トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その10 ”Eden”

 

 

EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH

ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI

JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI

AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON

AGLA AMEN

 

 

 

 

 

 ウルトラマグナスは、情報の過多による記憶喪失に陥っている。彼は幾多もの自分、無数の自分の記憶が集合したために、今意識している自分自身の記憶が判断できないでいる。

 

 だが、その夾雑したメモリーを参照するうちに、短い未来を視るのに成功していた。……ルシファーが地球からエデンへと転送しようとする以前から、ウルトラマグナスは果たしてこの地球に人類がどのように生存しているかを夙に考えていた。また、同時に散らばった仲間たちを手厚く葬らなくてはならないと苦心していた。

 

「ルシファー、この地球に残された人々は安全なのか?」

 

「単刀直入に言うが、君の思うようにこの地上を守ることはできない。私……ではなく、私の同胞……が、この惑星を破壊する兵器の起動を、阻止できなかった。こうなっては、君の望みであろう、人々を逃がす事など……」

 

 シティコマンダーとして、サイバトロンとして、危機に晒された力なき異星人を放っておくほど彼の正義感は大人しくなかった。

 

「人間が一人でもいるのなら、私は彼らを安全な場所へ逃がさなくてはならない! ルシファー、貴様との約束は後だ」

 

 それからシャトルの修理に熱を入れるも、メギド・アークに星ごと焼き尽くされる──という可能性が鮮明に、そのメモリーに刻まれたのである。光景を想像した時、ウルトラマグナスはまだ転送を提案するルシファーを前にしているのに気づく。

 

「今のは、まさか……」

 

 数度、意識を集中しルシファーに同じ提案をする。彼もまた、同じ台詞をウルトラマグナスに吐く。そして、自分は莫大な数の未来の記憶を、自在に選択し、頭脳回路を通じて再生することができた。もはや、予言の類だと認識せざるを得ない。

 熟練した戦士による銃の、狙い撃つ精度が未来予知のそれだとは知っていたが、彼のメモリーの「暴走」はそうした慣用句の範疇に収まらない。

 

「これではエスパーだな。妙だが、まるで未来に行って遡ってきている、そんな気分ですらある」

 

 そうルシファーに打ち明ける前に、彼は実に様々な時間線を探った。そこで、人間やそれに準ずる異星人──ミュータントや妖精が地下世界に棲んでいたことと、その力なき者たちを救うのは不可能だという事実を同時に知る。

 

 ──同じ破滅を幾千幾万のパターンで閲し、ロディマスたちの葬送だけは済ませたウルトラマグナスはルシファーの手によってエデンへとワープした。見覚えのある青い惑星は、浄化の光にて瞬く間に死地へと姿を変える。宇宙からその景色をセンサーに収めるのは、ウルトラマグナスにとってこれが最初で最後であった。

 

 そして今、義憤の銃はアレフ一行に向けられていた。

 

「……君たちも人間なのか? なぜ地球を滅ぼした? 答えてくれ、さもなくば」

 

 演説みたく弁舌を振るう青い巨体を押しのけ、エデンの破壊された壁面から三対の翼を揺らし大魔王は激する。

 

「愚かな偽神に貶められしラグエル、いや、サイクロナスよ! 貴様の贖罪など果たされぬ。ここに現れた『戦士』の姿がその証左よ。さあ思い出すがよい、己の姿を、己の役割を!」

 

 サタンを除き、アレフたちはサイクロナスに視線をやる。向けられた目に応ずるかのように、また彼も記憶に苦しむ。

 

「オマエ、は、……ウルトラマグナス、なのか……では、わタシは……」

 

 翼を折りガコンと膝をつく青紫の機械生命体は、ウルトラマグナスの感心を惹いた。大魔王から発せられたサイクロナスの名と共に、記憶が手繰り寄せられる。

 

 ウルトラマグナスが発掘した、有用な記憶──大魔王と神霊が頭上で殺し合いをしている、数分先の未来の記憶、である。

 

『俺はメガトロンに仕えていたのだ』

 

『あの時空の破壊者に弄ばれたお前は、理不尽なゲームによって』

 

『幾度となく……ステルス弾によって破壊された』

 

『俺はお前に宿った闘志に目をつけた』

 

『俺のリアリティ・ワープ機能で、お前をこの世界に蘇らせた』

 

『さあ銃を抜け! 戦士として相まみえるこの時こそ、我が目的だったのだからな』

 

 膨大なる可能世界の一筋から意識を戻したウルトラマグナス。過去へ遡ったかのような気分を胸へ押し込め、現実的な検討を優秀な頭脳で演算する。

 

「ルシファーは、サイクロナスの贖罪が私によって潰えると言っていたはず──あのジェットロンのようなトランスフォーマーは、かつて私の命を救ったデストロン兵だったようだ……戦士として死ね、その言葉が真意であれば、戦士として死んだ私を復活させるような真似はしないだろう」

 

 またも、ウルトラマグナスは可能世界の海に潜り、そして息切れを恐れて過去に戻るダイビングを繰り返していた。タイム・ダイビングとでも云えよう行為は、「然るべき」計算結果のために行なわれる検算の如く綿密に、念を入れて反復された。周囲の景色は、ウルトラマグナスの主観にはコマ撮りの映像みたく描かれた。

 

『俺はメガトロンに仕えていたのだ』

 

『あの時空の破壊者に弄ばれたお前は、理不尽なゲームによって』

 

『幾度も、強化されたデストロン兵によって鉄屑になっていた』

 

『……俺は、かつての俺は、メガトロンの命令を無視し、自分の力に呑まれ……』

 

『ウルトラマグナス、……お前を、この世界に堕とした張本人は目の前にいる』

 

『卑劣なクエスター兵士だった俺は、戦士の高潔さ、そして、その高潔さの裏にある、本能的な暴力性と対峙し続けるお前の懊悩を──』

 

 すべてを知るために、サイクロナスへ泣き言のように縋る場面すら「想像」した。果て無き、無限の時間を「創造」するあまり、ウルトラマグナスの精神は或る種、超然としたものへ変形していたのかも知れない。

 

 まるで、オルタニティのように。

 

「サイクロナスか、下手な嘘を」

 

 ウルトラマグナスが弾き出した真理は、自身を始末し責任を取るサイクロナスの姿だった。このタイムラインごと彼をつくったサイクロナスは、自身の浅ましい時代を省み、不器用にも自分なりの償いを果たそうとしているのだ。それを覚られまい、同情を買うまいと嘘を吐いたのもウルトラマグナスには明らかだ。

 

「そこをつけこんだというわけだ。大魔王め」

 

 償いとは、戦士ウルトラマグナスへの愚弄だけではない。宇宙に永遠の接宇宙を、容易く創造してしまった過ちをも内包している。ルシファーと共感しているユニクロンに転生されられたとき──即ち、スカイワープからサイクロナスへと改造されたとき、知性を与えられた影響で良心の呵責を覚えたのだ。

 

「であれば、取るべき行動はひとつ」

 

 理解するための時間を過ごしたウルトラマグナスは、怒涛の事実を未来から持ち帰るも、一切の動揺はしなかった。

 

「ルシファー、貴様は己が弄する策に溺れ、もがき死ぬ運命にある」

 

 サタンは、ついに大魔王と化したルシファーの姿から光る眼を離さなかった。サタンもまた、夥しい時空の乱れによって無数の宇宙の自分との感覚を共有しつつあったのだ。

 

 あらゆる世界で、秩序と混沌が鬩ぎ合っている。その代表を担った、担わされた二者がこの楽園でも衝突は免れなかった。

 

「サタン、貴様は唯一神に反噬するつもりなのだろう。フン、飼い犬に手を噛まれるとはな!」

 

 悪魔と成った互いの掌から放たれる衝撃波は、宇宙にぽっかり浮かんだこの建造物を全壊しかねない勢いだった。

 

「んもう! さっきからワケわかんない事ばっかり」

 

「私にも分からない……でも、ここはあのデカブツを仕留めるのが先決じゃないかな。いいヤツっぽい気もするが」

 

 降り注ぐ瓦礫を器用に避けながら、アレフとヒロコは立ちはだかる鋼鉄の巨人に狙いを定める。

 

 人間である二人に殺意を向けられる──この経験も数えなくなってから久しい、そう考えすらもせずウルトラマグナスは、誰にも聞こえない小声で呟いた。

 

「目標は変わらないな。宇宙を、ひとつに」

 

 

つづく






「理不尽なゲーム」→ウルトラマグナスが、強化されたデストロンと戦うコンボイの謎世界のこと
「ステルス弾」→コンボイの謎におけるデストロン兵の弾。アレぜんっぜん見えないじゃん……
飼い犬に手を噛まれる→サタンの語源がセト・アン(セトの犬)という説を揶揄した罵倒。

2010ではライバル関係なマグナスとサイクロナスだけど、今作はそれぞれ出身世界が違うので、
お互いこれが初対面になります(マグナスはコンボイの謎世界、元スカイワープはオルタニティ世界)。
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