次の日、総司は【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に来ていた。治療院には光玉と香草のエンブレムが飾られておりこれがディアンケヒト・ファミリアである事の証だ。
神ディアンケヒトを主神とする医療系ファミリアで、医療系としては現オラリオにおいてトップの地位に君臨する大手派閥。回復薬の販売や原材料の買取り、義肢の提供などを行っており、ロキ・ファミリアを筆頭に多くの冒険者やファミリアと取引している。ただし、主神の性格上、足元を見た依頼を発注するなど意地が悪いことでも有名。
実はミアハ・ファミリアとは中堅ファミリアだった頃から犬猿の仲でかつてのライバルだった。しかしある一件からミアハ・ファミリアは莫大な借金をしてしまい現在は零細ファミリアへ成り果てている。
そして総司はいつもこの店に回復ポーションを買いに来ている。最初はリヴェリアに連れて来て貰いそれ以来ここに買いに来るようになった。偶にティオナやレフィーヤと偶然会ったり一緒に来たりする。
「こんにちはぁ!」
「いらっしゃいませ」
扉を開けて入店した総司に挨拶をしたのはアミッド・テアサナーレだ。彼女はディアンケヒト・ファミリアの団長でLv.2。二つ名は《
高位の治癒魔法の使い手であり都市最高の
小柄で白銀の長髪が特徴的で、喜怒哀楽は少なく常に冷静な人物で、その風貌から聖女と呼ぶ冒険者も少なくない。
「総司さんじゃありませんか。今は遠征中では?」
「実はいろいろあって途中抜けしました」
つい先日も遠征に向けて回復ポーションを大量に買って行ったばかりなのに、もう店に来た事を不思議に思う。
以前オッタルから受けたダメージを回復する為に全てのポーションを消費した。その補充に今日は来たのだ。
「な、なるほど・・・それで今日は何をお求めで?」
「いつものです!」
若干困惑気味のアミッドだったが流石は団長、さっそく冷静さを欠いたが直ぐにいつもの調子を取り戻す。主神のディアンケヒトに代わって実質この店を切り盛りしているだけはある。
「あ、これこれ・・・」
総司が手に取ったのはこの店で比較的格安で売られている回復ポーションだ。尤もミアハ・ファミリアで売られている回復ポーションよりも値は張るがその分効力も目覚しい。
そして魔法が使えないので
「・・・・・・」
意気揚々と回復ポーションをカゴに入れる総司を心配そうな目で見ている。
「あの、総司さん・・・」
「はい?」
突如呼び止められた総司はポカンとアミッドを見つめる。アミッドの目には不安や心配、懸念、気掛かりだと言う感情が宿っていた。
「またそんなに回復ポーションを・・・それは全て自身で使用されているのですか?」
この量を短期間で使ったとは思えないアミッドは無いとは思うがまさか他の冒険者にたかられているのではと疑う。実際総司が回復ポーションを使用するのはモンスターによるダメージではなく【鬼子】の反動から回復する為に使う事の方が多い。
「えぇ、便利ですよねこの薬。飲むだけで大抵全快するんですよぉ!」
無邪気な笑みで純粋に回復ポーションの効能を褒める。これさえ飲めば【鬼子】の反動も大抵回復出来る。日本にいた頃はこんな物は無かった。もしあればあの時、仲間は死ななかったかもしれない。
「・・・職業柄仕方がない部分はありますが、あまり無茶をしないで下さいね」
そんな総司とは裏腹にアミッドの不安は募るばかりだ。全て自分で使っているという事はそれだけ総司は傷つき、命を削っている証拠だった。
ティオナやティオネ、アイズ達と比べたら総司との付き合いは浅いがこんなに回復ポーションだけを大量に買う客は他にはいない。それ故に見ていて危なっかしいのだ。
「大丈夫です。このオラリオで天下を取るまで死ぬつもりはありませんから!」
希望に満ちた目だ。それがどれだけ困難で途方もない茨の道だということを理解して尚この信念は揺るがない。
「それにしても・・・相変わらず身長低いですね!」
「なっ・・・貴方がそれを言いますか?」
総司の身長弄りに取り乱しそうになったが咄嗟に冷静になりポーカーフェイスを貫いている。
「私よりも総司さんの方が身長は低いです。確かにティオナさん達からは低身長の事で気を遣われたり頭を撫でられたりしましたが、これでも年々少しずつ身長は伸びていますし、身長を伸ばす努力も怠っておりません。そもそも総司さんは22歳で私は19歳です。伸び代で言えば私の方が伸びる可能性を秘めています」
「そ、そんなに気にしてたんですね・・・すみません」
思わぬ怒涛の連撃が帰ってきたので総司は若干引き気味に謝る。無表情で淡々と語る姿は総司にとって恐怖でしかなかった。
「アミッドよ、今月の売り上げは・・・ってまた来おったな小僧!」
「あ、おじいちゃん!」
店の奥から出て来たのはディアンケヒト・ファミリアの主神ディアンケヒト、白髪で大柄な体格をしており金にがめついと悪名高い老神だ。
「誰がおじいちゃんだ! 神に向かって不敬だぞ! ちゃんと”おじい様”と呼べといつも言っているだろう!」
「あ、おじい呼びは容認しているのですね。ディアンケヒト様」
総司を見つけるや否や怒鳴り散らすディアンケヒト改めおじいちゃん基おじい様。
「全く、いつもいつも安物のポーションばかり買い漁りおって! 偶には
「あれ高いんですよね〜」
「当たり前だ。お前のような貧乏人が買える代物では無い! 残念だったなぁ!」
「買わせたいのか買わせたくないどっち何ですか? ディアンケヒト様」
高笑いして総司を指差し煽りまくるが当の本人はよく分かってないようでディアンケヒトに合わせて笑っている。おそらくジョークか何かだと思ったのだろう。
「まぁお前はそこの安物のポーションで我慢するんだな! ほれ、飴ちゃんをくれてやろう! 新作のジャガ丸くん味だぁ!」
「わ〜い、飴玉だぁ〜!」
「ジャガ丸くん味ってそれ最早唯の芋味では?」
「それでは儂は豪華なランチでも頂こうかのぉ。またな貧乏人!」
お世辞にも美味しそうとは思えない飴を総司に与えたディアンケヒトは高笑いしながら満足そうに店の奥へと帰って行く。
(((あ、これ唯飴あげたかっただけだ・・・)))
店の店員や買い物をしていた客は皆一律にそう思った。特に店員は何度もディアンケヒトが総司に絡み最終的にお菓子をあげると言うこのやり取りを見ているので直ぐにわかった。
「この飴美味し〜!」
(((美味しいのかよ!!)))
口の中で飴を転がしながら幸せそうにその味を楽しむ。そんな様子を見ていたアミッドは呆れながら総司が購入するポーションの会計をする。
「ひい、ふう、みい・・・丁度ですね」
「あれ、これって・・・」
袋に詰めて貰ったポーションの中に
「それはおまけです」
「で、でも・・・怒られちゃうんじゃ・・・」
アミッドは良いと言うが流石に悪いと思い受け取れないと言った素振りを見せる。
「お得意様にサービスするのは当然です」
ロキ・ファミリア以前に総司は何度もこの店にアイテムを買いに来ている。そして主神であるディアンケヒトとも仲が良い(?)これをお得意様と言わずして何と呼ぶと言いたげな顔をしている。
「但しーーーディアンケヒト様には内緒ですよ?」
戸惑う総司に顔を近づけ耳元でそっと囁く。
「あ、ありがとうございます!」
いつもは子供の様に燥ぐ総司もこの時は深々とお辞儀をする。その時若干頬を赤く染めていた事は誰にも分からなかった。
「今後ともご贔屓に」
軽く手を振りニコッと微笑みながら店から出て行く総司の背中を見送った。
今年最後の投稿です。来年もよろしくお願いします。