そこで人々は主に呼ばわって言った、「主よ、どうぞ、この人の生命のために、われわれを滅ぼさないでください。また罪なき血を、われわれに帰しないでください。主よ、これはみ心に従って、なされた事だからです」。
そして彼らはヨナを取って海に投げ入れた。すると海の荒れるのがやんだ。
そこで人々は大いに主を恐れ、犠牲を主にささげて、誓願を立てた。
主は大いなる魚を備えて、ヨナをのませられた。ヨナは三日三夜その魚の腹の中にいた。
────ヨナ記 1:14-17
峨峨とした岩山に包まれる惑星が、一同の目に飛び込んできた。モニター越しのそれを最初に目撃し、そして先んじて警戒したのはウルトラマグナスだった。
「どうやら遅かったな、奴らにしてやられたようだ」
「何? ウルトラマグナス、それはどういう事だウオォッ」
そう演技っぽく言い終わる前に、ロディマスは艦内の振動によろめく。彼だけではなく、スプラングもアーシーも、チャーに至っては尻餅をついている。
「視界外から攻撃を受けているようだが、レーダーに異常はなかったのか!?」
「レーダーに異常ナシ異常ナシ異常ナシ攻撃者の位置特定不能特定不能特定不能!」
スプラングとブラーの無意味なやりとりのあと、さらなる轟音と振動がサイバトロン艦を大破させた。各人は、なんとなく波乱の始まりを予感していて、「やはりな」という気持ちに陥るのに時間は必要なかった。
「なんだ今のは──アーシー、しっかりしろ」
まるで先ほどまでの攻撃が子供だましとでも思えるクラスの爆撃であった。
「どうやら、今のが本命のようじゃな。本当に以前に似ておるわ……ムオ!?」
天井に歪んだ穴が開き、焦げた金属の破片とサイバトロンたちを吸い込み始める。姿勢を崩していたチャーがいち早く宇宙へと呑まれようとしていた。
「そうか、最初の爆撃は偏差射撃の為だったのかっ」
ウルトラマグナスは、クインテッサ達が新兵器の類を試験運用しているのではないかと疑ったが、形勢を立て直すのが先決だと判断した時にはチャーの足を掴んでいた。しかし物理法則にはかなわず、彼もスペースデブリの一つになろうとしていた。
「こうなっては仕方がない! 一旦基地に連絡を、」
「通信は無理通信は無理通信は無理アタシたちの通信機がハッキングされてるされてるどうしようもないどうしようもないどうしようもなぁい!」
ロディマスの提案に関心があったのは早口の彼だけであったが、ハッキングという言葉に耳を傾けたのは老兵だ。
「やはり同じ! 同じじゃよ! この後ワシらは見知らぬ惑星に閉じ込められるんじゃ」
危機感がないでもないが、悠長に彼らは宇宙空間を流れながら会話をしていた。音波が発生するための空気もないが彼らは近距離であれば、個々に内蔵されたローカルネットワークを通じ意思の疎通が即時可能となっている。
「おい諸君、アレを見てくれ。こいつは間違いなく奴らの仕業だ」
ウルトラマグナスが指を差すと、その北か南か分からない方向には小型のタイムゲートが浮かんでいるのを総員が知る。同時にそこへ自分たちが吸い込まれているのを知って、敵の罠が成功した事実に憤る。
「冗談じゃない、コンボイ司令官も復帰したばかりだというのに」
「あいつらめ、今度会ったら二度とこの世にいられないようにしてやる」
「やれやれ苦難が続くのう」
思い思いの捨て台詞が各々の回路に渡ったとき、そこには宇宙船の残骸だけが残っていた。
「目障りな生命体どもめ、大人しく我々の奴隷であればよかったものを。だが、これで奴らも終いだろう……フフフフ」
*
大天使を名乗るサイクロナスに、アレフたちは敵意や戦意といったものは失ったものの、疑問が募っていた。
「しかし、ラグエルにしては見かけが違うようだぞ?」
アレフはアームターミナルと目の前の巨大な『ラグエル』を交互に見て目をぱちくりさせる。
「試せばよいだろう。ラグエルならば、並みいる悪魔に天罰を下せるはずだ」
メタトロンの美しい男声を聞き、サタンは首を横に振る。
「その必要はなかろう。ラグエル、かつて貴様は我らが主を裏切り、光に復讐する事を誓った堕天使だったはずだ」
ヒロコは再び銃のグリップを握りしめる。内心、面倒だから殺すならさっさと殺してしまいたいと考えていた。今は何かに惑わされている時ではないから。
「笑わせるな。既存の伝統ばかりが真実ではないのだ。オレはこことは異なる歴史から誕生した存在なのだ、故に──」
サイクロナスが突き出した指先から、数度、弾ける音とともに花火みたいな閃光が迸り、それを危惧し損ねたヒロコがそれを視認し、弾の込められた銃を手から滑り落した。
「ん、どうしたヒロコ、」
「アレフ! 避けろ!」
サタンが忠告する前に、アレフに牙を剥いたのは、サイクロナスではなくヒロコであった。ヒロコお得意の肘鉄が、彼が振り向く前に鳩尾に食らわしていたのである。
「い、いてて……おい、なんだってこんな時に」
「ヒロコはラグエルに操られている!」
サイクロナスは赤色の眼を光らせ、造作もないと言わんばかりに語る。
「その女の脳細胞、というモノの電位差を操作した。オレには本質が常に視えているのでな、構造を理解することも容易い」
魔法ではなかったのか──
予想だにしない、揺れるラグエルの立場にアレフ、そしてサタンさえも一抹の不安を見る。それは戦慄と呼ぶものなのだろう。
つづく
ichthusとは魚のシンボルを指しつつ、イエスキリスト神の子救世主という言葉の頭文字の羅列でもあります。