「お待ちしておりました。フレイヤ様、ロキ様、そしてーーーーアストレア様」
オラリオでも知る人ぞ知るカフェ界隈の秘境《霞の蔵》、その個室にフレイヤ、ロキ、アストレアが入室する。その三柱の前に跪き出迎えたのはブリュンヒルデ・ファミリア《新撰組》主神ブリュンヒルデであった。
「お、ブーちゃん! 久しぶりやな! 今日こそ揉ませてや、そのおっぱーーー」
「ごめんなさいね、待たせてしまって。そんなに畏まらなくても良いのよ?」
「そうよ、せっかくの女子会なんだし・・・ね?」
ロキを無視して強引に押し退けフレイヤとアストレアはブリュンヒルデに微笑む。
「いえ、そういう訳にも行きません。長女である私がしっかりしなければ、妹達に示しがつきませんから」
「うんうん、えぇ心掛けや! ならそろそろ揉ませてもらおうーーー」
「それでは皆様、あちらの席へどうぞ」
「あれ無視かな!? 神格の話しなんだったん!?」
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ギルド本部、会議室にてオラリオでも代表格のファミリアが揃っていた。
「揃ったな。では、定例の
ギルドの最高権力者、エルフのロイマンが口を開く。容姿の整った者が多いエルフの中では珍しく、醜く太った男だ。優秀だが性格が悪く同族や他種族に対しても態度が悪い。
「その前にーーーいつになったら大人しくなるんだ、あの悪たれどもは! また住民から苦情が来たぞ!」
「め、面目ない・・・」
ロイマンは参加していた新撰組局長、勇を叱りつける。その隣で敬助は頭を抱えていた。
当然住民の目に斬殺死体が映るのでそれでギルドへ苦情が入る事が多々あるのだ。
「ふん、塵を片付けて罵られるとは・・・この街も腐ったな」
最大派閥の一角《フレイヤ・ファミリア》幹部、アレン・フローメルがイラつきを隠さず毒を吐く。
「全てのオラリオの民の声を一身に受け止めるギルドの身にもなれと言っているんだ!」
「馬鹿か。此奴らがいなきゃその民も死んでんだろうが。無能が露呈する前にその薄汚ぇ口閉じろ、豚が」
「き、貴様!」
「アレン、止めよう。話しが進まない」
「その口で俺の名を呼ぶんじゃねぇ小人族、虫唾が走る」
アレンを宥めるのは最大派閥のもう一角《ロキ・ファミリア》団長のフィンだ。しかしアレンはフィンにすら容赦なく噛み付く。
「意思の疎通もできないとは、神フレイヤの品性も底が知れるな」
「殺されてぇのか、羽虫が」
《ロキ・ファミリア》幹部のリヴェリアも呆れている。察しの通りこの両派閥は仲が悪い・・・では足りない、下手すれば殺し合いさえ厭わないほど険悪な関係だ。
「まぁまぁ、落ち着いて。今回も私のせいでギルドへ負担をかけたのは誠に申し訳ない。しかしオラリオを危機に陥れる賊は全て粛清するのが我々の仕事、そちらはそちらの仕事を真っ当して頂きたい。よろしいですな、ギルド長殿?」
勇は笑顔で頭を下げるがそこから発せられる剣圧はロイマンを震え上がらせるのには十分だった。
「で、では、会議を始めよう。問題はやはり
「ここ最近の襲撃件数は増加傾向にある。だがいずれも少数による襲撃が多い」
「この変化・・・何か企んでいると考えるのが妥当だろう」
「それについては先程こちらの“監察“が有力な情報を手に入れました」
「山崎、いるか?」
「ーーーあい」
壁に飾ってある絵の額縁がズレてそこからシュコー、シュコーという呼吸音と共に一人の男が這い出てきた。
その半面形のガスマスク状の物で口と鼻を覆っているこの男は新撰組監察、山崎烝、Lv.1。
「ふ、普通に出てこんか!」
不気味な登場の仕方に思わず声を荒らげるロイマン。しかしその場にいた誰しもが同じ事を思ったのは間違いないだろう。
「山崎、あれを」
「今、再生するでゲス」
勇の指示で烝はこめかみに右手の人差し指を当てマスクからカチッ、カチッ、ジィーッという音がなる。
『ヴァレッタ様の予想通り、この頻度で襲撃すれば冒険者共も右往左往しているな』
烝の口から発せられた声は本人の物ではなかった。声の正体は
烝は一度見聞きしたものは細大漏らさずに記憶し、さらにその会話を本人の声で再現することが出来る能力を持つ。
それを活かして生前では芹沢派、近藤派でそれぞれスパイ活動をしていた。
「相変わらず優秀な人材だね」
「全くだな」
烝の能力はオラリオ中を探しても二つと無い物。しかもスキルや魔法の類いでは無いというので欲しがる派閥は多くいる。
「銭しだいであっしの腕は買えやすよ」
「ふん、金で動く奴は信用できんな」
関心する皆とは裏腹にアレンは烝を快く思っていないようだ。しかしそれは烝個人の話しであり、新撰組への評価は意外と高い。
「まぁまぁ、続きを聞いてみましょうよ」
アリーゼが場を宥めると烝は再び人差し指を顳かみに当てる。
『しかし、この前盗んだ撃鉄装置なんて何に使うんだろうな?』
『あぁ、あれで爆弾を作って街を破壊するらしいぞ』
「ば、爆弾だとッ!?」
「確かに襲撃された場所の中には魔石工場もあり、撃鉄装置が盗まれた形跡もあったな・・・」
ガネーシャ・ファミリア《団長》シャクティ・ヴァルマ、Lv.4。この派閥はオラリオを守るために結成された憲兵隊のような部隊だ。
問題児の多い新撰組に対しても毅然とした態度を振る舞うしトラブルを起こしたら「問答無用で捕縛せよ」と命令するくらい厳しい。
しかし対
「撃鉄・・・?」
「魔石灯を初めとする魔石製品の心臓部だ。それを爆弾として使う気だ」
「なるほど、それなら戦闘能力を殆ど持たない信者でも有効打を与えられるってわけね」
『五日後にこの爆弾を街に投下してオラリオを混乱に陥れるってわけだ』
『その混乱に乗じて街へ攻め込むのだな?』
『その通りだ。さぁ、そろそろ拠点に戻ろう』
「今の音声に加え、
再生が終了したので敬助は眼鏡の位置を直し口を開く。
「でかしたぞ! これでヘルメス・ファミリアの偵察隊が発見した拠点と合わせて三つ。そして奴らの作戦の全貌。これはデカい!」
「決行は五日後か・・・奴らの予定に合わせる必要は無い。その前に叩くのみだ」
「拠点の一つはアストレア・ファミリアが請け負うわ!」
アリーゼが突然声を上げる。それに一瞬目を丸くしたフィンはアリーゼに語り掛ける。
「・・・まだ何も言ってないんだけどね」
「三つの内二つは最大派閥さん達に任せるとなると、もう一つは誰かがやらないと行けないでしょう?」
確かにその通りだ。しかしそれを聞いて黙っていない漢かいるのも確かだ。
「それなら我々《新撰組》が務めよう。頭数ではアストレア・ファミリアに劣るが、此方には総司がいる。それに討ち入りならお手の物だ」
「確かに質なら負けるわ。でも拠点にはどれほどの規模の敵がいるか分からない。ここは数に頼るべきだわ、誰も死なせない為にも」
新撰組は誰一人として死を恐れていない。武士たるもの散るべき時は潔く散る覚悟はできている。しかしアリーゼの目を見て“本当に誰も死なせたくない“という想いは伝わって来る。
「なら、我々ガネーシャ・ファミリアもアストレア・ファミリアと連携する。これなら問題無いだろう?」
「確かに、他派閥との連携は向いてませんからね・・・
「う、うむ・・・では、討ち入りは双方に任せよう」
「ありがとう、近藤さん」
「こりゃ、あの狂犬野郎ブチ切れるだろうな」
「ライラ、放って起きましょう。あのような野良犬」
感謝するアリーゼを他所に輝夜は本人がいないからと容赦なく罵倒する。そんな輝夜をアリーゼは軽く叱るが全く悪びれていない。
「ここに歳さんがいなくて良かった」
「言ったでしょう? 連れて来ない方が良いと」
この会議に参加している新撰組は勇と敬助、烝だけだ。副長である歳三がこの場にいない理由はもうお分かりだろう。文字通り話し合いにならないのだ。
「とにかく、拠点は僕ら、オッタル達、そしてアリーゼとシャクティ達で攻めよう。新撰組や他の有力派閥はこれまで通り目を光らせておいてくれ」
この場にいないヘファイストス、イシュタル、デュオニュソスといった有力派閥への協力要請はロイマンが務める事になっている。
「特に総司は対人ならオッタルも凌ぐ強さを持っている。戦力的に連れて行きたかったが、罠である可能性も考えて残ってもらう・・・そう彼に伝えてくれ、近藤君」
「了解した、フィンさん」
この拠点が罠である可能性も考慮するとLv.6である総司には新撰組や有力派閥と一緒に街を守って貰いたいようだ。
闇派閥掃討作戦の決行は三日後。各派閥最善の準備を進め決戦に挑む。
この作戦がオラリオを救う『正義』の鉄拳となるか、それとも全てを闇に引きずり込む『悪』の咆哮となるか・・・・・それは誰にも分からない。
しかし、一つの事実として『悪』の裏にはもっと強大で邪悪な『巨悪』が潜んでいる事を『正義』は知らなかった。
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「内通者から報告があった。掃討作戦は三日後だ」
オラリオの何処か地下のような場所だろうか。そこは所謂
そして今喋った白髪で長髪の男は
「ハハッ、でかしたぜ! 信者様々だなぁ」
下品に笑うこの女は同じく
「まさか数年前に送り込んだスパイの初密告が今日だとはな」
「奴らは鼻が利くからな。特に新撰組の監察、あの野郎には昔散々引っ掻き回されたからなぁ。年単位で仕込んだ甲斐があったぜ」
「その上、襲撃させた信者には“偽の情報“のみを吹き込んでいるという徹底ぶり・・・・見た目に似合わず狡猾ですね」
ヴァレッタとオリヴァスの他にもう一人男がいた。口振りからこの男も
「ククッ、別に嘘は言ってねぇぜ〜? ちゃんと爆弾は使う。但し・・・“使い方“は違うがなぁ」
ヴァレッタが警戒しているのはフィンだけじゃない。丞を含めた新撰組の連中はある意味フレイヤ・ファミリアよりも厄介なのだ。
「敵を騙すにはまず味方から・・・・とはよく言ったものですね」
「そんなに褒めんな、気持ち悪ぃ。それより『顔無し』てめぇの主神はどこ行った?」
「さてさて、あの方も神なので・・・・今も一人でふらついているのではないでしょうか」
「おい、てめぇらはまだフィン達に顔割れてねぇんだからあんまほっつき歩くんじゃねぇよ」
「強く言い聞かせておきますよ。効果があるかは別として」
「ったく、困ったパトロンだぜ。黒幕は黒幕らしく椅子の上にふんぞり返ってろよな」
顔無しと呼ばれた男の主神の自由奔放さに苛立ちを隠そうともしないヴァレッタだが、気にせず振り返り少し離れた位置に鎮座している“二人“に目を向ける。
「つぅーわけだ、宴は三日後。準備しといてくれよ? “切り札“さん方よぉ」
切り札と呼ばれた内一人が口を開く。
「時が来たら呼べ。どうせこの身は戦場でしか役に立たん・・・決戦の日までせいぜい腹を空かせておこう」
顔に傷のある男はただ静かに佇む。
「てめぇらがいねぇと話しにならねぇからな。あの出鱈目な猪野郎と道化の連中・・・・そして、人斬りの鬼子をぶっ潰してーーー」
「ーーー五月蝿い」
ヴァレッタの言葉を遮り、“もう一人の切り札“である女が毒を吐く。
「耳障りを通り越して汚泥そのものだ、貴様の声は。不愉快だ、吐き気がする。死にたくなければその口を閉じろ」
「ッ、てめぇ・・・!」
「その辺にしておけ。目的は違えど、同じ過程を辿る同志なのだから。我が主神の宿願・・・オラリオの崩壊はすぐそこだ」