんなのこの格好に決まってるじゃんか!」
仕方なく返事をすると、プンプンと擬音がつくくらいに見えない体を動かして抗議してくる葉隠。
そのたびに彼女が羽織るタオルがバサバサと揺れる。
「なんで私こんな格好しなくちゃいけないの⁉︎」
葉隠の今の格好は、小学生や中学生の頃にプールでよく使っていた巻タオル、そらを羽織っている状態だ。
ちなみに俺が彼女のために自腹で用意したものでもある。
「いや、裸よりはマシだろ」
「ちゃんと手袋と靴身につけてるもん!」
「それでいいのか現役女子高生」
彼女の倫理観、狂ってやがるぜ。
ちょっとばかし彼女の今後を不安に感じながらも、俺たちはバスに乗り込んだ。
俺の席は2人席で葉隠と一緒に座る。
少し離れたところには耳郎がいて2人席に座っている。耳から伸びるプラグをスマホに差し込んでいじっていた。その隣には爆豪が座っている。
うわー、なむさん。
全員が乗り込んだことを確認するとバスは目的地に向かって動き出した。
なんというか、言葉にできないけど緊張している。
「ソースケくんなんかソワソワしてるよ」
「いやー、なんかバスに乗ってるとテンション上がってきちゃって」
「わー、子どもっぽい」
いや、仕方ないだろ。
なんかこうやってクラスみんなでバスに乗るとどこかに見学したり修学旅行に行くみたいでソワソワしてしまうのだ。
相澤先生も今日はそこまで厳しくないのか、クラスメイトたちは思い思いに雑談を楽しんでいた。
「あなたの個性オールマイトに似てるわ」
「えっ⁉︎そうかな?いやでもあの……僕はえっとその……」
葉隠とたあいもない話をしていると、梅雨ちゃんと緑谷の声が聞こえた。いつの間にか個性の話題に移っていったみたいだ。
にしても緑谷ドンマイ。
緑谷からしたらヒヤヒヤものだろうな。
オールマイトから受け継いだ個性『ワン・フォー・オール』。それはナンバーワンヒーローの秘密も絡んでいることから、他人には絶対にバレてはいけないことになっている。
梅雨ちゃんの鋭い指摘にわちゃわちゃしているのが少し離れたところから見えた。
にしても、俺の原作知識が封印される基準がよくわからない。
言ってしまえば中途半端な封印だ。
たとえばどんなキャラクターがいるのか、それは敵味方関係なくわかる。ヒーロー側でいえば緑谷たちや相澤先生、後々に出てくる先輩、ビックスリーも知ってるし、サー・ナイトアイたちも覚えている。
ヴィラン側でいえば
オールマイトと緑谷の秘密も、体育祭の内容やヒーローインターンがあることも覚えている。
けどどこでヴィランが現れるのか、
拳をキリキリと音がなるくらいに強く握りしめる。少しだけ血が滲んだのか指先が冷たい。
これが俺を転生させたやつの仕業なのは明白だ。
嫌がらせか?
でも、それならカレイドステッキやクラスカード。もっと言えば原作知識を完全に消さない理由がよくわからない。しかも、イベントが過ぎれば記憶が戻ってくるのも意味不明だ。
「ソースケくん大丈夫?」
答えのでない無意識の泥に沈みこんでいると、葉隠から声をかけられ意識が戻ってくる。
顔は透明で見えないけど心配してくれてるみたいだ。
「あ、あぁ。悪い、ちょっとぼーっとしてた」
「うーん、なら言いけど。もしあれなら——」
「まあ派手で強ぇっつったらやっぱ轟と爆豪、あと
葉隠がなにかを言いかけた瞬間、切島から俺の名前がでてきた。
思わずそちらに顔を向けてしまう。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」
「んだとコラ!出すわ!」
「ほら」
「この付き合いの浅さですでにクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーはなんだこら!殺すぞ!」
状況を察するにクラスメイトから爆豪へのダメだしが始まってるみたいだ。
まぁ、爆豪は正統派というよりはヴィラン系ヒーローというワルかっこ良さで、人気がでそうだけど。
俺は結構好きなタイプのヒーローだ。
「箱守くんは魔法少女姿かわいいから、小さな女の子たちに人気でそう!」
「あー、わかる!あと男ファンすごい出てきそうだよなー」
麗日と瀬呂が俺の個性という扱いになっている『魔法少女』について語っていた。
本当に人気出るのかな?
中身男だぞ。女の子たちの夢を砕き、ついでに男たちの夢を容赦なく砕きそうなほどのインパクトあるぞ?
とにかく印象的には爆豪よりは良さそうだ。
爆豪が俺を殺さんばかりに睨みつけているのがその証拠。その隣にいる耳郎も爆豪のうるささにうんざりして、俺にヘルプの目を向けていた。
んー、そんな耳郎もかわいいと思うぞ。
助けはしないけど。
「お前らそろそろ静かにしろ。もうすぐ目的地に到着するぞ」
そんな相澤先生の言葉に静かになるみんな。
俺も口にチャックをしたが、隣からつんつんと肩をつつかれる。
当然、そんなことをしたのは葉隠だ。
「よかったね。魔法少女として人気出るって」
小声で言う葉隠は自分のことのように嬉しそうで、俺もさっきまでの暗い気分が晴れるぐらいには嬉しくて、彼女にバレないように口を緩ませた。
「あぁ、そうだな」
もうすぐレスキュー訓練が始まる。
魔法少女を目指すために、今日も頑張らないとな。
★
そして、平穏だった学園生活がヴィランによって崩壊を始めたのだ。