酒宴
オラリオには最強派閥というものが三つ存在する。
一つは《ロキ・ファミリア》、もう一つが《フレイヤ・ファミリア》だ。
そして最後の一角を担う《ブリュンヒルデ・ファミリア》。
通称“新撰組“と呼ばれる組織は10年ほど前に突如としてオラリオに現れた。団員の数は僅か十人程度にも関わらずオラリオで最も
その事からオラリオの住民や他の冒険者からは人斬り集団と呼ばれ、ある意味ロキ、フレイヤ・ファミリアよりも恐れられる存在となっていた。
そんな新撰組も10年の月日が経ち多少はイメージが緩和されたかと思いきや、酒場では泥酔して大暴れ、酔った勢いで他の冒険者と喧嘩、物は壊すわ暴れるわで何度訴訟されたか分からない。
今となってはオラリオでの評価は“唯のチンピラ集団“とまで落ちていた。しかし腐っても最強派閥の一角、その実力はギルドや他の派閥から頼りにされているのもまた事実なのだ。
今回はそんな新撰組が珍しく活躍した後の話しである。
夜のオラリオ。それは昼間の疲れを酒場で癒す冒険者にとって至高の時間。今日もより一層の賑わいを見せる。
【豊饒の女主人】
この店はオラリオ暗黒期時代からある酒場だ。今日も客が大量に入っており店員は皆忙しそうだ。そんな店にとある集団が近づいて来る。
「遠征疲れたねー! 今日はいっぱい食べるぞー!」
「今日“も“でしょう? バカティオナ」
《ロキ・ファミリア》の団員達だ。今日は遠征終了の打ち上げの日なのだ。
「たくっ、店先ではしゃいでんじゃねぇよ。バカゾネス共が」
「ベートさん。お酒は程々にして下さいね・・・」
「う、うるせぇな!」
ベートの酒癖が悪い事を知っているアイズは呆れた目で忠告する。
「今日はめでたい日だ。喧嘩は止してくれ。それに“彼ら“も待っているだろう」
「いや、彼奴らの事だからーーー」
若い衆を諌めるロキ・ファミリアの団長、フィン。今回の打ち上げは遠征で協力して貰ったファミリアも同席する予定だ。
少し時間に遅れてしまったフィンは申し訳なさそうに酒場の扉を開ける。
「おう、お前ら遅かったな! もうおっぱじめてるぜぇ!」
既に打ち上げを始めていた。彼らは《ブリュンヒルデ・ファミリア》、改め新撰組の連中だ。
「ーーーほらな?」
「・・・・・・」
リヴェリアの予想通り先に酒や料理を食らっている。呆れるロキ・ファミリアの団員達だが、いつもの事なので気にせず席に着く。
「ーーーちゅーことで、何かもう始めてる奴らがおるが・・・遠征の打ち上げ始めや! 皆じゃんじゃん食えやぁ!!」
ロキ・ファミリアの主神であるロキは乾杯の音頭を取ると再び賑わい始める店内。
「先に始めてしまい申し訳ありません、ロキ様。全く、私の言うことなんて録に聞きやしないんですから・・・」
「ブーちゃんも苦労しとるのは分かっとる。今日は一緒に飲もうや!」
新撰組の主神、そして戦乙女13姉妹の長女、ブリュンヒルデがロキに謝罪するが、ロキは全然気にしていなかった。寧ろ同情している節がある。
「こ、こんばんわっス。ロキ様・・・」
ブリュンヒルデの後ろに隠れながら恐る恐る挨拶するのは戦乙女13姉妹の末妹、ゲルだ。彼女はブリュンヒルデが人間界に来た時に一緒に付いてきた。ファミリアを設立してからは主に裏方作業を行っている。(主にブリュンヒルデの世話)
「お、ゲルちゃんやんか! 久しぶりに抱っこさせてや!」
「ひぃ!」
どうにもゲルはロキが苦手なようだ。街で会う毎に抱き着かれたのが原因と思われる。
「いちいち妹へのセクハラはやめて下さい。
「あれ、今とんでもない暴言を吐かれた気が・・・」
そんな神達を他所に他派閥との交流は始まっていた。
「すまないな、フィンさん。ウチの連中が馬鹿騒ぎしてしまって・・・」
「いいんだ、近藤君。遠征では世話になったし、それに血の気が多いのは良い事さ。特にダンジョンではね」
口元に縦傷がある糸目のゴツイ男性がフィンに謝罪する。彼はブリュンヒルデ・ファミリアの団長兼 新撰組局長、近藤勇。Lv.6の第一級冒険者だ。
「そうだ! お詫びに今度、特製の漬物を持って行こう! 丁度作り立てのが・・・」
「い、いや。気持ちだけ受け取っておくよ!」
以前近藤の手料理をロキ・ファミリアに振る舞った時、所属する上級冒険者の耐異常を貫通するほどの破壊力を見せつけた。一番厄介なのは近藤に悪意は無く善意100%なので断るに断れない事だ。しかも料理を残そうとすると総司が食べ残しは許さないと脅してくるので食べざるを得ない。近藤が絡むと総司の圧力は深層の階層主を余裕で超える。
「あ、総司。またこっちに泊まりにおいでよー。お風呂一緒に入ろ?」
「やったぁ! ウチのお風呂より広いから嬉しいです〜!」
新撰組一番隊組長にしてオラリオ最強の剣士、沖田総司Lv.7をエルフィが誘って来る。他派閥でしかもオッタルと肩を並べる総司だが、無邪気な風貌と可愛らしい見た目から完全にロキ・ファミリアの中でマスコットと化している。
「アリシアさんも寂しがってるし」
「エルフィ!? デ、デタラメを言うのは辞めなさい!」
「えー? だって事ある毎に“総司は来てまんせの?“って聞いてくるじゃないですか〜」
「アリシアさん・・・」
「ち、違いますわ! 総司が来ていたら入浴の時間をずらそうと・・・って、レフィーヤ! そんな目で見ないで下さい!」
「でも僕がお風呂に来ると必ず居ますよねぇ? それにこの前は寝る時一緒の布団でーーー」
「総司、その事は内緒だとあれほど!」
「アリシアさん大胆だなぁ〜」
こうしてヒートアップして行く中で、ロキ・ファミリアや他の男性陣は血の涙を流すほど羨ましがっていた。
「全く、少しは節度を持って飲んで欲しいものです。これではいつまでも悪評が無くならない」
「まぁ、そう言うな。昔に比べたら随分住民から受け入れらるようになったじゃないか。その悪評もまた親しみの一つかもしれないぞ、山南?」
「物は言いようですね。リヴェリアさん」
長髪で眼鏡を掛けた理論派男子、新撰組の参謀的存在、山南敬助Lv.5。端麗な容姿から女性に間違えられる事も屡々・・・オラリオでは総司に次ぐ女性人気がある。
ベート並に下戸なので酒は飲んでいない。
「ガッハッハッ! いい飲みっぷりじゃな、若いの!」
「オレぁ、まだまだこんなもんじゃねぇ!」
「藤堂さん飲み過ぎっス!」
ガレスに煽られて酒を一気飲みするのは新撰組八番隊組長、藤堂平助Lv.5だ。試衛館時代では最年少、齢15で北辰一刀流の免許皆伝するほどの剣才を持っている。
そしてそんな平助を宥めるのは島田魁Lv.3。筋骨隆々とした肉体とドレッドヘアーが特徴の男だ。この2人は何かと一緒に行動する事が多い。
「あ、あの! 深層では助けて頂きありがとうございました! 斎藤一さん!」
静かに酒を飲んでいたこの男は新撰組三番隊組長、斎藤一Lv.6だ。鋭い目と白い長髪を後で三つ編みにしている。彼自身サディスティックな一面があり相手を少しずつ削るような狂気的な戦い方をする時がある。そんな斎藤だが、容姿は良く危険な匂いを漂わせる事から密かに女性人気が高い。
「あ? あー・・・たまたま手が届いただけだ。気にすんな」
遠征の最中、レフィーヤは斎藤に助けられたらしく深々とお辞儀している。
思っていた以上の声量と深い感謝に斎藤は困惑している。
「レフィーヤ、気をつけなさいよ。ある意味そいつが一番危険だからね」
「目をつけられるとレフィーヤも切り刻まれちゃうかもよ〜?」
「えぇっ!?」
ヒリュテ姉妹はレフィーヤを揶揄う。それを聞いた斎藤はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「そうだなぁ。丁度試し斬りできる奴を探してたんだよ」
「わ、私に手を出すとアイズさんが黙ってませんよ!!」
斎藤の悪ノリをレフィーヤは本気にして身を守る仕草をする。そんな様子を見て本気にした者はレフィーヤだけじゃなかった。
「ハジメさん。レフィーヤに変な事しないで・・・」
「冗談だって。そう怖い顔すんなよ、アイズちゃん」
睨みつけるアイズを見て斎藤はヘラヘラと笑う。そんな態度が気に入らなかったのか、アイズの目つきは更に鋭くなる。その後、近藤の鉄拳が斎藤に炸裂したのは言うまでもない。
「・・・・・・」
交流する者たちとは裏腹に端っこの方では黙々と料理を食べる2人の男がいた。
1人は最年長の井上源三郎Lv.6、温厚でおっとりした性格で非常に寡黙である。新撰組六番隊組長を務める。
(近藤さんの飯の方が美味いぞな・・・)
もう1人の近藤が作る料理の方が美味いと思った稀有な男は新撰組十番隊組長、原田左之助Lv.6。店内であるにも関わらず黒いフードを被っており、見た目からもかなり取っ付き難い。死神のような雰囲気だが源三郎ほど寡黙ではない。
「あんまりお酒が進んでないじゃない、新八」
「ん、ルノアか。ウチの連中が馬鹿やらかした時、止める役が必要だろ?」
店員のルノアと親しげに話す男は新撰組二番隊組長、永倉新八Lv.4。粒揃いの組長格の中では凡才。しかし並々ならぬ努力で及ばない剣才を体術で補う。新撰組の中では常識人の枠に入っているが、努力に関しては変態的だと思われている。
「ねぇ、新八。また憂さ晴らしに付き合ってよ」
「女と殴り合うのは気が引けるが・・・お前なら容赦しないぞ、黒拳殿?」
「その名で呼ぶなっての」
ルノアは昔依頼達成率100%の賞金稼ぎだったのだが、初めて殺し損ねたのが新八である。そんな因縁もありこうして偶に勝負している。Lv.4同士という事もあり実力はほぼ互角。
「おい、野良犬! てめぇ、今日こそ決着つけるぞ!」
「ハッ! 飼い犬の分際でいきがってんじゃねぇよ! 勝つのは俺だ!」
ベートと酒飲み対決をしている青年は新撰組副長、土方歳三Lv.6だ。ベートほどではないが酒癖が悪い上に喧嘩っ早く、戦闘狂なので強そうな者を見ると勝負を仕掛ける。新撰組がチンピラと呼ばれる一番の理由はこの男だ。
新撰組副長と呼ばれる反面“新撰組の狂犬“とも揶揄されている。
「へっ、もうフラフラじゃねぇか! 明日の見廻りに響くぞォ!?」
「てめぇこそ明日は朝早いんだろ? 日課の散歩があるからなぁ!」
「「カッカッカッ・・・・!」」
「「ーーー上等だぁッ!!!」」
飲みの席では恒例の歳三とベートの喧嘩が始まった。近藤や新八、フィンやリヴェリア達は呆れながら止めに行く。しかしそんな上級冒険者達よりも速く動いたのはこの店の女将、ミア・グランドである。実はミアは元フレイヤ・ファミリアの団長でLv.6まで上り詰めた実力者だ。
「喧嘩なら外でやんな、この悪たれども!!」
ミアのダブルパンチが歳三とベートの頬を正確に捉えて綺麗に外へ飛んで行った。打ち上げが店の中心で行われた一番の理由はこの時の為である。迅速にミアが動け、尚且つ一直線に外へ放り投げられる位置だ。
そして両団長はミアに平謝りするのがいつもの流れだ。
「痛っってぇ〜! このクソ狼のせいでまたぶん殴られちまったぁ〜!」
殴り飛ばされた衝撃でベートはそのまま爆睡し、歳三は頬を抑えながらベートを睨みつけ逆恨みしている。
「それは単なる自業自得ですよ、歳さん」
店の扉から出て来たのは2人分の料理をトレイに乗せて運んで来たリューだ。元アストレア・ファミリアの団員。
オラリオ暗黒期、人斬り集団と恐れられる新撰組とは反対にアストレア・ファミリアは“正義の味方“として慕われていた。
打倒
現在ではアストレア・ファミリアはとある事件で壊滅しリューしか生き残っていない。
「リュー! メシ持って来てくれたのか、ありがとな!」
「いえ、丁度私も休憩の時間なので・・・その、二人で食べろとミア母さんが・・・」
「やっぱここの料理うめぇ! 俺は一人分じゃ足りねぇの分かってんなぁ! さすが女将だぜぇ!」
「・・・・・・」
話しも聞かず歳三はリューの分まで平らげてしまった。それを見たリューは溜め息をついて呆れた様子を見せる。
「歳さんは相変わらずですね・・・」
「んぐっ、そう言うリューはかなり変わったよな。なんつーか、明るくなった?」
「・・・そうかもしれませんね。この店に・・・シルに助けられてから、私は随分と変わった。とは言え、貴方達の事を良く思っていないのは変わりませんが」
「ハハッ、そりゃ良いや」
歳三は酒を飲み干すとジョッキをリューに向ける。その意味を理解していないリューは顔を傾げた。
「あの、これは?」
「何って、酒ついでくれよ」
確かにトレイには酒瓶が乗っている。
「な、何故私がそんな事を!それに、私は新撰組で貴方が一番嫌いというのは何度も忠告した筈ですが!?」
「いや、知ってるけどよぉ。俺はてめぇのこと好きだぜ?」
「ッ・・・・!」
いきなりの告白にリューは目を見開き赤面する。異性から好きなんて言われるのは人生で初めてだったのだ。
「なっ・・・・ッ・・・・!」
「此処に来て初めて負かされたのがてめぇだったからな!」
「・・・・・・・は?」
イマイチ話しが見えて来ないリューは素っ頓狂な声を上げた。
「ウダイオスの時も、そんなてめぇだったから背中預けられたんだ」
「・・・・・・・・」
つまり今の告白は恋愛の情ではなく親愛の情。それを察したリューは静かに酒瓶を取る。
「お、やっとついでくれる気にーーー」
「死で償えッ!!!」
怒りに満ちたリューは酒瓶を思いっきり歳三の頭上に振り下ろす。
因みに歳三に悪気はなく本心でこれなのだ。
「ぶべっ!!!」
不意打ちを食らった歳三はその一撃でぶっ倒れ、ベート同様そのまま爆睡した。
「やはり貴様は一番嫌いだッ!!!」
そう吐き捨てて店内に戻って行く。
鬼の形相で店に入ったので客やアーニャ達が酷く怯えていた。そんな様子を見たミアは深い溜め息をついたという。
こうして新撰組の悪評を振り撒きながらオラリオの夜は更けていくのであった。
ちるらん側の時系列は終末のワルキューレで登場した辺りを想像しています。レベルについては僕の独断と偏見でつけました。