トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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最終回 "DARK"

 悪しき輝きと共に、己の真皮を剥がしたとも云えようルシファーは、その魔爪のもとサタンの喉笛を引き千切った。

 

「ぐおああ」

 

 この世の音とは思えない、神すらも呪う声がエデン全域に亘った。アレフも、アレフの剣を凌いだウルトラマグナスも、争いの顛末を見上げた。

 

「神の腹心たる私を……アレフ、ヒロコ、あとの事は、」

 

「失せろ、醜悪な蛇よ」

 

 血の滴る大魔王の指先から、楽園の地に翼を折った大天使を目掛けてメギドラオンが炸裂した。

 

「だが滑稽だったろうな。もし、神の下僕たるサタンが唯一神を裁いていたら」

 

 自信と、それに伴う威厳に満ち溢れたルシファーが次に目を向けたのは、サイクロナスだ。

 

「さあどうする、……スカイワープよ」

 

「その名前で……呼ぶんじゃない」

 

 完全に戦意を失い、しかし矜持の権化であるレーザーガンだけは手放さなかった。それを見遣ったウルトラマグナスは、大魔王に待ったをかける。

 

「待て、殺すことはないだろう! なぜ彼らが地球を滅ぼすような真似をしたのか、私はそれが気がかりだ」

 

「何故だと? 教えたはずだウルトラマグナス! 奴らは神に選ばれなかったという理由で、あの惑星の生物に死をもたらした──死は、生命の自由を奪うのに最も容易であることを知っているだろう」

 

 制止しようとするマグナスに、大魔王は瞳を燃やし激昂する。しかし、続けざまにアレフとヒロコがルシファーに斬りかかる。

 

「残念だが、強い者が弱い者の命を奪うのは自然なことなんだ」

 

「だから私たちは、大魔王を倒す」

 

 COMPによって喚び出した仲魔も、ルシファーと対峙した。さすがに先刻の戦いで疲弊したのか、ルシファーは大天使やメシアの攻撃を許してしまっている。

 

「なんだあのバケモノたちは……おい! サイクロナス! しっかりしろ」

 

「私は、私の務めを果たす」

 

「洗脳の影響で気がふれたのか」

 

 奇怪なほどに、整然としたサイクロナスの声色を、ウルトラマグナスは知っていた。「過去」の史料として。

 

 そして、このサイクロナスの覚悟を感じ取ってもいた。

 

「再びこの宇宙をいじくらせてもらおう」

 

「おい、無事に済むんだろうな」

 

 ウルトラマグナスは、その世界のタイムラインが変化する光景に胸焼けする思いであった。

 

 タイム・ダイビングのような「確定していない事実の収束を避ける」行為ではなく、未来を意思によって、自由に操作し確定させてしまうリアリティ・ワープ。サイクロナスの手によって、決断が下されようとしていた。

 

 していたのだ。

 

「──呪われしつちくれめ、ラグエルよ、再び主に銃を向ける真似をするとは」

 

 筋骨隆々とした、金色の巨体があらわれた。頭部は黒く、その色調は卑俗さを匂わせた。

 

「フフッ、成功したか。サイクロナスよ! よくやった! ウルトラマグナスよ! よくも騙されてくれた! 度重なる現実改変によって、唯一神こそ、貶められたのだ!!」

 

 メタトロンの頭を鷲掴みにし、片方の腕ではアマテラスの腹を貫き、ルシファーは乱れ狂う。まるで、テレビゲームの再現性の低いバグ技を成功させたときの少年のように。

 

「おお、貶められし偽神ヤルダバオートよ、たった一匹の堕天使によってこのようなお姿になられるとは。人間どもと交わしたその薄汚い絆のような浅ましさですぞ」

 

 大仰な振る舞いで、ルシファーは待望と云わんばかりに皮肉を演じた。憤慨に血を滾らせるヤルダバオートは声を震わせる。

 

「許せぬ──」

 

「許せないのはあなたのほうだ、神よ」

 

 整然と、精悍な態度でアレフは偽神を睨む。人間に原罪を与えた神へ、人造人間たるアレフは刃を向ける。

 

「なぜ、天使を、悪魔を、人を……世界を造られたのだ。不運が、苦しみがこの世界を支配する、この世界を」

 

「汝ら人類の犯した罪、万死を以っても償いきれぬ」

 

 聞く耳持たぬヤルダバオートに痺れを切らし、アレフは斬りかかる。ルシファーはエデンの天井を破り、宇宙へと飛行する。

 

「さあ、造物主に総ての贖いをさせろ! アレフ、その剣で! 神をゆるすことなど、あり得ないのだ!!」

 

 ルシファーの計画は成功した。人類を創造した過ち、矛盾を孕んだ物質世界、不完全な宇宙……神の尻拭いのために、「悪」は産まれた。

 

 いわば、この世の悪という失敗を説明するために、ルシファーは誕生した。マッチポンプとして。

 

「ルシファーよ! 貴様、どうするつもりなのだ!」

 

 ウルトラマグナスはそう仮説を立てていたが、それが事実であったとしても、ルシファーの真意は図れなかった。黒色に染まる宇宙を背に、「金星」を大声で呼ぶウルトラマグナスは、事態の凄惨さを理解しつつあった。

 

 未来視ができない──これは、もう遍く可能性が失われ、とどのつまり手遅れを意味していた。

 

「どうする、だと? 私の産まれた理由が悪なら、私はそれを行なったまで」

 

 憎まれ、疎まれ、時には恐れられる悪としての、孤独な役割を与えられた大魔王に、悲哀や悲壮といったものはなかった。これが虚勢だったにしろ──ルシファーはこの構図をつくりあげた以上、宇宙に死を齎そうとしているのは間違いなかった。

 

「偽神よ、貴様はその姿のまま、失敗した宇宙もこのまま、永久の無を堪能するがよい。贖罪など永遠に果たせぬままにな!」

 

 本人にしか聞こえない声量で呟き、ルシファーは闇に消えた。宇宙の星々を茫然と見つめていると、ウルトラマグナスの背後で偽神の断末魔が鳴り響いた。

 

 黒々とした頭部が浮かび、それにヒノカグツチが深々と突き立った。

 

「神よ、あなたに償いなどさせない」

 

 アレフの出自すらも利用し、ルシファーの神を殺す計画は遂行された。

 

 

 

 

「オイ、遅かったな大魔王」

 

 上半身を露わにし、体の表面の大半にボディペイントを施したような少年が、歪む空間のそばで腕を組んでいた。大魔王を待ちわびた、首筋のあたりから一本角を生やした少年──人修羅は、退屈から由来する不満で毒づく。

 

「そう急くな、今回の世界ではお前を必要としなかったのだ」

 

「……どういう意味だ」

 

 より不満を増幅させ、金色の眼を蠢かす。混沌王は気が短いのである。

 

「案ずるな、ここでは退屈しないはずだ」

 

 水没した東京は、ビル群や瓦礫、電線のもつれた電信柱が文明の崩壊を演出していた。二人がタワーマンションの屋上から空を見上げると、二機のスペースシャトルが墜落する。

 

「……この時間にも、秩序と混沌はあらわれる。お前の役割は、」

 

「好きにさせてもらうぞ。どうせ、やる事はひとつだ」

 

 ルシファーは、古代ではない地球に飛来したビースト戦士たちの背後に高次元に住まう造物主──ヴォックの姿を見出したが、この意図を人修羅に伝えるのは骨が折れると、肩を落とすのであった。

 

 

 

 




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