トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その4 ”Paradise Lost”

愛する者たちよ。すべての霊を信じることはしないで、それらの霊が神から出たものであるかどうか、ためしなさい。多くのにせ預言者が世に出てきているからである。

 

 

────ヨハネの第一の手紙 4:1

 

 

 

 

 素焼きをした陶器のような荒涼の大地がサイバトロンたちを囲んでいた。土肌とも云えよう不毛の焦土のように思えたが、戦士たちのオプティックセンサーは、それよりも遠方の人工物を捉える。

 

「あれは住居か? この惑星の生命体のものかも知れない」

 

 スプラングが上体を起こし、後頭部をさすりながら独り言ちた。仲間への安否確認でもあった。

 

「ヨシ、それなら宇宙共通の挨拶をすればいいさ──ええっとチャー、なんて言ったか」

 

「ああ……ワシの経験が正しければ、ワシらは言葉の通じない悪魔の手にかかる。あの時と同じように」

 

「おいチャー、さっきからそればっかりじゃないか」

 

 いくら教訓に囚われているにしても、この非常事態で熟練の警備隊長が経験を盲信し続けるのは些か釈然としない。そう感じながら、ロディマスは普段の調子を繕いながら諫めるも、手ごたえを得られなかった。

 

 先立って周囲の確認をしていたブラーが、割り込むように報告をする。

 

「ねえねえねえ皆さん皆さん皆さん大変大変大変大変ここは地球ここは地球ここは地球重力も一緒公転速度も一緒酸素濃度も一緒この国はきっと滅ぼされてる滅ぼされてる滅ぼされてる」

 

 早口の情報員が厚い唇を夥しく滑らせ、月を指差しながら各々の顔を見た。その滑舌が緊張感を生むはずはない。彼は平時においてもその口調だからだ。

 

「ここが地球……だとしたらいつなの? どこの国? 私たちの知る惑星ではないわ」

 

 混乱の渦中にいる六人を嘲笑うかのように、背後には大破した宇宙船が岩を割って突き立っている。孤立無援だという現実をまざまざと叩きつけられる。

 

「とにかく調査に当るほかないな。チャー、動けるか? トランスフォームできるなら、私が車載する。ここでリペアを行なってもいいが」

 

 巨躯のトランスフォーマーがキャリアカーに変形を果たす。ウルトラマグナスは冷静、否、もはや単調な物言いでチャーを積車しようとする。腰部を損傷したであろうチャーは、何も言わず顔を伏せてトランスフォームした。その鋼鉄の顔色がどうであったかは、想像に難くない。

 

「──そういえば、先ほどクインテッサ星人の声が聞こえなかったか? タイムゲートを通過する時に……」

 

 いざ行軍、という場面になって素っ頓狂な問いを投げかけたのはウルトラマグナスだった。ロディマスはいち早く妙だと思い、エネルギーの無駄使いみたいなシティコマンダーのセリフに違和感を覚える。

 

「ウルトラマグナス、あんたの聴覚回路は壊れちまったのか? オレはそんな声聞こえもしなかったよっ」

 

 ロディマスはビークルモードのまま並走して、大声で返事をする。

 

「そうか。いや、それならいい」

 

 急峻の土地をタイヤで削りながら、ビル群が聳立する都市を目指すサイバトロンたち。それぞれの表情は、血の気の濃さと不安に満ちていた。しかし、ウルトラマグナスただ一人のみ、まるで水を注されているかのような感情に襲われている。

 

「…………」

 

 マトリクスが、彼の胸から啓示を与えていたのだ。それが、どれほど不可解かを理解している一介の戦士は、マトリクスへ疑問を投げかけたい欲に駆られている。当然、それは叶わない事だが。

 

 ──なぜ、私の胸にマトリクスが。いや、ないのかも知れない。目視はしていない。しかし、この感覚は、

 

「私のようで、私ではない……」

 

 疑問を口にするのは憚られる。調和を乱すわけにはいかないからだ。

 

 

 

 

 サイクロナスの超常的な力を目の当たりにし、異形の生命体を仇敵の如く見つめるサタンとアレフ。

 

「これで理解しただろう。わかったなら、オレの指示に従え。まもなく、あのルシファーが再来する。軍勢を率いてな。いいか、我らが『主』の手を煩わせてはならない」

 

 警鐘を鳴らす航空参謀のボディは怪しく輝く。サタンは、これまで唯一神が数多の試練を人々に与えたのを思い出す。

 

「あんたの恐ろしさは十分わかったよ。そろそろヒロコを戻してやってくれないか」

 

 恐れを知らないと言わんばかりに、アレフは物申した。頬は笑顔をつくっていたが、本心は一触即発の憤りを秘めている。

 

「恐ろしさ、か。貴様らの知る『魔法』のほうが、オレにとっては悍ましい」

 

 目もくれず、しかしサイクロナスはヒロコを解放した。自然界の法則を書き換える「魔法」の存在は、形而下のこの世界において無視できない要素であった。

 

「あれっ? ごめんなさいアレフ、なんか私ったら急に」

 

「相変わらず、死ぬほど痛かったよ……大丈夫だけど」

 

 二人を尻目に、大天使サタンは沈黙を貫く。それは、この場が気に喰わないなどという低度の理由ではない。ラグエルの名を騙る生命体が現れてから、サタンの胸中もまた、新たな感覚に包まれていたのである。

 

 それは、地下世界の元東京にやってきたウルトラマグナスと同様の心理と言って差し支えない。

 

 

つづく

 

 




TF時空という楽園から追放されたサイバトロンたち。
そして、与えられた啓示の真偽は……
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