トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その2 ”Trumpeter”

ラグエル、み使いのひとり、世界と光に復讐する。

 

 

────第一エノク書 20:4

 

 

 

 

 

 千年王国に、一機のトランスフォーマーが闖入した。招かれざるサイクロナスもまた、不本意だという相貌を浮かべる。

 

「ふむ、デモノイドではないか……しかしマシンにしては生き物っぽいような」

 

「ぐ、う」

 

 サイクロナスが呻きながら片膝をつき始める。アレフはその姿勢を見逃さず、眼前の巨大ヒューマノイドの隙を窺う。

 

「いずれにしても、獲物が大きくて助かるわね」

 

 ヒロコは巨人の脳天に照準を定める。狙撃手のような振る舞いではなく、食べやすくカットされた果物にフォークを突き立てるそれと所作は変わりなかった。彼女の脳裏には、光の弾丸があのマシンを貫き、内部パーツを剥き出しながら爆破させる映像がよぎる。

 

 その時、かの標的の歪んだ口から敵意のない声が整然と露わになる。

 

「戯れる時間はない」

 

 サイクロナスは、テクノオーガニックとでも呼べる無機物と有機物の融合体へと変貌を遂げて、

 

「この楽園を外敵から死守しろと、『主』からの預言があった。エデンはこのタイムラインにおいて非常に重要な存在となったようだ」

 

 神の下僕と化していた。その言葉を耳にし、アレフはヒノカグツチを鞘に収め、ヒロコは引き鉄に触れず革製ホルスターにそれを落とした。

 

「貴様、天使ではないのか? 神の言葉を預かっているだと」

 

 ただ一人、サタンだけがサイクロナスの存在に懐疑の念を抱く。それは告発者としての役割がそうさせただけではない。

 

「じきに俺たちの元へ大魔王ルシファーが再来するだろう。サタンよ、俺の名はサイクロナス。そして、ラグエルとも名付けられた大天使だ」

 

 そう言って、堕天使の名でもあるラグエルは、排気音を反響させアレフらに戦いの予感を与える。しかしやはり、サタンだけは眉間に皺を寄せていた。

 

 

 

 

「この私の中から、狂気が取り払われた。……」

 

 ウルトラマグナスは、自分の各サーキットを狂わしているのが、他でもない叡智ではないかと仮定している。胸に手を当てたまま、氾濫した青光をただ独り反芻しているが、クインテッサ星人征伐の任を忘れたわけではなかった。それでも、静寂にして堅牢のボディに身を包むシティコマンダーは、宇宙船にて自身への問いに惑溺する。……それが、詮ない思惟だと分かっていても。

 

「ねえねえねえねえ皆さん皆さんこの辺りにあのクインテッサ星人の根城があるって噂でしょアタシゃもう怖くて怖くて気が気じゃいられないあぁ~怖~っ」

 

 独り、といってもブラー、チャー、アーシー、スプラング、そしてホットロディマスといった顔ぶれも乗組員であり、ウルトラマグナス単独の任務ではない。当然、ナンバーツーの彼が優秀なサイバトロンだとしても、作戦を独力で遂行するというのは些か手抜かりといった所であろう。

 

「あのタコ足星人の事だ、きっとまた卑怯な手を使ってでも俺たちに仕掛けてくるだろうよ。何かをね」

 

 一時の和平を狙い、トランスフォーマーたちは彼らの造物主を根絶しようと乗り出したのだ。邪智暴虐にして傲慢の『祖』たちは、また何かを企んでいるかもしれない、そういう不安から解放されたいという一心で、ブラーの報告に対してスプラングはそう呟いたのだ。

 

 すると得意げに、先輩風を吹かしたがる老兵が口を挟む。

 

「それを未然に防ぐのが我々の役目じゃろうて。いやはや、そういえば何百年も前に似たような戦いに身を投じたものでな──」

 

「オイオイじいさん、与太話はエネルギーの無駄だぜ。もっと有意義なハナシをしようじゃないの! 例えば、クインテッサ共を根絶やしにしたパーティの事とかね」

 

 陽気な発声回路を持つのはロディマスだ。マトリクスを胸に秘めていた、張り詰めた顔色は見られない。彼は間違いなく、適正な性格と身分を取り戻している。

 

 適正な性格と、身分。

 

「私に与えられた役割……」

 

 ウルトラマグナスの精神が声となった。外言という失態は恥だったろうが、仲間たちは混じりけのない感情でもって武骨の男を心配する。

 

「ねえウルトラマグナス、珍しいわね独り言なんて。なにか気になる事が?」

 

「きっと戦いたくてウズウズしてるのさ、アーシー」

 

 紅一点がそう気遣うも、そのパートナーは自前のローターサーベルを手に血を滾らせている。続けざまに、腕をわざとらしく組んだロディマスが口角をあげながら忠告する。

 

「ハッハッハッ。だとしたら、ウルトラマグナスは未だにオレを狙っているかもな。『ここに居たか、ひよっこロディマスゥ!』なんてね」

 

 以前、狂気に犯された彼の物真似をした。その芝居は喉元を過ぎた事件として笑いを誘ったが、ウルトラマグナスの思慮をより深める結果となる。

 

「おい、よさないかロディマス。本当に撃ってしまうぞ」

 

 物騒な返事で色を正しながらも諧謔に、お調子者を黙らせるのも慣れたものだった。そして、いち早くウルトラマグナスは、戦いが近いのを感じ取っていた。

 

 

つづく

 

 




偽典エノク書によれば、ラグエルはサタンと同様の役割を持っていたようです(監視者としての立場)。
それとサタンと言えば蛇。オルタニティスカイワープも蛇の名をした実車に変形しますね。
またラグエルは『黙示録』に於いて終末のラッパを吹くとか。
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