ミノタウロスとの戦いから2日経った頃、ベルはLv.2へランクアップし《
「あ、ベルさん。こっちですよー!」
「もう! ベル様が居なきゃ誰のお祝いパーティ何ですか!」
「ご、ごめん・・・」
《豊穣の女主人》にてベルの祝勝会が行われた。シルに呼ばれたベルは照れながらテーブルの席に着く。周りには他の客もいる為、今話題の中心にいるベルは当然注目を浴びている。
「白髪のヒューマン・・・まさかアレが・・・」
「あんなガキがミノタウロスを・・・?」
「1ヶ月半はいくら何でもねぇって・・・」
ヒソヒソ声で噂話をする冒険者達は羨望、嫉妬、疑念等様々な感情を表に出していた。尤も疑念に関しては無理もない、従来の最速でアイズ・ヴァレンシュタインの1年、それを大幅に上回る記録だ。
そして本来ランクアップは複数の冒険者でパーティを組み数年かけて偉業を成し遂げる物、それを覆したベルは良くも悪くも注目を集めてしまう。
「一躍有名人ですね! ベル様!」
「そうなのかな・・・さっきも知らない神様達に追い回されたけど・・・」
「名を上げた冒険者の宿命です」
オドオドするベルにシルの隣りに座っていたリューはベルのランクアップを認めているようだ。
「それにしても、本当に残って良かったの? 総司・・・」
目線の先には現在遠征中の筈の総司が座っていた。
「遠征なら良いんです。誘ってくれたフィンさんには悪いですけど、この先は自分の足で進みたいんです」
「総司・・・」
満面の笑みを向ける総司に強い意志を感じ取ったベルは納得した。遠征に参加していれば中層どころか下層にも到達出来るがそれでは意味が無い、ロキ・ファミリアに守られながら進んだところで何の意味も無いと考えた。
「おっまちどぅ!」
ドンッと置かれた大ジョッキ、中身は酒のようだ。
「お、お酒!?」
「ニャ? お祝いに酒は必需品ニャ!」
酒なんて飲んだ事の無いベルは大ジョッキに注がれた酒に尻込みしていた。そうとも知らずマイペースに酒を勧めるアーニャ、十中八九この店の女店主ミアの差し金だろう。
「ミア母ちゃんから伝言ニャ! シルとリューは貸してやるから存分に笑って飲め!」
「後は金を使え! たまには羽目を外して酒にも挑戦してみるといいニャ!」
アーニャの後ろから追加の料理を運んで来たのはクロエだった。総司が初めて来た日は恐ろしい目にあったが、ベルとの付き合いでこの店で食事する度ルノアやミアに鉄拳制裁をくらった事により丸くなった為警戒度は下がった。
「今日はめでたい日なんだから変な気は起こさ無いニャ。じゅるり」
訂正しよう、目がやばいので警戒度は上がった。
「これで料理は揃った事ですし、始めましょうか!」
それぞれが飲み物を手に取る。
『冒険者、ベル・クラネル。ランクアップおめでとう!』
乾杯した5人はベルの祝勝会を始めるのであった。
わいわいと賑わう店がより一層賑やかになる。一部怪訝そうな眼差しを送る者もいたがベルは気づいていないようだ。
「さぁベルさん。沢山お食べになって下さい!今日の主役はベルさん何ですから!」
積極的に料理を取り分けるシルはかなり上機嫌の様子だ。
「あ、ありがとうございます。何だが今日のシルさん機嫌良さそうですね!」
「ふふっ、私のお手柄というのはおこがましいんですけど・・・
「シルさん・・・」
うっとりとした眼差しでベルを見詰めベルも顔を赤く染めているとリリに太ももを抓られてしまった。
シルが何を言っているのか総司には分からなかったが幸せそうな顔をしていたのでそのままスルーした。
「クラネルさん、私は貴方の事を見誤っていたようだ。よもや1人でランクアップを成し遂げるとは・・・」
「い、色んな人に助けてもらったおかげですよ。リューさんにだって僕は・・・」
「謙遜しなくていい。Lv.1でミノタウロスを単体で倒した事は紛れもない偉業、貴方はもっと自分を誇るべきです」
「リリは心配で心配で堪りませんでしたけど、何度この胸が張り裂けそうになったことか・・・」
「ご、ごめん、リリ・・・」
「・・・でも、格好良かったですよ。ベル様?」
ベルの傍に擦り寄りにっこりと微笑むリリに思わずドキッと頬を褒めてしまうベル。
「しかし、本当にベルさんは強くなった」
総司の単純な実力は確かにLv.2の駆け出しと同等と言ってもいい、しかしあの強化種のミノタウロスには勝てるビジョンが見えないと総司は思う。もしあの時の戦いがベルではなく総司だった場合、勝敗は分からないがただ一つ苦戦を強いられるのは確かだ。
「出会った頃とはまるで別人、体躯の差を技や駆け引きで補う・・・実践戦闘の基本です。それもいつの間にか身に付いている。良い師を見つけたようですね」
「うん。少し天然だけど、一生懸命教えてくれた。どんなに失敗しても気を失っても見捨てないでいてくれた・・・だから僕は強くなれた」
アイズに出会わなければ何も出来ない、何も変えられない弱虫のままだった。
「ふふふっ・・・いつか貴方とも戦ってみたくなりましたよ!」
「ははは・・・そんな日が来ない事を切に願うよ・・・」
仲間同士で戦うなんて嫌だと考えるベルだが本当の理由は別にある。単純に総司が怖いのだ。普段は愛嬌のある振る舞いをしているがダンジョン内、特に戦闘時は別人のように人が変わる。ここまで来ると二重人格を疑うレベルだ。しかしそんな彼に畏怖の念を抱きながらも尊敬しており大切な仲間と思っているのも事実だ。
そんなベルとは裏腹に総司の中でベルの株は鰻登りだ。正直今まで彼の事は守るべき仲間としてしか見ていなかったがあの戦い以来好敵手へ繰り上がった。
「ところでクラネルさん。今後はどうするつもりで?」
「え? 明日は取り敢えず総司とリリと一緒に装備品を揃えようかと。防具とか一杯壊れちゃたんで・・・」
「・・・それがベル様。実は下宿先の仕事が急に立て込んでしまって、明日はご同伴出来そうにないのです・・・」
「あ、僕も明日はアイテム補助をしなきゃいけないので、一緒に行けそうにないですね」
「そっかぁ・・・じゃあーーー」
「もし装備を整えた後、すぐに中層へ行くつもりなら。まだ止めた方が良い」
空気が変わりリューは真面目な表情をしている、これは冗談で言っているのではないと誰もが思う。
「僕達じゃ力不足だと?」
「そこまで言うつもりはありません。ですが、上層と中層ではモンスターの量も質も段違い、なので最低限三人一組です」
リューのアドバイスを自分達じゃ中層に太刀打ち出来ないと捉えた総司はムッとした顔でリューを見る。
「それ自体はクリアしているのですが、やはり異例の速さでランクアップしてしまった故にダンジョンでの経験値が足りない、その上沖田さんはクラネルさんよりも日が浅い。私がアドバイザーならこの状態で中層へはお勧めしません」
戦闘能力の問題ではなく経験の問題だ。上層で長い年月を掛けた果てにランクアップという更なる高みへ昇華する。その際に経験や場数を踏んでダンジョンというものを攻略して行くのだが、総司は元よりベルは1ヶ月半でLv.2へ到達した為それが無い。
「せめてもう1人仲間を増やすべきだ。人数が居ればそれだけ個人の負担は減る」
「仲間・・・でも加わってくれそうな人が居ないんですよね・・・」
「あ、総司さんってロキ・ファミリアでしたよね。誰か居ないんですか?」
ヘスティア・ファミリアの団員はベルのみ。リリはソーマ・ファミリアで総司はロキ・ファミリアとバラバラだ。ヘスティア・ファミリアとソーマ・ファミリアは少しワケありだが、そんな中まともな人材が揃っているロキ・ファミリアなら1人くらい居るのではとシルは問う。
「うーん、皆それぞれパーティを組んでいるので・・・心当たりはあるんですけどね・・・」
ファミリア内でパーティを組むのは至極当然、寧ろベル達の様に他派閥で組む方が珍しい。そもそもロキ・ファミリアの団員は現在遠征中なのでパーティには入れないのだが。
「パーティの事でお困りかぁ?」
ファミリアの勧誘をするべきか悩むベルの前に3人の人影が近づく。中心にいる男は顔に傷が付いていてガッシリとした身体を見るにベルよりもずっと前からダンジョンに潜っているようだ。他の2人も酔っ払ってはいるが少なくともLv.2以上の上級冒険者だと総司は見抜く。
「中層に行く仲間が欲しいなら、俺達のパーティに入れてやってもいいぜ? 【リトル・ルーキー】よぉ」
あからさまに見下した態度でベルを見ている、まさに悪意の塊だ。因みに【リトル・ルーキー】とは
主神のヘスティア曰く「無難だ!」だそうだ・・・
「何ならついでにそっちのガキのお守りもしてやろうか?」
総司を指差し嘲笑っているが本人は無視して料理を食べている。そんな中困惑しているベルはその冒険者に尋ねる。
「ど、どういう事ですか?」
「な〜に、助け合いってやつだ。ま、その代わりよぉ・・・」
男はシルとリューに目線を向け舌なめずりをする。酔っているせいなのか元からそういう性格なのかは分からないが下劣な態度を隠そうともしない。
「このえれぇー別嬪のエルフ様達を貸してくれよっ! 仲間なら分かち合いだよなぁ!」
完全に下心丸出しの表情だ。そんな様子をその店にいた女性陣とリリは冷たい視線を浴びせ、シルは困り顔、リューに至っては完全無視だ。
(燃えないなぁ〜)
総司は3人の上級冒険者を品定めしているが、何か物足りない。レベル的には確かに総司よりも上だ。しかしあんな
(防具か・・・確かにかっこいいけど重そうなんだよなぁ〜)
さっそく別の事を考えながら顔に傷がある冒険者がリューにのされ他の2人も加勢しようとしたのをクロエとアーニャに止められ悶絶している。そんな様子を料理を食べながらつまらなさそうに眺めている。
(武器も今ので十分だしなぁ〜)
現在使用している武器はロキから貰った打刀だ。業物では無い並の刀、総司が業物を使えばもっと強くなるのだが敢えて普通の刀を選ぶ。
本人曰く「業物は甘え」だそうだ。達人が使えば木の枝さえも真剣に変わり素人が使えば真剣は鈍らに変わる。
つまり剣士たるもの業物に頼らず己の技に頼れという事だ。
尤も業物に興味が無い訳では無い。剣士としては名工の一振くらい欲しい、そして部屋に飾りたい。目的は使用するのでは無くあくまでも
因みに言っておくが総司の考え方が珍しいだけで通常の剣士は業物を欲しがるものだ。
(・・・そろそろ煩いな)
目の前でガチャガチャと騒がしいのでそろそろこの場を収めようと腰を上げると、顔に傷がある冒険者がナイフを取り出す。リューや店員に逆上したようだ。
「あの・・・ッ!!!」
その瞬間アーニャとクロエからふざけた様子が消え氷の様な視線と剣圧が溢れ出す。思わず総司も普段とのギャップに背筋が凍る。
(手を出したら殺される・・・!)
もちろんそんな事は無いが、そう錯覚させる程冷たくそれでいて静かな剣圧、まるで暗殺者を連想させる。
ゴッッッ!!!!!
突然の打撃音にその場の全員がビクッとする。その音の発生源に注目すると総司顔負けの鬼の様な形相でカウンターに鉄拳を下すミアがいた。
「騒ぎを起こしたいなら外でやりな。ここは飯を食べて酒を飲む場所さ・・・そこのアホンダラ共、さっさと金払って行っちまいな・・・!!」
「は、ははっ、はひぃぃぃぃ!!!!」
3人の冒険者達はそれぞれ金を差し出し逃げ出す様にその場から立ち去った。とてつもなく無様な逃走だったがそれを笑う者はいなかった。何故なら自分がその立場なら同じようになっていたのだから。
「・・・さてと、仕切り直しをしましょうか!」
何事も無かったかのようにシルは笑顔を振りまくが誰もそんな早く切り替えは出来ない。クロエやアーニャすらも冷や汗をかきながらそそくさと仕事に戻る。
「は、はい」
ベルも動揺を隠しきれないまま料理を食べ始める。