トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その1 ”Via Dolorosa”

ああ、お前は天から落ちた 明けの明星、曙の子よ。お前は地に投げ落とされた もろもろの国を倒した者よ。

かつて、お前は心に思った。「わたしは天に上り 王座を神の星よりも高く据え 神々の集う北の果ての山に座し

雲の頂に登って いと高き者のようになろう」と。

しかし、お前は陰府に落とされた 墓穴の底に。

 

 

────イザヤ書 14:12-15

 

 

 

 

 

 和解とまではいかなかったが、ガルバトロンと握手を交わし、かの赤い禍殃、宇宙ペストから生還したコンボイは地球への帰路に就いていた。

 

「あの時は驚いたよ。ロディマス、君が代理を務める事になっていたとはな。ハッハッハッ」

 

 クインテッサの手によって二度も甦ったのを皮肉にも脳裡に浮かべ、錯綜する考えを笑い飛ばそうとロディマスの功績を労う。

 

「コンボイ司令官。やはり、我々を率いるのはあなたしかいない。私、いや、オレにはできやしませんよ」

 

 諧謔にボディランゲージをする赤い騎士は、口元を緩めてそう返事をした。しかし、スカージにマトリクスを奪われた時の記憶がメモリーに刻まれているのを再確認し、周りが同じ事を思い出しているのを察して途端に口を噤む。

 

 広大なる宇宙に拡大せんとする狂気を、智慧とマトリクスに選ばれしサイバトロン総司令官が救い、掉尾を飾った。宇宙船の乗組員たちはヒーローの偉業に沸き、凱旋の殷賑を高めていたのである。

 

 彼らには、英雄が必要だったのは言うに及ばない。コンボイがその証左だ。

 

「しかし、これで何もかもが終わったわけではない。むしろ始まりだろう。安心ばかりしてはいられないな」

 

 偉大なる司令官は、自らの種族が続けてきた戦争を省み、広闊たる銀河に点在する知的生命体との外交について熟考しなくてはならないのを語った。

 

「ご安心を司令官。すでにその問題にはあたっておりますからな。のう、ウルトラマグナス」

 

 チャーはコンボイと肩を並べるようにして歩み寄った。歴戦を思わせるボディの持ち主が青い巨体を促す。

 

「ああ、そうだな」

 

 返事をするナンバーツーは静かに発声回路を響かせた。その厚い胸中に揺らめくのはマトリクスの輝き──ではなく、輝きを浴びてから自己の変容に覚えつつある違和感である。

 

 具体性を欠く感覚に動揺しないでもなかったが、気取られぬよう、ウルトラマグナスは平静を装う。これまでそうしてきた自身の振る舞いに安心しながら、叡智について自問自答し始めていた。しかし、それが受難の種になろうものとは考えなかった。

 

 

 

 

 クエスターズの一員である彼は、紫のメタリックな光沢を宇宙に反射させる。大蛇の名を冠するスーパーカーにトランスフォームするスカイワープは、高次の力を手にしていた。空間、次元を自在に渡るばかりか三次元下の事象を操作してしまえた。

 

「こいつァとんでもねエや。何でもできちまわァ」

 

 デストロン・オルタニティのこの一兵士が、宇宙の改竄に費やした時間はもはや永遠に及ぼうとしていた。ただ、この知性が欠如したスカイワープにせよ、オルタニティら超越者にとって時間の大小など元々然したる要素ではない。

 

「お、や、ヤベェな。オレぁ一体どこに行っちまったんだ。メガトロン様はどこに……」

 

 様々な時間線の森羅万象を乱し、飽き足りたところでスカイワープはメガトロンの膝下へと戻る手段を失う。否、彼の実力であれば、この矮小なる物質世界で僅少の力を振えば些末な事であった。

 

 ようやく後悔しながら、自分の行動が禁圧された理由を知る。しかし、太平楽な精神性が悔い改めるのを阻む。

 

「ま、そのうちいじくってりゃ会えるだろ」

 

 積層する深宇宙で、この不正な現実改変を監視する闇があった。その闇、ユニクロンは、多元世界のあらゆる場面から隙を伺っていた。度重なる情報の改変により復活し、上位世界のトランスフォーマー一人ひとりが脅威だと判断したのだ。

 

「貴様は適者ではない。スカイワープ、我に隷従せよ」

 

 何にも染まらぬ闇の光に包まれ、思いあがった蛇が混沌の眷属に堕ちる。

 

 

 

 

 魔界の山々から、一条の影が天を衝く。龍は旧東京を貫き、地下からミレニアムを噛み砕こうとしたが、間一髪、選ばれし者を収容した方舟は難を逃れた。

 

 伝承の龍、クズリュウが標的を失った頃、外気圏に到達したのを契機にサタンが男女に呟く。

 

「────では、メギド・アークを撃ち、イレースを行なう」

 

 管制室から、蒼い母星が眺望できた。アレフとヒロコはサタンの言葉をよそに、大宇宙への羽ばたきに興奮を隠せないでいた。

 

「あれが地球……センターはもう見えない。まるでスペースシャトルみたいだな」

 

「スペースシャトルなんてもんじゃないわ。これが宇宙なのね」

 

 メシア・プロジェクトの申し子とその代理母。彼らは天使らの焦りにより運命を狂わされた。千年王国を建造したというのに、そこに救世主が現れてくれないと煮え湯を飲まされ、ラファエル、ウリエル、ミカエル──元老院は計画に乗り出た。天使の謀によって、この救世主と聖母が急造されたのである。

 

「……妙だな。射出されない。アレフ、ヒロコよ、一度ガブリエルの所に行こう」

 

「ガブリエルの? どうして」

 

「ほら、建設中の区画があったじゃない。あそこにガブリエルがいたでしょ」

 

「四大天使の息がかかった者に邪魔をされたかも知れない。欺瞞に満ちた連中め」

 

 ガブリエルを除く四大天使は、偽の「主」まで創りあげていた。

 

「それなら、いっちょう懲らしめてやらないとな」

 

 アレフは国友銃を握るヒロコを見、背負ったヒノカグツチを抜く。誕生に際し母を焼き殺した神の名を模したこの剣は、皮肉にも多くの悪魔の命を合体させた一振りである。

 

「すぐ戦うだろうから、召喚もしておくよ」

 

「そうね。マグネタイトも十分にあるし」

 

 続けざまに、腕に装着したアームターミナルをこなれた手つきで操作し、電子情報から三体の悪魔を呼び出す。無機質の肌と銀の翼を持つ大天使、後光の眩い女神、そしてもう一柱、破壊神の妻たる女神が顕現した。

 

「む。アレフよ、ここは」

 

 翡翠みたいな両目を光らせ、高潔な声で救世主の名を唱える。小さな「神」と謂われるメタトロンは、先刻のルシファーに致命傷を与えた功労者だ。

 

「ここはエデンだ。また力を借りる」

 

「わかった」

 

 女神ら、アマテラスとパールヴァティも納得した風な顔色であった。大魔王を退けてなお、戦いは終わらない。

 

「私たちにはまだ使命がある。そうだろう、……ザイン」

 

 サタンに視線を向け、アレフはかつての同志の名前を口にした。褐色の肌に銀髪をした筋骨隆々の大天使サタンは頬をぴくりともさせず、しかし、

 

「ああ。急ごう」

 

 ザインだった「悪魔」は、感情の機微を声に表した。……アレフは、うまいな、と心の深奥部で独り言ちた。

 

「うん」

 

 メシアには確信がある。サタンが、すべての咎を裁こうとしているのを。それが、己の主に牙を剥いてでも行使するつもりだというのも。

 

 地上を浄化しても断罪者の役割は終わらない。この地獄のような天地を創造したのが唯一神であるなら、芽は摘んでおかねばならない。自ら過った法をつくりし神。

 

「……」

 

 私も過ちによって誕生した──

 

 否、過誤ではない生などあるだろうか。あの世界の人間も悪魔も、そのすべてが苦しみから逃れようとしていたはずだ。ダレスは私の踏み台となるべく造られ、ギメルは偽りの楽園を夢見、ベスは、自己犠牲で以って大衆を納得させるために……

 

「! 何の音?!」

 

 外部から轟音が鳴る。激突し瓦礫をつくり、そしてまた破片を踏み潰すような破壊音がアレフたちに接近している。

 

 やがて、管制室の堅牢な壁が破られた。宇宙空間を一望できるこの一室に、前進翼らしき背中を持つ十メートル弱ほどの巨人が出た。

 

「ヒロコ、パールヴァティ、アマテラス。大天使二人と私の後ろに」

 

 アレフは卓越した膂力で剣を構える。人類のものとは考えられない挙動で巨人の目前に躍り出るが、対峙する人型のマシンは崩れ落ち、うつ伏せたまま微動だにしない。

 

「おっと。どうしたんだこいつは? デモノイドでもなさそうだが……サタン、知ってるか」

 

「いや。少なくとも同胞ではないが」

 

 竜胆色の機体──サイバトロニウムで出来たトランスフォーマー、サイクロナスがエデンの地に横たわった。

 

 

つづく

 

 




すみません、また、またなんです、またクロスオーバーものなんです
おゆるしを

2020/10/08 03:22
ひどいミスを放置してたのでしゅ~せい
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