オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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殻を破れ

白髪の少年が襲われてる・・・

 

逃げて来た冒険者からそれを聞いた瞬間嫌な予感がして冷や汗が滲み出す。

 

(まさか・・・襲われてるのは・・・ベル(あの子)!?)

 

そう思った刹那、身体は9階層へ向かっていた。静止を促すベート達の声を無視して、後を追う総司の事も無視して・・・

 

(襲われてるのが本当にあの子なら・・・)

 

最悪の展開を想像する。今の彼が戦ってはいけない相手。

 

(勝ち目は・・・無い・・・!!)

 

9階層へ辿り着いたアイズ。ミノタウロスの鳴き声と戦闘音は微かに聞こえる事から確実にこの階層にいる事がわかった。しかし音が反響して場所の特定が出来ない。

 

(どこ!?)

 

焦るアイズ、刻一刻と彼の命は削られている。

 

「冒険者様・・・どうか、お助け・・・下さい・・・!」

 

振り返るとそこには全身ローブで身を包んだ小人族(パルゥム)の少女がいた。傷だらけで今にも倒れそうな様子からあのミノタウロスと何らかの関係があると推測しアイズは身体を支える。

 

「あの人を・・・”ベル様”を助けて下さい・・・!!」

 

その名を聞いたアイズは嫌な予感が的中してしまった事を悟る。

 

「場所は?」

 

「正規ルート・・・Eー16の広間に・・・!」

 

少女の示した方向を見ると一つの人影がこちらへ近づいて来る。

 

(何故、今ここに・・・!?)

 

姿を現した猪人(ボアズ)の大男は所持していた複数の武器の中から大剣を取り出して構える。

 

剣姫(けんき)手合わせ願おう」

 

彼の名は【猛者(おうじゃ)】オッタル、【フレイヤ・ファミリア】団長であり現時点で都市唯一のLv.7。事実上オラリオ最強の冒険者だ。

 

「敵対する積年の派閥(かたき)と一人ダンジョンで相見えた・・・殺し合う理由には足りんか?」

 

アイズの中で様々な思考を巡らせる。やるしかない、そう覚悟を決めた時自分の真横を何が通り過ぎた。

 

「総司!?」

 

自分には目もくれず真っ直ぐ【猛者(おうじゃ)】に向かって行く。

 

「待ッーーー!!」

 

止めようとした瞬間、総司の姿が消える。否、意識から外れたと言ってもいいかも知れないそんな感覚。総司は何も考え無しに突っ込んだ訳では無い。相手の力量を冷静に判断し最も突破する可能性の高い選択を選んだ。ベルを助ける為に止まってはいられない、故にスピードを落とせない。

 

なので総司が会得した歩行術【虚狼(うつろ)】を使い突破を試みた。しかし、現実はそう甘くはなかった。

 

「ゴァッーーー!!!」

 

オッタルの横を通り過ぎようとしたら放たれたラリアットをまともにくらってしまう。

 

確かに初見での【虚狼(うつろ)】ならば第一級冒険者でも不意を突けるかもしれない。事実アイズには通用した、総司の見立ては間違っていなかった。だが相手が悪い、そのアイズを遥かに凌駕するオッタルには通用しなかった。それ程までに規格外なのだ、Lv.7と言うのは・・・

 

「認識の不意を突くか・・・大したものだ。お前が更に上の高みに到達していたなら或いは・・・」

 

オッタルの見立てではLv.3なら危なかったと思っている。尤もそれは初見での話しだが。

 

ラリアット一発で意識を刈り取られた総司は壁に激突しそのまま倒れ伏す。その衝撃で総司のアイテムが散らばった。

 

「くッーー!!」

 

総司の介抱をしたい気持ちはあったが今優先すべきはベルの救出だ。

 

「そこを・・・どいてッ!!」

 

剣姫(けんき)】と【猛者(おうじゃ)】の戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

2人の第一級冒険者が戦っている。目を瞑っていてもわかる程凄まじい戦闘音。

 

「くっ・・・うぅ・・・」

 

薄らと目を開けると少し先で倒れ伏す総司が目に入った。

 

(総司様・・・)

 

全身に激痛が走る中必死に総司の下へ這い寄る。地面が揺れ突風が吹き荒れる、それでも尚前進し続けるのは言うまでもないベルの為だ。少しでも戦力を増やしベルの救助へ向かわせる為に。

 

「こ、れを・・・」

 

死にかけの力を振り絞り総司の周りに散らばっていた回復ポーションを拾い何とか口まで運び飲ませる。

 

「う・・・くっ・・・」

 

散らばっていた全ての回復ポーションを使い果たし漸く意識を取り戻した。それでも回復しきれない事にリリは驚愕する。

 

「総司・・・様、大丈夫ですか・・・?」

 

「え、えぇ・・・バッチリです・・・」

 

嘘だ。本当は殆どダメージが残っていて今にものたうち回りたい衝動に駆られていた。

 

(唯のラリアット(突き出し)がなんて破壊力だ・・・!)

 

フィンの打撃、オークの棍棒、食人花(アイツ)の鞭、どれもかなりの激痛だったが無意識が入り込む隙間はあった。しかしこいつ猛者の攻撃にはそれが無い。一瞬で意識を奪われ無意識に【鬼子(おにご)】を発動させる余裕すら無かった。

 

(総司様・・・やはりダメージが・・・)

 

こんな時にあのバカデカいリュックがあれば回復ポーションなんて幾らでも使うのに、肝心のリュックを落としてしまった。その場に力尽きた様に倒れ伏したリリは悔しい思いをした。

 

「総司!!」

 

「フィン、さん・・・すみません・・・」

 

「喋るな。リヴェリア、回復魔法を!」

 

駆けつけたフィンは総司の身体を支えてリヴェリアを呼ぶ。

 

「先走りおって、愚か者が・・・」

 

回復魔法を使おうと伸ばした手を総司は跳ね除け、リリの方を指差した。

 

「総司、何を・・・?」

 

「リヴェリアさん・・・先に、リリちゃんを・・・」

 

お前の方が重傷だろう、そんな言葉が出て来そうな時だった。

 

「僕は大丈夫ですから・・・早くリリちゃんを・・・ベルさん(あの人)を・・・頼みます・・・」

 

掠れる声で懇願する姿を見たリヴェリアは疑問に思った。確かにこの小人族(パルゥム)を見るに、今襲われてるのは総司とパーティを組んでいる少年なのだと推測出来るが、その少年は自分の命より優先するに値するのかと甚だ疑問に思っている。

 

「いや、お前にはあるのだろう。譲れない何が・・・」

 

そんな総司の様子を見たリヴェリアは疑念を一旦置き理解する努力をした。

 

「さて、オッタル・・・」

 

「フィンか・・・」

 

一先ず大丈夫だと確信したフィンは立ち上がりこちらに近づく【猛者(おうじゃ)】に目を向ける。戦闘は既に終わっていたらしくアイズも加勢したティオネ、ティオナ、ベートと共にベルの下へ向かったようだ。

 

「この戦いは派閥の総意、ひいては君の主の神意と受け取っていいのかなーーー女神フレイヤは、全面戦争をお望みで?」

 

「・・・俺の独断だ」

 

武器を捨て戦う意思は無いと示す。

 

「お前達が徒党を組む以上、俺に勝ち目は無い」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。僕達も君とは事を構えたくない」

 

「留められなかったこの不覚、呪うぞ・・・自分の無力を棚に上げて言おう」

 

自身の無力は噛み締めて放った言葉は誰を指しているのだろうか。

 

「ーーー殻を破れ」

 

この先で今も戦闘(冒険)を続けているであろう少年に向けた言葉だと言うことは本人しか分からない。

 

「他者の手など跳ね除けろ『冒険』に臨め。お前が見るべきものは前だけだ」

 

あの御方の寵愛に応えろ。

 

剣姫が差し伸ばす手を跳ね除け”白兎は猛牛に挑む”ーーー

 

 

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