オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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暗黒期①

ーーーー暗黒期。

 

 

それは誰しも絶望し、誰しも救いを求めた時代。

 

オラリオの住民は闇派閥の恐怖に日々怯えながら生活している。ブリュンヒルデ・ファミリア、改め新撰組が都市に来てから三年の月日が流れ、現最強派閥であるロキ、フレイヤ・ファミリアや他派閥の尽力もあり治安は改善されつつあるとは言え、まだまだ誰もが望む平和には程遠い。

 

 

 

これは、新撰組がオラリオ最強派閥に数えられる少し前の話しである。

 

 

 

「死ねぇ! 庶民共ぉ!!」

 

現在オラリオ都市では闇派閥があちこちで騒ぎを起こしている。無差別に住民に襲い掛かる白装束を身に纏った暴徒だ。

 

「ぎゃああああーーー!!!」

 

「助けてくれぇーーー!!!」

 

冒険者の様に恩恵の力を持たない一般人は為す術なく逃げ惑う事しかできない。

そんな中でも彼らが希望を捨てずにいられるのは守ってくれる多数の派閥があるからだろう。

 

 

例えば、このダンダラ模様と浅葱色の羽織りが特徴の集団だ。

 

 

「オラぁ! てめぇらの相手はこの俺だぁ!」

 

新撰組副長 土方歳三、Lv.3。

 

住民の悲鳴を聞いて真っ先に飛び出して来た。無鉄砲な男だが白装束を圧倒している。

 

「後ろがガラ空きーーーぐはっ!」

 

暴れまくる歳三の背後から白装束の刃が迫っていたが、その背後には既に峰の部分に凹凸のあるソードブレイカー状の刀が突き刺さっていた。

 

「油断してんじゃねぇよ、歳さんよぉ」

 

新撰組三番隊組長 斎藤一、Lv.3。

 

「っるせぇ! 今の敢えて狙わせたんだよ!」

 

「ホントかぁ? んな空っぽの頭で?」

 

「んだとぉ!?」

 

子供のような口喧嘩をしている所、好機と見るや物陰から2人へ駆け出す白装束がいた。

 

「隙ありーーーっ!?」

 

刃を振りかぶった所で視点が二手に別れる。それを認識した瞬間、己の死を確信した。

 

「喧嘩は結構、だが戦場でそれは命取りだぞ?」

 

新撰組局長 近藤勇、Lv.3。

 

白装束を上から下へ真っ二つにしたのはこの男だ。大剣と見紛う巨大な鉈のような刀を地面に突き刺し2人へ笑い掛ける。

 

「オヤジ! 此奴がーーー」

 

「喧嘩両成敗ッ!」

 

「「イデッ!!」」

 

勇の拳骨が2人の脳天に炸裂する。そんな様子を尻目に白装束の相手をし続ける男がいた。

 

(早くこっち手伝って欲しいなぁ・・・)

 

新撰組隊士、阿比留鋭三郎、Lv.1。

 

その後加勢した歳三達によって事態は収拾する。

 

 

「オヤジさん、こっちは終わったっすよ〜」

 

新撰組八番隊組長 藤堂平助、Lv.2。

 

「皆さん、お疲れ様っス!」

 

新撰組諸士調役兼監察 島田魁、Lv.1。

 

「やっぱり喧嘩したか、アイツら・・・こっちについて良かった」

 

新撰組二番隊組長 永倉新八、Lv.2。

 

別の場所で闇派閥の対処をしていた3人が合流して来た。その別の方向からも勇を呼ぶ声が聞こえて来る。

 

「近藤局長、此方は任務完了です」

 

新撰組副長助勤兼参謀 山南敬助、Lv.2。

 

「・・・・」

 

新撰組六番隊組長 井上源三郎、Lv.3。

 

「ぞな」

 

新撰組十番隊組長 原田左之助、Lv.3。

 

「うむ、ご苦労だった。後は総司だが・・・」

 

皆を労う勇、ふとこの場に居ない新撰組最強の男を気にかける。しかしそんな勇を歳三達は笑い飛ばしながら確信していた。

 

「あいつなら大丈夫だろ」

 

「そうそう、総司さんが負けるわけないっス!」

 

「それもそうだな!」

 

バカ笑いが響き渡る中、更に別の場所では1人の男が新撰組の下へ向かうように歩みを続けている。その背後には白装束の死体の山と血の海が広がる、何があったかはもう予想できるだろう。

 

「甘いものが食べたいなぁ〜」

 

新撰組一番隊組長 沖田総司、Lv6。

 

可愛らしい容姿とは裏腹に圧倒的戦闘能力で神々を驚愕させ続け、たった3年でLv.6まで登り詰めた規格外の化け物である。とは言え他の隊士達も十分規格外なのだが総司はその中でも群を抜いていた。

 

 

 

そう、彼らが新撰組である。

 

 

 

「し、新撰組だ・・・!」

 

「よせ、目を合わせるな・・・!」

 

「くわばらくわばら・・・!」

 

住民を守る派閥の一つなのだが、その住民からの評判はかなり悪い。というより恐れられていると言った方が良いだろう。

 

 

「闇派閥ども! 我らが来たからには好きにーーーお、終わっている・・・?」

 

 

屋根の上から複数の冒険者が降りて来た。この集団は《アストレア・ファミリア》どうやら騒ぎを聞き付けて飛んで来たようだったが・・・・

 

「おうおう、遅かったなぁ。賊は始末したぜぇ!」

 

「さすが天下の“正義の味方“様、重役出勤とは畏れ入るねぇ」

 

アストレア・ファミリアが来たと見るや歳三とハジメはニヤニヤと下品に笑いながら煽る。そんなものを見せられて頭に来ない奴は居ない。

 

「貴様らぁ・・・今日という今日は許さんっ!」

 

「落ち着け未熟者。癪だが私達が遅れて来たのは事実だ。偶には野蛮な猿共に花を持たせてやろう」

 

煽られて一番に噛み付いたのは金髪長髪のエルフ、リュー・リオン、Lv.3だ。そしてそれを諌めると思いきや毒を吐いて来たのは黒髪長髪の和風な人族、Lv.3のゴジョウノ・輝夜だ。

 

歳三、ハジメ、リュー、輝夜が火花を散らす中、アストレア・ファミリア《団長》アリーゼ・ローヴェル、Lv.3。赤髪のポニーテールが特徴の明るい少女が両陣営に割って入って来た。

 

「ちょっと、私達の敵は闇派閥でしょ? 幾ら下品でガサツで汚い人達でも味方なんだから仲良くしましょう!」

 

「アリーゼ、火に油を注ぐって言葉知ってるか?」

 

アリーゼは良くも悪くも素直な人間なのだ。だからその言葉に特に悪意は無いのだが、それ故に仲裁にはあまり向いていない模様。逆効果だと顔に手を当てて呆れている桃髪のショートヘアの小人族、ライラ、Lv.2は溜め息をついていた。

 

「上等だよ、この野郎! 今日こそ決着つけてやらぁ!」

 

「良いだろう、あの時の様にまた地面に這いつくばらせてやる!」

 

「いつの話ししてやがんだぁ!? もうてめぇなんざとっくに超えてんだよ!」

 

「強くなったのは貴様だけでは無い! やはり貴様の様な阿呆はやり過ぎるくらいが丁度良い!」

 

歳三とリューが武器を構えて今にも殺し合いを始めそうな雰囲気の中、ハジメと輝夜はと言うと・・・・

 

「んじゃあ、いつも通りてめぇは俺とだな。輝夜?」

 

「ふん、気安く私の名を呼ぶな。下品な蛇めが」

 

「ハッ、てめぇに言われちゃ終いだ」

 

激しく罵り合う歳三達とは裏腹に冷たく静かに毒を吐き合うハジメ達だった。此方も戦う気満々と言った所だろう。

 

「アリーゼ、流石に止めた方がいいんじゃねぇか?」

 

「そうね・・・あ、大丈夫そうよ」

 

止めに入ろうとライラや新八等が動こうとしているが、アリーゼには確信があった。

 

 

「「イデッ!!!」」

 

 

鈍い音が歳三とハジメから発せられた。

 

 

勇の拳骨だ。

 

 

「すまないな、アリーゼ。此奴ら喧嘩っ早いもので」

 

「いいえ、此方こそごめんなさい」

 

お互い責任者が頭を下げて謝罪して漸く事態は収拾したのだが。喧嘩していた4人は納得行かないと言った様子で睨み合っていた。

 

「団長様がそうおっしゃるのなら矛を収めますわ」

 

「命拾いしたな」

 

「こら、リュー!」

 

戦闘態勢も解除され拳骨をくらって悶絶している歳三とハジメが回復しだい解散の流れだったのだが、勇の頭に突然名案が閃く。

 

「そうだ! 丁度今、作り立ての漬け物があるんだ。友好の印に皆で食べよう!」

 

 

 

「「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」」

 

 

 

何処からその壺を出したのか全く理解できないが、それよりも勇の手料理と聞いて左之助以外の全員が戦慄した。

 

以前炊き出しでアストレア・ファミリア含む他派閥や住民に勇の料理を振舞ったのだが、案の定食べた新撰組以外の全員が一週間寝込んでしまったのでトラウマがあるのだ。

 

急に全員が体調不良で苦しみ出したので、流行病の可能性、ギルドの策略等、無駄に深い考察を闇派閥がしてしまい、警戒せざるを得なくなり収まるまで一定期間の襲撃が無かったとか・・・・

そのお陰で新撰組が闇派閥側だと疑われる事は無かったが、新撰組が住民から恐れられている理由の三割は勇の手料理である。

 

「お、おい・・・皆で一斉に逃げようぜ」

 

「え、えぇ・・・その方がーーー「何処へ行くんですか〜?」ーーそ、総司君!」

 

歳三が小声で提案を持ち掛け、それに便乗しようとしたアリーゼの背後から総司の声が聞こえて来た。

 

「やっべぇのが戻って来ちまったなぁ・・・」

 

「なんてタイミングの悪ぃ・・・」

 

平助とライラが頭を抱える理由・・・それは勇が手料理を振る舞う以上、逃げる事も残す事も許されないからなのである。

皆も分かっているから半数はもう諦めムードだ。

 

「近藤さんの料理・・・無駄にしちゃダメですよぉ〜?」

 

好戦的な笑みでこの場を支配し、逆らえば殺されると全員が錯覚した。

 

「わ、私達最近太っちゃって〜。ほら、美し過ぎる美貌を保つには規則正しい食生活が不可欠で・・・」

 

「近藤さんの料理は体に良いですよ。だから幾ら食べても太とりませんよ〜」

 

「いや、んなわけねぇだろっ!」

 

「はぁ、これが最後の晩餐とは・・・」

 

「輝夜、遺書を書くな!」

 

「こうなったら味が分からなくなるまで食べ続けるしか・・・」

 

「リオン、自暴自棄になるな!」

 

現場がてんやわんやして来た所でアリーゼが起死回生の一手を思いつく。

 

「もうこれしかないわね・・・」

 

勇が皿に漬け物を盛っている姿を他所に全員の視線がアリーゼに集中する。

 

 

 

 

「全力で散り散りになって全速で逃げるっ!!!」

 

 

 

 

「「「「「「「「「乗ったぁ!!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

その言葉と共に勇と総司と左之助以外の新撰組、アストレア・ファミリア、全ての人員がバラバラに逃げる。

 

「逃がしませんよぉ〜。誰一人ぃ・・・・」

 

これより史上最悪の鬼ごっこが始まったのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あの後みんな全力で逃げたけど10分もしない内に殆ど捕まってしまったわ!」

 

「誰に説明してんだよ、アリーゼ・・・」

 

先程の場所で総司に捕まった者は正座させられ苦悶の表情で目の前にある物体と睨み合っている。

 

「そう言えば土方君と疾風殿が見当たりませんね」

 

「運良く逃げ切れたみたいで羨ましいな・・・」

 

敬助の言う通り2人がいない。そして総司は飽きたのか捜索を放り投げて勇の料理を食べている。

 

 

 

現場から遠く離れた廃墟では息を切らした歳三とリューが潜伏していた。無我夢中で逃げた為、偶然隠れ場所が被ってしまったようだ。

 

「よりにもよって・・・貴様と一緒とは・・・私もついてない・・・」

 

「そりゃ・・・俺のセリフだっての・・・」

 

息を整え、リューは立ち上がり廃墟から去ろうとする。

 

「待て、此処にいろよ」

 

「な、何故だ!?」

 

「てめぇが総司に見つかって、道連れで俺を売るかもしれねぇ」

 

「侮るな、そんな卑怯な真似はしない!」

 

「そうかよ」

 

暫し無言の時が流れ、腰を下ろしていた歳三は立ち上がり近くにあった木箱を物色し始めた。

 

「何をしている?」

 

「ここは昔、酒場だったんだよ。今はこの通り潰れちまったけどな」

 

闇派閥との抗争で破壊されそのまま閉店してしまったようだ。

 

「答えになっていない。何故漁る必要があるんだと聞いている」

 

「んなもん決まってんだろ? “これ“だよ、“これ“」

 

木箱から取り出したのは1本の酒瓶だった。昼間から酒を飲もうとしているのかと軽蔑に似た眼差しを送るがそれ以前に・・・

 

「貴様、店の物を勝手に!」

 

「別に良いだろ? どうせ潰れてんだし、硬ぇこと言うなよ」

 

「そういう問題ではーーーっ!」

 

非難の声を黙らせるように1本の酒瓶が投げつけられリューも反射的にそれを受け取る。

 

「ほれ、てめぇにもやるから大人しくしろ。飲み過ぎんなよ」

 

「わ、私はこのような物は飲まん!」

 

「お子ちゃまにはまだ早かったか。ならさっさと帰って正義の味方ごっこでもしてるんだな」

 

「何だと、貴様ァ!」

 

歳三の一言でカチンと来たリューは手に持っていた酒瓶の蓋を開ける。

 

「酒の1本や2本で私の正義を侮辱するな!」

 

「お、良いねぇ。そう来なくちゃな」

 

煽り耐性の無いリューは歳三の狙い通り酒を一気に喉へ流し込む。それを見た歳三はバカ笑いしていた。

 

「よ〜し、俺も負けてらんねぇ」

 

リューに負けじと酒瓶を開けようと蓋に手をかけると数人の闇派閥が先制攻撃を仕掛けて来た。

 

「土方歳三と疾風だぁ!!」

 

「覚悟しろぉ!!」

 

 

 

「酒盛りの邪魔すんじゃねぇ!」

 

 

 

酒瓶を投擲し一人の顔面に炸裂しそのまま転倒するが勢いは止まらない。しかし歳三が抜刀するには十分な時間がある。

 

「リュー、二人で此奴らをーーーえ、リュー?」

 

歳三が目にしたのは千鳥足気味で顔を真っ赤にしたリューだった。

 

「土方さんも飲んれくらさいよぉ〜」

 

「お、おい。お前もしかして・・・酒、弱いの?」

 

「ありぇ、土方さんが一人、二人・・・いつの間に分身魔法を覚えたんれすかぁ〜?」

 

「話しが通じねぇ!? おいしっかりしろ! 目の前、敵、敵襲だぞ!?」

 

「髪なんか伸ばしてぇ〜。切れぇ! 今すぐ切れぇ!」

 

「別に今は伸ばしてねぇよ! てかなんで知ってんだ!?」*1

 

自分で飲ませておいて予想外の敬助クラスの下戸に戸惑っている。

 

「な、なんだか分からんが、好機だ!」

 

「まとめて殺せぇ!!」

 

闇派閥も戸惑っていたが我に返り好機を逃すまいと二人へ斬り掛かる。

 

「チッ、てめぇらなんざ俺一人で十分だぁ!」

 

何人もの闇派閥を相手にしているが、全く歯が立たない。リューを狙いに行こうとしても歳三が立ちはだかり逆に斬られるという始末。統率の取れていない烏合の衆など歳三の前では恐れるに足らん。

 

もう直ぐ方が着く。そんな時、歳三の背後から異様な程の魔力を感じた。

 

 

 

『今は遠き森の空ーーー』

 

 

 

泥酔して呂律も回らぬ口で詠唱を始めていた。驚くべきところはその魔法に込められた魔力量。数人の闇派閥に向けるには過剰なまでの力だった。

 

「ちょ、‎マジか!?」

 

硬直している闇派閥よりも早く出口へ駆け出す。リューの攻撃魔法の対象には歳三も入っていたからだ。

リューが放とうとしている魔法の効果は新緑色の風を纏った無数の光の大玉を広範囲に放つ事が出来る。

 

つまり広域攻撃魔法だ。

 

それを一方向に向けて放とうと言うのだ。

泥酔して焦点が定まらないリューに最早歳三と闇派閥の区別がついておらず、加えて加減も無しとなれば逃走は必須。

 

 

 

『ルミノス・ウィンドぉ〜』

 

 

 

無数の大玉が歳三と闇派閥目掛けて襲い掛かってくる。同時に逃走している全員の脳裏に同じ言葉が過ぎった。

 

 

 

「「「「「「「あ、これ死んだ」」」」」」」

 

 

 

放たれた魔法が轟音と爆風が全てを蹂躙する。ここが人気の無い場所で本当に良かった。一般人を巻き込まずに済んだのだから。

 

「これで一件落着れすねぇ〜。あはッ、あはははは!」

 

潰れた酒場から原型が分からないほど破壊され、その中で一人楽しげに大笑いしている。

 

「酒癖悪過ぎんだろ・・・」

 

巻き込まれながらもギリギリ生存した歳三は静かに思った。

 

その後、歳三は爆睡したリューをアストレア・ファミリアの拠点へ帰した。その際、アリーゼや輝夜に遭遇したのだが、二人の惨状を見て流石に何も言えなかったとか。

そしてリューは今回の事を死ぬほど弄り倒されるのであった。

 

*1
土方はちるらん作中で一時期髪を伸ばしていた。

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