ダンジョン12階層。
「総司ッ! 行ったよ!」
白い大猿のシルバーバックをベルが引き付けている間に真横をアルマジロ型のモンスター、ハードアーマードが二体通り過ぎる。
転がりながら突進して来るハードアーマードをするりと躱し瞬時に鞘から刀を抜き・・・納刀する。
『ギッッ・・・!!!』
通り過ぎざまに数十回の居合切りを放ち辺りに鮮血が飛び散る。その直ぐ上でコウモリ型のモンスター、バッドバットが数体超音波を放とうとしていた。
「”クロッゾ”さん、頼みますよ」
「任せろッ!」
クロッゾ呼ばれた男はバッドバットの背後に飛び上がり持っていた大剣でモンスターを屠る。
この数日間でベルは新たな仲間、ヴェルフ・クロッゾと言う赤髪の男をパーティに加えた。彼は【ヘファイストス・ファミリア】の下っ端で『鍛冶アビリティ』を習得するまでの間、臨時のパーティ要員。
当初リリは「利用されているだけ」と快く思っていなかった。しかしベルの決めた事と渋々飲み込んだようだ。
「そう言えばベルさん、武器増えてますね」
「あぁ、これは昨日ヴェルフさんが作ってくれたんだ」
これはベルが倒したミノタウロスのドロップアイテムで作った赤い短刀。その時装備も新調したようだ。
「良い感じだろ? その
「いやいやいやいやっ! 牛若丸でしょ!? 昨日そう決めたじゃないですか!?」
「へぇ〜、
「だから牛若丸だよ!?」
ヴェルフはネーミングセンスは皆無だが鍛冶師の腕前としては下っ端の中でも悪くは無い。寧ろ彼にはとんでもない才能がある。詳しくは知らないがその事だけは総司は見抜く。
「と言うか、総司様の武器の方が問題です」
総司の武器は並の刀。上層なら兎も角中層攻略にその武器は問題があった。下っ端のヴェルフでももっと良い物を作れる。
「なぁ、総吉。やっぱりその武器、新調した方が良かったんじゃないか?」
「いや、僕はこれでいいんです」
以前ヴェルフに総司の刀を見せた時は大層驚かせた。このレベルの武器で今までやって来たのかと冷や汗が止まらなかった。総司がロキ・ファミリアだと知って、これまでの稼ぎを考えると別に武器を買う資金が無いと言う訳でも無さそうだ。なら総司自身に何かあると考察するが、ヴェルフ自身にも一癖あるので触れないようにした。
「まぁまぁ、総司の実力はリリだって認めてるでしょ?」
「それは、そうですけど・・・」
「ま、四の五の言っても仕方ない。総吉にも何かしら事情があるんだろ」
「ムッ、何故ヴェルフ様が理解者面してるんです?」
「いいかリリスケ。漢にはどうしても通さなきゃならない”意地”があるもんだ」
「なんですかそれ? 意味わからないです!」
女の子のリリには漢の矜恃を理解するのは難しいようだ。
「もう・・・それでは、例の装備を着ましょう」
納得できない様子を一旦置き、リリはバックパックから『サラマンダー・ウール』を取り出し全員に渡す。
『サラマンダー・ウール』は火の精霊の恩恵が宿ってる火耐性装備。
火炎や熱攻撃に対して防御力が高いだけでなく防寒の属性も備わってる特殊装備だ。値打ちはクーポンを使っても0が五桁程する代物だ。
中層からは炎系の攻撃をして来るモンスターが出る為、エイナに勧められた。
これを着る為に総司は今日、新撰組の羽織を置いて来た。
「中層からは定石通り、隊列を組んで進みます」
まず前衛がヴェルフ、中衛がベルとリリ、後衛は総司だ。人数だけなら一般のパーティとそこまで変わらない。しかし問題はLv、ベル以外は全員Lv.1なので適正Lv.2以上の中層では根本的に火力不足だ。
「中層では窮地に陥っても立て直せるのは困難と考えて下さい」
「一度でも判断を誤れば命取りか・・・厳しいな」
「なら尻尾巻いて逃げますか? 今なら間に合いますよ」
「馬鹿言え、俺はさっさと
そんなたわいもない会話をしているとベルの口元が緩んでいた。そんな様子を見た総司もうっかり笑みを零してしまう。
「賑やかだね。総司」
「えぇ、この感じ・・・懐かしいですよ」
仲間と一緒にワイワイ、今も昔もやっている事は変わらない。世界が違っても人間と言うのは変わらないようだ。
中層を前に些か緊張感が足りない様に見えるが、気負い過ぎた状態では実力をフルで発揮出来ない。寧ろこれくらいが丁度良いのかもしれない。
「それとベル、総吉」
「へ? な、何ですか・・・ヴェルフさん?」
「クロッゾさん?」
「それだ。その堅苦しい言い方は止めようぜ。会ったばかりで信頼丸ごと預けろとは言わない。ただリリスケみたいに俺の事も”それっぽく”呼んでくれよ」
ベルと総司はパーティを組んで互いに背中を任せられる程の信頼を築いている。しかしヴェルフはそうも行かない。先程の戦闘もヴェルフが失敗しても良いように周りだけでなく頭上も警戒していた。
「・・・わかった。ヴェルフ」
「足引っ張らないで下さいよ。ヴェルフさん?」
「おう、任せとけ!」
2人はニコッと微笑む。総司が軽口を叩くのでベルは苦笑いをするがヴェルフはそれでも良いようだ。そんな様子をリリはジト目で見ていた。
「友情が深まったようで何よりですけど、そろそろ出発しませんか?」
「ごめんごめん。じゃあ行こう、中層に・・・!」
いよいよ総司達は『中層』へ挑む。
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一方地上、バベルの塔前。
様々な冒険者がダンジョンに挑むべく仲間と行動している。その広場の一角、総司達と同様『中層』へ挑むパーティが一つ。
「それでは行って参ります。タケミカヅチ様!」
全体的に和風と言うイメージのパーティ。これは【タケミカヅチ・ファミリア】だ。そして主神であるタケミカヅチ自ら眷属を見送りに来ていた。
「おう、あまり力み過ぎるなよ。命」
「はいっ!」
ヤマト・命、彼女はベルと同じ時期にLv.2に到達した冒険者だ。そして大柄の男が団長のカシマ・桜花、同じくLv.2。後は全員Lv.1て構成されたパーティだ。
主神であるタケミカヅチに一礼してダンジョンへ向かう。そんな背中をタケミカヅチは黙って見守る。
「誰も欠けて帰って来るなよ・・・」
ダンジョンで命を落とすのは日常茶飯事だ。モンスターを殺す、逆にモンスターに殺される場合もある。故に送り出す身としては心配なのだ。
「独り言かい、タケミカヅチ」
「お、お前は、ヘルメス!」
「おいおい、会っていきなりそんな顔ないだろ?」
橙黄色の髪を持つ、飄々とした旅人風の優男がタケミカヅチの肩を叩く。そしてこの神はタケミカヅチを率先して揶揄う神の一人だ。良い顔はされない。
「やかましいわ! いつも馬鹿にしやがって!」
「まぁまぁ、今日はお祝いがてら挨拶をしに来たんだよ。命ちゃんのランクアップおめでとう」
帽子を取り命のランクアップを祝福するがタケミカヅチは怪しいといった表情でヘルメスを見る。
「・・・ヘルメス、何でこんなに早く帰って来たんだ?」
自身のファミリアである【ヘルメス・ファミリア】すら団長に丸投げして旅をしている。いつもは1ヶ月に1回のペースで帰って来るのだが今回は1週間と短い。
「ふふっ、気になる
「ほう、噂の《リトル・ルーキー》か?」
「そう、ヘスティアのところの《リトル・ルーキー》さ。オレも他の神と同様一番関心を寄せている冒険者さ」
怪しさ全開の笑顔を見せるヘルメスは何か企んでいる顔をしているとタケミカヅチは悟る。
「俺は何て言ったかな・・・あの、ロキのところの・・・」
「沖田総司・・・だね?」
「そうそう沖田総司だ。よく覚えていたな」
「当然さ。何せ、あの”美の女神”が関心を抱くくらいだ。オレだって興味ある」
そう語るヘルメスは前回の
ベルの二つ名を決める際、進行役のロキがヘスティアにある疑いをかけた。それは所要期間1ヶ月半でランクアップしたベルの事だ。神々にとっても有り得ない出来事に狂喜する。
困っていたヘスティアに助け舟を出したのは美の女神フレイヤだった。
「ヘスティアの子の事ばかり言っているけど、ロキ・・・貴方の所に入った新しい子も”普通じゃない”と思うのだけれど?」
「はっ、当然やろ。あの子は”地力”が違うんや!」
「へぇ・・・貴方の子、興味があるわ。今度合わせて貰えないかしら?」
「アホ。誰が合わせるか! 言っとくけどな、もし総司に何かしたらタダじゃ置かんからな!!」
「あら残念」
そしてベルの事も有耶無耶になったまま二つ名の命名式が始まった。
思い出したタケミカヅチもディオニュソスが命の二つ名を【絶†影】にした事を思い出し怒りを露わにする。
「落ち着いてタケミカヅチ。とにかく沖田総司とベル・クラネルはオレ達神々の中でも注目株ってわけだ」
「ロキも気が気じゃないだろうな・・・」
ロキの心労が取るように分かる自分が情けなく思う。
「あぁ、早く会ってみたい。あの2人に・・・」
空を見上げて会える日を心待ちにしているヘルメスはまるでクリスマスを待つ子供の様だ。しかし内心では底知れぬ企みを胸に秘めていた。なんとなくそれに気づいたタケミカヅチは溜息をつく。
ヒロインは《アミッド・テアサナーレ》に決定しました。
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