トランスフォーマー20XX   作:ニョ

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その9 ”Apocalypse”

神である主、今おられ、かつておられ、やがて来られる方、全能者がこう言われる。「わたしはアルファであり、オメガである。」

 

 

────ヨハネの黙示録 1:8

 

 

 

 

 

 ダイマオウは、天使らの力にその膝を折った。しかしながらその表情からは悠然さは消えていない。……メギドラオンによる牽制が功を奏した時、メタトロンの天罰の雷がルシファーの翼を毟り、胸に大穴を開けた。こうなっては、背に孕んだ後光さえ陰りの布石に思える。

 

「ク、フフフ……ようやくカラクリを破ったか、サル共め」

 

 汚泥のような血を吐きながらも矜持を損なわないのは、虚勢か、それとも。

 

「始めこそ、成す術はないと絶望したがね。所詮貴様も悪魔に過ぎん。マグネタイトがなくてはこの世界に形を保てまい」

 

 そう応じるサタンの優れた慧眼が、ダイマオウの存在に関する脆弱性を見抜いた。

 

 別世界の物質で身体が構築されているが故、干渉時にエーテル体を維持できず、物質世界では生体マグネタイトを消耗して存在する事になる。天使らは、サタンの企みに力を合わしその隙を伺っていた。

 

「すごいわね……」

 

 感心するヒロコに、サイクロナスは腕を組み武骨に口を開く。

 

「ヒトの松果体には磁場に影響を受ける部位があるのを知ったのだ。ヒロコ、魔力に長けた貴様のおかげでな」

 

 ヒロコの脳を経由し、サイクロナスは生体マグネタイトの微かなな活動を感知していた。ルシファーが光弾を仕掛ける瞬間こそ、彼らと時層が一致する好機だったというわけである。

 

「やれやれ、こういう相手は得意じゃないな」

 

「アレフ大丈夫──って、アレフ後ろっ!」

 

 ヒロコの指差した先には、エデンの床面には似つかわしくない血溜まりが浮き彫りになっていた。

 

「やってくれたな、ルシファー」

 

 アレフも戦士の目で、その血液が誰のものなのかを悟る。サタンは拳を固くした。

 

「ガブリエル……」

 

 四大天使の一柱ガブリエルが、首から下を失ったままそこに沈んでいたのだ。イレースが行われなかった証拠を提示したのは、その傍に立つ金星の如く輝くルシファーである。琥珀色を光らせ、返り血一つない顔で微笑む。

 

「下僕どもの足止め、ご苦労だったなダイマオウ ルシファー。流石、一度はあの唯一神を退けただけある」

 

「フン、貴様こそ首尾よく役割を果たした様子だな。凍えた身体には厳しいと案じていたが」

 

 ケテル城で討たれたはずの大魔王に酷似したその明けの明星は、然も計画の一端を担っている口ぶりを晒す。その目的がイレースの阻止だと、アレフたちが判断するのに時間は要らなかった。

 

「アレフ、ヒロコ、我々の邀撃は終わりではない。ルシファーは、宇宙で発生した或る混乱に乗じ、マルチバースじゅうの自分を招集してエデンを狙っている」

 

 歩廊から現れたルシファーは語気を強めるサタンと目を合わし、付近の柱に天使の頭を放り投げた。転げるそれは、水分を吸収した衣類の湿った音を立てて床を汚す。

 

「かように、この大魔王が──自分とは言え──他者と提挈する羽目になろうとはな。不本意であるが、この辱めも含めて神に報いてやろうではないか」

 

 衆を恃み力で以ってエデンを制圧する態度とは裏腹に、眩きルシファーはその光の中に消えた。

 

「あのルシファーは、私たちが退けた奴に似ていたな」

 

「アレフ、奴は似て非なる。私の記憶にはないが、恐らく私たちの時空に近しい歴史から──」

 

「おい貴様ら、無駄口を叩いている暇はないぞ」

 

 言うが早いか、サイクロナスは排気音を荒くしてジェットモードと思しき形態にトランスフォームし、ダイマオウの光弾をビームで正確に、迅速に貫いていた。

 

「!」

 

 アレフはその瞬間を逃さなかった。因果に疑問を覚えるレベルの速度で、彼の手に握られたヒノカグツチはダイマオウ ルシファーの首を刎ねていた。

 

「スクカジャ継承させて正解だったな。助かったよ、メタトロン。それとラグエル? も」

 

 静かに、ラグエルと謂われたロボット生命体は人型に戻っていた。

 

「油断をするなよ、戦士ならな」

 

 意趣返しというつもりではなかったが、アレフはガブリエルと同じ最期を味わわせる。しかし、手応えは感じたものの、胸にある予感は本質的な勝利ではない、と告げている。

 

「サタン、こいつは時間稼ぎだったのだろう。並行世界の事はよく分からないが、恐らくルシファーは無限にいるようなものなんだろう」

 

「この世界の時間が有限でなければ、その認識は誤りではないが……ヒロコよ、この小康化した今こそ、イレースを行なうぞ」

 

「え? 私?」

 

 大天使サタンには感傷や戸惑いの類の情動は見られない。冷たいメカのようにプログラムをこなそうとする。

 

「そうだ、ネクロマでガブリエルの頭脳から暗号を吐かせろ。ガブリエルのみがメギド・アークの発射コードを知っている」

 

 仮にも大天使の亡骸、それも首を操るのに気が引けなくもなかったが、既に自分らが神に反噬しているためか、ヒロコは道徳心を一時潜め、サタンに従う。

 

「え、ええ、わかった……試してみる」

 

 他方、首塚に捧げられたが如く燭台に突き刺さったダイマオウは、嘲笑の顔貌が見受けられた。

 

 

「い、いてて……ゴメンよ、ヘマ踏んじまって」

 

「いいの。それより、足が」

 

 紺碧の瞳をした妖精、アヌーンに惚れて以来、ダレスは妖精たちの用心棒を買って出ていた。そんな折、さっそくクズリュウが引き起こした地震に罹災し、シンジュクの面々の避難に熱を入れていた。……のだが、ダレスは老朽化した建造物の瓦礫に足を傷めてしまった。

 

「カッコ悪いぜ、こんな姿見られちゃ」

 

「そんなことないわ。薬草、持ってきてよかった」

 

 彼女が着用するエプロンドレスの風合い同様、アヌーンの柔らかな声色と表情はダレスをより深く魅了している。慣れた手つきでダレスの膝に薬品を撫でるように塗り込む。

 

「いちちっ」

 

「ゴメンね、大丈夫かしら……」

 

「い、いいや、なんのこれしき……ありがとう、アヌーン」

 

 もはや、浮気草の露の効果などないはずなのに。アヌーンは知っていたが、彼の真意を問うのを恐れた。都合の悪い真理ほど、遠ざけるのは人情である。

 

「外はいつ襲われるかわかりませんわ。さ、掴まって……」

 

「アヌーンは、優しいな」

 

「それは、だって……ダレスだし」

 

「アヌーン、本当はもうわかってるんだろう。薬屋だもんな」

 

「え?」

 

 ダレスは彼女の華奢な肩に腕を回し、包帯を巻かれた足に気を遣って立ち上がる。少し息を切らしながら、本懐を告げる。

 

「おれは君の投げた薬で、君を愛してしまったんだ。でも、段々その時の事を思い出したんだよ」

 

 目もくれず歩き出すダレスに歩調を合わせるアヌーン。彼女は徐々に暗鬱を通り越し、焦りの火が灯った。

 

「そう、なんだ。じゃあ、もう」

 

 胸に早鐘が打つ緊迫感を抑え、声を震わしてアヌーンは言葉を紡いだ。

 

「君との日々は幸せだった。それで」

 

 思わせぶりな態度に、アヌーンは彼の自分に対する盲いた愛情を思い出す。しかし、それが造りものだとたった今証明されてしまった。

 

 かのように、思えたが。

 

「──おれはこれからも君を守る! フフ、驚いたかな」

 

 アヌーンは一瞬、心臓が破裂するほどの懸念を抱いたが、美少女の涙は安心に由来していた。

 

「じゃあ……!」

 

「浮気草なんてもう関係ない。馴れ初めはともかく、おれは本心から君を愛している」

 

 クズリュウの低く呻る、この荒れ果てた焦土にダレスはアヌーンに誓いを立てた。こうして、また呪われた出自を持つ彼は、それなりの幸福を恣にしたが、それが刹那なものになった。

 

「な、なんだろう、このヤバい音は」

 

「う、……上、あれ、」

 

 ──無慈悲、否、かえって慈悲に溢れた、メギド・アークが地上を破壊し地下世界をも粉砕した。嗚呼、偽メシアの達成された束の間の幸福は、生命の途絶えた土砂のもと永遠に眠った。

 

 

 

「目に焼き付けたか、あれが神のやり方だ。ウルトラマグナスよ……」

 

 ルシファーの瞬間移動により、エデンの外壁に上がった二人。青い地球が、文明ごと蹂躙されるのを目撃したウルトラマグナスの腹には、乾留液のようにどす黒く、粘着した感情が燃えている。

 

「これが本当に神と呼ばれる者のしている所業なら、神などと名ばかりだな」

 

「そんな事はない。『神』ほど傲慢な存在はいまい。……さて、今から混乱の源泉たる場所、このエデンに乗り込む。よいな」

 

「ああ」

 

 さあ──戦いの始まりだ。

 

 

 

つづく






「金星の如く輝くルシファー」「凍えた身体~」→ガブリエルを殺害したルシファーはNINEで氷塊に眠っていたあの大魔王。NINEのルシファーめっちゃ輝いてたので……
「ダレスは妖精たちの用心棒を買って出た」→GBA版ビジョナリーアイテム参照。
ビジョナリーアイテムといえば、漆黒の燭台で見れるヤツも本作の参考にしてます。
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