トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その8 ”Gnosis”

ユダがパン切れを受け取ると、サタンが彼の中に入った。そこでイエスは、「しようとしていることを、今すぐ、しなさい」と彼に言われた。

座に着いていた者はだれも、なぜユダにこう言われたのか分からなかった。

 

 

────ヨハネによる福音書 13:27,28

 

 

 

 

 

 

 誘惑によって、ウルトラマグナスは秀麗なる堕天使の甘言に乗せられてしまうのだろうか。

 

「……だがルシファー、これは契約だ。貴様と私との間に友情はない。狂気を取り去ってくれたのには感謝するがね。結果的に私はマトリクスの光を再び必要としてしまった。目的を聞いていなかったが、なぜヴィジョンを見せた? そして、これからどうすればよいのか教えるんだ。代わりに、貴様が求める情報を与える。このマトリクスを通じてな」

 

 銃を手放さず、悪魔と契約を交わそうと踏み込んだのは、むしろウルトラマグナスの側であった。その蛮勇ともとれる勇み足に、さすがのルシファーも苦笑する。

 

「君が偶然やって来た時、少しばかり君の記憶を覗いた。フン、あの時君は、こちらの事も少しばかり覗いたようだが──それで私は永い永い戦争と退廃の記憶を観賞させてもらった。銀色の母星に燃える戦災を何百万年も見、ただ戦うためだけに生まれ、未だにその役割を終えられない君の思い出」

 

「何が言いたい」

 

 今この大悪魔を撃てば答えを失う羽目になる。ウルトラマグナスはそう自覚しているからこそ、ルシファーはそれを覚り、傲慢にも悦に浸る。

 

「君は、君たちは苦しみでしかない戦争を、エネルギー不足を、腐った政治を、建設的に解決しようと一時は考えたはずだ。だが恐らく、全て戦火のために烏有に帰したのだろう。苦しみとはなんだ? 我々は生まれながらにして死に向かい、その途中で多くの苦悩と相まみえる。それから幸福を経ることで苦痛を忘れ、いずれ力尽きる。それを宇宙創成のときから、私たちは繰り返しているのだ。……ウルトラマグナス、君はこの世をつくられた創造神の顔を見たいか? この不完全な世界を創造し、我々に用意した『神』に、報いてやろうと思わないか? 君とて理解しているはずだ、形あるものはいずれ崩れ去り、全てが無価値であると」

 

 閉口したまま、一介の戦士はメモリーからセイバートロン星での記録を参照する。その大半が、敵を破壊し、味方が殺されるものであった。

 

 片や、その耽美の相貌に陰りを見せていたのはルシファーである。『神』がこの世に齎した光が強ければ、影もまた強く刻まれる。皮肉にも、かつて神に寵愛されたルシファーこそ、その光を膝元で享けていたからこそ、この形而下の世界における自己存在を憂うのが許されているのだ。

 

 鮮やかな鋼鉄の肌に砂塵を付着させたまま、ようやくウルトラマグナスは銃身を荒地に下ろす。

 

「私、いや私たちは意思ある全ての生命体の自由のために戦っている。この大宇宙に苦しみのない場所などなかったが、絶対という事は絶対にない。可能性はあるんだ。さ、目的を話すんだ」

 

「時間は無限ではないし、可能性とは言い換えればムダが多いだけだというのに。まあよい、そう懇願されたならば話そう。君の助力はこの世界の造物主に振るってもらうつもりさ」

 

「馬鹿げた話を聞くために、エネルギーを浪費していたくはないな。だが、貴様の記憶を読み取ったとき、君をつくった者に対する深い憤りが貴様の精神に揺らめいていたのがわかった。推するに、復讐がお望みというわけか」

 

 ウルトラマグナスは現時点で元の時間軸に戻る手段がないと判断したので、隣の堕天使の大言壮語に少々途方に暮れ始めた。

 

「復讐? 私が奴に復讐心を抱いているのだとしたら、もうそれは特別なことでなくなって久しい。据えるべき大きい目的が、大義はあるのだよ、マグナス君」

 

 高尚な考えを持ったかのような素振りに、マグナスの思考回路は上位の情報処理能力が一時的に低下し、とどのつまり、本能的な感情を発露させる。

 

「おいあまり手間をかけさせるなよ小者め」

 

「『神』がこの世界、それもあらゆる宇宙あらゆる時間を支配しようとしている存在だとしたら、君は立ち上がってくれるか? 事は一刻を争う。この世をつくられたあの傲慢な神こそ、全ての生命体の自由を阻み続けてきたのだよ」

 

 奴は目の上のタンコブだ、と言わんばかりの軽妙洒脱な語調ではあったが、その刹那、間違いなく瞳の色は胡乱に光っていた。

 

「ルシファー、貴様がウソをついている可能性があるのでな。この目で真実を確かめさせてもらうぞ。案内してくれ。できるだろう?」

 

 ウルトラマグナスは、ルシファーが述べる野望に偽りが無いのに気づいていた。当然、それは彼が大魔王の記憶を垣間見たからなのだが、ルシファーの全ての経験を知ったわけではない。

 

「セイバートロニアンは飼いならしやすい。それにしても、宇宙ペストという狂気に似た『奇病』をアスラに命令しておいたのは正解だった。これほど騙されてくれるとはな」

 

 などと哄笑してもよかったが、むろんルシファーは韜晦を貫く。それに、ルシファーがマトリクスを経由してマグナスの記憶を盗み見たとき、彼は反対にルシファーの記憶を読んだと豪語したが、それはルシファー本人が自身の選んだ「都合のよい記憶」だけを彼に与えた、すなわち、態度一つひとつが用意済みの芝居だというのもマグナスは知らない。

 

 

「愚かな神の下僕どもめ、次こそこのダイマオウが引導を渡してくれよう」

 

「アレフ! しっかり!」

 

「グッ。何、これくらい平気さ。アタバクのムドオンのほうが怖かったよ」

 

 俺は、主がつくられた世界を穢した。主の言葉どおりにならなかった。主の権威に疑問をつくってしまったのだ。オレは罰せられた。あの、混沌の大悪魔によって、私は貶められた。否、むしろこれが本来の姿なのかもしれない。悠久の時を戦争に費やし、恣にした高次の技能によってこの物質世界をより卑俗で、より粗悪な代物へと変貌させる。

 

 おレはそんな愚者だったのである。だが、わタしにも機会が与えられたのだ。贖罪、そう、浄罪、罪を贖うために、主はわたしに混沌の洗脳を解かれた。

 

「サタン! 奴の時層座標を捉えた」

 

「わかった」

 

 ……「全てのタイムラインの楽園を消す」情報を、悪魔の尖兵として持ち逃げした以上、ルシファーは私を許さないだろう。この時空の楽園こそが、主への座へと続く鍵となっているのだから、堕天使が狙わないはずがない。主は、俺の忠誠心を試されておられるのだ。このサイクロナスという呪われた名を棄て、私は神に恭順を誓った。

 

 このセイバートニウムの身を有機体に蝕む名を与えられる以前のオれは、宇宙の法を乱した。その中で──無謀とも謂えるひとりの『戦士』の奮戦に手を加えてしまったことが何よりの悔恨となった。

 

 その戦士には百の死を約束されている残酷な運命を知り、ワたしは高潔な戦士の運命を操作し、最後の死を経験させたとき、彼が望むものを経験させた。

 

 それがリーダーシップの証、いわば権力と、そして暴力性だった。オレが彼に与えた代物は、彼の戦士としての矜持や誠実さを損なわせてしまうものだったのだ。

 

 ウルトラマグナス。

 

 私は、彼にこそ償わなければならない。わたしは、一介の誇り高き戦士を変えてしまったのだから。

 

 

つづく





なんか説明っぽすぎる回になっちゃいましたね……

『奇病』→SJのデルファイナス奇病。アスラローガ。狂気に陥って暴力祭りになるのが宇宙ペストそっくり……
百の死を約束された戦士→コンボイの謎の主人公ことウルトラマグナス(https://imgur.com/korUs0K)。
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