オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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宴の始まり

ダンジョン13階層。上層よりも光源が乏しく先がよく見えずルームとルームを繋ぐ細い道が長いという印象だ。

最初の死線(ファーストライン)と呼ばれる13階層からはモンスター自体が魔法に近い遠距離攻撃を繰り出してくる。上層よりも天井が高く洞窟の様な道が続いている。

総司達は『中層』にて早速後方から3体のモンスターが接近していた。

 

「ヘルハウンドですッ!」

 

子牛程の大きさの犬型モンスター、ヘルハウンド。火炎系のブレスを放つ13階、14階でパーティが全滅する殆どの原因はコイツだ。

 

「総司ッ! 行くよ!」

 

「はいッ!」

 

ベルの合図と共に総司は駆け出す。

ベルは片手のバックラーをヘルハウンドに噛みつかせ、総司はもう1体のヘルハウンドの首を斬り飛ばす。ベルも噛み付いて来たヘルハウンドを倒すと3体目のヘルハウンドが火炎ブレスを放って来た。

 

「くッ・・・!」

 

火炎ブレスが2人を飲み込む。

高温のブレスは並の防具なら簡単に溶かす高威力、こんなのをLv.1の冒険者がまともに食らえば一瞬で丸焦げだ。

 

「総吉ッ!!」

 

「ベル様ッ!!」

 

瞬時にリリがボウガンでヘルハウンドの目を射抜く。怯んだ隙を狙ってヴェルフが大剣で真っ二つに斬り裂く。

 

「2人とも大丈夫ですかッ!?」

 

もう一度言うがまともに食らえば丸焦げの火炎ブレスだ。

 

「えぇ、何とか・・・」

 

「大丈夫みたい・・・」

 

ただしこの《サラマンダー・ウール》が無ければの話しだ。

無事だった2人を見てリリとヴェルフは胸を撫で下ろす様に安心した。

 

「それにしても凄い布ですね。あの炎を防ぐなんて・・・肝が冷えましたよ」

 

「流石『精霊の加護』が付いているだけはありますね。まさかリリがこんな立派な護布を着れる日が来るとは・・・」

 

「こんなヒラヒラした服が上級鍛冶師(ハイ・スミス)の作品も顔負けする装備なんだろ? 俺達の立つ瀬が無いな・・・」

 

「でもこれで全滅率はグッと低くなったよ」

 

幸先は悪くない。この調子で行けば問題無く攻略出来るのだが、ダンジョンはそう甘くない。連携も少し危うさが残っていた、早く慣れなければ取り返しのつかない事になりうる。

 

「ーーーっと、また来たぞ!」

 

そうこうしている内にまた新しいモンスターが出現した。姿を現したのは二足歩行のウサギ型モンスター、アルミラージ。トマホークを使用する個体も居るようだが今回は全員丸腰だ。正直な話し可愛い。

キュイキュイと鳴く声やクリッと首を傾げる姿は母性本能が掻き立てれる。

 

「えっと・・・ヴェルフ様、先陣を・・・」

 

「い、いや、ベル・・・お前行けよ・・・」

 

「え!? えぇっと・・・総司、お先にどうぞ・・・」

 

「分かりました!」

 

「「「ーーーえっ!?」」」

 

攻撃を躊躇うくらい可愛いアルミラージの討伐を押し付け合う中総司は何の躊躇も無くアルミラージ3体に【虚狼(うつろ)】で近づき斬り掛かる。

3人が驚いている間に3体のアルミラージを血しぶきを撒き散らしながら屠ると一息付きベル達の下に帰って来た。

 

「殺って来ました!」

 

「う、うん・・・」

 

「お、おう・・・」

 

「お、お疲れ様です・・・」

 

頬にアルミラージの血を付けてニコニコと報告しに来る総司に忘れていた恐怖心を思い出すベルとリリ、そして新たな恐怖心を植え付けられたヴェルフ。

 

「消えなかったら焼いて食べれたんですけどねぇ〜」

 

(((恐ろしい子・・・)))

 

「あ、また来ましたよ?」

 

今度は7体のアルミラージ、しかもその中の4体はトマホークを装備している。

 

「さぁ皆さん・・・殺りましょうか!」

 

すると総司の雰囲気が変わった。ベルとリリは知っているがヴェルフは見るのは初めてだった。

 

 

【鬼子】発動ッ!

 

 

しかし従来の鬼子とは少し違う。眼が紅く染まっているのは片方だけ、その事に違和感を持つリリだが、ベルは総司の心配していた。

 

「総司、それって確か反動が・・・」

 

「大丈夫です。片眼だけ発動させれば反動は半減されます」

 

ついさっき思いついた鬼子の半減方法。単純に血液を送り出す速度を1.5倍にしただけなので戦闘力の上昇率は半減されるがその代わり反動も半減される。その為今までより長い時間鬼子を発動し続ける事が可能となった。

 

敢えてこの状態に名前を付けるとしたら【鬼子・半】と言ったところだろうか。

 

戦闘音が鳴り響く、総司とベル、リリ、ヴェルフがアルミラージ達と戦っている。そんな中ヴェルフは総司の暴れっぷりを見て畏怖の念を抱く。

 

(おいおい・・・これじゃどっちが怪物(モンスター)なのか分からん・・・!)

 

邪悪な笑みを浮かべながら敵を屠る姿は悪魔、死神・・・否、”鬼”だ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

一方、タケミカヅチ・ファミリアの御一行はと言うと・・・

 

「アルミラージだ! 皆気をつけろッ!!」

 

総司達同様中層にてモンスターと交戦中のようだ。

 

「ヘルハウンド6体の次はアルミラージ4体・・・休む暇がありませんね・・・」

 

一息付く間もなく連戦、ダンジョンではよくある事なのだが・・・中層に入りたてのパーティには厳しいものがある。

 

「くっ! ジャイアントエイプまで・・・!」

 

上層で出現するシルバーバックよりも巨大で獰猛な大猿型モンスター、ジャイアントエイプ。その攻撃力はLv.2でも致命傷になり兼ねない。

 

「千草! 大丈夫かッ!」

 

「う、うん! 大丈夫だよ、桜花!」

 

低身長の目隠れ少女の名前はヒタチ・千草、Lv.1。今は連戦に次ぐ連戦でかなり消耗している。思わず膝を着いてしまった。そんな中、密かに想いを寄せる桜花に手を差し伸べられる。その手を取って立ち上がり再び戦闘に身を投じる。

 

「今だ、命ッ!」

 

「はぁッ!!」

 

仲間の1人がアルミラージのトマホークを弾き命が止めを刺す。残り2体まで減らした所でアルミラージがトマホークを投擲して来た。

 

「うぐッ!!!」

 

その投擲は千草の肩に突き刺さり大量の血しぶきが飛び散る。

 

「千草殿ッ!!」

 

「中衛1人上がれ! 千草の穴を埋めろ!」

 

中衛を担っていた医療要員が千草の治療を始める。しかし思った以上に傷が深く応急処置では間に合わない事を悟る。

 

「傷が深い・・・アルミラージを近づけないで! 桜花ッ!」

 

「あぁ、任せろ! 命、行くぞッ!」

 

「はいーーーッ!」

 

この忙しい中で最も恐れていた事、それは大量のモンスターが同時に出現する《怪物の宴(モンスター・パーティ)》だ。

今正に《怪物の宴(モンスター・パーティ)》が始まろうとしていた。

 

「くっ・・・こんな時に・・・」

 

「全員撤退だッ!!」

 

当然の選択だ。この最悪と言っても過言じゃない戦況での戦闘続行は現実的では無い。

桜花は千草を抱えてパーティと共に逃げる。

 

しかしモンスター達も追って来ている。その上モンスターの数も徐々に増えて来て最早手に負える状態では無い。

 

「はぁッ!」

 

一定の距離まで追い付いてきたモンスターを命が処理し数を減らすが焼け石に水だ。

 

「千草殿の様子は?」

 

「著しくないな・・・手持ちの回復ポーションで間に合うかどうか・・・一旦12階層まで引き返して治療をーーー」

 

桜花の背後から投擲されたトマホークが飛んで来る。

 

「くっ!」

 

間一髪のところ命がトマホークを弾く。

 

「すまない、命・・・お前にばかり負担をかけてしまって・・・」

 

「自分は大丈夫ですので、気にしないで下さい! それよりも急ぎましょう!」

 

団長として情けなく思っている桜花だが、命はこれでも頼りにしている。幼い頃から一緒だったメンバーだ、信頼に関しては既に背中を預けれる。因みに千草も幼馴染みだ。

 

「・・・!」

 

広めのルームに出て来た命は中心辺りでパーティがアルミラージと戦闘しているのを発見した。後から来た桜花や仲間達もそれに気づく。

 

「・・・・・・突っ込むぞ、あそこに!」

 

「ッ!? そんな事したらあの方々が・・・!」

 

見たところ彼らも新規進出して来たパーティ。そんな彼らがこの量のモンスターと対峙したら・・・

 

「俺は誰とも知らない奴らの命よりーーーーお前らの方がよっぽど大事だッ!!」

 

「・・・!」

 

桜花の言葉に何も言い返せなかった自分がいた。

 

「胸糞悪いって言うなら後で腐るほど罵ってくれ・・・」

 

苦しそうにしている千草を見て命は何も言えなかった。他のメンバーも同様、覚悟を決めた・・・

 

怪物進呈(パス・パレード)

自分達に襲い掛かるモンスターの群れを他の同業者に押し付ける行いや、あるいはモンスターと交戦している冒険者に不意打ちで襲い掛かる等と言った冒険者達による問題・犯罪行為だ。

死亡した被害者はモンスターの餌として捕食されてしまう為、証拠が立証出来ないケースが多く、またギルド側もその行いに悪意が見られない限り、実行した冒険者達は追及されない事になっている。

最も他の冒険者達や被害者の仲間や遺族等から報復される事もある為ノーリスクで行える訳では無い。

 

桜花達のやろうとしているのは正に《怪物進呈(パス・パレード)》だ。この場合、桜花達に悪意は無いので罰則を受ける事は無い。

あくまでこれは”お互い様”、悪意が無い場合は一定の理解を払うと言う冒険者達の中で”暗黙の了解”となっている。

 

(・・・・・御免!)

 

仲間の命を優先させる為に他の冒険者を犠牲にした。その罪悪感を噛み締めながら通り過ぎる。

 

「あんなに急いでどうしたんだろう?」

 

丁度戦闘が終わったパーティは桜花達が過ぎるのを不思議そうな目で眺めていた。

 

「ッ・・・ベルさんッ!!」

 

「うわぁッ!!」

 

ベルの背後からヘルハウンドが噛み付いて来たのでそれを受け流し胴体を斬り裂く。

 

「モンスターの群れ・・・はっ! 《怪物進呈(パス・パレード)》!! リリ達は擦り付けられましたッ!!」

 

「くッ・・・! この数は・・・!」

 

総司も再び【鬼子・半】を発動させて臨戦態勢を取る。先程の笑顔が消えている様子から余程余裕の無い状況に陥ったと容易に想像出来る。

 

「捌ききれませんッ!」

 

斬っても斬ってもキリがない。

 

乱戦、躝戦、嵐戦ーーーありもしない言葉もあるがこの状況、言葉だけでは言い表せない・・・

 

数百体ものモンスターが押し寄せて来る。ベル、総司、ヴェルフ、リリも対処し切れない。こうなってしまったら連携も何も無い。

 

逃げ切った桜花達は窮地を脱して一先ず安心する。そして後方から鳴り響く戦闘音、そしてモンスターの轟音を耳に残しながら只管12階層を目指す。

 

 

 

 

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