楽園の巫女様が根暗男に病む話   作:足洗

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この部屋一杯の愛を 哄編(射命丸文END)

 

 

 晴れ空より降ってくる冴えた風の中に、懐かしい匂いを嗅いだ。一年前、一巡前の季節の変わり目、この幻想の御世へと逃げ込む少し前。現世で嗅いだものと同じ。夏の気配。夏の匂い。

 彼女の、鴉の濡れ羽色のような髪が風にそよぐ。

 俺はただ呆然と、その薫風のような可憐さを見上げていた。見上げることしかできなかった。

 穏やかな笑みを湛える射命丸文を。

 

「写真機」

「は……?」

「写真機を直してくれて、ありがとうございました」

 

 出し抜けな感謝の言葉を己は即座、理解しかねた。

 確かに以前、彼女のカメラが故障し、その修理の為の部品集めを買って出たことは記憶に新しく、実時間的に言っても決して遠い過去ではなかった。

 ほんの数ヶ月前。己が手代勤めを拝命してすぐの頃、彼女は来店された。

 言動は軽妙、笑みは不敵、腹心を他者に覚らせぬ術に長けた巧者。そんな印象を纏う女怪。

 しかし、店先に現れた彼女を見たその時、己が抱いたのは真逆の印象だった。所在無くぽつりと佇む少女が、俺には途方に暮れた迷い子のように見えた。

 そして、それは今もなお。

 彼女の潤む瞳にそれを見ている。迷い、揺らめく。

 

「うん。今にして思うと、写真機(これ)は切っ掛けに過ぎなかった。私みたいな鴉天狗の、難儀な女の、言ってしまえば駄々に付き合う奇特な人間が物珍しかっただけで。取材のつもりだったんです、最初は。ホントですよ? でも知れば知るほど……深みに嵌まっていった。貴方という沼に」

 

 彼女の、感情が。

 瞳を通じてどろりと流れ込んでくる。

 

「自分でも驚いてるんです。()()()()()をするなんて。ただ一人の人間のために。ただ一人の人間を……こんなに欲しいと思ったことはない」

「……」

「私の理由なんてその程度です。恋に現を抜かして、抜かし切ってこうなった。納得してくれますか?」

「容易には、致しかねます」

 

 石を吐くような心地だった。拒絶の意。彼女が己を、己なぞを……好いてくれている。その望外の事実を踏み付けにするが如き真似。

 許されない。(おまえ)のようなものが何を思い上がってそのような言動を恣にするのか。

 しかし、その思い上がり、埒外を己は為さねばならぬ。

 彼女の間違いを正さねばならぬ。

 

「貴女は間違っている」

「はて、私の何が間違っているんでしょう」

「俺にそんな価値はない」

「価値を決めるのは生憎、貴方ではないのですよ。ご経験がおありでしょう? 品物の値付けと同じです。私が目利きし、私が値札を付け、それに見合うだけのものを私は支払っている。ただそれだけ。世の誰彼がそれを無価値と決め付け、あるいはその品物自身すらも自らを無価値と断じたところで、揺るがない。“私にとっての貴方”は、もはや揺るぎない」

「……貴女が、自分如きを過剰に評価してくださることは、汗顔の至り。いえ……嬉しく、思います」

「はいっ」

 

 華やいで、笑む。少女は極上の笑顔を湛えた。

 奥歯を噛んでそれを見返す。純粋無垢な少女の喜色を打ち払うかのように。

 

「ですがそれによって、此度の争乱は幕を開けた。十六夜さんが、魔理沙さんが、上白沢さんが、射命丸さん貴女が、この塵屑の為に相争っている」

 

 それが間違いでなくて何だと言う。悪夢のような過ちだ。

 あるいはそれが単なる戯れ合いであったならどんなに、どんなにかよかったろう。子供が珍しい形の石塊を取り合う、その程度の気安さであれば。力ある幻想の少女達の、恋模様という名のごっこ遊び。

 そうならばよかった。そうならば、この身は真実路傍の石塊同然に振舞うだけ。

 だが実態は。

 

「殺し合いを、始めてしまった」

 

 禍。

 我が身に対して独自の価値を見出した少女達は、互いが互いを敵と定め、障害として排除せんとした。血を見ることすら辞さぬ躊躇の無さ。

 

「品物の値付けと、ただそれだけの行為と、そう仰せか。ならばそのたかが品物を奪り合い、奪らんが為に競合する他の者を害するなど愚行の極み……理性ある者の行いではありますまい」

 

 狂っている。言外に俺は目の前の少女の、かの少女らの狂乱を指摘した。

 

「御再考を、射命丸さん。貴女は理知に富んだ方だ。この行為が、この状況が、正常(まとも)ではないと理解されておいでだ。これが……恋であると、お、俺に、俺に好意を寄せてくださった結果だと言うなら、せめて……」

「……」

「せめて、手段をお選びください。この闘争が誤りなのだとお気付きください」

 

 この馬鹿げた闘争の果てに己以外の誰かが傷付くなど、それ以上の最悪がどこにある。ない。ありえない。あってはならない。

 せっせと口舌を働かせる己を射命丸さんはただ黙って見下ろしていた。

 応えはない。その意思すら。静謐な少女の瞳に、己はただ不安感を掻き立てられる。それを振り払う為に今一度俺は彼女の名を呼んだ。

 

「射命丸さん……!」

「酷い人ですね」

「!」

 

 ふ、と浮かぶ。それは散り際のハナミズキのような微笑だった。脆く、あまりにも儚げな。

 気付けば目の前には童女があった。今にも泣きじゃくってしまいそうな。

 一人の少女が悲しみの底へと突き落されていた。それを為したのは。

 俺だった。

 

「貴方はそうやって自分を蔑ろにするばかりで、私の……私達の望みを、決して許してはくれない」

 

 失望。いや、これは、この瞳の色には覚えがある。失望よりも悲惨なそれは、絶望。少女の望みを無惨に絶ち切る理不尽。

 俺という罪人を彼女が見ている。

 犯した罪を咎めるのではなく、罪に憑かれた男をどうしてか、憐れんで。

 

「ずっと、救われてきました。貴方に。貴方の言葉に。貴方の……厚意に。貴方と共にする他愛のない穏やかなだけの日常が、貴方から貰うあらゆるものが、私を救いました。私の心を癒してくれました。優しくしてくれたのが嬉しかったです。普段はやり過ぎなくらい遠慮深い癖に、こちらが思い悩んでいると知るや驚くほど無遠慮で、大胆に、踏み込んでくる貴方に、ドキドキしました。誰に対しても公正で、平等に、思慮を振り撒く貴方が嫌でした。その思い遣りに浴する他の者が心底妬ましかった。私だけを見て欲しかった。こちらを向いて、私だけを見て微笑む貴方の写真が欲しかった」

 

 視界の九割方を席巻する写真の群。けれどそこには一枚として、撮影者(こちら)側に目を向けるものはなかった。

 射命丸文を認めない。少女を見止めない、不敏で愚劣な男の姿ばかりが。

 

「救われてきました。ずっと、ずっと……そして貴方は、私を、誰かを救うばかりで────救われてくれない」

 

 微笑が崩れる。罅割れ、歪む。硝子片が飛び散るように、一滴。

 白い頬に涙が流れた。

 

「手を差し伸べてくれるのに、差し伸べた手を取ってはくれない。安らぎを与えてくれるのに、決して安らぎを得ようとはしない。救ってくれた、何度も、いつでも、私を。でも……貴方は救われない! 私だってっ、貴方を救いたいのに!!」

 

 一室に満ち、響く絶叫。少女からの全霊のそれは糾弾や罵倒ではなく、予想外の、批難だった。

 

「こんなにたくさんのものをくれた人に、何かしたい。してあげたいって思うのは当然でしょう? 貰ってばかりで、平気なままでいられるような恩知らずに見えましたか、私は」

「そ、そんな、ことは……」

「嘘。私はこんなに貴方が好きなのに、貴方は信じてもくれないじゃないですか。その価値を貴方に見る私達を、間違っている、って。そう言ったじゃないですか」

「それは……それ、は……」

 

 事実という急所を衝かれる。言い訳の余地などない。

 それでもなんとか譫言を吐きながら無様に狼狽を晒す己を、彼女はひどく弱々しい笑みで見下ろした。憐れみを深めて、悲しみに耐えながら。

 

「貴方の傷を癒してあげたかった……いいえ、違いますね。私“で”癒されて欲しかった。いつしかそれが私の欲望(のぞみ)になった」

「傷……?」

 

 反射的に疑問が口をついた。それはきっとある種の、後ろ暗さから。

 後ろめたいから、そう見えたのか。

 彼女の白い頬が、口端が引き上がる。逆月めいて。少女は突如としてたっぷりとした悪意をその笑みに滲ませた。平素にも見られる偽悪的なそれ。

 そうして事も無げに。

 

「調べたんです。貴方のこと、貴方の過去、貴方のご両親のこと」

「!」

「現世にも行きましたよ。貴方がいた乳児院。貴方が育った家。通っていた学校。下働きしていた小料理屋。引っ越し先のアパートメント……ご両親のお墓にもご挨拶に伺いました」

「────」

 

 悪戯っぽい笑みに映り変わる少女の顔を、言葉もなく見上げた。

 

「ダメじゃないですか。きちんと参らなきゃ。随分草が伸びて汚れていましたよ。あぁちゃぁんと清めて差し上げましたから、安心してくださいね」

「…………」

「ふふっ、驚きましたか? 幻想郷、実は出入り自体はそう難しくないのですよ。方法も一つではありせんし。まあ妖怪や神に関しては短時間なら、という条件付きですが」

 

 驚いているのだと思う。彼女の言う通り。ただただ、驚いているのだと思う。

 嬉々として解説を呉れる彼女の言はただ耳を素通りしていく。

 わからなかった。この思考停止は、果たして何ゆえか。

 罪悪の過去を知られ、醜く窮して。あるいは、彼女の行動の突拍子の無さに。

 

「好きな人のことを調べる。当然じゃありませんか。好きな人のことを全て知りたい。普通のことじゃないですか」

 

 普通。普通とは、なんだ。

 己のよく知る熟語と彼女の口にするそれはどうやらニュアンスを異にするものであるらしかった。

 くつくつと軽妙に笑ってから、す、と少女の顔貌から表情が消える。

 

「貴方が、他者からの救済を拒む理由……ほんの少しだけ、理解します。納得なんてしてあげませんが」

「……」

「どうあっても貴方は自分を赦さないのですね」

「はい」

「…………」

 

 己自身にしてから呆れるほどに迷いなく応え、そんなこちらに今度は少女の方が閉口した。

 この身が朽ちて、死を遂げたその後に、相応しき裁きが与えられるその時まで。

 相応しき罰で、この罪が雪がれるまで。

 俺は俺を赦さぬ。絶対に。

 確信する。妄信する。

 己のこれが、一種の精神病であることも自覚している。まるで他人事のように。

 

「……どうしようもないですね」

「……はい。まったくに」

 

 もはや傲然と、苦笑と共に肯く。

 少女の美しい顔が再び翳ることを承知で。

 

「どうしようもないので」

 

 翳る、気色すらなく、彼女は笑った。それは今までにない貌で。

 妖しく、艶やかに。唇を赤い舌が舐め、目は細まる。

 気付けばその指がブラウスの(ぼたん)を外していた。するすると淀みなく白い上衣が開け、薄い水色の下着が見えた。胸元のVライン、アンダーに掛けて花柄のレースが亘り、ベルト部分はシースルーになっており地肌が透けていた。

 それよりなお白い素肌が、豊かな乳房が、眼前に現れていた。

 

「荒療治が必要ですね」

 

 白いブラウスにこうした淡い色の下着を合わせるのは透けてしまうのを気にしてのことなのだろうなどと、粗忽な男には決して浮かばぬその配慮に、射命丸文というひとの女性的な面を垣間見た気がした。

 ────などという愚にもつかぬ思考に脳髄は捻転していた。

 

「………………なっ」

 

 さらにたっぷりと五秒。現実へ意識が立ち戻るまでに要した時間。

 その間にも彼女は動いていた。不動の彫像と化した己を軽々と押し倒した。天狗と人間、膂力の差は語るまでもない。

 そのまま馬乗りに、全身で圧し掛かる。

 女の肉の柔ら。嘗て触れたことのあるどんなものよりもそれは柔らかだった。そして、逃れ難く蠱惑的だった。

 火を入れたように熱が全身を巡る。しかしなにより堪らないのは、それが自分のものばかりでないことだ。

 彼女の熱。火傷しそうなほど、彼女の体は熱かった。彼女とても平静ではない。その事実にこそ、己は惑乱した。

 

「射命丸さん!?」

「っ、これは、意識があるとドキドキしますね……」

 

 言いつつ、彼女は己の袷に手を差し入れ、胸を擦った。

 首筋に鼻を押し当て、臭いを嗅いだ。

 この下腹部を、自身の()()と擦り合わせ────

 

「っ! このようなことが、治療であると!?」

「んっ、そう、ですよ。んぁ」

 

 役立たずの両脚に激痛の鞭を打って藻掻く。上体を捻り、両手で畳を掻く。

 無駄だった。彼女はまるで獲物に絡み付いた蛇のように剥がれない。

 放しはしない。そんな意志すら滲ませて。

 

「貴方の傷を癒す為なら、この体だって使います。肉欲は使い方次第では鬱病にも効くんです。ご存知ですか?」

「患者の病状や精神状態によってはさらなる悪化の原因にもなるとか」

「……意地悪ですね」

「無礼は承知の上で、御理解を賜りたく存じます」

 

 彼女の、このような行為への、覚悟を、現にこうして目の当たりにしながら、それでも。

 事実は告げねば。この男のくだらなさを、知っていただかねば。

 

「よしんば貴女と肉体関係を結ぼうとも……俺は、()()()()ですよ」

「……」

「貴女の尽力は、徒労に終わる」

 

 言を連ね言い訳を並べ立て逃げ口上に腐心して、制止を図る。

 男性としてこれ以下もなかろう最低最悪の所業、俺は極上の美姫を腹の上に置きながら、それを拒むのだ。

 この期に及んでなお選んだのは、自分自身の業なのだ。

 救い難い。愚劣ここに極まれり。

 ごく自然に俺は思った。俺のような男、とっとと死ねばよいのだ、と。

 こんな綺麗なひとの、想いを、決意を、踏み躙るような奴輩は、惨たらしく死ねばよいのだ、と。

 

「……ダメ、ですか」

「はい」

「本当に、本当に……私、なんでもします。どんないやらしいことだって。貴方の好きなこと、したいこと、全部、全部! していいんです。してあげます! だから……ねぇ、だから!」

「……」

「おねがい、です。ねぇっ……!」

 

 俯き、黒髪の下、少女は声を震わせた。こんなにも切に、こんなにも必死に、こんな俺を願って、望んでくれる。

 少女の求めをしかし、俺は。

 拒絶した。

 時が止まったかのような沈黙が空間に鎮座する。数秒か、数分か。遠く、何処か、風の唸りさえ聞き取れるほどの静寂の中で。

 

「ああ、そうですか」

 

 ひどく平坦な声が居間に響いた。一瞬、誰の声かもわからぬほど。

 無機質な。

 

「射命丸さん……?」

「はぁ」

 

 呼ばわりに返ってきたのは溜息だった。呆れと、深く深く沁み出すそれは諦念。

 どうしようもない、言葉なく今再び、彼女はそう言っていた。

 その肩が震える。()()つく。痙攣にも似た、それは笑声だった。

 

「く、くひ、くっふふふ、ひひ、ふひっ、いえ、いえね、予想はしてたんです。えぇえぇ、貴方ってそういう人です。色仕掛けで落とせてりゃ世話ないですよ。苦労はない。体で堕とせるなら、体を、私の体、貪ってくれるなら……」

「射命丸、さん……?」

「はぁぁぁああ、爛れた生活したかったなぁ。ちょっとね、憧れてたんですよ。一日中ヤるだけヤって、食べてヤって眠ってヤって、みたいな、ね。好きな人と、獣みたいに、ただ性交(まぐ)わうだけの毎日。下品ですか? でも純粋じゃないですか。小さな悩みなんて、本能の波で押し流してしまえる。貴方の傷を、快楽で覆い尽くしてしまえる。そんな風に思った、夢想しました。あぁでは逆に」

 

 耳に唇を寄せて、少女は、女怪は囁いた。

 

「獣みたいに犯してあげましょうか?」

「っ!?」

「くふっ、冗談ですよ。いや冗談じゃないかも。ふふ、ふふふふふふ」

 

 吐息は熱を帯びていた。沸騰した蒸気と何程の違いもない。

 どうしたことか。どうしたというのか。この、変わり様。

 俺は、戸惑う。それを見失ったゆえに。彼女の中に、先程まではしっかりとあったもの。見えていた筈のもの。

 理知、理性の灯。彼女と、まだしも対話を成立させていたそれが、今、どうしてか見当たらぬ。

 どこにも。

 

「射命丸さん、一体」

「あ、そうだ。これね、ちょっと前に撮ったやつなんですけど」

 

 問い掛けには一切応じず、彼女はスカートのポケットから一枚の紙片を取り出した。例によってそれは写真であり。

 そこに。

 そこには、色がなかった。いや、あるにはある。あるのだが、画面内に存在する色彩の種類が極端に乏しいのだ。

 あるのはほぼ一色。肌の色。白く透き通るような、少女の肌。対して浅黒い男の肌。

 裸身。そこには一人の女と一人の男の裸があった。

 射命丸文と俺。一糸纏わぬ男女が、確かに、確実に……交合する様が、写し出されていた。

 

「────」

「薬。永遠亭で貰った薬。薬使ったんです。お夕飯にちょこっと混ぜて、ばれないようにね、混ぜたらね、効き目ばっちりでした! 眠ったままでもちゃーんと勃ってくれましたし、ちゃんと中で、あぁ中に、貴方が、溢れ、あふれて……ふひっ」

 

 夢見る乙女のように、蕩けた瞳が己を見下ろす。上気し、涎を垂らして、女怪は、美しい女の姿をした獣は、笑った。

 

「この写真、今ばら撒いてるんです。聞こえますか? ほら、風の音。風に乗せて空に浮かばせてたんです。今の今まで。もし貴方が応えてくれていたら……こんなことしなくて済んだのに」

 

 言葉はなかった。まるでこちらの責任とでも言わんばかり。いや、あるいはそうなのか。そうなのだろう。乙女の情愛に応えなかった。それは罪業たり得る万の理由に勝る。

 後悔すら湧いては来ない。

 

「そろそろ人里にも届いてるんじゃないかなぁ。あの白澤、せっせと私の記事を隠滅してたようですけど、さてはてこれを見たらどんな顔するんでしょうか。白黒魔法使いさんは、まぁた殴り込んで来るんでしょうかねぇ厄介ですねぇ面倒ですねぇ。まあ返り討ちです。血吸い鬼の方々は、なんか主従とその他諸々引き連れて来そうなんですよね。あれで従者に甘いでしょ、あの姫御前。これから忙しくなりますよ、まったく。まずは天魔と大天狗連中を引っ張り出さないと、根回しはいろいろしてますが。ま、どうせこの山が戦場になるんですし、嫌でも戦力にしてやります。私ってばこれでも古参なんで、上役も無視はできないんです。天狗も面子ってものがありますから、静観はできないでしょう。というかさせません。何をしても巻き込みます。その後が問題です。新居を決めないと。私と貴方二人の新居。あやや! 新婚生活ってやつです。静かなところがいいですね。永遠亭のさらに奥地の森なんてどうでしょう。お医者が近い方が貴方も安心でしょう? もしかしたら、ね?」

 

 自身の下腹を擦って、少女は恥じらい歓びを滲ませ、上目遣いに己を見た。

 そうして笑った。極上に笑った。返す返すに笑った。狂ったように、笑った。

 

「くっひひゃはははははははははははははは!」

 

 青空の向こう。哄笑が遠く響き渡る。少女の失望と、新たな希望。それを自ら祝して。

 そうして遥か、幻想郷のところどころに。

 あるいは彼女の、あるいは彼女らの、轟くような、斬り裂くような、燃え盛るような。

 憎悪の足音を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




望み通り死ねましたねぇ(社会的に)
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